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本編
34話:僅かなる平穏




「なんじゃ、結局亡霊の噂はその研究家と子供達の仕業であったのか」
「仕業というかまあ、そういう噂の正体なんて大抵はこんなもんだよ」

「ツマランのう。 しかし地下の街は中々面白そうじゃな、今度宮殿の地下でも探検しに行かぬか?」
「宮殿の地下ねぇ……」

 亡霊騒ぎの一件が片付いて数日、今日も下街の巡回任務を終えて自室に籠もり、ギミック機能の仕様をあれこれ確かめながら実験製品(ガラクタ)の製作に勤しむ悠介と、その実験製品(おもちゃ)目当てで部屋に入り浸っているヴォレットは、ノンビリとした時間を他愛無い会話で楽しんでいた。
 悠介の屋敷を建てる場所なども大体決まったので、後は屋敷が建つのを待つばかり。悠介が自分で建てるという手は諸々の諸事情により自重を促がされ、土技の建築職人達に頑張って貰っている。

 二、三日中にはディアノース砦でブルガーデンの女王リシャレウスと、エスヴォブス王の会談が行われる予定になっているのだが、会談に同席する官僚達は下見に出向いたディアノース砦の余りの規模と重厚さに、悠介の力を見誤っていた事を思い知った。

 彼等は街の発展開発を担うポストに悠介を就かせようと王に進言するなどの動きを見せていたが、闇神隊設立当初から悠介の存在を過小評価していた官僚達に対し、今更取り込みに動こうとしても、そうはさせじとヴォレットが壁になって彼等を牽制している。
 悠介を活躍させたくない婚約者候補組を、上手くコントロールするヒヴォディルもそれに協力してるので、悠介の立場は今までと変わりなく、街で下々の民と交流し、ヴォレットの話し相手を務めるという割と平穏な日々を送っていた。
 自宅建築を自重する理由はそんな所にあった。が、悠介を独り占めしておきたいヴォレットの我侭が概ねの理由でもある。

「のうユースケ、これの大きいのは作れんのか?」

 実験で作られた動く置物を弄って遊んでいるヴォレットは、お気に入りの実験製品に結びつけた紐をくいくいと引っぱって見せる。彼女のお気に入りは『空飛ぶお皿』だ。円盤状の物体に四つの穴が開いており、その中に回転する羽が内蔵されている。

 悠介が元の世界で見た事のあるラジコン飛行機の中でも、変り種といえる円盤型飛行機を再現してみたモノで、なんと空中静止する事が出来るのだ。というか、空中に浮いたままふわふわしているダケなのだが。
 実に珍しい宙に浮くお皿を気に入ったヴォレットは、それに紐を付けて持ち歩いている。実は真上に浮かべていると結構涼しい。

「出来なくはないと思うけど、乗れるようなのは無理だぞ? 色々危ないし」
「ふむぅ、じゃあこっちの車輪が回って動く引き手の要らない車はどうじゃ?」

「それは今研究中、荷物用の台車で試したんだけどな」
「ほう! どうじゃった? 人は運べそうか?」

 台車の車輪をギミック機能で動かしてみたものの、荷物を載せると動かなくなったと悠介は首を振る。ギミック機能で付与出来るモーションはその状態でその動きが可能な分の力しか与えられていないらしく、ある程度の負荷が掛かると止まってしまうのだ。
 従って、重い物を載せても動けるだけの力を台車の車輪に与える場合、予め車輪自体に重りなどの抵抗を付けて負荷が掛かった状態で回転モーションを付与、その後、重りを外して使えば重り分だけパワーが増えているというやり方が必要になる。

「面倒な仕様だけど、これはこれで逆に安全性が高いんだよな」

 何があっても止まらないような仕様だと、悲惨な事故に繋がる危険もあるのだ。

「馬車を暴走させてしまうような事故か?」
「いや、例えば……その回転してるプロペラにお前の髪が巻き込まれたりした場合――」

 身の毛もよだつ怖ろしい事故の可能性を指摘され、思わず頭を気にするヴォレット。

「こ、怖い事を言うな」
「まあ、この仕様ならそんな事故の危険もまず無いから安心しろって事だよ」

 軽くヴォレットをからかって遊びながら、悠介は今し方完成させたミニ自動荷車を床に置いた。
 全長五十センチ、幅四十センチ程で、直径三十センチの車輪が四つ。後輪には重りで負荷を掛けながら回転モーションを付与してあり、操縦桿っぽい棒状のハンドルの先端にモーションのON・OFFスイッチを付けてある。

「さて、動くかな?」

 棒状のハンドルを又の間に挟むように胡坐をかく体勢でミニ自動荷車に乗り込んだ悠介は、ヴォレットから期待の眼差しを受けつつモーションスイッチをONにした。車輪が回転しようとした僅かな振動が尻に伝わる。

