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本編
16話:太陽と星空の下で




 ギアホーク砦から非常事態の連絡を受け、緊急出動した複数の衛士隊からなる衛士団が到着したのは、夜も明けようかという頃だった。朝靄の中、彼等が見たものは廃墟の如く崩れた落ちた姿を曝すギアホーク砦を中心に、墓標のような角石の残骸が敷地全域を埋め尽くすように突き立った光景。そしてその周辺を、衛士隊の馬車を引く馬が所在無さ気にうろうろしている姿だった。


 味方の到着を確認して砦から無事(ぶじ)生還(せいかん)出来た悠介達は、一連の出来事を説明しながら生存者の二人を水技専門の部隊に任せると、暫らく現場に残って残骸の後始末や砦地下の遺体が置かれている場所への案内等をこなした。

 敷地全域を埋め尽くす角石の残骸は悠介のカスタマイズ能力にグループアイテムとして認識されていたので、纏めて敷地の片隅に積み重ねられた。まるで耕かされたかのように無数のクレーターで掘り返された敷地内からは、風の団と思われる物体が見つかった。

 砦の中で潰された三人も掘り出し、彼等も含めてカスタマイズで遺体の修復をする。流石に色々足りなくなっている部分があったので良い状態とは言えないが、十分に判別出来る状態まで修復出来た。彼等は後日、ブルガーデンに返還される事になる。

 風の団の遺体は悠介達が確認していた十人と、砦の裏側付近からも五人分発見されたので、合わせて十五人。
 フォンクランクの宮殿衛士隊と同じく、ブルガーデンの精鋭団も常時二十人編成での活動体制を取っていたと思われる為、事実上、風の団の実行部隊は壊滅したと言える。

 地下に積み重ねられていた遺体は流石に手がつけられないという事で、この場で荼毘に付される事になり、ギアホーク砦は一部を建て直したうえで犠牲者を追悼する慰霊碑として残される事になった。

 少し移動した場所に改めて砦が建てられる事になるようだ。犠牲者の葬儀は国葬として現地で行われ、遺族や親類の為に会葬用の送迎馬車が宮殿から出される事になっている。




 事件から四日後――

 『ギアホーク砦を襲撃したブルガーデンの武装集団、フォンクランク闇神隊の鉄槌により壊滅せり』
 サンクアディエットの街を賑わせている話題はそんなフレーズで配られた号外のような宮殿発表の公布だった。展望塔の建築主でもある宮殿衛士が、たった一人でブルガーデンの精鋭工作部隊を壊滅させた! という触れ込みの噂で連日持ちきりである。

 エスヴォブス王は今回の事件で悠介を英雄の如く称えてその功績と武勲を人々に広く知らしめる事により、砦の虐殺に関する印象を薄める事に成功していた。被害の情報を抑え、戦功で民の憤慨を逸らして開戦の気運が高まらないよう画策したのだ。

 ブルガーデン側は『風の団は独断専行が過ぎるので更迭が決まった状態であり、砦襲撃は我が国の政府の指示によるモノではない』と公式発表し、砦襲撃に関してブルガーデン政府の関与を否定した。これは、精鋭の立場にある団の暴走を認めた事を意味する。


「まったく忌々しい」

 要塞都市パウラの地下にある中枢機関施設の一室で、ブルガーデンの指導者『イザップナー最高指導官』は一人悪態を付いた。
 この件に関する各国への根回しと、自国民、神民兵組織、精鋭団への各種通達内容を纏めて書類を仕上げていく。今回ブルガーデン政府は、他国から『自国の兵も満足に管理出来ていない』という誹りを受けてでも体裁を取り繕う必要があった。

 壊滅した風の団はこの(ところ)議会でも活動の効果を疑問視される声が上がっていたが、炎技の民が少ないブルガーデンでは、彼等風技の精鋭こそ実質最強の手札だったのだ。

 彼等の存在あってこその挑発行為だった為、対フォンクランク戦のノウハウを持つ彼等を失った事は実に手痛い損失だった。実動している風の団はまだ健在だが、ギアホーク砦の一件で実際に使える全戦力の五分の一程を失った事になる。

