緊急連絡を受けて出動してきた応援の衛士隊と合流し、悠介達は彼等の馬車にて襲撃を受けた無技の村へと向かっていた。
今回駆けつけた(送られた)応援の衛士隊員は実力的に低い能力に留まっている者達で、所謂あぶれていた『使えない』者の寄せ集めである。彼等が重要な作戦や危険の伴う任務に駆り出される事はまず無い。
故に、ディアノース砦に配属された者もおらず、パウラの長城前で行われた戦いにも参加していないので、シンハの事を知る者もいなかった。お陰で合流を果たした後も問題なく村を目指している。
「フォンクランクも人手不足は深刻なのか?」
「タイミングが悪かったんじゃないか?」
フォンクランクの広大な領土に点在する無技の村を短期間で調べる為、一度に方々へと部隊を出している現状。
敵勢力の規模も分からない上に、相手が『無技の戦士』かもしれないともなれば、一部隊の人数も多めに編成する事になる。部隊を預かる様な熟練した衛士達の間では『無技の戦士』が非常に手強い相手である事は周知の事実なのだ。
巨大な街であるサンクアディエットの警備にも多くの人員を割くので、宮殿関係者などの重要人物が関わる場所以外は後回しにするというような手段を取らないエスヴォブス王の方策下では、今回のような問題が起きるとどうしても人手不足に陥る。
「民に優しき王も考えモノだな」
「暴君よりゃマシだろ」
何気に酷い物言いをしている事に自覚の無い悠介だった。
「村が見えてきたぞ」
悠介達が村に到着した時には、殆どの建物が焼け落ち、黒く炭化した残骸ばかりが広がっていた。奥の方にまだ燃えている建物が見える。
「ああ! お屋敷がっ」
保護したヴォーアス家の使用人によれば、奥で燃えている屋敷がヴォーアス家の別荘なのだという。村人を避難させてあると聞き、悠介達が急いで屋敷前に向かうと、そこではヴォーマル達を始め十数人の衛士が必死の消火活動を行っていた。
ヴォーアス家の私設軍衛士達は焼け落ちる宿舎から自力で脱出したらしい。
「隊長!」
「ヴォーマル、中にいる村人達は?」
「奥に居るらしくて、生死の確認までは……」
「火の勢いが強過ぎる、このままでは全焼も免れない」
付与系か攻撃系水技の使い手が欲しい所だと現状の報告をしたシャイードは、応援の衛士隊を見て表情を険しくした。彼等の力ではコップに掬った水で業火を消そうと試みるようなモノだ。
「ヒヴォディル、避難民はどの辺りにいるんだ?」
「ええっと、多分一階中央の広間だと思うんだが……確かそうだったな? リフョスィ」
「はい、半階分ほど地下に掘り下げたホールに収容しています」
私設軍衛士の指揮を執っていたヒヴォディルに、先程まで互いの無事を確かめ合っていた使用人の娘が補足する。
「うし、分かった。 ちょっと別荘壊す事になるけど」
「構わないさ、後で直してくれるんだろう?」
そう言って理解を示すヒヴォディルに、悠介は口の端で笑って返すと、燃え盛る屋敷に向かって駆け出した。手の施しようが無い程の炎に包まれた屋敷へ真っ直ぐ突っ込んで行く闇神隊長の姿に、私設軍衛士や応援の衛士達は一体何をするつもりなのかと見守る。
熱風が頬を撫で、髪を揺らす。舞い落ちる火の粉からマントで身を守りながら屋敷の外壁まで辿り着くと、表面をバシッと叩いてカスタマイズメニューを開いた。対象の近くに居なければ使えないのが、カスタマイズ能力の一種ウィークポイントでもある。
パウラの長城戦で使ったような石柱の連結による遠距離からのカスタマイズは、最初からしっかりとそういう作戦を行う想定に基づいて下準備をしておかなければ、そうそう簡単に出来るモノではない。
「あちあちっ あっちーな! ……よし、実行!」
あちゃあちゃ言いながらカスタマイズメニューで屋敷を弄っていた悠介は、避難民が居るであろう空間を残して屋敷全体を畳み込んだ。屋敷を包む炎の内側から光のエフェクトが溢れたかと思うと、舞い消える光の粒を残して炎も屋敷も一瞬で消え去る。ざわりっと、私設軍衛士や応援の衛士隊からざわめきが上がった。
「おみごとです、隊長」
「どうやら上手く行ったか……まだ燻ってるからな、しっかり鎮火させといてくれ」
先程まで立ち昇っていた黒煙は、巻き起こった一陣の風によって夜空の彼方へと運ばれて行き、屋敷の建っていた中央付近では、少し掘り下げられた空間に身を寄せ合う村人達が、ポカンとした表情で周囲を見渡していた。
「いやぁ、改めて見ると本当に非常識だねぇ、君の神技は」
「ほっとけ」
ともかく、避難していた村人達の無事も確認された。焼け落ちた村の復興作業は朝を待って始める事になり、悠介は村に散らばる焼け残った資材を集めて一時収容施設を建てると、そこで村人達を休ませた。
私設軍衛士と衛士隊によって行方不明者の捜索、確認作業などが行われる中、ヒヴォディルと一緒に脱出して途中で追っ手の足止めに残った使用人や側近達のうち、遺体で発見された者や、怪我を負っているがまだ息のある者達が村に運び込まれて来る。
道中でシンハが倒した襲撃者の追っ手の中で、最初の餌食となってしまった炎技の民は、間違いなく村を襲撃した者の中に居たと、面通ししたヒヴォディルが証言した。
