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本編
14話:ギアホーク砦




「どうだ?」
「駄目ですね、表面を少し削るのがやっとです」

 最も貫通力の高い風技を扱う部下からお手上げの報告を聞いたブルガーデンの精鋭を率いる団長は、溜め息とも唸りとも言えない声を吐きながら、封鎖された砦の外壁を叩いた。
 まさか立て篭もられるとは予想外だったのだ。正確には『立て篭もりが効果を成した事が』だが。

「このまま帰還しちまう訳には行きませんかね?」
「今はまだ不味い、俺達の痕跡は完全に消しておく必要がある」

 風技による伝達は偽装と妨害で封じているものの、あまり時間は掛けられない。しかし、この砦の壁は風技の力で斬ろうが突こうがびくともしないのだ。ここを襲撃した数日前は、これほど強固な壁では無かった。

「やっぱり、あの黒い奴の仕業ですかね?」
「恐らくそうだろう。 かなり特殊な神技を使うとは聞いていたが……」

「諜報の怠慢ですな、抗議しますか?」
「いや、どうせ水の団の連中が擁護に出張って来るだろう。無駄な事はしない」

 ブルガーデンの内政上の問題で、要塞都市パウラには水技を扱う者が少なく、治癒や浄水を行える水技の民は重宝されている。ブルガーデンの象徴的存在が水技の民であったりする事もあり、水技の民の発言力は比較的高い傾向にあった。
 今回ブルガーデンに存在する神民兵組織、フォンクランクでいう所の神民衛士隊にあたる組織の内、風技の民で構成される諜報部隊がゼシャールドの抱き込みに成功した事もあって、有能な水技指導官を得た水の団はその部隊を贔屓にしているのだ。

 主に暗殺や破壊工作に活動の主軸を置いた風の団は、対象国に自分達の痕跡を残さず、それでいて自分達の仕業である事を悟らせるような『嫌がらせ』の挑発を続ける事で、長期的には甚大な被害を与えるという趣旨を中心に動いている。
 そうして相手の暴発か、でなければ自滅を誘発するような工作を行うのだが、フォンクランクは何時まで経っても暴発(クーデター)の気配も無ければ自滅(はんらん)の気配も無い為、本国でも風の団の働きによる効果を疑問視する声が上がっていた。

 団の予算を減らされない為にも、ここらでもう少し直接的な被害を与えて戦果をアピールしようと今回の作戦行動に出たのだ。
 が、ここで砦を襲撃したのが自分達である事を『明確』に知られてしまうと、今まで『疑いようもないが証拠もない噂』として躱して来たフォンクランク領内を荒らす工作活動への抗議を、ブルガーデン政府は無視出来なくなってしまう。
 そこまで行けば流石に他の国からの批難も免れないので、出来る限り証拠は残したくない。

「ま、ここは潜伏組(なか)の連中に頑張って貰うしかないでしょう」
「上手くいかんモノだな……」

 部下の楽観とも達観とも取れる言葉に答えながら、風の団団長は封鎖された建設途中のギアホーク砦を見上げた。




 ギアホーク砦の一階、右側通路にある一室に身を潜めた六人は、今後の対策を話し合っていた。今居るメンバーでブルガーデンの精鋭と戦うのは無謀でしかない。よって救援が来るまで篭城する事になるのだが、それには先ず食糧や水の確保が必要になる。

「馬車に常備してた分はどうしようもないですから、砦の食糧庫を漁るしかねぇでしょうね」
「水と食糧なら地下に倉庫と井戸があった筈だ。確か、厨房に階段があったと思う」
「じゃあ、先に全員で地下を調べよう」

 ヴォーマルとシャイードの話から、悠介は先ず水と食糧の確保を優先し、環境が整えば他の通路も全て封鎖して襲撃に備えようと段取りを決める。

「医療品やランプの油木も集めておいた方が良いと思います、日用品の確保も士気を維持する上で大事かと」
「賛成だねぇ、こんな状況で酒もないんじゃやってらませんぜ」

 篭城が長引いた場合にも備えて、日用品や消耗品も集められるだけ集めて置くべきだというエイシャの意見も取り入れ、一階と二階の部屋も手分けして探索する事にした。一応、フョンケには酒を見つけても独り占めしない事と釘を刺しておく。

