5.佑香と潤/2
「入れーっ!!」
「入らないでーっ!!」
入り混じった絶叫――そして。
――入った。
相手チームの劇的なブザービーター(終了ブザーと同時のシュート)が、決まった。
逆転に次ぐ逆転に、佑香たちのスタンドからは落胆の悲鳴、相手方の応援団からは歓喜の甲高い声が上がり続ける。
――結果、最後の得点2点が相手チームに追加となり、75対76。
潤たちのチームは、惜しくも準優勝だった。中学3年間打ち込んできたバスケが、その日で終わった。
マイクロバスや親たちのマイカー送迎で、全員が一旦中学校に引き上げた。簡単な反省会の後、佑香は親に先に帰ってもらい、潤と肩を並べて歩きだした。
「……山ジュン、残念だったね。最後、あんなにいい『3ポイント』が決まったのに、ホント……」
だが、気に掛けるほど潤は落ち込んではいない。
「んあ? お前、慰めてるつもり?」
「え? あ、や、別にそういうわけじゃないけど……」
潤は、ほんの少し八重歯がかった白い歯を見せて笑う。
「ぜーんぜんだぜ。俺のカッコいいとこ、ちゃんと見てたのかよ?」
「カッ、カッコいいって――」
いつもの乗りで喋れない。佑香は頬の火照りを感じ、慌てて前を向いた。
「コーチのお蔭で完全燃焼できたんだ。やれるだけやったんだし、もう、なーんも悔いはねぇぜ」
空を見上げる潤の爽やかな横顔。それでいてしみじみと「終わった」ことを噛み締める表情に、佑香もやっといつもの笑顔になった。
「マジ? よかったぁ! ね、帰り、駅前寄ってく? お腹空いたでしょ」
共働きで忙しく、両親とも応援に来られなかった潤に気を遣った。このまま帰っても、潤は自分で鍵を開けて、だれも居ない家に入るだけと知っているからだ。
「どうすっかなー」
そう言いながら、住宅街の傍の公園の角を曲がった時、潤が不意に足を止めた。
「ん? どうしたの? 靴に石でも入っ……」
ニ、三歩戻って真正面に立った佑香の手首を、ぎゅっと掴んだ潤。
「えっ?」
「俺……さっきお前が応援に来てくれたのがわかった時、スッゲー嬉しかった。マジ、百人力って感じがしたんだ」
その時の潤の目を思い出し、カァッとのぼせた佑香は、目を泳がせて何度も瞬きをすると、無理やりに“普通の”表情を作った。
「そう、それは……よかったな、うん。よかった。こっちの分も頑張ってもらいたくて、あたしも必死だったし」
「佑香、俺さ」
かつて、ふざけあい、追いかけて背中を叩いた13歳から、もう二年が経っていた。だが「好き」という言葉を、潤はあえて飲み込む。
「俺たち、これで引退じゃん。一気に気が抜けそうだけど、今度は俺、受験頑張っから。それで、頑張ってお前と同じ高校に行く。絶対入る。だから、お前も頑張れ。一緒に『清廉』に行こうな」
「潤……」
いつもの“山ジュン”ではなく、自然と名前が口に出た。「うん、行こう! あたし、絶対入る。合格する。無事に入学できたら、また一緒にバスケ頑張ろうね!」
「おっしゃ! がんばるぜ!」
潤の手から離れた手首は少し痛かったが、そのくらい気合を入れて掴まれたのが嬉しくもあった。
それからの佑香は、はっきりと形になった恋心を頑張りの糧にして、受験勉強に励んだ。
ともすると、シャーペンの芯をカチカチとノックし続けて、ぽぅっと潤の顔を思い浮かべたりもしたが、中学の時の楽しさを高校でもまた一緒に味わうことだけを楽しみに頑張った。
そして春になり、念願だった都立清廉高校にめでたく合格した潤と佑香。この先もまた、同じように充実した三年間を過ごせると嬉しさでいっぱいになった。
だが――何事もなく、とはいかなかった。
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