 ここ十数年の間に台頭して来た発展著しい新興国であるブルガーデンは、反等民制を国策に掲げている事もあって近隣国からは快く思われていない。
 不十分な戦力状況でフォンクランクと戦を始めれば、国境を接するノスセンテスやガゼッタからも背後を突かれ兼ねない為、そちらに展開している風の団を引き上げさせる訳にもいかない。故に今、フォンクランクと戦火を交えるのは危険過ぎるのだ。
 イザップナー最高指導官は、エスヴォブス王の取った方策に乗るしかなかったのである。




 ブルガーデンの指導者が執務室で腐っている頃、パウラの神技指導訓練施設ではゼシャールドが水技の訓練生に指導を行いながら、先日飛び込んで来た一報、今や各国にその噂が広まっている『ギアホークの英雄』について考えを巡らせていた。

 悠介がこの世界に喚ばれて凡そ二月(ふたつき)、ゼシャールドがブルガーデンに渡ってから僅か十六日余りの間に宮殿衛士に召し抱えられ、初任務で風の団を壊滅させる大功績を上げて英雄と称えられている。

『ユースケを英雄に祭り上げたエスヴォブスの思惑は想像出来るが……』

 あまりにも急激に、権力の中枢へ向けて足場を固めていく『邪神』の姿を幻視し、ゼシャールドは一瞬寒気を覚えた。悠介に見識を広めるよう勧めたのは、この世界の事を良く知って貰いたかったからだ。
 彼の持つ異世界の概念からは、遥かに進んだ文明を感じられた。だからこそ、この世界に住む人々を知り、この世界にもささやかな営みが在る事を知って欲しかった。
 そうする事で、彼が文献に記されるような何らかの災厄をもたらせる『邪神』として目覚める事があっても、この世を滅ぼそうとするような衝動は抑制出来るのでは、とも考えていた。全ては憶測による想像でしかない。

『だがもし、見識を深めた事が返って負の結果に繋がるような事があれば』

 ――この世界の事、よく分かりました。 滅んだ方がいいですね――黒い瞳を鈍く光らせてそう言い放つ悠介の姿。
 などという怖い想像を振り払い、ゼシャールドは溜め息を吐いた。どうも環境が違った為か思考がネガティブになっているようだと自嘲する。悠介が今後、この世界にどう関わっていくのか、注視して行かねばなるまいと思いを巡らせた。

「あの、指導官……私、駄目でしたか?」
「ん? あーいやいや、ちと考え事をしておったダケじゃよ」

 溜め息を吐かれた事に不安げな表情を向けている若い水技の生徒に、ゼシャールドは『いや、すまんかった』と彼女の水技に問題はない事を告げる。それを聞いて安心したように微笑む水技の生徒。彼女は『水の団』へ入団志望の候補生であった。

「それにしても、お主程の力であればもう神民兵の水技隊になら所属できように」
「ありがとうございます。でも、私はどうしても水の団に所属したいんです……お姉ちゃんの力になりたいから」

 精鋭団と神民兵組織は同じブルガーデンの軍属ながら、微妙に所属する立場が違っていて、双方に少々の対立も見受けられる。彼女の姉は精鋭団に所属し、現在も作戦行動中であまり家にも帰って来られないらしい。

「今度の任務が済んだら、暫らく休暇が取れるって言ってましたけどね」
「まあ、精鋭団も『土の団』以外は皆忙しそうじゃしなぁ」

 休暇中でも暫らくは基地内待機が続くので、同じ精鋭団に所属すれば団が違っても基地内で会う事が出来るという訳だ。

「さて、ならばお主ら姉妹の為にワシも一頑張りするかの。 所で、お主の姉上はどの団に居るのだね?」
「風の団です」

 ゼシャールド指導官の言葉に、彼女は顔を(ほころば)せながら答えた。






 サンクアディエット――

 昼下がりのヴォルアンス宮殿上層階の一室で、ヴォレットは好みの味付けにカスタマイズされた高級ララの実に舌鼓を打ちながら、向かい側に座る悠介に実酒を勧めていた。

「いや、俺はいいよ」
「なんじゃ、酒くらい飲めねば英雄の名が泣くぞ?」

 悠介が英雄のように扱われた事をヴォレットは喜んでいたが、当の本人は胸中複雑な心境だった。砦で過酷な現場を見てきた悠介は、そういう現実にあまり触れた事のないヴォレットとの間に温度差を感じていた。

