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『ゆめや』
作:夢月こもも



31.孤独/2


「こんにちは……」
 引き戸を開けた潤が、第一声を掛けた。暑さでムッとする店の奥に、うめの姿はない。「あれ? 留守か……」
「どうしたの?」
 進まない順番に、後ろから催促の声が上がる。「早く入ってよ。少しでも早く戻らなきゃ……」
 押されて中に入った潤は、小上がりの前に立つ。
 店の隅々を見渡しているのは大輝。
「うぇっ。あっちーな、ここ」
「お留守? 潤が助けたっていう大猫もいないみたいね」
 言いながら壁の襖に目を留めた。「ねぇ、そこ。物置かな」
「どうかな。部屋の入り口にしちゃ、小さ過ぎるけど」
 ぼそぼそと喋っていると、壁の奥から咳込みが聞こえた。
「やっぱりこの奥にだれか……」
 佑香がそう言った時、襖がさっと開いた。
「おや、まぁ。お客人なの?」
 しばらく発声していなかったのだろう。しわがれて、干からびる寸前の声に聞こえた。
「あ! いらしたんですか!」
 潤が縋るように声を出した。「あの! 僕、先日、ポン太を」
 一瞬の静寂の後、うめがひょっこりと顔を出した。
「もちろん覚えていますよ。大事な恩人ですもの」
 横になっていたのだろうか。髪を何度も撫でつけながら、ようやくいつもの文机の前に腰を下ろしたうめ。
 だが、その間も、3人の若者それぞれの足元から腹の辺りに素早く目を走らせては、その声を聞いていた。
 ――この小せぇババァが超能力持ちだぁ? マジかよ。
 ――とうとう来ちゃった。どうなっちゃうの?
 ――図々しかったかな。具合が悪そうだけど、もう頼りはここしか……
 うめはふっと笑う。
「こんな燃えカスでも、まだ頼って下さる御仁ごじんがいらしたとはね」
 そう言って潤を見上げた。「なんだか、枯れた元気も湧いてきそうだわ」
 潤の顔に光が差す。
「あの、図々しいとは思ったんですが!」
「遠慮なさることなんてありませんよ。だって、私がそう申したのですもの」
 佑香は怪訝そうに、大輝は呆気に取られつつ、成り行きを見守る。
「それで……そうね、急いでいらっしゃるようだから、では――」
 うめはまず大輝に手を差し伸べた。文机に身体を預けて。
「な、なに?」
「少し、記憶を拝見させてね」
 佑香は隣から手を出し、大輝の手首を取った。
「なっ、さわんな――」
「嫌がってる場合じゃないでしょ!」
 睨まれて、されるままになる大輝。
「失礼しますね」
 大輝に触れたうめは、数秒の後、眉をひそめ、少しつらそうに息を吐いた。「……そう。ありがとう。では、次は――」
 潤の手を欲した。
 神妙に進み出た潤は、うめの手を両側から挟むように握る。その手にうめはもう一方の手も重ねた。
「ん……あなたの気持ちはよくわかったわ。では、最後に――」
 佑香が自分から手を出した。潤と同じように、うめと手を重ね合う。
「…………」
 長めの時間。
 遠くを見るうめの目が、細かく揺れる。
「そうなの…………。あなたからすれば仕方のなかったことね。でも――」
「あの、それで!」
 膝を揺らしていた大輝。「早く見つけたいんです! 学校にも早く戻んなきゃなんねぇし! 本当にどこにいるかわかるんですかっ!?」
「さて、どうかしら」
 普段のはがらかす癖が出た。「実のところ、もうあまり自信がなくて。それに……」
 うめは佑香を見て言う。「だいぶ頑なになっているようよ。沙耶ちゃん」
「え!?」
 佑香は心底から驚いた顔をした。
 ……やっぱり、ホンモノなんだ、このおばあさん!
「ええ、ホンモノよ」
 うめはさっきよりはもう少し元気そうに笑った。「何か、沙耶ちゃんのものをお持ちね?」
 佑香のスカートを指した。

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