ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
本編
59話:スンの決意




 丈夫で質の良い生地を使った白い従者服を身に纏い、バハナに貰った弓を背に少し緊張した面持ちのスン。闇神隊専属従者に登用されたスンは、そのまま同日闇神隊に下された『魔獣被害の調査任務』に同行する事となった。

 スンの装備は悠介と同じく特殊効果を付与しまくった状態に固めてあるのだが、スン自身はあまり装備の性能に頼るのは結局、悠介の力に頼っている事にならないかと気にする。

「それを言うなら、俺なんてカスタマイズした装備がなけりゃ実力なんか普通以下だぞ?」
「そうでしたね……」

「……肯定された……」
「え? え? どうしたんですか、ユウスケさん」

 なにやら落ち込んだ様子で項垂れては地面に異世界の文字を刻みつける悠介。悩みながらボンヤリ返事をしてしまったスンは、哀愁漂う謎の儀式を始めた悠介を慌てて宥めに掛かるのだった。

「タイチョー、早速いちゃついてる所わりーですが、出発準備整いましたよー」
「いちゃついてねーよっ」

 落ち込んでるんだ! と半目のフョンケに反論しながら衛士隊馬車に乗り込む悠介と、その後に続くスン。

「ははは、まあ装備の性能も使いこなせればこそ、己の実力と言えるんじゃねぇですかい?」
「例え借り物の力であろうと、それで隊長の役に立てるなら問題はない」

 深い見識を思わせる穏かな言い回しでフォローに回るヴォーマル。己が力に拘って役立たずを晒すくらいなら、自分は喜んで隊長に与えられる力を受け入れると、些か強い語調に傾倒を感じさせるシャイード。

 今回を機に闇神隊メンバーの衛士隊服にも活動に役立つ効果が幾つか付与されていた。特殊効果付与は簡単には出来ないという前提を崩さないよう、あまり目立つ効果は避けて地味に回復効果や治癒効果、防御力の向上などに止められている。

「そうですね……わたし、ユウスケさんの役に立てるよう頑張ります」

「そこで『皆の役に』じゃなく『隊長の役に』って辺りがスンちゃんらしいよな」
「えっ? あ、えと、ごめんなさい! じゃあ皆さんのお役に立てるよう頑張ります」
「混ぜっ返すなよフョンケ!」

 今はまだ専属従者としてだが、スンを新たなメンバーに加えた闇神隊一行は、何時もの賑やかな雰囲気で他の衛士達から色々な意味での注目を浴びつつ、フォンクランク南東地域に向けてヴォルアンス宮殿を出発した。






 闇神隊が目的地である南東の宿場街に到着したのは、翌日の昼過ぎ頃だった。通り道となるルフク村に立ち寄った時は、スンの晴れ姿をゼシャールドやバハナ達に披露するなど、あまり緊張感の無い道中だったが、街に着いてからは少し様子が違った。

「なんだか物々しい雰囲気だな」
「傭兵の姿が多いですね……魔獣騒ぎに関係してるかは分かりやせんが」
「まさか本当に魔獣が出たってこたぁねぇーでしょうね?」
「ありえなくは無いが、盗賊団の類という線もある」

 とりあえず詳しい状況を聞こうと、任務の依頼主である通商協会支部前に馬車を停める。
 出発当日から闇神隊を包んでいた隊員旅行気分は払拭され、見た目こそ普段と変わりは無いものの、皆の纏う空気が厳しいモノへと切り替わり、それを敏感に感じ取ったスンは密かに緊張を高めた。


「ようこそ、お越し下さいました。私、通商協会の支部長をやらせて頂いている者です」
「闇神隊の悠介です。魔獣の調査任務について、詳しい説明をお願いします」

 支部長は最初、やって来たのが要請した衛士団ではなく、少数編成の衛士隊だった事に失望感を懐いていた。
 が、よく見ると隊を率いている歳若い隊長は黒髪に黒尽くめの宮殿衛士隊に似た隊服を纏っており、何故か武装した無技の従者まで連れている。その統一感の無い編成に闇神隊の名が浮かび、本人から確認が取れた事で大いに歓迎の意を示したのだった。



 通商協会支部の宿舎に用意された会議室にて、現状の報告がなされる。支部長は衛士団が到着する前に協会側で雇った冒険者を使い、独自に調査を進めていた事を説明した。
 先日、その冒険者グループから救援要請が発せられたのを最後に連絡が取れなくなったという。

「私どもが雇った冒険者は魔獣の討伐も請け負う熟練者達でして……」
「ふむ……非常事態の可能性、というか間違いなく非常事態っぽいですね」

 街からそう遠くない地点の調査で今回のような事態が起きた為、急遽街の防衛と冒険者グループの救援に傭兵を募ったのだそうだ。ただ、時期が時期だけに情報収集に長けた者の集まりが悪く、戦闘集団だけでは心許ないと中々出発できないでいた。