残りの二人も、白髪にガゼッタ軍の兵装を纏っているが、炎技を中心にした攻撃を行っていた事は確認済みだ。そこへ、衛士隊が焼け跡の近くから襲撃者と思しき遺体を発見したと報告を持ってくる。
悠介が闇神隊メンバーと共にシンハも伴って確認に行くと、全身に深い火傷らしき傷痕の残る無技の民の遺体があった。
「……間違いない、この者はガゼッタの白刃偵察団に所属する戦士だ」
「え……」
シンハの言葉に、思わず聞き返す悠介。ヴォーマルと顔を見合わせたフョンケが口を開く。
「じゃあ、この襲撃はやっぱりガゼッタが加担してるってのか?」
「いや、そうではない。 ふん……読めてきたぞ、そういう事か」
「どういう事だよ?」
説明を求める悠介に、シンハはイフョカの家でも話した内容を語った。五日ほど前、フォンクランク領へ無技の村襲撃事件について調べに向かわせた調査隊がブルガーデン領を横断中、フォンクランク軍衛士の襲撃を受けて壊滅したという報告を受けた事。
「なんだそりゃ? そんな話、聞いてねぇぞ」
「当然だろう、調査隊を襲ったのはフォンクランク軍衛士ではなかったのだからな」
フョンケの疑問にさらりと答えるシンハ。悠介はその含みを持った言葉と昼間に話した内容から、何となくシンハの言いたい事が分かった気がした。ヒヴォディルも同じモノを感じたのか、顎に手を当ててふむふむ頷いている。
「それって、ブルガーデン軍の兵でも無いって事だよな?」
「そうだ。ちなみに、調査隊でガゼッタに生還した者は一人だけだ」
「ああ……なるほどな」
「え、どういう事です? 意味分かんねぇですよ」
闇神隊メンバーの顔を見渡しながら困惑するフョンケに、悠介は恐らくシンハが至ったであろう考えについて語る。ブルガーデン領でガゼッタの調査隊を襲ったのは、今回この村を襲撃した武装集団である可能性。
そしてこの調査隊員は、襲撃者達の手によってここに打ち棄てられたのであろうという推測。
フォンクランク政府が国内から無技の民を減らす為、ガゼッタに流れないようにする為『ガゼッタに靡かない者を粛清する』という名目で『ガゼッタ軍が襲撃している』ように装った『フォンクランクの陰謀』と見せかけた、『フォンクランクとガゼッタの衝突』を目論む何者かの陰謀。
「ガゼッタ側にはフォンクランクの陰謀と思わせ、フォンクランク側にはガゼッタの暴挙と思わせる。という策だな」
実際、側近達はエスヴォブス王による陰謀ではないかと疑っていた事を明かすシンハ。頭痛でも起きているのか、若干顔を顰めたフョンケが自分の理解出来た所まで確認をとる。
「えーと、ようするに……なんだ、うちでもガゼッタでもブルガーデンでもねぇ第三者の仕業ってことっすかい?」
「一応そうなるよな? フォンクランクにはそんな無茶する集団がいる様子も無いし、ガゼッタの方もちゃんと抑えてるんだろ?」
「ああ、融和派の主張からしてこういう策に手は貸すまいよ。だが、騙されて協力する愚か者は何処にでもいる」
ガゼッタ軍を装うにしても、今まで謎に包まれていたガゼッタに関する詳しい情報が無くては、髪を白く偽って即変装完了という訳には行かない。調査隊を襲撃する場合など、軍内部の情報が無ければ部隊を見つける事すら困難な筈だ。
「そうすると……フォンクランク領に詳しくて、ガゼッタの融和派? とも繋がりのある勢力か」
「フォンクランクとガゼッタが衝突して得をする位置にある勢力という事だねぇ」
「しかも、それなりの兵力を備えてなけりゃあ、コレだけの事は起こせやせんぜ?」
限りなく確信に近い推測から、『敵』の正体を見極めようとする悠介達。調査隊員の遺体を別にして、犠牲者の遺体が一箇所に集められる作業を横目に、皆で向かい合いながら意見を出し合う。
「イザップナー派の残党って線はこれで薄くなったか……」
「いや、実行部隊としてなら使える筈だ。イザップナーの部下だった精鋭団は、フォンクランク領に詳しいのだろう?」
「実行部隊か、ならそいつ等の後ろから糸を引いてる黒幕が居るって事だよな……心当たりはあるのか?」
「恐らく……ノスセンテス」
カルツィオで最古の街と謳われる古都を首都に持つ二番目に大きな国。等民制度の基である四大神信仰発祥の地とも言われる、歴史深い国である。白族帝国復興を掲げるガゼッタが最初に狙う国でもあった。
「おいおい、それって自分とこが狙われててやべぇから、ガゼッタを俺等に押し付けようって魂胆じゃねぇだろうな」
「無いとは言い切れんな……」
大国なれど首脳部が閉鎖的で国力に問題も見られるノスセンテスにとっては、フォンクランクとガゼッタ、双方が適度に消耗してくれれば都合が良いだろう。
ブルガーデンとフォンクランクの衝突にも表向きは完全に傍観する立場を取っていたようだが、しっかり軍事行動を起こせる準備を整えて監視していたらしい事は、ガゼッタに対するその後の迅速な動きから推察できる。
「ふっ……神技人はとかく争いを好む民族のようだ。どうだユースケ、今からでも同士を大事にするガゼッタに乗り換えんか?」
「お前が言うな、つーか、このタイミングで口説くな」
冗談めかした口調でそんな煽り気味な台詞を吐くシンハに、何処まで本気なのやらと肩を竦める悠介なのであった。
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