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ちょっとグロいかも。
本編
38話:白い獣




 名門ヴォーアス家が所有する無技の村を目指し、闇神隊一行を乗せた衛士隊馬車が夜の街道を駆け抜けていく。

「あの、隊長……」
「気にすんな」

 その車上にて、ヴォーマルは悠介の隣に座るガゼッタの王に複雑な表情を向ける。この件に関してはユースケ闇神隊長殿から気にするなという『任務』を賜ったが、それは非常に困難を極めた。

「ですがねぇ……」

 一番多く文句を言いそうなフョンケは、風技による馬車の高速走行を安定させるのに忙しく、二番目に御小言の多そうなエイシャも水技で馬の体力を回復し続ける仕事に集中している。

 シャイードは無口で元々物事に対する関心が薄い。イフョカは悠介と共犯的な立場にある。よって、シンハの同行を問題視する役目はヴォーマルに回って来たのだが――

「まあ、あまり気にしないことだ。 それより、そろそろ明かりを消したほうがいい」
「お前が言うなっ つか俺の指揮とんな!」
「ふっ」
「……はぁ」

 どうにも緊張感の無いやり取りをする悠介とシンハを見て、ヴォーマルはやれやれと頭を振りながら明かりを落とす。
 街道の先に見え始めた小さな明かりは、ヒヴォディルが滞在しているらしい無技の村のモノと思われる。とりあえず隊長殿に次の指示を頂こうかと、ヴォーマルが声を掛けようとしたその時、周囲の索敵をしていたイフョカが警戒を発した。

「!っ だ、誰か来ます……馬一頭に、炎技の波動です」

 シャイードが即座に馬車の速度を緩め、悠介はカスタマイズメニューを開いて非常事態に備える。その隣で、シンハは白金の大剣に手を掛けて何時でも飛び出せる体勢を取った。

 暗闇の向こうから蹄の音を響かせて徐々に近付いて来る馬に乗った人影。一定の距離まで近付いた所で、ヴォーマルが炎技の明かりを放ってその正体を見定める。

「ヒヴォディル!」

 馬の首にもたれ掛かるようにして夜の街道を駆けて来た人影は、満身創痍な姿のヒヴォディルだった。数日前、悠介が宮殿の馬車乗り場で見た『お貴族様』っぽい彼の衣服には彼方此方に焼け焦げた跡や、斬られたモノと思われる裂け目が出来ている。

 興奮している馬を落ち着かせてヒヴォディルを地面に降ろし、エイシャを治癒に当たらせる。
 辛うじて意識があるものの朦朧としている様子だったヒヴォディルは、マントに付与されていた治癒効果とエイシャの治癒によって周囲の状況を把握出来るまでに回復した。

「おい、大丈夫か!」
「や、やあ……ユースケ……助けに来てくれたのか」

「一体、何があったんだ」
「……襲撃を受けたんだ……ガゼッタ軍の兵装を纏った集団だったんだけど……」

 ヒヴォディルの話によると、何時も通り収穫量の計算を終えて今日の作業を終えようとしていた時、突如村に侵入してきた武装集団が私設軍衛士の宿舎に夜襲を仕掛けて来たらしい。
 その攻撃で宿舎の出入り口を塞がれてしまった為、私設軍の援護が無い状況でヒヴォディルと数人の会計係りや使用人、側近達が襲われた。
 周辺の警戒任務で外にいた少数の私設軍衛士は、索敵をしていた風技の民が何時の間にか倒されていた為、最初の襲撃が起きるまで武装集団の侵入はもとより接近にすら気がつかなかったようだ。

「最初に雪崩れ込んで来たのは、確かに無技の戦士に見えた……でも交戦中に相手の一人が炎技を使ったんだ」

 炎神隊の中では平凡な実力といえど、攻撃系炎技の使い手としてはヒヴォディルも十分、精鋭と呼べるだけの力は備えており、尚且つ、悠介から貰った炎技の指輪で力の底上げがされているので、彼が放つ火炎弾は中々の威力を誇る。
 火炎弾の直撃を受けそうになった無技の戦士らしき姿の相手は、咄嗟に炎の塊をぶつけてそれを打ち消すというミスを犯した。