「集まりが悪いって?」
「今はガゼッタの事がありますから、情報収集の出来る者は何処も雇い込みをやっておりまして」

 需要に供給が間に合わない状態。要するに諜報をこなせる風技の傭兵が人手不足になっている。


 闇神隊の任務は表向き『とある理由』から魔獣退治と宣伝されているが、実質は魔獣被害の真偽調査とその報告であって、今回のような事態は想定されていなかった。だが、危なそうだから一旦帰るという訳にもいかない。

「分かりました、我々がまず現地の調査を行いますので、そちらが雇った傭兵達は状況を見て動かすようにして下さい」

 悠介はヴォーマル達と相談して連絡の取れなくなった冒険者グループを捜索し、状況次第では街の傭兵達も戦力にいれる方向で対処しようという事になった。いきなり実戦という事態もあり得るので、スンの扱いを考えておく必要がある。

「それでは、今日の所はこちらの部屋で御寛ぎ下さい。闇神隊の皆様のご活躍を期待しております」




 夜、明日に備えて活動方針の細かい部分を話し合う為、闇神隊メンバーは悠介の部屋に集まっていた。とりあえず皆で意見を出し合って最善策を考えようと話す悠介に、フョンケが軽く挙手する。

「その前に隊長、一ついいっすか?」
「ん? 何かあるのかフョンケ」

「流石は『災厄の邪神』っすね」
「やかましわっ」

 次から次へと事件やら深刻な事態に巻き込まれる闇神隊の在り方を茶化すフョンケ。こういう場面では大抵不真面目を注意するエイシャも、こればっかりは戯言と言い切れない部分があるので苦笑していた。


 話し合い始めに肩の力を適度に抜いた闇神隊メンバー達は、調査活動での役割分担について議論を始める。誰が何をするかは概ね決まっているのだが、今回は荒事への対処について、スンの役割をどうするか。

「相手がもし盗賊の類だった場合、人を射った経験が無い者に射手をやらせるのは危険です」
「狙われ易いってのもありやすからね……狩りや訓練の経験は?」

「ヴォレット様と擬似鳥を射った事しかないです……」
「弓を覚えて直ぐの頃に街へ連れ帰ったからなぁ」

 狙いの正確さなど弓の扱い自体には問題無いものの、やはり実戦経験の有無は大きい。装備品で能力の底上げはされているが、最終的にその力を正しく振るえるか否かは本人の力量、気持ち次第なのだ。

 この話し合いの主題は結局スンをどう扱うかに絞られており、非常事態的な任務を前にした現在の闇神隊において、自身が如何に足手纏いになっているかを痛感するスンだったが、それでも街に置いて行くという選択をしない悠介達に気持ちが奮い立つ。

「大丈夫です! わたし、頑張りますからっ」
「……スン」

「まあ、本人にそれだけ気迫がありゃあ大丈夫でしょう」
「俺等の部隊って、攻撃担当の専門職が不足してますからねー」
「無技の民が武器を使った戦闘能力に優れている事は、既に実証されている」

 スンのやる気宣言はヴォーマル達にも肯定的に受け止められた。少し照れた表情になりながらも、スンは皆からの期待と励ましの言葉に真っ直ぐな瞳で応える。

「じゃあスン、明日からやれるな?」
「はい」

 明日の任務から、スンは闇神隊専属従者として衛士隊では珍しい弓士を担当する事になった。






 旧ノスセンテス中枢施設、パトルティアノーストの神義堂にて、深刻な表情で数点の書類を見つめているシンハ。アユウカスが研究棟施設で見つけて来たこの書類には、魔獣に関する実験の概要が記されている。

「これは……、これも神議会の仕事なのか?」
「いや、恐らく研究者達が資金繰りの為に独断でやっておったのだと思うぞ? 神議会の与り知らぬ事じゃろうて」

「しかし、これをやった連中は自分達が何をしているのか分かっているのか」
「何時の時代も、探求を始めると見境がなくなる研究者はおったでな」

 ついでに言えば、自分達白族の末裔が有している遥か昔の出来事『色付き達の衰退と白族繁栄に関する歴史』など、今の神技人達の中で意識している者は皆無じゃろうと補足する里巫女アユウカス。

「例の邪神(ユースケ)が降臨する前の話じゃからして、一見邪神は関係なさそうに見えるがの」
「……違うのか?」

「邪神の存在が神議会の牛耳るノスセンテスを滅ぼす切っ掛けになったのは確かじゃ、さすれば――」

 この書類にある研究内容がその研究者共々、それまでは裏で細々と活動を続けていた組織へ流出した事による研究成果の躍進。という、普通の神技人達にとっての大弊害。

「下手をすれば、二千四百年前の再現になるのぅ」

 カルツィオの大地から当時の神技人である色付き達が大きく数を減らし、白族の繁栄の切っ掛けとなった黒い邪神(かいぶつ)が降臨した時代。その再来が、里巫女によって予見された。

「……ガゼッタの王としては、喜ばしい事の筈なのだがな」

 シンハは一言そう呟くと、難しい表情のまま溜め息交じりに神義堂の天井を見上げるのだった。







+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。