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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第四話 視線

 僕にとっては幸いなことにこの5日ほどは雨だった。まさかこれほど雨の日に胸躍るようになるとは夢にも思わなかった。癖毛な僕は雨になると巻が強くなるのが密かに嫌だった。濡れるのも好きじゃない。
 都度、例の場所へ向かったがこれといった収穫はない。彼女が一体なんで彼処にいるのか全くわからないでいる。この頃になると自分がストーカーみたいだという疑問すら薄れてきた。彼女への興味から彼女の行動の興味へと移り変わっている。ふと 名探偵シャーロック少年の事件簿 を彷彿とさせ少し興奮もしたが、連続5日ともなると「探偵って地味なものだな」と思うようになっていた。
 彼女そのものには何ら変化はない。いつも楽しそうだ。直接彼女に問いたかったが、それは即「僕はストーカーです」と言っているようなものだと思った。ストーカーじゃない理由を説明したくとも、恐らく取り付く島もないもないだろう。いっても大差ないことをしているのも事実だし。
 今も挨拶すら返ってこない。我が友、マキのキラーパスにより目が一度あって以来、以後は目線すら合ったことがない。言葉どころでは。それでも僕の興味は泉のごとく湧きい出て自分でも一体どこにこんな情熱があったのか驚くばかり。寝ても冷めても彼女ことばかりが頭に浮かんでしまい色々な意味で困ってしまう。飽きもせず彼女を眺めている自分に違和感を一方では感じる。
「好きな子でも出来たの?」
「え?!どういうこと」
 母さんってのはどうしてこう会話が異次元なのだろうか。
「あれ?違ったかしら。おかしいわね」
「だからどういうこと?」
「だって最近の貴方ったら妙に楽しそうだし。帰りが遅い時あるでしょ。特にここ一週間ぐらい。彼女でも出来たのかなぁーって母さん思ったから」
「違うよ。ちょっとね気になることがあって」
「ほらな。言った通りじゃないか。母さんは早合点が過ぎる」
「でもね万が一ってこともあるし。じゃあこの機会に言っておくけど彼女が出来たら母さんにも紹介して。絶対煩く言わないから」
「そのつもりだけど」
「まー!嬉しい。以心伝心ね」
「おいおい、そういう発言は彼女が出来た時にマザコン対象になるから注意しないと」
「まさか?!この程度でマザコンはないでしょ。一人息子を大事に思うのが悪いことなの」
「良い悪いじゃないんだよ。そういう発言そのものマザコンと誤解される原因になるんだから。だろ?」
「そうだね。母さんが悪気はないのはわかるけど・・なんていうかクラスの連中なら”気持ち悪い”って言うよ」
「まあ酷い!母さんって気持ち悪いの?」
「いやだからそうじゃなくて」
「どういうこと?」
「まーさておきあれだ。とはいえ、女の子が絡んでいるのは間違いないんだろ」
 僕は核心を不意に突かれ心臓が大きく唸った。
「うーん、まー、そうだね」
 嘘を言っても父さんにはすぐバレる。子供の頃に随分言われた。
「嘘をつくのは弱さの現れなんだぞ」と。
 素直に「そうだ」と言えない自分が恥ずかしかった。そう強くはなれないものだ。強くなりたいけど。
「ほら!」
 母さんが息を吹き返す。
 この場は父さんがなんとか収めてくれたから良かったけど、まさかそういう風に見られているとは思わなかった。じゃあ、やっぱり彼女も気づいているんだろうか。
(まずい・・・それって完全にストーカーフラグでしょう・・・)
 ここ数日完全に薄らいでいた言葉が痛烈に蘇った。
(彼女を一旦忘れるか?)
 って忘れられれば苦労はしない。既に頭の中は彼女のことでパンパンなのに。
(聞くか?)
 挨拶すらしてくれないのに?
 しかし可能性はゼロじゃないかもしれない。
(待てよ。そもそも彼女の声の記憶がない)
 どういう声をしているのだろう?
 ふと、この前 古文の授業でやった「名を聞くより」というのを思い出した。徒然草だったろうか。慌てて教科書を取り出し捲ってみる。
(やっぱり徒然草だ)
” 名を聞くより、やがて面影は推し測らるる心地するを、見る時は、また、かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ ”
 確か意味するものは ”名前を聞くとその顔がすぐ見当がつきそうだけど実際に顔をみると随分違う” といった感じだったと思う。
 それと同じようなことが声にも言えるなとその時に感じた。声も顔と全然一致しないことが多い。友人とのゲームプレイ動画で自分の声を不用意に聞いた時の落胆といったらない。「誰だお前は」って感じた。
(彼女はどんな声なんだろう。ザマさんみたいに可愛い声かな。それとも大佐のようなアダルトな声か・・・)
 麗子という名と彼女の雨の日の顔は完全に一致していると思う。でも最初の頃は名前負けだと思っていたのも事実だ。人はこんなにも価値観が反転するものかと感じた。
(興味が増えてしまった)
 となると忘ることは無理そうだ。
 どうにかして彼女に聞きたい。
「でも、その道程は遠いなー・・・」
(遠いというより・・可能なんだろうか・・・)
 それでもマキや両親だって気づいているんだから彼女も僕の視線に気づいているかもしれない。
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