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本編
13話:闇神隊の初任務




 翌朝――

 悠介は新しい生活の拠点となる自室で惰眠を貪っていた。前日は朝から夕方過ぎまで荷馬車で延々移動した事と、その後の宮殿内でのごたごたで疲れていたので、夕食後は早めにベッドに潜り込んだのだが慣れない環境で中々眠れなかったのだ。
 そんな朝のまどろみという最も至福の時に意識を委ねている所へ、それらを無情に蹴散らす炎の小悪魔が乱入して来た。

「ユースケっ 起きておるか! 寝ておるなら今直ぐ起きよ!」
「……ねーかーせーろー……」
「駄目じゃ」
「うー……」

 ずりずりとベッドから引きずり出されて床に転がった所で、委ねていた意識をまどろみから回収する悠介。欠伸をしながらノソノソ起き上がると、ヴォレットが黒い布の塊りを突き出した。

「お前の隊服じゃ、早く着て見せてみよ」
「隊服?」

 受け取ってみると、それは宮殿衛士隊が纏っている衣装と同じデザインをした黒い服だった。『ああ』と、悠介は自分が新設される闇神隊とやらの所属になった事を思い出す。コスプレ衣装を渡された気分になりながら着替えようとして、ふと振り返る。

「……着替えるんだけど」
「うむ、早く着替えるがよい」

「いや、そうじゃなくて……」
「なんじゃ、男の癖に肌を見られるのが恥ずかしいのか?」

 お前は女の癖に恥じらいは無いのかと突っ込みたい悠介だったが、王族でしかも暴走御転婆姫(ヴォレット)ならきっとこんなモノなのだろうと思い直す。ヴォレットの視線に罰ゲームでも受けているような気分を味わいつつ、新品の黒い隊服に袖を通した。

「そういえば、昨日の事なんだけどさ」
「うん?」

 落ち着かない気分を紛らわせるついで、悠介は昨日ヒヴォディルと睨み合いをしていた所へ現われたヴォレットに、何となく違和感を覚えた事について訊ねてみた。するとヴォレットは『なかなか鋭いな』と感心してみせた。

「お前の案内を任せた使用人からヒヴォディルの事を聞いてな、急いで駆けつけたのじゃ」
「なんだ、そうだったのか……」

 ヒヴォディルは他の婚約者候補や若い衛士達にもよくプレッシャーを与える為の駆引きを仕掛けているらしい。彼自身、炎神隊の中では若手で神技の実力もそこそこだが、血筋は王族所縁の名門ヴォーアス公爵家の家督という立場にある。

「まあ、彼奴は彼奴で色々抱え込んでおるのじゃ。家が名門なだけにな」

 そう言って若干憂いた表情を浮かべるヴォレット。こういう所で時々大人っぽさを感じられる辺りが、世に聞く『女は成長が早い』などの通説に一応の納得を感じられる部分なのかなぁと思う悠介だった。そう考えると、スンが仕官を勧めた事にも頷ける。


「ほうう〜、中々決まっておるのう。中身は貧弱じゃったが」
「うっせ……マントは慣れないと動き辛そうだな」

 悠介の要望で甲冑は最低限に抑えた為、防具は少し補強版が縫い込まれているだけの軽装になるが、そこはカスタマイズで独自の強化を施しておく。姿見に映る黒い隊服を纏った自身の姿に、悠介はまた今日から新しい生活が始まる事を実感した。

「よし、では早速父様の所へ謁見に行くぞ」
「え、今から?」

「今は何かと微妙な時期じゃからな、こういうのはさっさと済ませた方が良い」

 もたもたしていると官僚達から格式だの警備の問題だのと色々横槍が入って面倒な進行や手順が追加されていくぞと言われ、悠介も複雑な段取りを飛ばせるのなら有難いと、急かすヴォレットに付いて謁見の間のある階へと急いだ。

『ふふ……わらわだけの衛士じゃ……』

「ん? 何か言ったか?」
「何も言っておらん、ほらっ 急ぐのじゃ!」


 ヴォルアンス宮殿の八階、謁見の間。奥の壇上に玉座があり、広々とした空間に重厚な石柱が並ぶ。壁際の高い位置に設けられた窓から外の明かりが引き込まれる造りになっていて、幾つかの控え室や使用人の作業部屋が石柱の裏側に配置されている。