「英雄て……何人も死んでる中で命からがら生き残っただけだよ」
「おうおう、そこで謙遜するとは中々の大物ぶりを見せ始めたのう」

 何時にも増してはしゃぐヴォレットとは対照的に、悠介の気持ちはどんどん褪めていく。ヴォレットの楽しげな様子を何とも形容し難いもどかしい気分で眺めていた悠介だったが、それが姫君という立場にいる人間の在り方なのだろうと思い直した。

『ま、知る必要なんてないのかもな』

 側近のクレイヴォルが何時も言い聞かせている通り、『高貴な姫君』という存在で居なければならないヴォレットは、下界の、所謂下々の民や末端衛士の事など知る必要は無いのだろう。
 底辺で働く者達の事をよく知り、世の中の仕組みを理解した支配者は理想的だが、彼女が将来の国を統べる王になる訳ではないのだから、次の世代の王となるべく者を迎える『王族の血筋を持つ健康な姫君』で在れば良いのだ。

 そのヴォレットの計らいで今、自分はここに居る。人それぞれに決まった役割があるのなら、ヴォレットは『高貴(ヴォ)姫君(レット)』の役割を果たすだろう。自分は自分の役割を果たせばいい。
 そんな結論に至った悠介は、自分のここでの役割を果たすべく肩の力を抜くと、ララの実を一つ手に取った。

「次はどんな味にしようか、また辛いの行って見るか?」
「ユースケ……?」

 悠介の雰囲気が変わった事を敏感に感じ取ったヴォレットは、訝しげな視線を向けた。じっと、紅い瞳が覗き込むように黒い瞳を見詰める。『どうかしたか?』と微笑みながら小首を傾げて見せる悠介。

「いやじゃ! やめろ!」

 ヴォレットはいきなり叫んで立ち上がると、悠介が差し出していたララの実を払い飛ばした。

「な、なんだよ……?」
「その目はやめろ! わらわをそんな目で見るなっ!  お前までそんな……」

 激昂して燃えるような鋭い視線を向けていたヴォレットの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。それを見せまいとするかのように紅いドレスを(ひるがえ)し、ツーテールを揺らして走り去る後ろ姿を、悠介は呆然と見送る事しか出来なかった。

 コトリと椅子を引く背後の物音に悠介が振り返ると、部屋の隅に控えていたクレイヴォルが眉間の皺を増やしつつ、胸の辺りで握り締めた自分の拳をじっと見詰めていた。が、やがて息を吐きながら静かに下ろす。

「とりあえず、貴殿を一発殴っておきたい所だが、私にその資格があるとも思えんので自重しておく」
「……」

「貴殿が砦で何を見て来たのか、大体想像は付く。 だが……知らない者への嘲りは傲慢である事を知って欲しい」
「俺は、別にそんなつもりは……」

 無かったと言い切れるだろうかと、悠介は自身に問う。色々と認識を改めざるを得ない体験をして、それが現在進行形である事と、相変わらずな普段通りのノリを見せるヴォレットに苛立ちを覚えていた事は確かだ。

「素直だな、貴殿は……」

 クレイヴォルの『ここだけの話』によれば、ヴォレットが人の話を聞きたがったり色々知りたがる傾向にあるのも、やたら奔放にハッちゃけているのも、ふだん周囲から向けられる『何も知らないお姫様』という視線と態度への反撥と抵抗なのだという。

「私の立場としては、姫様は現場の事など知る必要はない。 しかし――」

 専属警護兼教育係として長く見守って来た者の個人的な心情で言えば、温室育ちの姫君にして時折宮殿内の(まつりごと)に関する駆引きに鋭い見識を発揮するなどの利発さを垣間見せる彼女(ヴォレット)には、もっと広い世界を見せてやりたい。彼はそう吐露した。

 悠介は自身の気持ちを戒める。見識を広めよというゼシャールドの声が心に響く。自分の役割を果たそうという先程の考えは、ただの思考放棄ではなかったか、人には確かにそれぞれ役割があるのかもしれない。
 しかしそれは、個々がそれぞれ己の考えで導き出して掴んだ答え、自ら選んだ道によって示されるのではないか。