「それって、変装してたって事か……?」
「恐らくね……あれは見た目こそ無技の戦士だったけど神技の波動を――って、出たぁーー!」

 腕組みをして話に耳を傾けていたシンハの姿に、今更ながら気付いたヒヴォディルが飛び上がる勢いで叫んだ。『気持ちは分かる』とばかりにヴォーマル達がうんうん頷く。
 とりあえず事情を説明しようとする悠介だったが、シンハがヒヴォディルに重要な質問を投げ掛けた。

「状況は概ね分かった。お前が一人負傷した状態で逃げてきたという事は、部下は全滅したのか? 村人達はどうなった?」
「はっ そうだ! 使用人達が僕を逃がす為に途中で奴等の足止めを……!」

「っ! イフョカ、街道の先の様子は?」
「……駄目です、距離があり過ぎて……あ、でも、僅かに空気の乱れを感じます」

 恐らく街道上か、或いは村の中でまだ戦闘が続いている可能性があるという。悠介は宮殿に緊急連絡を入れるよう促がすと、ヒヴォディルを逃がす為に追撃の足止めを行っているという使用人達の救援に、臨戦態勢で馬車を走らせた。






「追撃に出た者は?」
「まだ戻りません。ですが、脱出したのは手負いのフォンクランク貴族とその使用人数名です」

「ふむ……あの傷では最早助からんか」

 風技の伝達による呼び掛けが頻繁に行われているとの報告が上がっているので、そろそろ街から衛士隊が向かって来るかもしれない。ガゼッタ軍の兵装に身を包む武装集団の隊長は、今の内に次の場所へ移動しておいた方が良いと判断して撤収命令を出した。

「村に火を放て! 我々は次の目標に向かう、追撃隊にはそこで合流すると伝えろ!」

 彼等は村中の建物を回り、家畜小屋や農園にまで火を放ち始めた。村人が避難しているヴォーアス家の別荘と駐留部隊らしき衛士達が立て篭もる宿舎には、土技による耐火処理がされているので、油木を積み上げて念入りに燃やす。
 村に滞在していたフォンクランク貴族との交戦では思わぬ損害も出したが、適度な抵抗は却って都合が良い。

「よし、撤収する!」

 焼け落ちる村に小さな工作を仕掛けると、彼等は何処かへ去っていった。






 遠くに見えていた小さな明かりが、ボンヤリと広がる光に飲み込まれていく。それを指して村に火の手が上がっていると指摘するヴォーマル。

「ありゃあ多分、焼き討ちですぜ」
「こりゃ急いだ方がいいな……」

「っ! た、隊長っ 前方の林に、複数の反応が……っ 戦闘が行われてます!」

 イフョカが警戒を発した瞬間、街道の先に見える林の間で炎が飛び交っているのを確認した。御者台のシャイードが急遽馬車を減速させる。すると、停車しきる前に白金の大剣を振り翳したシンハが馬車を飛び降り、林の一帯へと駆け出した。

「ここは俺が引き受ける、お前達は先に行け」
「シンハ! たくっ ヴォーマル、後の指揮を任せる。 このまま村まで行ってくれ、ヤバそうなら直ぐ引き返して構わない」

 そう言って指揮を預けた悠介は、十分に減速した馬車から飛び降りてシンハの後を追う。回復したヒヴォディルも戦力に数えているので、余程の大部隊にでも遭遇しない限り大丈夫だろうと考えていた。

「どうする……?」
「隊長の命令だ、俺たちはこのまま村へ向かう!」

 あのシンハ王と二人だけにして良いのかという意味も含んだシャイードの問い掛けに、ヴォーマルは悠介の命令を優先する判断を下した。街道脇の林に消える悠介達を見送り、衛士隊馬車は徐々に速度を上げて行く。