「あ、あの……二階と地下は、索敵しきれてないですから……」
「じゃあ、索敵よろしく」

 オドオドと探索の危険を訴えるイフョカにはしっかり仕事をこなして貰う事にした。


「それにしても、流石は宮殿衛士に抜擢されるだけありやすな」

 ヴォーマルは危険に対する察知の鋭さや、慣れない指揮を部下に預けるなど、咄嗟の機転を利かせた対応を挙げて評価した。悠介は『たまたまだよ』と照れつつ、最初の攻撃を知らせてくれた声の事を考える。

『あの声、レイフョルド(あいつ)だったよなぁ……』

 ブルガーデンの密偵である筈の彼が何故、危険を知らせてくれたのか。スンが連れて行かれた時や仕官の誘いに悩んでいた時も、何処からとも無く現われては、アドバイスなどして消えていく。『何が目的なのだろう?』と悠介は内心で疑問を深めるのだった。


「砦に居た人達は、どうなったのかしら……?」
「さあな、人の気配は無いんだろ? イフョカ」
「は、はい……でも、空気が不自然に綺麗だから……多分、流されてる」

 イフョカの返答を聞いたフョンケは舌打ちして頭を掻き、エイシャも俯いて眉を顰める。イフョカの言葉の内容を理解しきれなかった悠介は、その意味を訊ねた。

「それって、どういう事?」
「え、と……」

 説明によると、普段から人が居る場所には常に気配が残っていて、特に屋内などは無人になっても数十日は残るモノらしい。
 長く留まる空気の積み重ねで、気配の残り具合から人が居なくなってどのくらい経過したのか、何時頃居なくなったのか等を割り出せるのだが、この砦からはそういった気配が不自然に消失しており、人為的に拭い去られた事が窺えるという。

「ですので……多分、風技で空気を入れ替えてると……」
「ようするに、奴等は一度この中に入って血の匂いやらなんやらを掃除して行ったって事っすよ」

 フョンケが端的に結論を述べた。砦に居た者は既に殺されている、と。

「移動中にも話たが、十日程前に資材の搬入と作業員の交代があった。少なくともそれ以降にこの事態が起きたと思われる」
「定期連絡は恐らく連中が偽装してたんでしょうな」

 自分達が砦に逃げ込む事を想定して砦内の気配を浄化して置いたのだと考えると、現在の状況は決して芳しいと言えない。
 しかし、悠介が砦の侵入口を全て封鎖した後、暫らく正面入り口の壁を外からガシガシやっていた様子からして、完全に立て篭もられる事は想定外だったのかもしれないと、シャイードは分析する。

「隊長の神技には奴等も対応出来なかったって事でしょう」
「そっか……でも結構ギリギリだったんだな」

 風の団が放つ風刃の威力を思い出し、あんな高威力の風刃は少し掠めたダケでも大怪我しそうだと肩を竦める悠介。

「直撃したら一発で終わる自信があるね」


 色々と話が纏まった所で、とりあえず食糧と水の確保に行こうと皆で厨房を目指した。索敵と移動補佐を行うイフョカ、フョンケを中心に添え、正面にシャイードとヴォーマル、後方を悠介とエイシャが付いて行く。シャイードはイザという時の攻撃、牽制役だ。

「ヴォーマルの炎技は攻撃に使えないのか?」
「灯りくらいなら出せますがね、火力が足りないんで武器にはなりませんや」

 そんな訳でヴォーマルは灯り役だ。現状、直接的な攻撃力を持っているのはシャイードだけである。悠介はカスタマイズメニューを出しっぱなしにして、緊急の際には全員を床石の防壁で包めるよう備えていた。

 厨房のある食堂フロアは破壊された椅子やテーブルが転がっており、萎びた料理の残骸らしきモノが床に散乱している。通路にも何箇所か削り取られたような風刃の傷痕が残っていたが、ここは特に酷い有り様だった。

「どうやら食事時を狙われたようですな、ここで大分死んでますぜ」

 ヴォーマルが指摘した通り、食堂に散乱する壊れたテーブルや椅子、床や壁、天井にも風刃痕と共に大量の血痕が付着していた。先程集まっていた部屋では感じられなかった異様な臭いが漂っている。腐った料理の臭いと血の臭気が混じったモノだ。

「地下に死体が投げ込まれてなきゃいいがな」

 フョンケのそんな言葉に、口元を抑えていたイフョカが『ひっ』と肩を震わせる。これだけの規模の砦を建設するなら相当数の作業員が居た筈だ。外なら地面に埋める事で隠せるが、屋内にまったく遺体が見当たらない事を思えば、ありえない事ではない。