『誰かに与えられたり、最初から決められてる訳じゃない』

 自分が『運命は自ら切り開くモノだ派』であった事を、悠介は今ほど強く意識した事は無かった。




 ヴォレットを探して宮殿の馬車乗り場まで下りて来た悠介は、そこで見知った顔と出くわした。

「あれ、隊長どうしたんすか? こんな所で」
「フョンケか、ヴォレットを見なかったか?」

「姫様なら、さっき御忍びに出たみたいすよ?」
「街か……」

 街に出るなら乗って行きますかと馬車を指すフョンケに、悠介は頼む事にする。行き先は大体予想が付いていた。
 『ギアホークの英雄』の部下として砦に同行した彼等も民衆の間では結構話題になっているようで、酒場に行くとモテるという理由から、フョンケはしょっちゅう街に出ているらしい。
 ヴォーマルやシャイード、エイシャ達は落ち着いて巡回も出来ないからと、あまり低民区には下りない事にしているようだ。

「姫様の迎えにでも行くんすか?」
「ああ、まあね」

 一人で乗り場に現われたヴォレットは、何時ぞやのようにその場に居た衛士達を片っ端から護衛にして御忍びに出たらしく、下の区画でまた何か問題でも起こしてるかもしれない等と雑談しながら馬車を走らせる。

 そうして区画門を二つ程越えた所で目的地に到着した。低民区、区画門前の展望塔広場。夕暮れが迫る時刻、表通りに並ぶ露店ではそろそろ店を畳もうかと商品の片付けが始められている。
 展望塔の周辺にも特別に露店が許可されているので、運良く場所を確保出来た店主は日が沈むギリギリまで粘るようだ。

「それじゃ隊長、俺っちは酒場の巡回に行きますんでー」
「ほどほどにしとけよー」

 馬車を詰め所に預け、非番のフョンケは酒場の『巡回』に出掛けた。エイシャが居れば、宮殿衛士で且つ隊長である悠介に対して余りにフランクなフョンケの態度を叱っていた所だろう。その場合は悠介も『隊長としての自覚を』と叱られる事になるが。

「さて」

 フョンケを送り出した悠介は展望塔を見上げた。紅いドレスは目立つ。ヒラヒラと風に揺れているスカーフを確認し、悠介は展望塔に向かって歩き出した。

「おい、あれ……ギアホークの英雄じゃないか?」
「宮殿衛士隊の隊服着てるし、本物?」
「まさかっ なんでこんな所にいるんだよ?」
「自分が建てた塔の具合を見に来たとか……?」

 展望塔周辺には塔に上る順番待ちの人々が集まっていて、悠介の姿を見つけた彼等は口々に噂を始めた。少し前に御忍びの姫様が登って行ったので、お供の関係では無いかとも囁かれる。気付いた門番の衛士が悠介に挨拶を向けて来た。

「お疲れ様です、先程姫様が登って行かれたのですが……」
「ああ、迎えに来た」

 ヴォレットが展望塔に上る際、人払いがされたので順番待ちの民衆が詰まっているらしく、迎えと聞いた門番の衛士は安堵に表情を崩す。やはり地味なれどしっかり問題を起こしていたようだ。

 展望塔の入り口に立った悠介は、塔を見上げて少し考える。これを建てた時は最初から天辺に居たので一階から上るのは今回が初めてになるが、以前下りる際に随分バテた事を思い出した。

 現在、悠介の装備は特殊効果を付与した闇神隊の隊服、ズボンと上着とマント。主に防御力として物理攻撃耐性、神技耐性、燃焼耐性、凍結耐性などの状態異常耐性を高めてある。体力や移動補佐が欲しいと考え、何か手頃なモノは無いかと辺りを見渡した。

