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『ゆめや』
作:夢月こもも



45.導き/1


【導き】
「平野さん!?」
桜子は目を丸くした。「じゃあ、センター長さんがおっしゃっていた男性って……?」
「あ、それ、僕です」
浩司は一転して、人懐こい笑顔で自分の鼻を指す。「変なやつだと怪しまれちゃったみたいで」
「でも、どうしてここが?」
「突然ですみません。それに、よく考えたら、まるでストーカーみたいですよね、ボランティア先まで押しかけちゃうなんて。でも、居ても立ってもいられなくなっちゃって」
浩司は先に謝った。「でも、安心しました。お婆さんの髪を切っていた時の桜子さん、すごくいい笑顔だったから」
「いやだ、覗いていたんですか!?」
「いいえ。あ、えぇ、拝見していました。『うめや』で」
「『うめや』で……?」
「『逢いたい人に逢わせてくれ』って頼んだんですよ。うめさんにね」
気恥ずかしさか、頬を赤らめた桜子。
その脇に立っている徹也が、緩やかに表情を和らげる。
「相馬さん! 大丈夫ですか!?」
振り向くと、センター長が外に出てきていた。
「大丈夫です。この方は……ちゃんとした方ですから」
桜子は咄嗟にそう返した。
「それなら結構ですが――では、気をつけて」
頭を下げた桜子に合わせ、浩司も一緒に頭を下げた。
先に歩き出した桜子に一歩遅れてついていく浩司。
「いやあ、嬉しいなぁ。『ちゃんとした方』かぁ。クフフッ」
ニヤケがとまらない浩司と、困り顔をしている桜子。
センター長の目には二人の背中しか見えていないが、桜子の右隣には徹也がついている。
「それにしてもボランティアだなんて、えらいなぁ」
「えらくなんてありません。技術を活かせる場を与えてもらっているんです」
「だって、タダなんでしょう?」
「お金なんて……私、家も仕事も夢も、全部出直しの最中ですから」
「夢も、ですか?」
「えぇ。昔は自分のお店を持つことが最終目標だと思い込んで頑張っていたんですけど……」
 桜子は、小さくため息をついた。「一度捨てた夢を新たに持ち直すのは、思ったより大変で……」
「桜子さん」
「だから、何のために美容師になったのか、原点に戻って、じっくりと考えてみたんです」
「原点?」
「ええ。そうしたら、お店を持つことじゃなくて、『きれいにしてあげたい』『喜んでもらいたい』と思ったのが最初だったことを思い出して」
「なるほど」
 爽やかな風が、街路樹の葉を揺らした。空は晴れ渡り、優しい雲が静かに広がっている。
「私の祖母は……もう何年も前に亡くなったのですが、修行中には、よくカットモデルになってもらっていたんです。まだ覚束ない出来だったのに、すごく喜んでくれて。『孫が切ってくれた』って、会う人ごとに自慢していた笑顔を思い出したら、なんだかとっても懐かしくなって。それで、あの頃の気持ちを思い出させていただきに来ているんです」
「ステキですよ、桜子さん。ステキです!」
 並んで歩いていた浩司は、立ち止まって桜子を正面に見た。
「だから、さっきの笑顔もあんなに輝いていたんですね!?すごく“キラキラ”していて、僕まで嬉しくなっちゃったくらいでした!」
「……キラキラ……?」
 桜子は、急に眉をしかめ、口を結んだ。夢で聞いた徹也の言葉と重なっていたからだ。
「あの!」
 くるりと振り返った桜子の顔は紅潮していて、やや怒っているように見える。

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