 (だん)の前には各宮殿衛士隊の隊長と副長、それに王の側近や大臣数名がずらりと並ぶ。新設する闇神隊の任命式に必要最低限の者だけが集められていた。玉座のエスヴォブス王は、カーテンの影に隠れて膝先しか確認する事が出来ない。

「ほれ、早く行くぞ」
「ちょっと待てって、俺作法とか全然分からんぞ?」
「そんなモノ適当で良い」
「適当って……」

 悠介はヴォレットに手を引かれながら緊張した面持ちで玉座の見える壇の前までやって来た。その姿を見た居並ぶ宮殿衛士隊の隊長や副長達は『これは使えそうにない』と複雑な表情を浮かべる。

『どうやら、衛士達の噂通りのようですな……』
『うむ、姫様のオモチャなる比喩は当たっていたようだ』

 巨大な塔を一瞬で出現させたという特異な神技の有用性には期待したい所だが、それ以外の使い所は無さそうだと囁きあう。尤も、炎神隊のクレイヴォル隊長だけは、悠介の力を実際に体験しているので、他の隊長達とは違う意味で複雑な表情を向けていた。


「此度はよくぞ召致に応えた。汝ユースケ、王に仕え、民を護りしフォンクランク衛士となる事を誓うか」
「え、と……誓います?」

『なんでそこで疑問系なんじゃっ』
『だから作法とか分からんつったじゃないかっ』

 小声でヒソヒソとやり取りする悠介とヴォレットに、進行役の大臣は困った顔で玉座の王に御伺いを向けた。
 向けられたエスヴォブス王は軽く手を上げて『いいから進行せよ』の指示を返すと、奔放な愛娘(ヴォレット)に慈しみの視線を向けて目尻を下げる。だめだこりゃといった雰囲気で頭を振った大臣は、任命式の進行に戻った。

 衛士の証となる紋章を乗せたトレーが玉座の近くに運ばれ、徐に立ち上がったエスヴォブス王がその紋章を手に取ると、ヴォレットに促がされた悠介は壇の階段を上って王の前で片膝を付いた。
 そうして王に差し出された紋章を受け取る事で、悠介は正式に衛士と認められ、任命式は無事終了となった。四大神への誓いとか王への忠誠を(うた)う儀など、色々すっ飛ばして大分簡略化された任命式だったが、要は王様から衛士の証を賜ればそれで良いのだ。
 各衛士隊の隊長達も、またぞろ姫の我侭で行われた任命式なら、然して格式に拘る必要も無いと誰も問題にしなかった。




 最近姫がお気に入りにしているらしい黒髪の若者に衛士の証を授けたエスヴォブス王は、この若者がゼシャールドとも親しい間柄であるとの報告を受けていた事で、色々話を聞いてみたい気持ちに駆られていた。

「ユースケよ、お前は――」
「はい?」

 下がろうとしていた所に王から声を掛けられ、悠介は腰を浮かしかけた所で止まる。しかし、エスヴォブス王は逡巡するように何か言いかけては口を噤み――

「……いや、よい」

 この場でゼシャールドの名を出す事は憚られる。そう思い直し、結局何も言わず下がって良いぞと手を払った。




「あー緊張した。しかし、なんか王様つっても普通のおっちゃんみたいな感じだったな」
「わははっ まあ、父様はあんな感じじゃ。ああ見えて(まつりごと)では結構腹黒い所もあるぞ?」

 任命式を終えた悠介はヴォレットに連れられて宮殿衛士隊の控え室に向かっていた。闇神隊の新設と悠介の就任は宮殿中に伝えられているので、顔見せも兼ねて宮殿の衛士隊施設を案内してくれるらしい。衛士食堂や私用で街に出る場合の馬車乗り場なども回る。
 ちなみに、悠介が乗ってきたゼシャールドの荷馬車と馬はルフク村まで届けて貰える事になった。

「昼過ぎには砦の建設現場に行って貰う事になるからな、とりあえず重要な施設だけ回っておくぞ」
「それはいいけど、お前自ら案内とかしてていいのか?」

「言ったじゃろう? 特別扱いするから、そのつもりでいろと」
「……またヒヴォディルみたいなのに絡まれると面倒なんだけどなぁ」

 ぶつくさ言っている悠介を、ヴォレットは楽しそうにしながら宮殿内を連れまわした。行く先々でヴォレットに向けられる視線と、自分に向けられる視線との温度差にうんざりしつつ、無難に新任の挨拶をして回る悠介。
 