「……」
「……」

 悠介を乗せた荷車は、その場からピクリともしなかった。

「何も起きぬな?」
「うーん」

 失敗したかと足を床に下ろした事で荷車に掛かっていた悠介の体重による負荷が軽減されると、途端に前進を始めるミニ自動荷車。直ぐにモーションスイッチをOFFにしたので引き摺られてコケるような愉快な事態にはならなかった。

「車輪に付けてた重りが足りなかったか……」
「どれ、わらわにもやらせてみよ」

 悠介よりは体重が軽いであろう自分なら、少しは動けるかもしれない。そう言っていそいそとミニ自動荷車に乗り込むヴォレット。操縦法を教わり、モーションスイッチをONにする。

「おおっ!」
「あ、やっぱ軽いと動くんだな」

 ゴロゴロゴロと木製の車輪が床石を踏む音を鳴らしながら、人がゆっくり歩くぐらいの速度で前進するヴォレットを乗せたミニ自動荷車。これは面白いとはしゃぐヴォレットは、そのまま部屋の扉を開こうとして悠介に止められた。

「待て待て、そんな格好で廊下に出る気かお前は」
「ええい止めるなユースケ、わらわはこれで廊下を走るのじゃ」

 小さい箱状の荷車に胡坐をかく体勢で座っている為、正面からはパンツも丸見えなのだ。

「幾ら御転婆姫(ヴォレット)でもその格好はあんまりだろ、つーか専属警護兼教育係(クレイヴォル)殿に見つかったら御小言ハリケーンだぞ」
「う……仕方あるまい」

 渋々部屋の中をぐるぐる走り回るだけで我慢するヴォレット。最近、側近の胃に優しい悠介だった。

「どうせモーターの類が作れるんだから、ギアボックスみたいな変速機構を作った方が手っ取り早いな、こりゃ」
「ふむ、それがどんなモノかは分からんが……必要な物があれば言うがいいぞ、直ぐに揃えさせよう」

 あまり派手なモノは作らず、力を抑えて目立つ事を避けようという当初の目論みはパウラでの戦いで今更となってしまった為、官僚達の思惑を躱す意味での建築自重はともかく、こういった自身の能力に関係するモノつくりは自由に進める事を決めた悠介。
 ここらで一発、本格的な乗り物でも造ってみようかと適当な乗り物のイメージから必要な材料を算出する。

「まずは遊園地のゴーカートレベルからいってみるか」

 ヘリウムガスで浮かぶ風船のように、紐付き『空飛ぶお皿』を頭上でふわふわ浮かべながら、ミニ自動荷車に乗って楽しそうにしているヴォレットを眺める悠介は、こんな平穏な光景がずっと続けばいいなと心の中で呟いた。




――フォンクランク領にある無技の村の一つが壊滅している――

 そんな急報が宮殿に飛び込んで来たのは、この日の夕刻過ぎの事であった。

 とある飲食店を営んでいる神技の民が、自分の出資で管理支配している村に収穫の徴収に出向いてみると、村人の殆どが惨殺されていたらしい。
 生き残った者の証言では、ガゼッタ軍を名乗る兵士が雪崩れ込んで来て『ガゼッタに恭順しない無技は敵だ』と言って村人を殺害し始めたという。

 直ちに衛士隊の調査団が派遣され、官僚達や宮殿衛士隊員の中にも自分の家が所有する無技の村に被害が出ていないか、至急調べるよう実家と連絡を取りに走る者など、宮殿内は俄かに物々しさと騒がしさが増して行く。

 ブルガーデンとの会談を控えたこの時期、エスヴォブス王は出来るだけ情報を外部にもらさないよう画策しつつ、調査団からの報告を待つ。街に放ってある諜報部隊にも、民の間にどの程度の噂が立っているかを調べさせて他国による工作の類を警戒した。

「まったく……平穏とは長く続かないものよな」




 宮殿の馬車乗り場では、急遽スンを迎えに行く事になった悠介が宮殿馬車に乗り込み、闇神隊メンバーと共にルフクの村へ向けて出発しようとしていた。衛士隊馬車は殆ど出払ってしまっていた為、ヴォレットが高官用の宮殿馬車を手配してくれたのだ。

「手間かけさせてわりぃなヴォレット、助かるよ」
「このくらい何でもない、早くスンを迎えに行ってやれ」

「移動補佐、準備完了!」
「隊長、出発しやすぜ」

 衛士隊馬車と比べればあまり速度は出せずとも、風技と水技による完全サポート体制である。明かり役のヴォーマルと手綱を握るシャイードが御者台に座り、フョンケが馬車を風の膜で包んで、エイシャは馬の体力を回復し続ける。
 イフョカは常に宮殿から発せられる伝達情報に意識を向けて緊急連絡に備え、悠介は道中を彼等に任せて考え事に耽っていた。

『ガゼッタの兵……シンハの差し金なのか……?』

 ルフクの村に続く一本道である夜の街道を、闇神隊を乗せた宮殿馬車が駆け抜けていった。



ちょっと短くなりましたが、新章導入部的な感じで。




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