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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第四十八話 一人相撲

 気のせいじゃなかった。
 今日もレイさんは普通の格好をしている。
「お、おはよ」
 ぎごちない僕の挨拶。
 今までのようにはいかない。
 気にしないようにと思えば思うほど緊張している自分がいる。
「おはよ」
 エロイ・・・。
 自然に応えてくれた。
 信じられない。
(普通に返ってきてエロイって思う僕もたいがいだな)
 夢なのか。
 夢なら覚めないで欲しい。
 昨日は悶々としながら眠った。
 バイトの店長に彼女のことを話せなかった。
(紹介するって言ったのに・・・)
 だって聞き間違いだったら一人で浮かれてバカみたいだ。
 もう一度、彼女の意思を確認したい。
 僕は完全に舞い上がっていたから。
 今でも信じられない。
 何があった?
(それは言い訳で本当は話したいだけなんじゃないか)
 これは必要なことだ。
(彼女を見ると鳥肌が立つ)
 全身に虫が這いずったような・・・って想像するな。
 漲ってくる。
 力が、全身から溢れてくる。
 なんでも出来そうな、そんな気が湧いてくる。
(あ、今僕を見た。笑った・・・笑った!・・・)
 また鳥肌だ。

 本当にレイさんなのか?

 別人なんじゃ・・・。
 今までの学校でのレイさんとは違いする。
(でも外ではああだっただろ)
 そうだ。 
 外でのレイさんそのものではある。
 あの時の短パンとTシャツを着せたら・・・。
(何を想像している)
 煩いわ!
 ・・・間違いない。レイさん。
 でも人間そんなに変われるものなのか?
 二学期デビューって言葉はあるけど、二学期の途中だよ。
 どうして急に・・・。

 あ!

 思い出した。
(先生と会ったって言っていた)
 そうだ!
 どんな話をしたんだ。
 昨日は少ししか聞けなかった。
 レイさんの言葉の雰囲気からは親しみが感じられる。
(本当にいい先生ね)
 そう言ってたな。
 まさか・・・先生のことが・・・。
(何を考えている)
 ありえる!
(ありえない)
 まさか!
(まさかとは?)
 あー・・・。
 指を噛んでいる自分にすら気づかないほど動転している。
「おい」
 マキが小突いてきた。
「ん・・・ん?」
「あれ本当にヤツなのか?」
「うーん・・・」
「なんだよ自信ないのかよ」
「・・・彼女だと思う。ていうか彼女だよ」
「お前しかヤツを認識出来ないんだからしっかりしろ。隣のクラスじゃ芸能人が転入してきたってことになってるぞ」
「なんで」
「知るかよ」
「そっか」
「まただ。昨日から先生がヤツのところに何度も来るな。見てみろよ、マドレーヌのヤツ、アイツ何度目だよ。ほら見てみろあの顔、笑う。ファンの集いに来たヲタクみたいな感じじゃね?」
「うん・・・まるっきりそれブーメランだけどね。・・・やっぱりレイさんだよ」
「お前がそういうんならそうなんだろうが・・・しっかし美人だよなぁ・・・信じられんな。あのシカ・・・もといYOUレイがね・・・っていい加減言いづらいよなこの言い方。レイコでいいか」
「それは駄目」
「なんでだよ」
「親しくもないのに呼び捨ては失礼」
「お前、時々面倒くさいな」
「うーん・・・」
「牛か」
「うーん」
「モ~」
 レイさんがこっちへ来る。
 え、どうしよ、どうしよ。
 マキが逃げた。
「ちょ、おま」
「あのさ」
「ごめん!」
 反射的に出た。
「え?」
「え?」
(見てたのがウザかったでしょ)
 レイさんが口を抑えて小さく笑う。
 可愛い・・・。
「良かったら今日もお昼一緒にいい?持ってきてはないけど」
「え・・・もちろん・・・」
「ごめーん、今日は譲って」
「え?」
 マイコちゃんが割って入った。
 怖い顔をして僕をひと睨み。
 なんでだ?
「それなら明日いいかな」
「私は別にいいけど」
 マイコちゃん態度悪いな。
 それに対してレイさんは全く動じていない。
 男前や~。
「じゃあ、予約しておくね。いいかな」
「あ、僕はいいけど」
「明日はあるんだ、お昼」
 笑った・・・。
 あー可愛い・・・。
「そうなんだ!」
 僕の反応に対してまた睨んだ。
 マイコちゃんなんなんだ?
 レイさんの弾む声に対して彼女の嫌味っぽい言い方。
 それにしても本当に、本当にレイさんなのか?
 人間こんなにも変われるものなの。
 信じられない。
 誰かおしえて。
「ごめん、明日ね」
 背中に声をかける。
 ドキドキしている。
 なんでドキドキしているのかわからない。
 マイコちゃんが怖くてドキドキしているような気もする。
 ぎょうそう、って言うけど、本当にこれが形相って感じ。
「おい見たか、あれ本当にレイコなんだろうな、本当か?違うんじゃないのか?」
 マキが戻ってきた。
 まったく、調子がいい。
「呼び捨ては気になる」
「また始まった」
「僕も正直信じられないよ。どうして急に」
「お前も知らないのか」
「うん・・・」
「なんだよ、どうした?」
「お昼マーちゃんに話しがあるのよ。あんたも来なよ責任あるんだから」
「なんで俺に責任があるんだ?」
「いいから」
 そう言うと彼女も席に戻る。
「おい、お前マイコと何かあった?」
「ないよ。どうしたんだろう、すっごい睨まれた」
「だよな、あれは本気モードだ。下手なこと言うと手が出るぞ」
「マイコちゃんってそういうとこあるの?」
「そういうところばかり」
「うそ」
「ま、ばかりは嘘だけど。アイツ突然わけわかんないことで怒りだすから」
「例えば?」
「俺コーヒー牛乳すきだろ、パックの」
「あーよく飲んでるね」
「あれをさ、ゴミ捨て場に投げたら怒られた」
「お前そういうところあるよな」
「だってゴミ捨て場だぜ。回収されるだろ」
「多分そこを言ってるんじゃないんだけどね」
「それで『ゴミはゴミ箱でしょ!』って言って怒鳴って拾うんだよ。そこからはグチグチと言って機嫌が悪くなる。たかだがゴミだぜ~。何もない所に、道とかに投げているわけじゃないんだから。ちゃんと気を使ってゴミ捨て場だよ」
「まーお前が悪いわ・・・」
「なんでだよ」
「その話は後にしよう」
「お前・・・やっぱりマイコとの間に何かあったろ」
「ないって」
「・・・ないか」
「ないよ」
「だよな・・・すまん」
「うん、いいんだよ」