「イフョカ、大丈夫か?」
「は、はい……へへいきですから」

 上擦りながらそう答えつつも緊張して肩を強張らせているイフョカに、悠介は『なんでこんな普通っぽい子が衛士なんてやってるんだろう?』と疑問に思うのだった。ともあれ、今は地下を調べる事に集中する。

「……しっかり蓋が閉じてやすね、鍵も掛かってる」
「今あけるよ……開いたよ」

 ガッチリと閉じられていた地下へ床扉を三秒で開ける悠介。扉の状態を直接弄るのだから、土技の開錠よりも遥かに早い。

「便利な神技ですねぇ」

 屋内では無敵じゃないですか等と感嘆するヴォーマルは、フョンケに取っ手を引かせて半分ほど床扉を開くと、隙間から灯りを差し込んで地下へと続く階段の様子を窺った。床扉を跨ぐ格好で取っ手を持ち上げていたフョンケが訝しげに表情を歪める。

「…………」
「どうした? フョンケ」
「……いや、ちょ~っと気になりましてね」

 そう言って自分の鼻下を親指で掻いたフョンケは、ちらりとイフョカに視線を向ける。床扉の開いた隙間から地下の索敵を行っていたイフョカは、隙間を凝視したまま硬直していた。その様子に気付いたエイシャが心配そうな表情で彼女を気に掛ける。

「どうしたの? ……何が聞こえたの?」
「イフョカ?」
「だ、だいじょうぶです……。 て、敵と思われる存在が三人……風技の波動を感じます。あ、あと、捕虜と思われる存在も……」

 恐らく風の団と思われる風技の民が三人、捕虜が二人。扉付き倉庫の内側までは分からないという索敵結果が報告された。
 悠介は風技の索敵でどの程度の情報を得られるのかは分からなかったが、青褪めて肩を震わせているイフョカの様子から、余程その風技の民が強力な使い手なのか、或いは捕虜の二人が酷い状態にあるのかと想像した。

「こっちに気付いた様子は?」
「ま、まだ……気付いてません……あの、半分……寝てます」

「鍵まで掛けて閉じ篭ってた事を考えると、連中が寝床に使ってたか、或いは罠か……」
「隊長、扉に何か仕掛けはありやせんでしたか? 鍵に連動するような」

 ヴォーマルに訊ねられ、悠介はカスタマイズメニューを開いてバックアップデータを参照した。回転・拡大機能で鍵の部分を調べてみる。すると、普通に開錠すれば鍵の抓み部分が回って小さな玉状の塊りが零れ落ちるような仕掛けになっていた。
 階段を転がり落ちればさぞかし大きな音を響き渡らせそうな金属製っぽい玉だ。

「なるほど……一応仕掛けはあった訳ですか」

 扉の外から仕掛けごと鍵を外してしまう悠介の神技に、呆れるやら感心するやらなヴォーマル達は、しかしこれで『こちらが先手を取る事が出来る』と、地下の相手にどう対処するか相談し合う。半分眠っているそうなので、攻めるなら今がチャンスだ。

「こっちには攻撃手段が殆どありやせんからね」
「一気に攻めて決めるしかねぇっしょ」
「至近距離からなら、私の水球でもしとめられると思う」

 神技戦ではどうにもならないが、接近できれば武器で何とかなるかもしれないという部下達に、悠介は彼等の持つ護身用の短剣をカスタマイズで強化する事にした。土技で補強された普通の短剣に色々な効果を付与していく。

 カスタマイズ・クリエート能力の基であるゲームのアイテム・カスタマイズ・クリエートシステムだが、衣服やマップアイテム、食糧などのカスタマイズは自由度を表現する為に備わっていたオマケ要素であり、元々は武器や防具のカスタマイズがメインなのだ。
 従って武具の類はかなり幅広く設定できるようになっている。ついでにチート仕様なので威力も強度も上げ放題だ。

 攻撃力、耐久力、神技力、命中力、体力、筋力、俊敏、などの項目を上げられるだけ上げて特殊効果も付与し捲り、この短剣にカスタマイズ出来る限界値まで強化した。そうして装備品で身体能力を底上げするという手があった事に、今更ながら気付く悠介。

