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本編
21話:ゼシャールドの依頼




 条例が公布されてから四日、担当の衛士に率いられた無技人の清掃員が低民区の彼方此方(あちこち)で見られるようになった今日この頃。初日は見物人が多過ぎてたどたどしい活動になったが、以降は特に混乱もなく順調に街の(いち)風景(ふうけい)となり始めている。
 今日の巡回と報告を終えて自室に戻って来た悠介は扉を開けるなり固まった。

「やあ」
「やあ、じゃないだろ……」

 何故か部屋に居るレイフョルドに、ここ宮殿だぞ? と呆れるやら驚くやらな表情を見せる。彼の今までの行動から、ブルガーデンの密偵らしいとはいえ、敵とは思えなく感じていた悠介は『今日は何のようだ』と用件を尋ねて扉を閉めた。

「あれ? 侵入者発見で衛士を呼ばなくていいのかい?」
「衛士なら目の前にいるぞ。 尋問だ、アンタは何者で何しに来た」

 中々の余裕と貫禄を感じさせる悠介の対応に、レイフョルドは『なんだか成長したみたいだねぇ』などと面白そうに言った。そして何処からともなく取り出した手紙を差し出す。差出人はゼシャールドの名義になっている。

「これは?」
「見てのとおり、ゼシャールド氏から君宛の手紙だよ」

 色々聞きたい事があった悠介だったが、まずは読んでみるかと封を開ける。

「ちなみに内容は、近況と事情と道具の製作依頼だよ」
「ネタバレすんな!」

 ゼシャールドからの手紙にはブルガーデンでの近況と、向こうでもギアホークの英雄が噂になっている事などが書かれてある。要塞都市パウラではあの事件を切っ掛けに軍の再編で多少の混乱が起きているらしく、その隙を突いていよいよ行動に出るとあった。
 女王に接近したゼシャールドは、女王側に付いて中枢の人材などを引き込み『女王派勢力』を拡大していく事でイザップナー最高指導官という事実上のブルガーデン指導者を失墜させる計画を進めているそうだ。

 差し当たっては、女王こそがブルガーデンの真の君主である事を強く印象付けるため為、国家の象徴である女王の権威を目に見える形にした道具を用意して欲しいとの依頼だった。
 ゼシャールドの計画では、女王の側近としてパウラに戻り、悠介の作った道具を女王から賜った神器であると宣伝しながら、その権威を持って前ブルガーデン国王に忠誠を持つ官僚や、元々女王派であるといえる神民兵達を引きこんで勢力の拡大を目指す。

 イザップナーは旧王党派官僚からの批判を躱す為に権威と政策の決定権は女王に預けてある。これまで国内の中枢を抑えられて実権も握られている女王には味方となる勢力が無かったので、何か申請されれば無条件で承諾するしかなかった。
 が、女王派の勢力が増せばイザップナーの政治的な圧力は減退し、権威と決定権を持っている以上、女王が『駄目だ』と言えば、彼等は従わざるを得ない。最悪、内戦に発展しかねないやり方でもあるが、万一事が起きればフォンクランクが女王派に加勢する。

 そうしてブルガーデン国内で絶対的な発言力を持った女王と良好な関係を築くことで、フォンクランクとブルガーデン両国は平和的な付き合い方が出来るようになるというわけだ。

「ふーん……もし事が起きても、フォンクランク側は痛くも痒くもないってわけか」
「まあ、対岸の火事だからねぇ。 火つけるのは僕らだけど」

「……ん? 『僕ら』て……」
「あれ? もう気付いてるかと思ったんだけどなぁ。 僕って二重密偵(ダブルスパイ)なんだよね」

 フォンクランクに送り込まれたブルガーデンの密偵、という立場をブルガーデンに持つ、フォンクランクからブルガーデンに送り込まれた密偵。悠介も薄々そうじゃないかという気がしていたので、種明かしに口をついて出た言葉は『やっぱりな』だった。
 仕官を勧めたのもそれで納得出来ると、悠介は軽く溜め息を吐く。

