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『ゆめや』
作:夢月こもも



29.大輝の記憶/2


「るっせー。関係ねぇだろっ……」
「フン、おかげで、こっちは大迷惑だったんだから」
「――?」
「でもね。あたし、さっきの金で、夢を叶えてもらおうって思いついたの。出し惜しみしたせいか、相手にヘソ曲げられちゃったけどさ。だから、もっと稼いで、それでこっそりと“あたしだけが”ジュンに会うつもりだったのに。……あんなふうに、ひょっこり帰ってこられて、また何にもなかったみたいに佑香とベッタリの仲に戻られちゃったんじゃ、あたしが何のためにあの『夢屋』のババァに怒鳴られたんだか、わかんないじゃない」
 オレは、その『夢屋』が何か聞いた。
「お金次第で、夢を叶えてくれる店よ。でも、もうその必要もなくなっちゃった。だから、20万は浮いちゃったわけ。でもさ、これをいつものように遊びに使っちゃったんじゃ、あたしの努力はどこにいっちゃうの? だから、いっそのこと、これで――」
 完全に自分の考えに酔ってたな。
 それで、いつの間にか声高になってた。
 アイツの口から金のことが出るたびに、ヒヤヒヤしたぜ。
 『オメェ、声がでけぇよっ』
「……そう? 水注さないで聞きなさいよ」
 『で、どうするつもりなんだよっ。だいたいオレに何の用が――』
 アイツ、具体的な事になると、やっと声を潜めた。
「これでね、人を雇うの。2人だったら、ひとりが時給10万よ。いいと思わない?」
「じっ、時給10万!?」
 あんまりバカな事言いやがるから、思わず呻いちまった。幾つかのテーブルから、ぜってー見られたぜ。それをまたアイツは楽しそうにっつーか、自慢げにっつーか、平然と見返してんだ。
「そうよ。そのほうがよっぽど面白い使い道でしょ? くくくっ」 
 そこに、やっとウェイトレスがやってきた。
「お待たせしました」
 オレの前には丸いカゴに入った“マウンテンバーガー”。
 メニューの写真どおり、押し潰しながらでなきゃ、口に入らねぇようなでっけぇヤツで、ちょっと嬉しかったかな。
「こちらは、熱いのでお気をつけください」
 アイツの前には、まだ器の端がグツグツと音を立ててるグラタンが置かれた。
 自分で届くところにあるのによ、細長バスケットから
「取って」
 とか言いやんの。本当はスゲー甘ったれなんだろうな。
 オレは手に渡さねぇで、わざとテーブルに置いてやった。ハハッ。
「ケチ。でね、考えたんだけど……」
 オレはさっさと帰ろうと思って、パクついて食った。
 その間、アイツは火山のグツグツみてぇな泡をフォークで突きながら、“仕返しのプラン”を喋るんだぜ。異様だろ?
 アイツが言ったのは、こうだ。
 援助交際の連絡ルートを使って、20代の男を2人募集する。
 時給10万をちらつかせ、手付け1割、成功報酬9割で、ターゲットはもちろん――
 オレはその話を聞いて、マジに焦った。
「えっ!? 佑香をっ!? ちょ、ちょっと待てよ!」
「なに?」
 妙に落ち着いてるんだ。成元のヤツ。
「まさか、反対するんじゃないでしょうね。いくらあんたが好きだって、佑香はジュン一直線なんだからムダよ。でも、これを実行すれば、あんたに起死回生のチャンスをあげられるかも。どうよ、魅力的で願ってもない話でしょう?」
 ……コイツ、イカレてるぜ。
「佑香をやるってんなら、なんでオレにわざわざ言う必要があるんだよ。1人でやりゃあいいだろ? それとも、オレに『寸前を助けに行け』とか言うんじゃねぇだろうな……?」
「“ほぼ”ピンポーン♪ おバカな日野にもわかったんだ。常套手段だもんね〜。でもそんな単純なことだけじゃないわよ、もちろん」
 企んでることと、顔がまったく別物なんだ。オレは空恐ろしくなって、腰が引けたぜ。
 ……関わらねぇほうが、よさそうだ。
「やだよ、オレ。やんねぇ」
「なに言ってんの? ここまで聞いておいて、それはないでしょ」
「やんねぇったら、やんねぇ! 聞かなかったことにするから、オメェもさっさと塾に行け。じゃ――」
 オレは空になったバーガーのバスケットを爪先で弾いて
「口止め料ってことで、ゴチな」
 と席を立った。
 けどよ。
「ま、待ちなさいよっ!」
 アイツ、追ってきやがったんだ。

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