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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第五十六話 ほろこび と つくろい

 SNS対策会議は僕にとって単なる大義名分になりつつあった。
 それほどまでに楽しいものだった。
 勿論、気にならないではない。
 全く凹んでいないでもなかった。
 SNSでは相変わらず「名無し」が猛威をふるっている。
 参加者は減り、嫌悪するムードは濃厚になっている。
 僕とレイさんは確実に孤立を深めている。
 本音を言えば先生のアドバイスを聞いていなかったら僕は心が折れていたかもしれない。そして二人がいなかったら。
 先生はそれを見抜いたようで僕に言った。
「まぁ、その程度で嫌気がさすような、自分はその程度の人間と腹をくくるんだよ。人にはそれぞれ活躍する場所がある。何も全員が勇猛果敢である必要はない」
(そうだ。今の僕の活躍の場はココだ。この対策会議なんだ)
 そう思ったらなんだか急に胸のつかえが取れた気がする。
 そして会議での二人が僕を支えてくれた。
 ナガミネはいつも申し訳無さそうにし、同時に僕らの分も怒り狂った。
「なんなのアイツ!ほんとムカつくわ。ボコボコにしてやりたい」
 ナガミネとボコボコというワードのなんとも不釣り合いなこと。
 ボコボコという彼女はどこか可愛い。
「何 笑ってんのよ」
 怒りが収まらない彼女を見て思わず微笑んでしまったようだ。
「僕が思っていたことをナガミネが言ってくれたお陰でスッキリしたもんだから」
 最近はなんだかナガミネのあしらいを心得てきた気がする。
「そういう物言いはイケメンだけに許されるんだからね」
「悪かったねイケメンじゃなくて」
 どうしても笑みが溢れる。
 彼女は涙目になって怒っていた。
 それがどうにも嬉しかった。
「本当にありがとうな。だからナガミネは気にすることはないよ」
 彼女は自分だけが攻撃対象になっていないことに引け目を感じていたようだ。
 あくまで僕の推測だけど。
 何せクラスで僕らは孤立を深めている。
 レイさんも寧ろ僕を気遣った。
「私のせいでご免ね」
 昨日、一瞬二人になった時にポツリと言うのを聞いた。
 二人の気遣いが温かかった。
(別に好きでもない連中に無視されたっていいかな)
 そんな気になっている。
 こんなにも温かい気持ちでいられるのは二人のお陰だ。

 ミツとヤスに対しては自ら引いている。
 引け目じゃない。
 ミツやヤスを巻き込みたくない。
 ただでさえ二人はややクラスから浮いた部分がある。
 ミツは空気が読めるのにわざと読まないがヤスは違う。サイトウ辺りはヤスを毛嫌いしているのが態度で明らかだ。
 二人との関わりは挨拶だけにとどめているが、いつしか返事は無くなった。
 今朝も申し訳無さそうに僕を見る。
 始めこそうら寂しいものを感じたけど今では許容できる。
 弱いのは僕だけじゃない。二人の姿は僕の姿でもあるんだ。
 何せあの表情だ。
(気にするな)
 恐らく誰かに言われたんだろう。

 皆への挨拶だけは続けている。
 でも無視されるようになった。
 徐々にではあったけど、ある段階から潮が引くように皆の態度が変化する。均一化していった。寂しいものを感じながら一方で「こうして人は動くものなんだな」と考える。
 レイさんからも無視。ただ彼女については織り込み済みだ。
「いきなり挨拶しないのも不自然だし、私が挨拶を返すと同じ穴のムジナと思われるからマーさんは普通にね。出来れば無視された後から私にだけ挨拶しないようにすればいいと思うんだけど」
「それは出来ない」
「一時でも?」
「うん・・・」
「マーさんは不器用だね」
「先生にも言われる」
 僕が「先生」といっただけで彼女の表情は花が咲いたように明るくなる。
 この顔だけで相手をどう思っているか想像するに難くない。
(やっぱりレイさんは先生のことが好きなんだろうか・・・)
「わかった。でも私は応えないからね」
 僕は反対したんだけどレイさんは頑なに拒んだ。
「私は私。マーさんはマーさん」
 彼女は言わなかったけど自分にヘイトを集めるようとしている。
 皆の嫌悪を自分に向ける為だと僕は推測する。
 ナガミネの言葉が思い出される。
 彼女が守っている。血まみれで。
(情けない・・・)
 ナガミネはピンときていないようだ。

