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『ゆめや』
作:夢月こもも



24.失踪/1


【失踪】
次の朝。
復活させたメールで朝の待ち合わせをした佑香と潤が、揃って校門へ向かう。
「おー、真山! ちょっと来い!」
呼びとめたのは大場。
「お前、今まで何やってたんだぁ、あん? この清廉高校を半年もほっぽらかしておいて、よくも平気な顔で戻れたもんだな。いくら森田先生が庇ったからって、そんなんで、お前――」
わざと大声で、のんびり口調だが、イヤミたっぷりなのは、だれが聞いても分かる。
だが潤は、つけ入る隙のないほど完璧さわやか系の挨拶をした。
「大場先生、おはようございます!」
「お――おはよう……あのなっ」
「おはようございます! 大場先生!」
佑香も続いた。
「おぅ、おはよう。――真山、あのなぁ――」
潤が付け足す。
「先生にも、僕のためにお力添えをいただいたと聞いています! ご心配いただき、本当にありがとうございました! これから毎日、150%のつもりでがんばります!」
「あ? あぁ、そうだな。まぁ、せいぜい――」
「ありがとうございます!」
銀行員のように身体を折る潤の横で、佑香は笑いを堪える。
2人でペコッと頭を下げると、下駄箱へ走った。

「うーっくっくっく――……あー、もうダメ! お腹の皮がよじれるー!」
佑香は思い出し笑いで、もう一度噴き出す。
「私なんか、この前は怒鳴られっぱなしだったんだぁ。潤はさすがね。処世術って言うの? 大人になったねぇ〜」
からかい調子でしゃべりながら、上履きに替える佑香。
潤も50音順に並んだ下駄箱の一番右下にスニーカーを仕舞う。
「――んなもんじゃないけど。ま、大場先生には、先に挨拶。そいでもって、お礼。これだろうな。礼儀正しい“ガッチガチの優等生”が好きなんだから」
「ふふっ。頼もしい。なんだか、安心した。この調子で、何でもクリアできそう――」
「おいっ、ジュンっ!」
斬り込むような声に振り向くと、大輝が階段の脇にもたれて、2人を見ていた。
潤と佑香は、さっと視線をかわす。
「……先に、行ってろ」
と潤。歯の隙間から囁く。
 『だいじょうぶ?』
口パクの佑香。潤は目で頷くと、真っ直ぐ大輝のところに行った。
佑香は心配そうな顔でその背中を見ていたが、潤に言われた通り、渋々教室へ向かう。
「ダイキ、なんだ? 昨日の続きか?」
歩みよりの姿勢で、潤のほうから口を開いた。
「――ってか、どんな続きだったか、もう忘れちまったけどな」
「ちょっと……ヤベェかも知れねぇんだ」
どこか、おどおどしているようにも見える大輝。昨日の突っ掛かりようとは丸っきり違う。
「あ? ヤバイって、なんだよ」
「それがよぉ――」
眉や唇を歪めるだけで、なかなか話そうとしない。
潤は携帯で時間を確かめる。
「なぁ、ダイ。先生、来ちまうぜ?」
「う……実は、昨日――」
やっと話し出した大輝。「成元が――よ」
「成元?」
潤は、聞き終わると、口元を手の平でガバッと覆った。目だけを大きく動かして、脳をフル回転させているようだ。 
「なぁ、ジュン。オメェなら、どう思うよ。やっぱ、ヤベェだろ?」
「けど『やる』って確証はないんだろ? 成元だって、バカじゃないんだから、そんな――」
「いや、アイツ、成績はいいかもしんねぇけど、バカだぜ。でなきゃ――」
そこに始業のチャイムが鳴る。
「とりあえず教室に行こうぜ。ちょっと考えさせてくれよ」
「……あぁ、頼む。オレ一人じゃ、どうにも――」
あとは若さの勢いで、階段を3段ずつ競争のように上った。
教室の後ろを、今か今かと振り返っていた佑香は、鐘のなり終わる寸前に潤が現れて、ホッと胸を撫で下ろす。
――『どうしたの? 無事?』
――『あぁ。あとで』
目で語り合い、潤が席につくと同時に、森田が教壇に立った。
「……起立〜」
日直の男子がだらけた号令をかけると、すぐに「ピピッ!」と笛が鳴る。
もう一人の日直の女子が、慌てて「起立!」とかけ直した。
「礼!」
「着席!」
どやどやとした足音や椅子の音、ざわめきが静まり返る前から、森田は生徒にやや硬い顔を向ける。
「今朝は、みんなに聞きたいことがある。大事な話だ。よく聞け」
いつもなら森田恒例の“朝の一句”から始まるところなのだが、雰囲気の違いに、騒音も急にしぼんだ。
「いいか。まずは……2組の成元沙耶と仲のいい者、登下校が一緒の者、あるいは昨日成元が帰る姿を見かけた者、手を挙げろ」
沙耶の名を耳にした潤の肩が大きく揺れた。
2列置いた斜め後ろから、それを佑香が見ている。
「……だれもいないのか? 仲のいい者は――いないのか? 昼メシを一緒に食ったりする者とかも、か?」

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