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本編
48話:パトルティアノースト




 ノスセンテスの護衛隊野営地で一泊した悠介達一行は、翌朝早くから護衛隊の馬車に分乗すると、古都パトルティアノーストを目指して出発する。

 護衛隊とは昨日の夕刻に合流して短い挨拶を済ませ、そのまま翌日の移動に備えて休む事になったのだが、さほど開かれていない森の中では地面を切り出すカスタマイズにも手間が掛かるし、流石に天幕の並んでいる陣地に九部屋の一戸建て宿泊小屋を出現させるのもどうかと思い、自重した悠介達は用意されていた護衛隊の天幕を使わせてもらった。

 宿泊小屋で休める事を期待していた大使達は、気落ちしてか幾分疲れが増したようにも見えたので、悠介は代わりに寝具をカスタマイズする事で、部下や大使達、護衛隊の皆さんにも快適な寝心地を提供したのであった。

「隊長は戦場にいるより、こういうのが向いてるかもしれやせんね」
「まあなぁ、自分でも荒事に向いてるとは思わないよ」

 闇神隊印の安眠寝具『快適寝袋』で十分な睡眠を取る事の出来た大使達はもとより、護衛隊の兵達も何処か充実した雰囲気が感じられる。一つ確実な事は、安眠寝具によって彼等から高い信頼を得られたのは間違いない。
 どんな過酷な状況下にあっても休める時に休まなくてはならない兵達にとって、何時でも何処でも安定した寝心地を得られる快適寝袋は正に手放せない行軍必需品となった。

「何がウケるか分からんな、この世界……」

 そんなこんなで良好な関係を築けた闇神隊大使一行と護衛隊は、順調に森を抜けて街道に入り、昼過ぎには目的地へと到着した。




 パトルティアノーストは拡張を重ねる内にピラミッドのような山形になったサンクアディエットと比べて、街全体が最初から一つの要塞として在る様な造りをした巨大な城塞都市である。元は白族帝国の王族関係者のみが暮らす巨城であった。

 一戸の建造物がそのまま街になっているという構造的に、神民の等区画分けも高低さではなく、ほぼ均等な間隔で五つの区画に分かれていた。そうしなくては低等民は常に建物の中で暮らすような状況になってしまうのだ。
 最上階はほぼ開けた広場になっていて、居住区や商店などは屋内に配置されている。

 其々の区画のうち、最も豪華で背の高い建物が並ぶ宮廷区画に通された悠介達は、大使の謁見を明日と定めて親書を渡す段取りなどを行い、細かい協議は大使役組みに任せて今日は一度解散という事になった。

 闇神隊メンバーは用意された部屋で休む者、街に出る者とに別れ、悠介は例の薬を買う為に街へと出掛けた。
 ヴォーマルとシャイードは移動が許される範囲で街の構造を把握する為にあちこち歩き回り、エイシャはイフョカと化粧品やら両親への御土産やらを見に連れ立ってお買い物に。
 真っ先に遊びに行きそうなフョンケは珍しく部屋で休んでいた。実は夜になってから街へ繰り出すつもりである。




「うーん、ちゃんと場所を聞いてくればよかったか……」

 薬を取り扱っている店を探して地下商店街のような屋内街路を行く悠介。適当に歩いていれば見つかるかなと、甘く構えていた事に少し後悔を覚えつつ、入り組んだ街中で行き交う人々を眺めては溜め息を吐いた。そうして壁際で暫くキョロキョロしていると――

「あの、どうされました?」

 何かお困りですか? と、声を掛けてくる若い女性がいた。実は通りを行く人々の中にも悠介が道に迷っているであろう事を察していた者は多かったのだが、その見た目と得体の知れない神技の波動が近付く事を躊躇わせていたのだ。

 フォンクランクから親善大使が来ている事は、ノスセンテスの一般民にも知れ渡っている。
 長年の敵対国であるガゼッタがブルガーデンの地でフォンクランク軍に破れたという話の中に、闇神隊という英雄の存在が囁かれていた。戦の英雄といえばどれだけ敵兵を殺したかで決まるようなモノ。
 闇神隊やギアホーク砦、ディアノース砦の英雄については、あまり詳しい事は伝わっていない。
 故に、壁を背に街行く人々をじぃっと見詰めている黒尽くめの男が、フォンクランクの英雄である可能性を考えると、怖ろしくて声など掛けられなかったのだ。

 そんな中、悠介に声を掛けた女性は勇敢なのかお人好しなのか、はたまた天然なのか。見た目は二十歳前後の女性未満、少女以上な雰囲気で、黄髪をサイドで纏めた活発そうな印象を与える見掛けの割りに柔らかい物腰で、可愛らしい感じのする娘だった。


「いやー助かりました、道案内までさせてしまって申し訳ない」
「いいえ、お役に立てて良かったですよ」

 薬品店通りまで案内して貰った悠介は、優しい笑顔で去って行く彼女に礼を言って別れると、早速店で目的の薬瓶を何本か購入して宮廷区画に用意された客間の自室に籠り、軽くカスタマイズを施し始める。