 昼は三人でってことなんだろう。
 ヤスとミツには悪いけど。
 なんで怒っているんだ。
 マキじゃないけど本当に心当たりがない。
 マキはマキで彼女の沸点がわからないってのもどうかと思うが。
 あれでもマシになったほうだ。
 前はそれこそ道端にヤツが投げ、僕が黙って拾う、そういう構図だった。
 そんなことをしばらく続けているうちにポイポイ捨てなくなったような気がする。そういう経緯を知っていると「えらくなったね~」と、息子の成長を見守る父のような気分になるけど、過程を知らない彼女からすると単なるポイ捨て男なのだろう。相当マシになったんだけどね。
 マイコちゃんはヤツの部屋に入ったことないんだろうか?ヤツの部屋はまさにゴミ捨て場のような部屋だった。今でも十分汚いけど、初めて見た時は、「なるほどなー」といたく得心したものだ。汚すという感覚が欠けている。だって元が汚いんだから。汚すって感覚はわからないのだろう。

 昨日の話しを思い出した。

「汚ければ皆寄り付かないと思った」
 たしかそんなことをレイさんは言っていた。
 さっきとは別な感覚で鳥肌がたつ。
 寒々しい。
 ところでマキじゃないけど、どうしてマイコちゃんはあんなに睨んだんだ。

(ひょっとしてミズキさんのことを心配しているのかな)