『我ながら意外な盲点だった……』

 内心で呟きながらカスタマイズした短剣を攻撃役の三人に渡す。

「っ! ひゅ~、こいつあスゲェ……」
「不思議だ、短剣を握っただけで力が湧いて来るようだ。 身体も軽い」
「武器強化や行動補佐の付与って神技なら分かりますが……武器単品に強化やら補佐効果なんて聞いた事ねぇですぜ」

 本当にどういう神技なんですかい? と問うヴォーマルに、邪神技だよ等と答える悠介。機密事項である事を冗談めかして答えたと判断したヴォーマルは、ニヤリと笑みを返すと、それ以上悠介の神技に関する質問を止めた。

「隊長は初任務でしたよね、荒事の経験は?」
「無いよ、この前の広場でやりやったのと今回のが初めて」

 それを聞いて頷いたヴォーマルは、女性衛士二人と悠介をここに残して自分達三人で突入するので、合図したら踏み込んでサポートして欲しいと作戦を告げる。決定権を持つ素人な悠介はこういった事態の専門家であるヴォーマル達に全て任せて許可を出した。

 こちらの灯りを消してそっと床扉を全開にすると、フョンケが自身とヴォーマル、シャイードを風の膜で包んで移動補佐を掛ける。三人は音も無く地下への階段を滑り下りて行った。作戦遂行中、イフョカはずっと地下の様子を探り続ける。
 悠介はその間、自分のマントに特殊効果の付与を行っていた。隊服その他のカスタマイズは帰ってからだ。




「あ……あの、終わりました」

 ピクリと顔を上げたイフョカがそう言って悠介に指示を仰ぐ。戦闘の音も響かず、断末魔も上がらず、地下に潜んでいた風の団らしき風技の民は、静かな最期を遂げたようだ。一応、段取り通りヴォーマル達からの合図を待って悠介達も地下へと降りる。

「……んん?」

 階段を降りるに従い、妙な臭いが充満している事に悠介は眉を顰める。食堂に漂っていた血の臭気が混じるモノとはまた違う、やけに生々しい湿気を孕んだ臭いだった。

 地下に下りると、少し広くなった空間から左右に通路が延びていて、右の通路には向かい合わせの扉が四つ、突き当たりに樽が三つ程積まれている。左の通路は先が直ぐに広い部屋になっており、井戸らしき設置物が見えた。

「随分あっさり終わったな?」
「いやあ、正直ヤバかったですぜ。この短剣がなきゃこっちがやられてた」

 『右の奥だ』と指し示すヴォーマルに、エイシャが頷いてその倉庫部屋へと入って行く。悠介が疑問符を浮かべると、ヴォーマルは解放した捕虜の治癒を頼んだのだと答えた。やがて奥の倉庫部屋からしくしくと泣く女の声が聞こえて来る。

「怪我が酷いのか……?」
「まあ、怪我の方は大した傷じゃないんですがね」

 悠介の問いに言葉を濁すヴォーマル。隅っこで俯いていたイフョカはエイシャの手伝いに呼ばれて井戸から水を汲むと、倉庫部屋に入って行った。フョンケは明後日の方を向いて頭をぽりぽり掻いている。
 ここに充満している臭い同様、妙な空気が漂う中、一人沈黙していたシャイードが口を開いた。

「隊長はまだ若いし見た目も軟弱だが、広場での戦闘やあの狂言者への糾弾を見る限り、思うほど子供ではないのかもしれん」
「え、どういうこと? 俺一応、成人してるけど……」

「ありゃ、そうだったんですかい? まあ、あんま配慮するのも変だったかもしれやせんね」
「いや~隊長があんまり堅気っぽいんでトラウマになっちゃ悪いかな~って思ったんすけどねー」

 気負いが抜けた三人は態度を崩すと、悠介を手前の倉庫部屋に案内した。食糧は備蓄されていた物がそのまま残っていたので倉庫部屋の一箇所に纏め、空いた部屋に其々処理した風の団らしき風技の民と、捕虜になっていた者の遺体を保管したのだという。

「ここに監禁されてた捕虜は三人、うち二人は今エイシャが治癒にあたってます」
「じゃあ、もう一人は……」

 床に敷かれた布の膨らみに視線を向ける悠介。この下には捕虜だった人の遺体が寝かされているのであろう事は容易に想像出来る。フョンケが布の端に手を掛け、捲りますよ? と確認の目線を向けた。