 そんな調子で憶えておくべき施設を粗方回り、最後に神民衛士隊の控え室にやって来る。宮殿衛士隊の無駄に豪華な控え室と比べると、こちらはシンプルで良く言えば機能的、ぶっちゃけ『何処の酒場だ』といった雰囲気だった。
 同じ宮殿内にある部屋でも、上層階と下層階とでは格調の高さも違うのだなぁと、悠介は変に納得していた。

「ここは相変わらずうらぶれておるのう」
「こ、これはっ ヴォレット様! この様な場所にまたどの様なご用件で?」

 半分傾いたソファーでだらだらしていた神民衛士隊の指揮官らしき衛士が慌てて飛び起き、ヴォレットに挨拶を向けた。他の一般衛士達もくすんだテーブルの上に散らばる賭博札や、持ち込んだ実酒を隠したりしながら整列する。

「ユースケ、この中から適当に選ぶがよい」
「へ? どゆこと?」

 せめて必要最低限の情報を与えてから選択肢を出せと抗議する悠介に、ヴォレットは『闇神隊は悠介一人の隊なので、暫らくは部下として神民衛士を付けるのだ』と説明した。今後、任務に赴くときはその部下を連れて行動する事になる。

「そういう大事なことは先に言えよー……」
「任務と言っても、どうせ今回の砦建設が済めば部下なぞ必要なくなるだろうからな」

 広場に建てた展望塔のように、砦も悠介の神技でポンと建てて終わりだろうと肩を竦めて見せるヴォレット。
 この任務が済めば、後はヴォレットの傍で話し相手なり料理の味付けなりという『特殊任務』ばかりなので、今回だけ体裁を繕う為の部下を就けるに過ぎない。

「なので適当に五人ほど選んで連れて行け」
「適当にねぇ」

 二人の会話を聞いていた衛士達は黒い隊服を纏った悠介に『あれが新しく設立された闇神隊の衛士か』と物珍しげな視線を向けていたが、部下として下に就く者を選ぶと聞かされて姿勢を正す。

 宮殿衛士隊の任務に駆り出されたとなれば、厳しい仕事なら当然、緩い仕事でも結構な特別手当が付く事を期待できるのだ。是非とも自分を選んで欲しいとアピールの笑顔でやる気を見せる。

 悠介は今回の任務に必要と思われる人員、馬車での移動を補佐する治癒系水技の民と付与系風技の民。帰りが遅くなった場合、灯りが要るので付与系炎技の民。他、連絡係に伝達系風技の民と建設現場に行った経験があるという攻撃系水技の民を選んだ。


 神民衛士隊で指揮官もやっている三十代後半の男性。付与系炎技の民、ヴォーマル。
 同じく神民衛士隊で副官の任に就く二十代後半の男性。攻撃系水技の民、シャイード。
 二十歳代前半の女性衛士。治癒系水技の民、エイシャ。
 同じく女性衛士で十代後半の少女。伝達系風技の民、イフョカ。
 さっき素早く賭博札を隠していた二十代中頃の青年。付与系風技の民、フョンケ。

 以上の五名が、悠介の部下として砦の建設現場に同行する。其々互いに自己紹介を終えた悠介と衛士達は一旦解散し、昼食を済ませたあと馬車乗り場に集合して任務地へ出発する事になる。

「じゃあ、とりあえず昼飯済ませちまおうか。 ヴォレットは上に戻るのか?」
「うむ、残念じゃが父様と約束があるのでな」

 早朝に手早く任命式を行う条件として、一緒に昼食をという手札を切っていたのだ。猫撫で声で駄目なときは食事や散歩で甘えて釣るという手を使うヴォレットだった。『なんという親バカ』と想いつつも、ヴォレットの今後が気になる悠介。

「お前、将来は魅惑の王女とか魔性の姫君とか言われそうだな」
「なんじゃそれは、いや……結構格好いい響きかも……?」

 和やかにそんな会話を交わす悠介とヴォレットに、衛士達は唖然とした表情を向けていた。それに気付いた悠介がどうかしたのかと訊ねると、悠介の部下代表として最年長のヴォーマルが遠慮がちに問いかける。

「いやあの……姫様を呼び捨てになさってるんで、隊長と姫様ってどういう関係かな〜なんて思いやしてね」
「あ〜……」

 隊長と呼ばれる事に若干照れを覚えつつ、悠介は『確かに呼び捨ては不味いかな』と考えた。ヴォレットの婚約者候補で相当に身分も高いらしいヒヴォディルでさえ、姫様と呼んでいるのだ。