 だとしたら心外だ。
 僕が彼女のことを軽々に考えていると思っているってことだから、とんだ失礼な話だろ。そんな軽い男なら苦労はしない。先生も言っていた、
「真面目すぎる。合意の上なら遊んじゃうぐらいの感覚が欲しいね」
 まさか先生がそんなことしているとは思わないけど。
 それにそれって軽すぎないか?
 僕は嫌だ。
 正式に申し込むつもりでいる僕にあの態度はないでしょ。
 でも知らないから無理もないか。
 まてよ、それでも信じていない時点で酷く失礼な話じゃないか。
 僕という人間を余りにも知らなさすぎる。
 マキから聞いているだろうに。
 なんなんだ。
 なんであんな顔を向けられないといけないんだ。
 なんか腹が立ってきた。
 水を差すようなもの。
 彼女を紹介してもらってマイコちゃんには感謝しているけど。
 週末には丸二年ぶりに彼女もちかもしれない。
 やっぱりいいもんだよなぁ彼女がいるって。
(本当にいいの)
 いいんだ。
(本当に?)
 いい。
 彼女なら母さんも喜ぶと思う。
 ウマが合うし。
 仲良くやれると思う。
(そうかもしれないけど悔いはない?)
 だって無理でしょ。
 レイさんとはあまりにも生きてきた道筋が違い過ぎる。
(それでいいんだ)
 うん。
 仮に付き合えることになったとしてもうまくいかない。
(先生が言っていた通りだと思う)
 そう!
 違いすぎれば結局はうまくいかない。
 上手くいく道理がない。
(後悔しないんだ)
 だってしょうがないじゃないか。
 上手くいかないことがわかっていて行くのはバカのすることでしょ。
(バカじゃないか)
 バカかもしれないけど、そこまでバカじゃないと思っているよ。
(上手くいかせばいい)
 無理だよ。
 さっきの彼女を見た?
 僕だったら何があっても、あんなに変われないよ。
 人間が違う。
 彼女は凄いんだ。僕とは違う。
 強い意志力、なのに柳のようなしなやなか柔軟性。
 最高じゃないか。
 僕とはまるで逆だ。
(だろうね)
 そう、だからこれでいい。
(思いを断ち切れる?)
 断ち切れるも何も、僕は彼女に振られたんだから。
 一度や二度じゃないでしょ、三度だよ。
 いい加減気づけって話しでしょ。
(それで断ち切れるのか)
 断ち切るしかないでしょ。
(駄目になってからでも遅くないんじゃないか?)
 無駄でしょ。
(無駄?)
 人生の無駄だよ。
 時間の無駄。
 先生も言っていた。
「少年老い易く学成り難しって言うけど、あれ本当だね」
 そうだよ、時間の無駄だ。
(無駄なのか)
 無駄でしょ。
 上手くいくわけがないのにやるなんて無駄でしょ!
(でも、経験にはなる)
 そんな経験意味ないよ。
 仕事じゃないんだ。
 それに気づいてないならともかく、気づいているんだから。
「どれだけの経験をしたかで表現の幅はある程度決まってくる」
 先生の言葉が思い出された。
(先生が言っていた)
 でも。
(でも?)
 無駄だ。
 だって先生だって言ったじゃないか。
 上手くいくはずがないって。
(言った)
 そうだ、言ったんだよ。
(だから?)
 無駄なんだよ。
 僕は先生みたいに出来ない。
 僕は器用じゃないんだ。
 弱いんだ。
 そうだよ軟弱だよ。
 だからなんだ。
 それで悪いかよ。
(だから?)
 だから。
 諦める。
(だからミズキちゃんを選ぶ)
 だから。
 だから・・・。
「打算で選んでいるうちは後悔するよ」
 急に思い出す。
(先生が言っていた。先生は色々言う)
 打算・・・。
(打算じゃない?)
 打算・・・じゃ。
(これが打算じゃなくて、何が打算なんだ)

 ・・・。

 せっかく決めたのに・・・。
 せっかく苦労して彼女に決めたのに。
 どうすれば忘れられる。
 ふられたのに忘れられない人間はどうすれば忘れられる。
(彼女は微笑みかけていた)
 友人としてだ。
(少なくとも嫌われていない)
 社交辞令だろ。
 何か彼女なりに・・ひょっとしたら感謝の印なのかもしれないし。
(どんな感謝?)
 変わるきっかけに少しでもなったのでは?
(かもしれない)
 だから友達だ。
 いや、まだ知り合いか。
(嫌われていないと思っているから未練がある)
 そうだ!それだよ。
 嫌われれば未練は断ち切れる。
 そうだ。
 キチンとふられていないんだ。
(チャンスがある)
 いや、チャンスはない。
 でも、もっとしっかり断られる必要がある。
(もう一度いくか)
 それもありか・・・。
(もし彼女が受けたらどうする?)
 ・・・。
(想像したな)
 ・・・。
(おいどうした)
 嬉しい。
(それが答えだ)
 駄目なら踏ん切れる。
(駄目だと思うけどな)
 なんだよ。
 ・・・ま、そうだよな。
(その後、彼女は相手にしなくなるかも)
 辛い・・・。
(それでも踏ん切った方がいい。先へ進める)
 そう・・・だよ。
(そうだよ)
 そうだ。
 だから打算が働くんだ。
(打算と認めた)
 打算じゃないけど。
 ただのクラスメイトに戻るだけ。
(そう)
 仮にそうなったとしても挨拶ぐらいはいいよね。クラスメイトなんだから。
(それが社会、それが礼儀)
 そうだよ。
(映画でもあったろ)
 あーあったあった、気まずそうにしてた。
 気まずいだろうなぁ。
(万が一の時は最初が肝心。最初に出来ないと後をひく)
 だよね。
 元に戻るだけだ。
 考えてみると六月まで彼女とは一言も話したことなかったんだから。
 何を恐れているんだ。
 まだ挨拶が出来るだけいいじゃないか。
 そうだ。
 元から何も失うものなんてないんだよ。
 元は他人なんだから。
 クラスメイトとして大事に接すればいい。
 冷たくあたる必要もない。
 仮に彼女が冷たく来たとしても・・・。
(あれ?)
 前と同じじゃないか。
 返事がなかったんだから。
 よくやれたな自分。
 しつこいのかな僕は。
 しつこい人、僕は嫌いなのに。
 気をつけないと。

 どうしよ・・・ドキドキしてきた。
(乙女かよ!)
 煩いわ。
 男だってドキドキするんだよ。
+注意+
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