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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第六十六話 君のいない雨の日

 今日は雨。
 思い切り息を吐くと、わずかに白い気がする。
 いよいよ寒くなってきた。
 それでも僕は身も心も温か。
 後ろ髪引かれる思いで旅立った修学旅行。
 本当に良かった。楽しかった。
 ハプニングもあり大いに盛り上がる。
 僕にとって生涯忘れられないものとなった気がする。
 唯一残念なのはこの記憶にレイさんがいないこと。
 旅が人の心を開放させるのか、それともそういう気運だったのか。
 互いの堅苦しさがほぐされ、元の鞘に収まっていく。
 ナメカワさんが「写真撮ろうよ」と僕の腕を引き寄せた時に彼女の胸が少し当たる。
 夜は待ってましたの大暴露大会。

「お前なんか変わったよな。垢抜けたというか」

 タンクに言われた。
 自分ではわからないけど、どうなんだろう。
 どことなく晴れ晴れとした気分ではある。
 雨降って地固まると言えるかもしれない。
 土砂降りを経験したからこそ、この晴れの空が気持ちいい。
 そんな心境なのかもしれない。
 タンクはああ言ったけど、人は早々変わるものじゃないと思う。
 変わるのは上辺だけで、少しの間だけ。

 気になることもあった。
 ナガミネが行きと帰りではまるで別人だったこと。
 行きはあれだけはしゃいでいたのに帰りは静かだった。
 理由を聞いても答えてくれないし。
 あの時の彼女の表情には少しドキドキする。
 聞き出したかったけど、先生の”領分”って話を思い出し諦める。
 冷静になって見れば彼女は聞いてほしくなさそうだったし。
 内心、少々のことだったら打ち明けてくれてもいい関係になっていると思っていただけに少し寂しいものもある。でも仕方がない。それはこっちの事情。

 マイコちゃんとは仲直りのキッカケが出来た。
 マイサンズとオトメンズで回っていた時、マキに言われる。
「夜、ちょっといいかな」
 三日目だったか。
 ナガミネが喜びそうな展開ではなくマイコちゃんのこと。
「コイツがお前に言いたいことがあるんだって」
 彼女がいた。
 僕を正視できないよう。
 暫くの沈黙の後、僕から言葉が出た。

「僕のせいで本当に迷惑をかけたね・・・本当にご免なさい」

 頭を下げる。
 顔を上げると彼女は驚いた顔をしていた。
 いきなり黙って泣きだす。
 マキも驚いていたっけ。
 彼はマイコちゃんを軽く抱きしめると頭を撫ぜ言った。
「こっちこそすまん・・・うまく言えないけど・・・穴埋めは必ずする」
 今度はマキが頭を下げる。
 彼女の頭にも手を添え、軽く一緒に下げさせた。
 ヤツはいつも詳しくは言わない。
 二人で色々と話し合ったんだろう。
 呼んだのもマキがマイコちゃんに何かを言う機会を与えたかったのか。
 普段はあれだけ口が軽いのに。
 あの時はそう思えなかったけど今は本当に悪いことをしたと思う。
 彼女は好意でミズキちゃんを紹介してくれた。
 なのに僕がハッキリさせなかったからこうなった。
 誰に対しても結果的に態度を保留し、促されるまま応じた。
 先生流に言えば「心ない態度」だったのかもしれない。
 少なくとも相手の思いをしっかり受け取ってはいなかったように思う。

 先生に怒鳴られたことを思い出す。

「君が悪いよ」
 言われたんだ。
「君がハッキリしなかったのが悪い」
 あの時は頭にきたけど、今にして思えば、なるほどと思える。
 マイコちゃんに言われたからといって大した考えも思いもなくミズキちゃんと会う。彼女に言われたからといって直ぐに諦める。
 ミズキちゃんの思いは考えてなかった。考える余裕がなかった。
 マイコちゃんにしても。
 僕はあの時、相手を尊重したつもりだったけど多分違うんだろう。心の奥底では単に流されていただけ。流れの中に身を任せたつもりが単に流されていただけなのかもしれない。
 言葉の表面的意味を受け取ったに過ぎない。
 心は受け取らなかった。
 心がなかったと言われれば、そう思える。
 それがマイコちゃんに伝わったんだろう。
 先生に随分キツイことを言われた。

「君のアイデンティティはどこへ行ってしまったのかね?君はあれだ、行くだけ行けばいいのに、退いて『ほら、そうなった』と結果だけを眺め『自分は正しかった』と考える。その癖にウジウジとするんだろ?迷いがあるなら捨て置けばいい。そもそも迷いがある時点でいっても無駄だ。気がかりなら行けばいい。なのに君は迷いを断つことも出来ないし行動することも出来ないでいる。挙句に沈黙するほどわきまえてもいない。普段どうでもいいことでは弁が立つのに『今は無理です。それでもいいんですか?』と覚悟を表明することも出来なければ要求することも、相手の意思を尊重することはおろか受けきることなんて全く出来ない。僕の所に来てはウダウダと言い訳を並べ、自己を正当化出来る理由を聞こうとする。こういう厳しいことは言う方も辛いんだよ。僕が君のことなんてどうでもいいと思っていたらこんなことは言わない。それこそ聞いたフリして『そっか~大変だったね、まー頑張って』と、君みたいに言えば済む話だ。そこいらの大人なら体のいいことを言ってるだろ。僕はこんなでも君の師匠だ。そういうわけにはいかない。君に対して幾らかでも責任があるからね。正直なことを言って嫌われようが僕は言いづらいことは言うよ」