「まあ……態々見せるモンでもねぇんでしょうけど」

 主に宮殿回りで活動をする汚れ仕事の無いエリート衛士にも、神民衛士が出る現場の事などを少しでも知って置いて貰えればと、ヴォーマル達はここで捕虜として死んだ神民衛士、恐らくは砦の警備に当たっていた女性衛士の遺体を宮殿衛士隊長殿に見せた。

「う……」

 最初、赤い斑模様の迷彩服を着ているのかと思ったそれは、全身を覆う裂けた皮膚や腫れ上がって赤黒く変色している痣だった。普通の体勢で横たわっているが、腕や脚に不自然な歪み方をした箇所がある。手や足の残っている指には爪がなかった。
 女性のシンボルとも言える部分は両方とも削ぎ落とされており、顔は鼻が潰され顎の形もおかしい。くしゃくしゃに乱れた水色の髪が固められたように束なり、黄色く変色した粉状のモノがこびり付いている。

「……酷いな」

 遺体に再び布が掛けられるまで、悠介は目を逸らさなかった。その事に、ヴォーマルは少し感心したような表情を浮かべた。ここまで酷い状態にされる事は平時には滅多に無いが、小競り合いが起きている時は珍しくないのだそうだ。

「……」

 悠介はふと思い立ち、布からはみ出ている遺体に触れてみた。

 キンコーン

「っ! マジかよ……」
「隊長……?」

 訝しむ部下の呼びかけに答えず、悠介は逸る気持ちを抑えながらカスタマイズメニューを開く。メニューの欄内に酷い状態の人体が表示され、各部の状態を操作していくと裂けた皮膚や腫れている部分、折れた骨なども繋ぐ事が出来た。
 殆どスライダを動かして各部の損傷率をゼロに戻していく作業だったのだが、それでも人体の全身を弄るとなれば、随分と時間が掛かってしまった。画面内には少し筋肉質な肉付きで水色の髪を持つ若い女性の裸体が映し出されている。

 突然神技を行使する気配を纏いながら宙に指を彷徨わせる独特の儀式を始めた悠介に、ヴォーマル達は何をする気なのかと困惑気味に見詰めていた。エイシャの治癒を受けていた二人が落ち着いた事を報告に来たイフョカも、入り口の所で様子を窺っている。

「よし、実行」

 光のエフェクトが遺体に被せてある布の隙間から零れ出す。やがて舞っていた光の粒が納まると、布からはみ出していた赤黒い指の足りない手が、女性特有のすべすべ感のある白くて美しい手に変化した。無惨に切り取られていた指も五指全て揃っている。

「なっ! なんすかそりゃあ」

 思わず目を瞠って絶句するヴォーマルとシャイード、二人が制止する間もなくフョンケは布を捲った。そこには、傷一つ無い白い肌に均整の取れた肉付きを持つ美しい肢体が横たわっていた。入り口から様子を窺っていたイフョカが口元を抑えて赤面する。
 今にも起き出して来そうな彼女を暫らくじっと見詰めていた悠介は、ゆっくり溜め息を吐いてしゃがみ込む。

「はぁー……やっぱ生き返らせたりするのは無理か……」

 遺体をアイテムとしてカスタマイズ出来たダケだったのだ。


「お、驚きやした……このうえ生き返ったりしたら、あっしは隊長のこと(ヒト)だとは思いやせんよ」
「同感だ……」
「はぁ~……こんな美人さんだったんだなぁ。 風の団の奴等、勿体ねぇ事しやがって」

 胆を冷やした顔のヴォーマルとシャイードは、悠介と同じ様に息を吐いてしゃがみ込んだ。そんな二人とは対照的に、今目撃した不可解な現象よりも、それによって明らかになった被害者の美しさを重要視するフョンケは、名残惜しそうに布を被せるのだった。

 その後、落ち着いた悠介達男性陣は、イフョカの報告を受けて二人の生存者に話を聞く為、奥の倉庫部屋へと向かう。

「あ、あの……隊長」
「うん?」
「わ、わたしは……綺麗にして貰えて、あのヒトも……ホッとしてると思います」
「……そっか」

 『そうだといいね』と、少しは慰めになる事を願って冥福を祈る悠介。

 そんな『ユースケ隊長』を、イフョカは翠色の瞳でじっと見上げていた。







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