「ヴォレット様……」
「うん?」

 敬称を付けて呼んでみると、名前を呼ばれたヴォレットは『なんじゃ?』と小首を傾げる。

「ヴォレットヴォレットヴォレットヴォレットー!」
「わっ な、なんじゃいきなり」

「いや、なんか発声後の違和感が酷かったんで振り切ろうと思って」
「……わらわの名は灰汁(あく)の強い実酒かっ」

 もう慣れてしまった上に本人からも特別扱いするとの御達しが出ているので、このままでいいやと悠介は開き直る事にした。部下の衛士達には、『まあ、こんな感じの関係っぽい』と他人事のように答えるのだった。






「ちゃっちゃと終わらせて早く帰って来い」
「へいへい」

 昼過ぎ――
 ヴォレットに送り出された悠介と部下五名を乗せた衛士隊の馬車は、宮殿を出発して砦の建設予定地へと向かう。ブルガーデンとの国境に面した平地に建てられる『ギアホーク砦』。基礎部分は既に半分程出来ていて、建物部分も三分の一程が組みあがっていた。
 まだ砦としての機能は果たせないものの、物資を運び込んで衛士を配置すれば、国境を監視する拠点としては使える。

「隊長は一瞬であのデカイ塔を建てたって聞きましたが、砦も同じ様に建てられるんですかい?」
「どうだろうね、材料さえあれば出来なくは無いと思うよ」
「す、すごいですね……。た、建つ所……見てみたいです」

 ヴォーマルの問い掛けに答える悠介に、イフョカが胸の前で握った両手を合わせながらキラキラとした瞳を向ける。
 材料なら十分に揃っている筈だと、以前現場で警備に就いていたシャイードが十日程前に街へと帰還する際、交代要員と共に大量の資材が運び込まれていた事を説明した。エイシャとフョンケは高速走行中の馬車を安定させる事に集中している。
 既に出来上がっている部分があるならカスタマイズもし易いだろうと、悠介は楽に構えて馬車が目的地に着くのを待っていた。


「隊長、見えてきましたぜ」
「と、到着の連絡……入れておきますね」

 建設途中のギアホーク砦は、ほぼ出来上がっている真ん中部分の建物が石造りの重厚なシルエットで平地に佇み、その両側から木で組まれた足場の掛かる外壁が延びていて、壁沿いには切り出された角石(かくいし)が等間隔に積み上げられている。
 真ん中部分だけでも高さ三十メートル、端から端まで五十メートルくらいはありそうな巨大な建造物だった。

「あ、あれぇ……おかしいな」
「どうした、イフョカ」

 頭に指を当てながらパタパタわたわたと落ち着かない様子で独り言を呟きながら首を傾げていたイフョカに、速度を落とし始めた馬車の御者台からヴォーマルが肩越しに声を掛ける。

「あ、あの……風が、届かないんです」

 砦側にも街側にも連絡がつかないのだとイフョカは困惑気味に答えた。そうこうしている間にも馬車は建築現場の敷地内に入る。整地された地面に木材の切れ端などが散乱し、積み上げられた資材の近くでは、捲れあがった大きな布が風にはためいている。

「……妙だな、静か過ぎる」

 シャイードは自分が居た時の現場と雰囲気が違う事に違和感を感じていた。今ぐらいの陽の高さであれば、足場や敷地内を大勢の作業員が行き来している筈である。砦の入り口前に馬車を着けると、車体を風で包んでいたフョンケが伸びをしながら風技を解いた。

「ふぃ〜〜やれやれ、みんな休憩でもしてるんじゃねーのかい? 実酒の一杯でもやりてぇなあ」
「任務中よ、隊長の前で不謹慎な言動は謹んで」

 真面目なエイシャに注意されて『お〜こわ』等と言いながら肩を竦めるフョンケ。

「とにかく降りてみるか、隊長は何か聞いてませんかい?」
「いや、特になにも……ここ、そんなに雰囲気おかしいのか?」

 ヴォーマルを先頭に馬車を降りながら、悠介はシャイードに訊ねてみる。シャイードは自分が居た時は日が沈むまで何かしら作業が行われていたので、こんなに明るいうちから誰の姿も見えないのはやはりおかしいと、警戒を促した。