 治癒補助薬は一瓶辺り赤晶貨三本近い値段もする高価な品だが、纏めて数本買っていく悠介に店員さんが目を丸くしていた。ちなみに、余所の国で購入した場合、輸送人件費で商人の取り分が加算されてもう少し高くなる。

「浸透率の数値はそのままにして、神技の増幅効果を体力回復効果に変えてみようかな……?」

 よく効く回復薬のようなものにカスタマイズしながら、効果部分を弄れば色々応用が利きそうだと、悠介は手応えを感じていた。






 翌日、朝帰りを見つかってエイシャに叱られているフョンケがえらく疲れていた様子だったので、悠介は実験がてら昨日カスタマイズして作った回復薬を飲ませてみたところ、水技の回復と同じような効果が得られる事を確認出来た。
 流石に普通の水からここまで効果のある薬を作るのは無理だが、これは中々使えそうだと実験の成功を確信する。

「ちょっ 俺で実験しないで下さいよっ」
「いや、まあ危険が無い事は分かってたんだ。どの程度の効果が得られるのかを確かめておきたくてさ」

 だから気にするなと流しつつ、何となく作ってみたら出来てしまった精力増強剤を握らせる。

「俺は隊長の忠実な部下っす」
「そうか、これからも期待しているぞ」

「……こ、この人たちって……」

 朝から疲れた気分にさせられて精神安定剤でも要求したいエイシャなのであった。




 今日の謁見で親書の受け渡しを済ませれば、後は大使達に任せて闇神隊の任務はとりあえず一段落という事になる。細かい協議などが交わされる間、悠介達は適当に街の観光でもしながら帰国する日までノンビリ過ごせる予定になっていた。

 フォンクランクの大使達がノスセンテス神議会の代表と本会談の打ち合わせがてら、滞在中の待遇や情報の入手に関わる行動制限について協議し、闇神隊メンバーは其々護衛という名の監視付きで街の散策などしている頃、神議堂に集まった神議会の各神民議長達が闇神隊長(ユースケ)篭絡の手筈やガゼッタの動き、フォンクランクの近況について話し合っていた。

「ヴォーメストの部隊は壊滅したそうだな」
「やはり余所者になど任せるべきではなかったのだ!」
「問題は、奴が現在フォンクランク側の捕虜になっているという事だ」
「それについては向こうに居る有力貴族の同志達に動いて貰うとして、今は闇神隊と邪神(ユースケ)の扱いについて考えねばならん」

 港街での出来事は未だ悠介達には伝わっていない。大使達にも今しばらくは情報を伏せておこうとノスセンテス側は画策していた。ノスセンテスの諜報力を隠す為、延いては多くの密偵を潜り込ませている事を気取られたく無い為、情報を態と遅らせる。

 街は周囲を風技の伝達封鎖によって情報防衛しているので、風技の伝達を行うには許可を取らねばならない。
 無事、ノスセンテスの首都に到着した事を本国(フォンクランク)に伝えようとしたイフョカは、伝達はノスセンテスが行うのでと、交信を止められていた。が、余所の国に来ているならその国のやり方に従うのは当然として、別に不審には思っていなかった。

 一応その事をユースケ隊長に報告した際『本人達からの連絡もあった方がより確実な気がするけどなぁ』という呟きに、イフョカは『確かに』と納得すると、ノスセンテス側の対応に対して僅かな違和感を覚えた。

 とは言え、そんな呟きを口にした悠介も余所の国のルールだからとあまり気にした様子も無く、今日も薬を見に街へと出掛ける。




「あら? ユースケ様じゃありませんか?」
「え? お姉ちゃん知り合いなの?」

「ん?」

 薬品店通りを歩いていた悠介がそんな声に振り返ると、そこには見知った顔と知っている顔が並んでいた。水色の髪と瞳を持つ美しい妙齢の女性と、昨日、道案内をしてくれた黄髪をサイドに纏める可愛らしい感じのする若い女性。

「ラサナーシャ? と、昨日の……」
「あ……こんにちは」
「まあ! やっぱりユースケ様でしたのね」

 思わぬ所で思わぬ相手との再会に驚きつつ、悠介は『そういや近々ノスセンテスに帰郷するって言ってたな』と、前にラサナーシャから聞いていた話を思い出す。

「と、いう事は――彼女は妹さん?」
「ええ、以前お話したこっちに住んでいる妹です」

「あ、えと、改めまして、ラーザッシアと言います」
「昨日はどうも、悠介といいます」

 ぺこりと挨拶するラーザッシアに悠介はドーモドーモと日本人な挨拶を返す。悠介から見たラーザッシアの印象は、活発そうな見掛けはヴォレット、柔らかい物腰はスン、慌て方がイフョカで、ハキハキした喋り方はエイシャに似ていた。




 闇神隊長と彼女達の接触を物陰から見張っていた人影が、風技の秘匿伝達で報告を上げる。

『――ミツバチの目標との接触を確認しました――』
『――了解した。監視を続行せよ――』







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