27.情報
【情報】
「おーい! 君たち!」
店長の息せき切った声。「やっぱり、まだ、ここにいたのか」
潤が駆け寄った。
「電話、通じたんですかっ!?」
「ああ! もう一度、事務所へ!」
「はい! ――ダイも佑香も、ケンカはあとだっ!」
とって返す店長の背に、潤が続く。にらみ合っていた佑香たちも、一時休戦で中に入った。
3人が揃うなり、店長が早口でしゃべり出した。
「今、連絡が取れたんだ。平林が言うには、君たちの捜している子のことはよく覚えているそうだ。普通の客とはどうも様子が違うから、気になったらしい」
「普通と違うって?」と潤。
「まず、彼が――」
大輝を目で指す。「一度帰る素振りを見せたから、平林がレジに入ったんだが――押し問答をしてまた席に戻ったんだろう?」
大輝は、店長に無言で頷く。
「その辺から気になっていたらしいよ。それに、結局女の子が1人で残ったのかと思っていたら、最後は――」
3人は固唾を飲んで聞き入る。
「会計の時、その子のすぐ後ろに男性2人客が並んだそうなんだ。でね、そのうちの1人が、その子の財布を覗き込むと、何か合図をして、もう1人が先に――」
「えぇっ――!?」
絶句したのは、大輝。潤と佑香は、大輝に奪われた目を店長に戻す。
「平林には、それが、手分けして先回りしたように思えたそうだ。女の子は何も気付かないで、のんびりと出ていったようなんだが、次に会計を済ませた残りの1人は、平林からつり銭をひったくるようにして飛び出していったらしい」
佑香は蒼褪めた顔で、声を上ずらせる
「じゃ、じゃあ! 沙耶はその2人にっ!?」
「いやいや、今言ったように、あくまで平林の感じたことだからね。うちのお客の8割は車利用だから、彼も『もしや』と思って駐車場まで追いたい心境だったそうだが、あいにく会計客が続いて、ようやく彼が様子を見に出た時には、もう誰の姿もなかったらしい。彼から聞いた話はそれだけだ。でも、そのあとでそのお嬢さんが家に帰っていないとなると……私も少し気になるな――」
「店長さん――」
佑香が、事務所の端に置いてあるモニターに目をやって尋ねる。
「あのモニターって、レジを映しているんですよね?」
「レジと、あとは出入り口が同時に見られるように設置して――……ははぁ。でもお見せするわけにはいかないんだよ。規約で、外部の人間には――」
「ビデオに撮ってあるんですよね!? 沙耶の財布を覗いてたっていうその客も、そのビデオを見れば――!」
「い、いや、まぁ、写ってはいるだろうが――」
潤も揃って頭を下げた。
「お願いしますっ! 確認させてくださいっ!」
困った顔で唸る店長は、やがてもう一度首を往復させた。
「いや。承諾は出来ない。本当にこれが何かの事件に発展しているというなら、素人探偵ごっこは危険だよ。ここから先は、警察に任せたほうがいい。それに、顔だけ見たって、そのあとどうするつもりだね? 警察からの連絡があれば、私も協力せざるを得ないが――」
「オレ、ちょっとトイレ……」
大輝はそう言うなり、事務所のドアを乱暴に開けて出て行った。
「なにアイツ! 今頃――」
憤る佑香の横で、潤は
「どうしても見せていただけませんか?」
と頼み込んでいる。
「私にも、君たちと同じくらいの息子がいてね」
と店長。「血気盛んで、手を焼いているよ。だから、なおさら危ないと思うんだ。君たちの友人思いの気持ちはわかってあげたいが、だいたい今は授業中のはずだろう? 清廉さん」
制服は隠しようがない。
「君たちは急いで学校へ戻って、先生から警察に連絡してもらうのがいいんじゃないか? ここからは大人に任せなさい。な? 悪いことは言わないから――」
「……わかりました。ありがとうございました」
潤はもう一度頭を下げる。「お仕事中に、ご迷惑をお掛けしました」
挨拶を済ませると、あとは大股でドアに向かった。
佑香もペコッとお辞儀をし、あとに続く。
事務所を出た左手の通路。
その先にあるトイレ入り口の前で、大輝が携帯を耳に当てながら、落ち着きなく膝を揺らしていた。
「チッ! 出ろよっ!」
そう吐き出しては、またかけ直しているようだ。
遠目に見ても、その手がブルブルと震えているのがわかった。
「ダイっ!」
潤は短く呼び掛けて、帰ることを知らせる。
レジの横を通る時、潤は天井の隅についている防犯カメラの黒い半球を、さも残念そうに見上げた。
そのまま外に出た佑香と潤の足は、打ち合わせしたわけでもなく、自然と駐車場へ向かっていた。
「だからって、沙耶がそのお客たちに何かされたとか、決め付けることはないのよね……? 案外さ、大騒ぎさせておいて、ご当人はケロッと帰って来るのかも知れないし」
「……まぁな。けど……」
ボツボツと言葉を交わしながら、数十台停められる広さの駐車場を、見るとはなしに見て歩く。
「……大輝は、来た?」
途中で振り向くと、もう十数メートル離れていた正面入り口の脇で、こちらを見ながら、まだ携帯をいじっていた。
佑香は、駐車スペースの端を目で掃いていく。なにということもなかったのだが、そうせずにはいられなかった。
「なぁ……佑香」
「なに?」
「さっきのダイキ、おかしかったよな?」
「ジュンも、そう思った?」
「疑いたくはなかったんだけど、やっぱり――」
潤は、つくづく呆れたような溜め息をついた。「俺たち、踊らされてるのかもな」
「え?」
目を合わせて、無言で語り合う。
「そんなのって――」
「ダイには、もっと他に知ってることがあるはずだよ。今だって――」
携帯を耳にしながら、こちらへ歩きだした大輝に目をやる潤。
「あの電話、成元にかけてるんだろ。多分」
「えっ!? 沙耶に……!?」
そこに大輝が駆け足でやってくる。
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