「わかった、じゃあみんな周囲に――」
――後ろから狙っているぞ!――

 皆に警戒を指示しようとした悠介の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んで来た。思わず振り返った先、敷地の入り口付近で掘り返されて盛られた土が連なっている場所に、緑髪で衛士隊の服に似た格好の男が腕を振り上げて立っている姿を見つけた。

 その男の服は不自然に激しくはためき、足元には砂埃が舞い、髪が靡いている。腕を振り上げたその体勢には見覚えがあった。門前広場で対峙した、あのくすんだ緑髪の男が風の刃を放つ時の体勢だ。
 悠介は咄嗟にカスタマイズメニューを開き、足元の土をカスタマイズして防壁を造りだした。防壁の出現と、緑髪の男が風刃を放ったのは殆ど同時だった。
 ガスンッという土が削られる音がして、防壁の上半分が逆三角形に抉り取られる。

「な、何事です!」
「風刃っ? 一体何処から」
「あそこだっ 入り口の土山! もう一回防壁作るから、皆一箇所に固まってくれ」

 中腰になりながら再度防壁を構築し、神技耐性のパラメーターも目一杯上げて反映する。光のエフェクトに包まれた土の壁が、第二刃を放とうとしている男の視界から悠介達の姿を隠した。が、直後にイフョカの悲鳴が響き、同時にシャイードが水球を放った。
 別方向にも風刃を放とうと構えている男がいたのだ。シャイードの水球攻撃で狙いを逸らされた風刃は、防壁の裏に隠れる悠介達の直ぐ傍を通り抜け、地面にその威力を示す爪痕を残した。
 入り口付近から放たれた風刃も、神技耐性を高めてある土の防壁を一撃で穿つ程の威力を見せた。

「やべえ! アイツ等『風の団』だ! ブルガーデンの精鋭部隊ですぜ!」
「なんだってこんな所に……っ!」
「そんな……! それじゃあ、ここで作業をしてた人達は……」

 相手(てき)の正体を知ったフョンケとヴォーマルが顔色を変え、エイシャも青褪めた表情で口元を覆う。

「このままじゃ狙い撃ちにされやすぜっ 砦の中に逃げ込みやしょう!」
「わかった! あと、一時的に指揮をヴォーマルに任せる!」

 悠介は砦の入り口まで土の防壁をトンネル状に出現させると、ヴォーマルに指揮を預けて全員に退避指示を出した。『良い判断です』とヴォーマルが感心してみせる。
 待ち伏せがいた場合に備え、神技での攻撃手段を持つシャイードを先頭に砦を目指して走り出す。次々と風刃で打ち崩されていく防壁のトンネルを、次々とカスタマイズで修復しながら駆け抜けた。

「イフョカ、索敵を」
「は、はい……」

 入り口前で油断無く構えるシャイードの脇からイフョカが砦内の風を探り、潜んでいる者が居ないかを確かめる。
 その間、悠介は防壁を玉葱の皮が如く何重にも重ねていく事で風刃攻撃を凌いでいた。広場で戦った男とは比べ物にならない。これが『精鋭』と呼ばれる神技人戦士が放つ神技の威力なのかと、悠介は己が力に過信を懐いていた事を実感した。

『壁が土だからって事もあるんだろうけど、一番武力が低い事になってる風技でこんな威力なのかよ……』

「て、敵の気配……ありません」
「よしっ 隊長! 砦の中へ!」

 扉の無い入り口に駆け込みながら、悠介は砦の壁に触れてカスタマイズ可能を示すチャイムを確認すると、すぐさまカスタマイズメニューで侵入出来そうな場所を片っ端から塞いでは反映していく。
 侵入路を完全に封鎖し、更に砦を構成する石の強度と神技耐性を上げる事で鉄壁の護りに固めた。

 建築途中とはいえ結構大きいギアホーク砦。イフョカの索敵は屋内だと極端に範囲が狭まるので、封鎖してなお移動できる空間、地下一階と地上二階までの何処かに敵が潜んでいないとも限らない。或いは味方が立て篭もっている可能性もある。

 風技による街への連絡は妨害されているらしく、応援は呼べそうにないが、明日、明後日にもなれば悠介達が帰って来ない事で異変を感じたヴォレット辺りが、衛士隊を差し向けてくれるかもしれない。

 とりあえず、悠介達は近くの部屋に移動して立て篭もり、今後の対策を話し合う事にした。

「とんだ初任務になったなぁ……」







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