23.復帰
【復帰】
部活動が終わったのが午後七時。
片付けや着替えで、校門を出る頃には時計の長針が下を向く。
女子たちと手を振って別れた佑香が、門の脇でポツンと立っていた。
出てきた男子のひとかたまりに呼び掛ける。
「山ジュン、一緒に帰ろ!」
幾つかの野次が飛ぶ。
「お、早速“ユウカリン”のお迎えじゃん」
「手ぐすね引いて、お待ちでごんすよー。お〜、怖い〜〜!」
「『あなた、どこほっつき歩いてたの!?』、なーんてな。ヒュー、ホゥ、ホゥ!」
肩をバンバンと叩かれ、数人の仲間に送り出された。門を出た男子たちは、気を利かせて足のスピードを上げる。
「じゃ、お疲れっ! また明日な!」
後ろから声掛けした潤は、佑香と肩を並べた。
皆と距離が空くように、ややのんびり調子で歩く。
互いに無言で、顔は見ない。
「ねぇ……ダイキは結局サボリ?」
ようやく佑香が口を開いた。朝の一件以来の声だ。
「あぁ……何でこんなに嫌われちまったかな」
「でもね、昨日までは大人しかったのよ。だから朝、びっくりしちゃった。あんなにケンカ腰で」
再び黙り込む。バス停に着いて、携帯の時刻を見る。
「バスの時刻表、4月に変わったから。次は53分よ」
「そっか……うん」
弾まない会話に、佑香が肩で溜め息を吐いた。
「山ジュン、あたしさ……朝は、タイミング逃しちゃったけど」
「ん?」
「ホントは、すっごく怒ってるのよ」
「……あぁ」
「ホントに、ホントに、すっごーく怒ってるんだからねっ! 頭から湯気が出るほど!」
「悪かったよ」
「えーっ!? それだけ!? 半年よ、半年! 何の連絡もくれないで、帰ってきたのも内緒で、その挙句に、たったそれだけの挨拶なわけっ!?」
「だから、謝ってるだろ」
「そんなの、謝ってるうちに入んない! あたしがこの半年の間、どんな気持ちでいたか、どれだけ心配したかなんて、わかんないんでしょう!?」
捲くし立ててくる佑香に、潤はククッと笑い声を漏らした。
「何よ! 笑うとこじゃないんだけど!」
発散し切れない思いが、佑香の肩を揺らす。髪まで逆立てる勢いだ。
「あたし、潤に何にもして上げられなかったこと、すっごい後悔してたのよっ。人がどんなに落ち込んだか知りもしないで、あんなに遠くに行っちゃったままで!」
担任には知らされていた潤の所在は、生徒たちまでには下りて来なかった。真似をする生徒が出ては困るという、学校側の取り決めだったからだ。
が、潤の安否を心配して母の聡子に連絡を入れていた佑香だけは「住み込みで北海道のペンションに居る」とまでは知っていた。沙耶に聞かれた時は少し気が咎めたのだが、消息のことについては知らん顔をし続けていた。
「お前さ、佑香」
「何よっ!?」
「怒り方がそっくりだよ。俺のお袋とおんなじ」
悠長な言い方に、佑香はカッとする。
「当たり前でしょっ! 潤のおばさんとあたし、すっごく、すっごく、山ジュンのこと、心配してたんだからっ! それを笑うなんて、許せないっ!」
横からどつくと、潤のブレザーの下の肩が以前よりぐっと逞しくなっていて、ドキッとした。
「ふぅん……ちゃんと働いていたんだ。……頑張ったんだね」
「あんなの――頑張ったうちに入んねぇよ」
「……あたし……あの前の日に、『そんなことで落ち込むな』とか、言っちゃったよね……」
足もとの小石を蹴った。ゆるくカーブを描いて、車道に落ちる。
「あれ、“潤”がどれだけ苦しかったか、何にもわかってなかったってことだよ。ひどいこと言っちゃったって、ものすごく反省してる。思い出すたびに、後悔してた。わかってあげてなくて、ごめんね。でも、今度何かあって、また逃げ出すようなら――」
「逃げねぇよ。もう」
「……あ、そ」
小さく口を尖らせた佑香。「折角、『あたしもついてく』って、言おうと思ったのに」
その横で、潤は咳払いをして照れを逃がした。
バスが来た。
「あたしさ」
「……なに?」
「“潤”が帰ってきてくれて嬉しい。また、こうやって、一緒に帰れるんだもん」
「……一人にして、悪かった」
――プシューッ
その声は、ドアが開いた音にかき消された。
一番後ろの席に並んで座ってから、佑香が聞き返す。
「ね、今なんて言ったの? 聞こえなかった」
「ん?」
すぐ隣に、佑香が居る。「……なんでも、ねぇよ」
バスは、半年前と同じように二人を家に連れ帰る。
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