「そういう訳なんで、イザって時はよろしく頼みますぜ?」
「う、うむ、任せておきたまえ」

 ヒヴォディルを戦闘要員に加えたヴォーマル達は、襲撃を受けた村を目指して街道を駆け抜けていった。




「俺に付き合って良かったのか? お前の部下達は、見たところまともに戦えそうな者はいなかったようだが」
「そう思うんなら一人で勝手に飛び出すなっての、それに神技力の強さが戦いの強さって訳でもないだろ?」

 ヴォーマル達はギアホーク砦で自分達より遥かに強力な攻撃系神技の使い手を倒している。
 カスタマイズされた短剣の補佐があったとはいえ、実戦経験からしても彼等は手慣れであり、ベテランと言えるのだ。悠介は普通に心配する気持ちこそあれど、そこは彼等を信頼していた。
 今回はヒヴォディルも居るので、攻撃系神技の使い手にも不足していないという悠介に、シンハは感心する素振りを見せる。

「意外に殊勝な心掛けだな、使える者はたとえ保護した被害者であっても使うか」
「ん? 怪我はもう治ってるんだし、アイツも宮殿衛士なんだから当然だろ?」

 悠介の思考をシミュレーションRPG風に表現するなら、とあるイベントで合流した仲間ユニットをそのイベントで出撃させて使うようなモノで、『脱出してきた被害者だから』とか『貴族だから』という理由でその状況(イベント)に参加させないという考えは無い。
 『大事を取って先に街へ帰らせる』等という選択はありえないのだ。そんな話をしながら走っていた悠介とシンハの間を、流れ弾らしき炎の塊が通り過ぎる。

「良い判断だ!」
「うおっと!」

 左右に跳んで分かれた二人は、暗闇に染まる木々の間を駆け行く微かな人影を見つけると、見失わないように後を追って走り出す。先程の炎の塊を放った者か、放たれる対象となった者か、その判断は或る程度の距離を詰められた所で見分けが付いた。
 編み込まれた二対のおさげを揺らしながら走るメイド服姿の人影。ヒヴォディルの屋敷で働く使用人である事を確認した悠介が声を掛けようとしたその時、何かに足を取られたのか彼女は豪快にすっ転んだ。

 そこへ、林の奥から炎の塊が二つ三つほど飛んで来るのを見た悠介は、咄嗟に転んでいる使用人の前に飛び出すとマントで覆いながら土の防壁を出現させた。二発まで耐えた防壁は三発目の着弾で砕け散る。
 防壁を吹き飛ばして威力の落ちた炎の塊が粉々に飛び散りながら悠介達に降り掛かるも、カスタマイズによってコレでもかと防御効果を施してある闇神隊の隊服は、熱も衝撃も延焼も防いで着用者とそのマントの下に庇われた者を守った。

「あぶねえ〜」
「あ、あなたは……」

「闇神隊の悠介だ、ヒヴォディルんとこの使用人さん?」
「は、はい、そうです! ……あの、お坊ちゃまは無事なのでしょうか」

 ヒヴォディルが『お坊ちゃま』と呼ばれているらしい所にツッコミたい気分になった悠介だったが、今はそれどころでは無いので真面目に返す。おさげ髪の使用人はヒヴォディルの無事を聞くとホッした表情を見せた。
 彼女は移動系風技の使い手だったらしく、風技の補佐を使って林の間を逃げ回り、追っ手を撹乱していたようだ。


 使用人を助け起こした悠介は、木の陰に隠れながら炎の塊が飛んで来た方向を窺ってみたが、林の奥はひたすら暗闇が続いていた。しんと静まり返った闇に耳を澄ませば、虫の鳴く声にかさかさという僅かな葉擦れの音が混じる。

「早いとこ街道に出て応援の衛士隊と合流したいんだが、シンハ! 敵の居場所は分かるか?」
「わからんな、こう暗くては何も見えん」

 数歩離れた場所で同じ様に身を隠しているシンハは、姿勢を低く保ち、一瞬の変化も見逃すまいと周囲に視線を飛ばしながら辺りの気配を探っている。

「下手に動くのは危険か……」
「あのっ まだ執事長達が」

 使用人の娘が一緒に残った他の仲間について訴えかけようとした時、闇の奥に赤い炎が生まれた。何時の間に回り込まれたのか、隠れている木を背に、ほぼ正面の方角から飛来する二発の炎の塊。