 この一連の出来事で自分の価値観にも多少なりとも変化を感じる。
 自分でも知らなかった一面をみた気がする。
(また経験したいかって言われたら答えはやっぱりノーだけど)
 そう言えば、こんな話もしてくれたな。

「苦労は買ってでもしろって言葉があるでしょ」
「はい」
「あれは結果論だよ。苦労した人が、他人から聞かれて仕方なく言う言葉だ。苦労してない人が言うべきではないし、本当に苦労したら言えないと思うね。少なくとも僕の師匠は言わなかったよ。僕や君が想像も出来ないような苦労をした人だけどね」
「聞いたんですか?」
「うん。周りの人が僕にやれなんだかんだと『苦労した方がいい』とか『苦労が足りない』とかいちいち煩いから、本当にそうなのかなって思ってね。こう言ったよ。『苦労はするもんじゃない』ってね!それ以上は語らなかった。これでいかに苦労したか伺えるでしょ。師の友人から聞いたことがあるけど、あれこそが苦労だと思った。大変なものだよ」
「そうなんですか・・・」
「苦労は結果的にするものだ。自ら買ってするなんて酔狂な話だよ。むし苦労した上でそう言う人がいたとしたら、苦労が足りないと思うね。まだ余裕がある。ともかく、苦労したからには糧にしないと癪じゃないか。それに苦労はしたらしただけ発見がある。それが発見出来ないようなら逃げているんだ。でも、出来ることなら苦労は避けたほうが良い。何事も身に余ることってあるから。身に余る苦労は身を滅ぼす」

 クラスが近づくと先生の言葉も遠のいた。
 どこか久しぶりな気がする。
(ふふ、たかだか一週間程度なのに)
 鬱屈した日々の後だったから余計かもしれない。
 修学旅行での出来事を思い出しただけでニヤけている自分がいる。
(早くレイさんに会いたい)
 皆で僕の家に集まろうっていう話になったけどレイさん来てくれるよね。
 どんな顔をするだろう。
 彼女の笑顔が見たい。

「あれ・・・」

 授業が始まったというのにレイさんが来ない。
 どうしたんだろう。
 ナガミネが僕を見て眉をひそめた。
 視線に気づき僕も首振る。
(風邪でもひいたのかな、今日は雨降っているのに)
 思えば彼女が雨の日に休んだ記憶がない。
 単に気づいてないだけかもしれないけど。
 誰しもが彼女の存在は最初から無かったかのように静かだった。
 先生も何も言わない。
(え?おかしいぞ)
 そういえばホームルームで名前も呼ばれていなかったような。
 どうしたんだ。
 風邪なら「今日は○○は風邪で休みだ」って言うはずだ。
 連絡がないのなら名前は呼ばれる。
 僕の記憶が間違ってなければだけど。
 誰か休んだらいつも先生が言うのに。

「レイちゃん休みかな」

 休み時間ナガミネがやってくる。
(ミネっち、SNS対策会議で決まった「僕に近寄らない作戦」は有名無実になっているな。修学旅行で気が緩んだか)
 彼女の表情からは修学旅行の帰り際にあった曇りは見られなかった。
 割り切りが早い性格なんだろうか。
 でも良かった。
「マーちゃんどうしよう、我らの女神がいない・・・」
「お隠れになったんじゃ・・・」
「天岩戸じゃあるまいし」
 マイサンズは完全復活。
「レイコさんいないね」
 マイコちゃん。
 今朝、何時も通り挨拶したら彼女が以前のような輝きをもって僕に応えてくれた。これだけでどれほど救われるか。
「天照大神はアメノウズメの全裸ダンスで出てきたと伝承にあります」
 ミツ、絶好調。
「全裸 言うなし」
 マキも。
(ああ・・コレだよ。これでこそマイサンズ)
「ここは一つ・・・」
「ちょっとセクハラ!」
 修学旅行でナガミネとミツやヤスも随分近づいた気がする。
 まだまだ彼女は目線は合わせられないようだけど。時折ツッコミが入る。
「勘違いされては困る。レイコ姫が全裸ダンスをして喜びそうな相手ときたら・・・」
「マーちゃんですね博士」
「えー!」
 ヤス・・・なんでミツが博士なんだ。ナガミネ、頬を染めるな。
 頬を染めたミネっちは可愛い。
 それよりもなんで僕なんだ。
「いやいやいや、ミネっち、その反応は間違っていると思う。昼休みに先生に聞いてみるよ」
「それが良さそうね」
 さすがマイコちゃん、冷静。
 以前の彼女に戻った気がする。
 戻ったというより、これもまた彼女の一面なんだろうな。
「だよね」
「やりたいなら止めないけど・・・」
「ちょ!」
 なんだろう・・・嬉しい。
 彼女が、マイコちゃんが戻ってきた気がして。
 言いたいことも聞きたいことも山程あったけど、もういいやって気になってる。
 先生じゃないけど、済んだことだ。