 体育では少し辛い。

 僕の組手相手がいなくなったからだ。
 何気なく感じていたマキ、ヤス、ミツの存在が大きくなる。
 また、よりによってKY(空気が読めない)なことで有名な先生のジャージャーが僕の傷をえぐりにえぐる。
「なんだお前友達いないのか?」
(やめろ、それは今の僕に効く)
「おい、誰か」
 皆が目を逸らす。
(頼むから先生そっとしておいてくれ・・・)
「なんだお前、嫌われ者か?」
(バカヤロウ。お前は教員免許取り消してもらえ)
「しょうが無いな~ほら肩をかせよ」
(くそー本当はテメーの汚い肩なんぞいらんわ!)
 そう言いたい。

 休み時間は一人だ。
 今まではマイサンズの面々が僕の席の回りに自然と集まった。
 それがまるで虫よけでも焚いたように空白になった。
 最初の3日はきつかった。
 それも先生との話で僕の価値観が逆転してからは一気に緩和される。
「好きなことが出来ていいじゃないか」
「でも先生・・・寂しいもんですよ」
「か弱いねぇ」
(まただ)
「先生はどうだったんですか?」
「僕かい?勝手きままにしたいのにぞろぞろついてきて邪魔臭かったよ。あんまり鬱陶しいから時々『ついてくるな!』って声を張り上げるんだけど、そうすると遠巻きについてくるんだ」
「もっと鬱陶しいですね」
「だろ!もっと邪魔なんだよ。だったらしょうが無いってんで好きにさせたよ」
「人気者だったんですね」
「さーね、どうだろ」
「でも友達一杯いらしたんじゃないですか?」
「友達なんていないよ」
「え?でも今さっき一杯ついてきたって」
「単に付いてきたかっただけでしょ」
「いやいや先生それって友達じゃないんですか?」
「君にとって友達って何だい?」
(また難しい質問をいたいけな高校生に・・・)
 でも改めて問われると思いつかないものだ。
「・・・仲間より近い存在でしょうか」
 急場しのぎにしては悪くない答えじゃないかな?
 先生は目線を下げるとポツリと言った。
「人は誰だって独りだよ」
「・・・」
 先生の言うことは難しい。
 何があったんだろう。
 踏み込んではいけない気がした。

 休み時間が暇になった。
 暇だからは自ずと予習や復習をしたり本を読みだす。
(回りに人がいないということは案外静かなものだな)
 そう感じるようになる。
 最初はそれでもどこか周囲が気になっていたけど段々気にならなくなる。
 驚いたことに勉強は家でやるより捗る。
(なんなんだこれは)
 疲れた時は休み時間がいい仮眠タイムになる。
 アルバイトの翌日なんかそうだ。
 もうアルバイトが楽しくて仕方がない。
 レイさんが可愛すぎる。
(もう!)
 駄目だ寝ながらニヤけてしまう。

 昼休みも一人になった。
 レイさんが提案し昼に一緒するのは止めにしたからだ。
(それが残念で仕方がない・・・)
 こればかりは猛烈に反対したけど彼女はおれなかった。
 僕の癒やしが、僕の憩いのひと時が失われた。
 僕は一人に。
 一人で弁当を食べる。
 一人弁当がこんなに寂しいものだとは思わなかった。
 思うに、周囲が友達同士で盛り上がっているのに、僕だけが一人だから孤独感が際立つんだ。悪い意味での相乗効果。
 二日目はさすがに堪えて思わず父さんへ遠回しに愚痴ってしまう。気付かれないようにした。気づかなかったと思う。まさか僕がクラスで無視されていると聞いたら母さんも父さんも悲しむだろう。
「当然そうなるよ。人がいるからこそ孤独というのは感じるものだね。お父さんの会社でもあるんだけど、誰も見知った人もいないパーティーとかに上司の代理とかで行くとね、不釣合い感もさることながら、よそ者感が強い。まー落ち着かないね」
「そういう時は父さんどうするの?」
「どうもしないよ。とりあえず食べるかな。ガツガツしない程度にね。ああいう時も見られているものだから。寧ろああいう時の方が人は見ているよ。騒がず慌てず怒らず落ち込まず何事もなかったように静かに食べどっしりと構える・・・。自分が出来ているかどうかわからないけどさ」
 父さんは笑えるんだ。
 僕はその時には笑えなかった。
 レイさんはこんな感じの中にいたんだ。彼女は以前のように昼休みになると忽然と消えた。僕も消えようかと思ったけど、まるで二人で密会しているみたいに思われるかもしれない。そうなったら彼女の努力を僕が踏みにじることになってしまうと思った。

