29.大輝の記憶/4
「そう。『芽』よ。休み時間にさ、あんたからジュンに
『最後に一緒にいたのが自分だから責任を感じる。一緒に捜しに行って欲しい』
って頼んでよ。その時に来てくれるようなら可愛いからプラン2の『ジュンをボコボコ』って話はなし。でも、授業サボれば留年は決定的でしょ? それで……もしも来てくれないようなら……憎らしいから“ボコボコ発動”ってわけよ。
だから、うまく誘いなさいよ。人を雇うようなら、日野の取り分はなし。ゼロか20万かよ。誘い出せば20万、ダメならゼロ。どう? やる気出たでしょー」
「オメェ……」
オレは絶句した。「マジ、怖ぇこと考えるんだな。オメェがそんなにひねくれたヤツだとは……」
したらアイツ、急に我に返ったんだ。
「あら、あたしがひねくれてるんじゃないわ。佑香が悪いの。あんたの大好きな佑香がねっ!」
透明と焦げ茶で二層になったグラスを、乱暴に混ぜた。
回りに飛び散ったくらいに。
「さ、どうする? やるか、やらないか。うまくやれば、20万よ。いいバイトじゃない。ジュンが憎いんでしょ?」
「…………」
……もう憎いってほどじゃ。
「男なら、はっきり返事しなさいよっ!」
……なんつって断る?
「オレ、自信ねぇよ……」
「自信? いやだ、ウソでしょ?“ハメ魔の日野くん”じゃないのー。できるわよ、できる! 大丈夫よ。ね? あんたはいい子ぶって、反省した振りしてさ。『誘われたけど、男らしく蹴って、それでも心配だからジュンの味方になった、だから忠告してやるんだ』――でいいのよ。それで、先生たちが騒ぎ出したら名乗り出て、さっきの通り言ってよ。で、休み時間になったら、ジュンに泣きつく。で、外に連れ出す。それでミッションコンプリートってわけ。出来るでしょー?『“日野くん”はバカじゃない』ってところを見せてよ。佑香とだって、昨日のままじゃ気まずいでしょうけど、“ジュンサイド”についたって知れば、自然と仲良くなれるわよ。あー、何て完璧なの。あたしって、やっぱりアタマいい♪」
確かめなきゃなんなかった。
「オレが断ったら、どうすんだよ」
「日野くんが? ……じゃあ、ジュンが血だらけってことかな。それか、やっぱ佑香をやっちゃうとか」
笑って言いやがんだぜ。
仕方なかったんだ。
「……じゃあ、オレのセリフは……ジュンには、『奢ってもらったけど、誘いを蹴って帰った』で、先生たちには、『男と電話してたみてぇだ』。……で、あとは休み時間にジュンを外へつれ出す。それだけでいいのか?」
「そうよ! やっとわかってくれた!?」
オレは半分はヤケになってた。あと半分は、他にうまい考えが浮かばなかった。
嬉しそうなアイツに、つい頷いてた。
「やった、商談成立! あー、ワクワクしてきちゃった! がんばってね。さて、と。じゃ、帰っていいよ。あたしは、これから今晩泊まるとこを考えなくちゃならないし」
「……当てはあるのかよ?」
「あるような、ないような。ま、いざとなれば、なんとでもなるでしょ。大丈夫よ。じゃね、バイバイ」
そう言ったと思ったら、もうどっかにケータイ掛けて喋りながら、オレに「帰れば」とかいいやがんだ。
出口に向かう途中で一回だけ振り返ってみた。
アイツ、オレのことなんかもう忘れたみてぇで、なんか、がっかりしたぜ。
そのまま店を出たんだ。
それが、6時10分かそこらなんじゃねぇのかな。
◇ ◇ ◇ ◇
大輝は、記憶を言葉にしながら、それぞれの特別な感情は抜いていた。
佑香は大輝のそうした想いにまったく気付いていない。
だが潤は、半年の間じっくりと深く思い返すうちに、大輝が自分をハメたのは、バスケのことだけではないと気付いていた。
今朝、大輝に呼び止められ、“プラン1”の忠告を聞かされた時、内容の突飛さとは別に、それを伝える大輝の声や顔から違和感がびんびんと響いてきた。
……どこまでが本当だ? けど、信じたい。疑われる気持ちがどんなに嫌だったか、思い出せ。
沙耶失踪が、狂言だとは薄々感じた。だが、そのままにはしておけなかった。
それは佑香の名が出ていたせいでもあったが、自分の家出がまだ完全に終わっていなかったと思ったからだ。
大輝の言葉の端々に、佑香のこと以外では、本音がこぼれ出ていることもわかっている。
今確かなことは、沙耶の狂言が高校生の狂言の範囲を超えてしまったということだ。
俯くだけの大輝と、その横で潤と強い視線を交わし合う佑香。
「恨み言はあとにする! とにかく沙耶の番号、あたしにも教えてっ!」
佑香は携帯を開く手の反対側で、知らずに手の人形を握り締めていた。
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