「事情は分かったよ、偽神器は何とかしてみる」
「よろしくねー、僕はエスヴォブス王にも報告に行ってくるから。 あ、僕の事は他の人には内緒だからねー」

 それじゃ、とレイフョルドは片手を振って部屋を後にする。普通に歩いて去って行く姿が、悠介には妙に新鮮に感じられた。


「しかし……つーことは、レイフョルドを通して俺の能力の事は先生に伝わってるんだな」

 敵陣の真っ只中で事実上の最高権力者相手に対抗する勢力を造り上げる。とんでもなく危険で大変な役割だという事は悠介にも理解できた。女王の側近という立場と肩書きは、向こうの実情を聞く限りあまり身を守る役には立たなさそうだ。
 ゼシャールドもそういった危険な仕事や修羅場は潜ってきているであろうが、活動を始めれば常に暗殺などの危険に曝される。女王の勢力が拡大して味方が増えるまでは、要塞都市内では孤軍奮闘する事になるのだろう。

「だとしたら、俺の作る偽神器の性能でサポートするしかないわけか」

 これは責任重大だと、悠介は神器の構想を練り始めるのだった。






 要塞都市パウラの中枢施設、議会堂。その一室で、イザップナー最高指導官は自らの片腕ともいえる部下の男と今回の事態について話し合っていた。ゼシャールド神技指導官が女王リシャレウスに単独で謁見した事だ。

「完全に隙を突かれたな、女王の暗殺目的で行ってくれるなら歓迎したい所だが……」
「恐らく、女王陛下に取り入って我々に対抗する勢力の立ち上げを模索していると考えられます」

 何ら本音を繕う事無く言い放つイザップナーとは対照的に、部下の男は言葉を選びつつゼシャールドの狙いを推察する。

「やはりあの砦が痛手だったな、些か時間を掛け過ぎた」
「ゼシャールド氏の指導手腕は確かなモノでしたから、惜しんでしまった事が悔やまれます」

 本来ならば、もっと早い段階でゼシャールドを女王に謁見させ、同行させた暗殺者によって氏諸共リシャレウスを暗殺し、それを『密命を受けたゼシャールドによる女王暗殺』というフォンクランクの陰謀として発表する計画(シナリオ)だった。

 陳腐な方法であるとは本人達も自覚していたが、フォンクランクへの挑発と国民の怒りを扇動する事で開戦の機運を高め、開戦すれば真っ先に女王派を『弔い合戦だ』と煽って前線に送り出す。彼等は勇敢に戦い、散るだろう。
 後は国内に残る数を減らした女王派を取り込み、済し崩し的に王家の権威も手に入れる。ゼシャールドを始めフォンクランクの官僚引き抜きも、常磐のブルガーデン王朝を築く下準備の一環でしかなかったのだが、ここに来ていきなり躓いた格好だ。

「内に毒を取り込んでしまったか……女王派の勢力が増すことは、そのまま内戦に繋がりかねん」
「その場合、フォンクランクが女王派に加勢すると考えられます」

「!……っ 奴め! それが狙いかっ」
「既に此方(こちら)側の人間には目星を付けられているでしょう」

 女王に対する国民の人気は高い。各精鋭団や中枢官僚の殆どは身分優遇などの利権で此方(こちら)側の派閥に組しているが、神民兵や中枢から遠ざけてある旧王党派官僚達は女王が動く素振りを見せたなら、喜んで女王派に付くだろう。

「何か手を打っておかねば……」
「ゼシャールド氏に近しい者で首輪を付けるのに丁度良い人材がいます、取り込むなら早いうちが良いかと」

「よし許可する、それで行け」
「では、水の団の団員枠を一つ、用意して頂けますか」

 部下の男はイザップナーの用意した書類を受け取ると、一礼して執務室を後にした。






「ん〜〜」

 夜遅く、悠介は自室であーでもないこーでもないと唸っていた。ゼシャールドから依頼された神器は、性能に関しては何も指定はされていないモノの、相当なモノでなければ『神器』としての『格』も表せないであろうし、ゼシャールドの身を守る事も出来ない。
 自分が着ている隊服のように複数用意すれば、一つ一つの性能はイマイチでも合わせる事でかなりの効果を発揮する。が――