 ここで意外な問題が出た。
 ナガミネだ。
 昼休み僕が一人で弁当を食べていると、彼女はまるで僕を捨てられた犬猫のように見ている。
(ナガミネ見るな!バレるだろ。お前見過ぎ!)
 あの表情は裏を返すと僕が寂しそうに食べているように見えるからかもしれない。
 そうか・・・そうなんだ。
 気づかなかった。
 寂しい。
 そうだ。
 僕は今凄い寂しい。
 レイさんにシャブリつきたい。
 いやナガミネでもいい。
 こんなに人が恋しいなんて思わなかった。
 スズノがいたら今直ぐにでもハグしたい。
(付き合っている時ですらしたことないのに)
 思わのは実に勝手だ。
 ナガミネの表情を見ていたら心配かけてはいけないと思うようになった。
 時々、瞬間的な変顔で応える。
(俺は平気だからこっち見んな)
 何故か彼女は腹をたてたようでキツク僕を見返した。
 僕の気遣いがわからないのかね。
(だから見るなって仲がいいのがバレるだろ)

 こうした暗黙のやり取りをしているうちに瞬間変顔芸が身についてしまう。
 こういうのも怪我の功名って言うのかね?
 わざとナガミネの視界に入った瞬間に変顔をする。
 余りの不意打ちにか、彼女は吹き出す。
 そしたら大成功。今日はいい日になると勝手に決めた。
 大チャンスは牛乳を飲んだ時だ。
 僕はお腹がくだるから牛乳は飲まない。
 昨日は華麗に決まった。
「ちょっとミネちゃんどったの!」
 アニメ声のアンさんが思わずキャラづけを忘れて素になった。
 彼女はいつも自分を演じている風でどうも苦手だ。
(『どったの』っていうのは方言か何かかかな?)
 ナガミネは普段から想像も出来ない眼力で僕を睨み返すが僕は何事もなかったように通り過ぎる。

「マーさん変顔はヤメテよ!」
 いつもの作戦会議で苦情。
「変顔?」
 レイさんが不思議そうに見る。
 当然レイさんにはやっていない。
 彼女に僕の不細工な顔を見せたくない。
「何のこと?」
 僕はすっとぼける。

「信じられない・・・」
 ナガミネはレイさんにしがみつき僕の悪行をお代官様に訴える。
「私にも見せて」
「え、何を?」
「マーさんの変顔」
 笑顔のレイさんにお怒りのナガミネ。
「いやいや何のことやら・・・」
 二人が拍子ぬけしたような顔を見ながら僕は真顔で応える。
「非道い信じられない!」
 益々お怒りモードのナガミネはレイさんの膝下で悔しげだ。
 レイさんは彼女を慰める。
(ユリユリじゃ~ヤスの大好物が目の前でリアルにぃ~眼福々。なるほどヤスの言うのもわからないではない)
 至福のひと時。
 レイさんは僕が彼女をからかっているのを解ったようだ。
 ここがナガミネとは違う。
 彼女は僕を見ると、顔で「ほどほどにね」という表情をした。
(この表情がまたエロイ!)
 後々の為に目に焼き付ける。
 ここ数日は変顔のバリエーションの為に動画サイトを見たり、鏡を見て練習もしているんだけど、昨日なんて自分で吹いてしまった。

 お母さんというのは不思議な人だ。
 出くわしたくない時に限って出くわす。
 僕が今朝何気に変顔の練習しながら歯を磨いていたら最大級の時にやってきた。
「なに、どうしたの変な顔して?何かあったの」
 母さんはどうにも繊細な気がする。
 何かっていうとすぐに心配するんだ。
「なんでもないよ」
「嘘おっしゃい、今凄い顔してたでしょ。学校?それともアルバイト?だから母さん反対したのに」
 鋭いんだか鈍いんだか全くよくわからない。
「日々刻々あるよ。生きているんだから」
 お母さんの前ではつい先生の言葉が口をついてしまう。
「何言っているの。全く悟ったようなこと言って。それも先生が言ったの?」
 どうして母さんは先生をそう煙たがるんだ。
 あんなにいい人は見たことがないのに。
 きっと母さんみたいな人が先生にコロっといっちゃうんだろうな。
 嫌よ嫌よも好きのうちっていうから。
「先生は関係ないよ」
「またそういう嘘をつく」
「僕ってそんなに信用ないのかな?」
「そういう問題じゃないの」
(じゃあどういう問題なんだ。全くもって意味がわからない)