「危ない! 伏せろっ」
「きゃあ!」

 土の防壁で対抗する悠介だったが、正面の防壁を補強する事に集中していた為、右側面からの時間差攻撃に対応しきれなかった。使用人を庇って衝撃に備える。

「そのまま伏せていろ!」

 直撃コースだった炎の塊は、悠介達の傍まで一気に駆けて飛び込んで来たシンハが、白金の大剣で叩き潰した。
 神技を相手にした戦闘を前提に鍛えられているシンハは、神技人との戦いにも慣れている。攻撃系神技、それも今回のような投擲型との戦闘も一度や二度ではない。邪神探索の旅ではブルガーデンの精鋭団とやりあった経験もあるのだ。

 『敵』のいる方角を確認したシンハは暗闇に向かって跳躍すると、木を蹴り、大地を削り、獲物を追う猛獣の如く素早さで右に左に身を振りながら、闇の奥に潜んでいる炎技の使い手に突進して行く。

 白い刀身を煌めかせながら猛然と迫り来るシンハの姿に、焦った炎技の使い手は迎撃しようと闇雲に炎の塊を放った。それによって自身の居場所を明確にしてしまうというミスを犯す。彼にとって本日二度目のミスである。しかも、今回は致命的であった。

「ふっ そこか……」

 殆ど勘で突進していたシンハは、目標を完全に捉えた事で獰猛な笑みを浮かべる。


「おいっシンハ! 殺すんじゃないぞ!」
「分かっている、一人は……残す!」

 シンハはそう答えるや否や、グシャッという中身の詰まった果物が潰れるような音を一帯に響き渡らせた。大剣の血糊を振り払う動作と次の目標に向けて踏み出す動作を同時に行い、飛んで来た炎の塊二発のうち一発を躱して、もう一発は叩き潰す。

 そうして木々の間を疾風のような勢いで駆け抜け、ガゼッタ軍の戦士を装った炎技の使い手二人との距離を詰めると、炎の塊を放とうと突き出された腕を斬り上げて縦に両断する。

「ぎゃああああああ」
「ひぃ……っ げはっ!」

 ショックと激痛で断末魔のような悲鳴をあげる仲間の姿に怖気づき、思わず逃げ出そうと背中を見せたもう一人に強烈な一撃を蹴りこんで背骨を砕いた。
 腕を抑えて唸っている炎技の使い手の首筋に、加減した手刀を落として意識を奪った所で戦闘は終了した。辺りに静寂が戻る。




「お前なっ やり過ぎだろ!」

 シンハが捕虜の止血をしている所へ、使用人を連れた悠介がやって来た。無惨に裂けた腕を直視してしまった使用人の娘が、両手で口元を覆って息を呑む。背骨を砕かれた男はまだ息こそあるものの、早く治癒しなければ間違いなく死に至る致命傷だ。
 最初に倒された男は悠介が先程復元したので、顔の判別は付くようになった。襲撃者の身元を調べる為にも、あまり酷い状態にされるのは困る。

「まったく、無双しやがって」
「ムソウ?」

「二つと並ぶ者無しってな意味だよ」
「なるほど、無双か……ふっ」

 気に入ったらしい。

「とにかく、街道まで移動しよう。使用人さんの仲間も無事なら様子見に出て来ると思うし、先ずは応援の衛士隊と合流しよう」
「はい、わかりました」

「こいつはどうする」
「お前の剣でも握らせろ」

 流石に破壊された背骨までは癒せるかどうか分からなかったが、シンハの大剣に付与してある治癒効果はかなり高い。なんとか生命維持くらいは出来る筈だと促がす悠介に、『我が一族を騙る愚者に俺の剣を握らせるのか』と渋るシンハだったが――

「……普通の剣に戻すぞ」
「……仕方あるまい」

 シンハは渋々、本当に渋々、虫の息の男に剣を握らせるのであった。







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