「ただの服じゃインパクトに欠けるよなぁ……なにかこう、一つの装備品で全て事足りる、みたいなものとか……」

 独り言を呟きながら唸っている所へ、扉をノックする音が響く。またヴォレットがララの実に味付けでもねだりに来たかと、悠介はベッドから身体を起した。ヴォレットは時々夜中にやって来てはお菓子やら味を変えたお茶やらを楽しんで帰っていく。

『そういえば、暫らくスンに甘味の実を食わしてやってないな』

 甘味カスタマイズの実は悠介でなくては作る事が出来ないので、ゼシャールドの家に作り置きしておいた実も、もう無くなっている筈だ。まだルフクの村に帰省する事は出来ないが、実を送る事ぐらいなら誰かに配達を頼めば良い。

「こんど手紙でも書くか――って、アンタか……」
「やあ、こんばんわ」

 扉を開けると、レイフョルドが立っていた。


「はかどってないみたいだねぇ」
「ああ、ちょっと材料がな」

 テーブルの上や床に散らばる神器候補の数々を見て察するレイフョルドに、悠介はカスタマイズ・クリエート能力の問題点を挙げた。形や見栄えはどうとでもなるが、その材質によって付与できる効果に大きく差が出てしまうのだ。
 部屋に散らばる神器候補は晶貨を材料に試作したモノだが、今ひとつイメージ通りのモノが出来なくて行き詰っている。

「これでも水技に特化させりゃあ、かなりの効果が期待できるとは思うんだけど、それだけじゃなぁ」

 もし神器を奪われるような事があれば、とんでもない力を敵方に与えてしまう事になる。よって複数作るという選択も避けたいし、何よりもゼシャールドの身の安全を優先したかった。その上で女王の権威を具現化したような効果が欲しい。
 晶貨の腕輪を指でくるくる回しながら片腕を組む悠介に、レイフョルドはニッコリ笑って懐から包みを取り出す。

「そんな君にエスヴォブス王からプレゼントを預かってきたよ」
「王様から? なんだこれ……重いな」

 受け取った包みを開くと、金属の塊りが出て来た。白金の重金属。カスタマイズメニューで調べると、シンハの大剣とよく似た材質の金属だった。なんでも、王族以外立ち入り禁止の宝物庫に昔から保管されていたかなり古い時代のモノらしい。

「へ〜、確かにこれなら良い物が作れそうだ」
「じゃあ、明日の夜にでもまた来るよ」

「あ、ちょっと待ってくれ、一つ頼みたい事があるんだけど」

 悠介は神器候補の一つだった晶貨の指輪を拾って手早く『風技の指輪』に作り変えると、これを報酬にルフクの村まで手紙とララの実の配達を依頼した。まさか悠介に仕事を依頼されるとは思わなかったレイフョルドは、珍しく驚いた表情を見せるのだった。




 サンクアディエットからルフクの村まで続く夜の街道を、衛士隊馬車の高速走行を超える速度で疾走する人影。託された手紙とララの実を背負い、報酬に貰った『風技の指輪』の効果を確かめるように駆け抜ける。

 付与系風技を極めているレイフョルドはそのままでも、高速走行中の衛士隊馬車と並走する程の速さで駆けることが出来るのだが、指輪の効果で更に増した速度は、彼に初めてスピードの恐怖感を覚えさせた。
 それでも速度を落とさず走り続けるのは、どこまで速くなれるのかという彼の好奇心が勝ったからだ。

『殆ど片手間で作った指輪でこの効果……とんでもないね、ユースケという存在は』

 使える手駒と判明すれば直ちに使ってみせる柔軟さ。砦での機転や一般衛士達を懐柔する手際、使用人達の人気からも度量の深さが窺える。姫とその側近とも良好な関係を築き、姫の婚約者候補でもある高名なヴォーアス家の嫡男とは親しい友人関係にある。

『なるほど、何れ世界を動かす――か……』

 概ね、価値観の違いと世間知らずを軸とした行動を深読みするという、よくある勘違いの類でもあった。




 ――翌早朝、何時ものように起きだしてバハナの家に向かおうとしたスンは、家の玄関にララの実が入った袋と手紙が添えられているのを発見した。手紙を読み、袋を抱えて運びながらスンはクスリと笑みをこぼす。

「ユースケさん……結構マメな人」

 スンの好感度がUpした。







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