 作戦会議の時は母さんがいない日を出来るだけ選んでいる。
 今のところレイさんがあの麗子さんだとは気づいていないようだ。
 無理もない。
 まるで別人だ。
 これで王子様がいればシンデレラストーリーである。
(あ、王子様はいるか・・・会ったことがないマーさんとやら)
 面白くない。
 母さんというのは面白い人だ。
 下手に隠すと余計に怪しまれると思い最初に紹介した。
 彼女らが帰った後、妙に僕を意識しているのが感じられた。
 何かと思ったらこう言った。
「どっちが本命?」
 いきなりだなぁ。
「本命って?」
 すっとぼける。母さんの言うことを一々真面目に取り合うとろくなことにならない。
「とぼけて。好きなんじゃないの?」
「友達だよ」
 またしてもすっとぼける。
「浮気はダメよ」
 なんなんだ。唐突過ぎるでしょ。
「僕は一途なんでね」
「知ってるけど」
「知ってるならなんで疑うの」
「疑ってないでしょ。浮気はダメって言っただけ」
「浮気すると思うからでしょ?」
「貴方もお父さんに似て捻くれて受け取るのね。前は素直だったのに・・・」
 出たよ。
 いいところは私似、ダメなところは父さん似。なんとも身勝手な。
「わ・か・り・ま・し・た」
 厭味ったらしく言うと悲しそうな顔をした。
 面倒くさい、実に面倒くさい。
 言った僕にだけ罪悪感が残るじゃないか。そこんところどう考えるんだろう。
 ただでさえ面倒くさい最中にいるのに。
 僕の味方は二人と先生、父さんだけか。
(ま、そんなこと言っちゃ母さんも可哀想か)
 あれでも気遣っているつもりなんだろう。
「お母さん・・・美人の子は止めた方がいいと思う」
 メンタルが強いのか弱いのか敏感なのか鈍感なのか。
「なんで?」
 よせばいいのについ聞いてしまう。   
 何せレイさんが絡んでいる。
「あんなに美人だと苦労するわよ」
「苦労したいねぇ~」
 すっとぼける。
(今ふと思ったけど僕って結構すっとぼける?)
 先生が言っていたことを思い出した。
「君は煙に巻こうとするね」
 相手と真摯に向き合っていないと言っていた。
(そうなのかな・・・自分ではかなり向き合っていると思うんだけど)
 今は無理だ。色々とありすぎる。
 母さんの面倒まで見きれない。自分だけでアップアップ。
「お母さんは真剣に言っているのよ。貴方はいい子なんだから、変な相手なら利用されるかもしれないよ」
 一瞬、カチンと頭に来たのが自分でもわかった。
(冷静になれ自分!今母さんにヘソ曲げらたら僕の唯一の癒やしが失われる)
「余計な・・・」
(お世話なんだけどね・・・駄目だ、売り言葉に買い言葉になる)
「・・・忠告ありがとう。肝に銘じておくよ」
(ギリギリセーフ・・・偉い僕、我慢した)
「本当よ。本当に肝に銘じておいてね!」
(何も知らんと・・・お前も少しは自制しろ!大人だろ!)
 そもそもなぜそうも真剣な眼差しなんだ。
 これから戦いにでも行きそうな目じゃないか。知らないけど。
 何故か僕は母さんの目を見ているうちに、こみ上げていた怒りや、強張り固くなっていた精神が和らぐのを感じる。
(戦意喪失ってところかな。的外れであれ心配してくれてはいるんだから)
「失敗して欲しくないの。普通の子がいいから。普通が一番なんだから」
(僕が珍しく大人しいもんだから調子にのっているな)
 再び心が毛羽立つ。
 早々悟れるはずもないって。
「お母さんみたいな?」
 我ながら嫌味ったらしい言い方だった。
「嫌味なこと言わないで」
 こういうのは伝わる。
「ごめん・・・今のは悪かった」
 さすがに言い過ぎた。
「いいの・・・やっぱりいい子ね。あなたは本当にいい子よ」
 ビックリした。
 母さんが僕の手をとる。
 何年ぶりだ母さんの手。
 記憶にある限りでは中学一年生の入学式以来だろうか?
 思えばまじまじと見た記憶がない。
 以前とどこか違って感じられた。
 母さんの過去に何があったのか。
 あの意見は単なる一般論なのか。体験からくる話か。
 考えてみると僕は母さんのこと知っていそうで何も知らない。
(僕が学校で無視されていると知ったら悲しむだろうな)
 どうあれ心配かけたくない。
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