「その指輪、四個貰える?」
「え? は、はいっ 緑十六になります!」

「ほい、急いでるから釣りはいらないよ」
「あ、ありがとうございますですっ」

 青晶貨三本で買い取った安物の指輪四個に、其々体力回復補正効果と移動速度補正効果を付与。安物だけにあまり高い補正値には出来なかったが、階段の上り下りに使うだけなので問題ない。二つの指輪を装備して補正効果を得た悠介は、展望塔の入り口を(くぐ)ると一気に階段を駆け上がり始めた。ちなみに残りの二つは塔を下りる際ヴォレットに装備させる分だ。
 通常なら五十段も駆け上がれば息が上がって膝も上がらなくなる所だが、息は乱れるもまだまだ余裕がある。少しペースを落として休めば回復するので、そしたらまた駆け上がるというサイクル。

 そうして途中、一度も休憩階で足を止める事無く最上階まで辿り着いた。夕焼け色に染まった雲が流れる空の半分、太陽と反対側の地平線付近には星が見え始めている。

「お前、ほんとに高い所好きだよな」
「……」

 悠介は息を整えながら、展望台の端っこで頬杖を付いて遠くを眺めている少女に声を掛けた。紅いドレスの裾がはためき、スカーフが翻り、ツーテールの髪が風に靡く。背後に立ってもこちらを向かないヴォレットに、もう一度声を掛けて肩に触れる。

「こっち向けよ」
「気安く触れるな、無礼者」

 肩に掛けた手を身を捩って払うヴォレットだったが、その辛辣な言葉とは裏腹に全く覇気が感じられ無い。悠介が構わず両肩を掴んで自分の方を向かせると、ヴォレットは俯いたまま顔を合わせようとしなかった。

「顔上げろよ」
「やじゃ」

「上げろって」

 今度は頬を両手で挟んで顔を上げさせる。涙を浮かべた紅い瞳が『無礼者!』と抗議するように一度睨んで見せたが、直ぐにぷいっと目を逸らしてしまう。

「俺の目を見ろ」
「…………」

 恐る恐るといった雰囲気で悠介の瞳を覗き込んだヴォレットは、そこに先程のような『距離(かべ)』が見えない事に安堵した。

「さっきは悪かった」
「え……」

 悠介の謝罪にキョトンとなるヴォレット。悠介は宮殿で自分が考えていた事を話した上で、アレは自分の判断ミスだったと告げる。ヴォレットの事をきちんと考えず、安易な答えを踏んでしまったのだと。

「本当に良い姫、高貴な者になりたいなら、ヴォレットはもっと下界の事も知るべきだと思う」
「ほんとに、ユースケは本当にそう思うのか?」

 悠介の肯定に目を輝かせるヴォレット。他の者達は皆『高貴なる者は、下賎なモノを知るべきではない』と言うが、自分に『世の中の色んな事を知るべきだ』と言ったのはゼシャールドと悠介くらいだと顔を綻ばせる。

「父様にも昔は、言われた事がある」
「そっか……まあ、偉い人には色々事情があるんだよ」

 そういう事情も知って行く事が、他者を理解する事に繋がり、自分を磨くことにもなる筈だと説く悠介。

「俺自身、人に偉そうな事言えるほど世の中の事も自分の事も分かってないけどな」
「そんなの、わらわも一緒じゃ」

 それならば、共に世界を知り見識を深めて行こうじゃないかと頷きあう。ヴォレットは立場上あまり自由に宮殿の外を動き回る事が出来ないので、代わりに悠介が色んな立場から色々なモノを見聞きして回り、それをヴォレットに話して聞かせる。
 これを持ってヴォレット直属の闇神隊に与えられた特殊任務とし、悠介は宮殿衛士で唯一宮殿外での活動を主とする衛士となった。

「ところでユースケよ」
「ん?」
「今自分が何をしているか理解しておるか?」
「……へ?」

 言われて我に返った悠介は、星の瞬き始めた空の下、展望台の端で涙を浮かべたヴォレットの頬を両手で挟んで顔を寄せているという体勢である事に気付いた。背後の出入り口からコソコソと様子を覗き込んでいる衛士達の気配を感じる。

『やっぱり逢引じゃないか?』
『宮殿だと邪魔が多いからってなぁ』
『えーでも婚約者候補の発表は無かっただろ?』
『なんせ英雄だからなぁ』

 とりあえずヴォレットを解放して離れた悠介は、あらぬ噂をしている彼等の誤解を解くべく初特殊任務を遂行するのだった。







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