「しばらくこれない?」

 オグラ先生が言った。
 学年主任だ。
「どうしてですか?風邪か・・・何か?」
「いえ、違います。とにかく今はこれないのよ」
「事故とかじゃないですよね?」
「事故・・・じゃあ・・・ないわ・・ね」
 なんだ今の間は。
「これ以上言えないのよ。ご免ね」 
 どういうことだ。
 何があった・・・。
 どうして・・・。
「帰り寄っていいですか?」
「あ・・・それも出来ればしないで」
 何を言っている。
「どうしてですか」
「んー・・・刺激することになるから」
「刺激?刺激って・・・」
「とにかく行かないで」
「どうしてですか」
「どうしてでも」

 普段は穏やかなオグラ先生が厳しい顔を見せた。
 職員室を出る頃には先ほどまでの浮かれ調子は完全に消え去っていた。
 刺激?何をいっているんだ・・・。

「マー・・・さん」
 遠くで声がする。
「あ、ナメカワさん」
 どうしてココに。
 どうしてと言っても彼女は割りと職員室にいる。
 彼女は何時ものような笑顔。
 僕を熱く見つめた。
 魔力を秘めたような魅力的な目線。
「話があるんだけど」
「うん。何?」
「ここじゃなんだから・・・」
「わかった」

 ナメカワさんもココを使うのか。

 僕とレイさんが何度か話し合った屋上前の階段に彼女は僕を招いた。
「麗子さんのこと」
「え!」
 思わず声が出る。
 先生も大概超能力者みたいだけどナメカワさんにも度々驚かされる。
「何か知っているの?」
「うん」
「教えて!」
「いいけど・・・聞かない方がいいかもよ」
 心臓が強く鼓動をうつ。
 何があったんだ。
 嫌な感じがする。
「大丈夫・・・」
「そっか・・・」
「うん」
「凛々しいのね。格好いい・・・」
「何があったの?」
「彼女・・・停学になったみたい」
「てっ!」
 声が大きすぎた。
「どうして・・・」
「スズキ先生に手を上げたみたい」
「えーっ!・・・度々ごめん」
「実際はわからないけど、彼女が何もいわなくて目撃者もいないようだから。そういうことになっているみたい。スズキ先生の話だといきなり突き飛ばされたって。今朝気づいた?包帯巻いていたでしょ」
 かもしれない。
 覚えていない。
 ただ・・・焦っているような印象が思い出された。
「それで職員会議なんじゃないかな」
 彼女は事情通。
 いつも助けられている。
 ナメカワさんから聞かなかったらレイさんのお金の件もわからなかった。
「何か理由があるんじゃ・・・」
「理由はどうあれ、先生に手を出しちゃ・・・ね」
「そうかもしれないけど・・・でも理由次第では仕方がないってことも」
「彼女には優しいのね」
「そうじゃないけど・・・」
「私には優しくしてくれないの?」
「え?・・・」
 彼女が僕に近づいてくる。
 今まで見たことがない表情。
 胸が高鳴る。

「マーちゃん!」

 あれ、マイコちゃん。
 どうして。
「聞いた彼女のこと?・・・ちょっと来て」
「・・・うん。ナメカワさんゴメンね。ありがとう」
「もう一つ」
 彼女は僕を強い言葉で呼び止めた。
「彼女あのままだと退学になるよ」
「どうして・・・」
「欠席裁判ってやつ。何も言わないということは肯定したことになる。それに反省もしていないことにも。元から彼女に対する先生方の評価からしても・・・退学でしょうね」
「そんな・・・あんまりだ」
「彼女を辞めさせたくなかったら私を頼って。手はあるから」
 小声で言った。
「本当に?その時は・・・」

「はやく!」

 どうしたんだ。
 なんなんだよマイコちゃん。
 ちょっとぐらい待ってくれよ。
 仲直り出来たんじゃないのか?
 さっきまで穏やかだったのに、今度はやけに気性が荒い。
 地はああなんだろうか。
 またマイコちゃんのことがわからなくなってきた。

 僕を酷く睨んでいる。

 また浮気者だとか思っているのかな。
 全くもう。
 彼女は降りるなり僕の袖を掴んで強く引いた。
 そして彼女もまた小声で言う。
「あんまり近づかない方がいいから」
「え、どうして?」
「どうしても」
 なんなんだ。
 どうしてキチンと理由を言ってくれないんだ。
「だって彼女は・・・」
「どうしても!」
 全く!
 なんなんだよ!
 なんで!
 なんでなんだ!
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