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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第四十七話 ミズキのキモチ

 マーサンさんは優しい人だ。
 私のことを気遣ってくれる。
 でも好きな人がいる。
 多分あの人。
 彼はレイさんって言ってた。
 一度だけ名前が出た。会ったことはない。
 名を出した時”しまった”って顔してた。
 でも彼は隠さず話してくれた。
 フラレタって言ってたけど、まだ好きみたい。
 私が本当に彼のことを大切に思うのなら背中を押すべきだなんだろう。
 彼は彼女がまだ好きに違いない。しかもかなり。
 痛いほど伝わってくる。
 彼は自覚がないみたいだけど。
 好きな人はいないって言ってたけど嘘だと思う。
 嘘というより、気づいていない。
 彼女のことが忘れられないんだ。
 三回も振られて忘れられないなんて、そんなことあるんだ。
 そのレイさんに嫉妬する。
 少し胸が痛い。
 私なんて一回で諦めた。
 彼はこういう状態で私と会うことに申し訳ない気持ちでいるみたい。
 私が「好きでした、付き合って下さい」って言えば彼は受けてくれるような気がする。でも、言えない。だって、多分私の入り込む余地はない。
 彼は優しいから彼女のことを忘れるよう努力するだろう。
 でも忘れられるものじゃない。
 彼の思いが強いのはわかる。
 だから言い出せないでいる。
 それを知りながら告白するのは我儘だろうか。
 でもせっかくのチャンス。
 一方では諦めたくない。
 このままじゃいけないんだろうか。
 無理か。
 いずれ彼女が出来る。
 そうしたら私とは会わなくなるだろう。
 それは・・・嫌だ。
 嫌というか・・・辛い。
 そう考えただけで胸が痛くなる。
 私は浮気じゃないんだから会ってくれたらいいと思う。
 だけど彼女が許さないだろう。
 でも私みたいな相手なら可能性もゼロじゃないんじゃ・・・。
 無理か。
 マイコなんて絶対許さないって言っていた。
 気持ちはわかる。
 私がズルいのかもしれない。
 無理だ。
 会っていれば、それだけでは済まなくなるかもしれない。
 無理なんだ。そうか。
 浮気でもいいけど・・・嘘・・・何を考えているの私は。
 そう、ずっと会うには彼女にならないと。
 どうすれば彼女を忘れられるんだろう。
 三回ふられても、忘れられない人を。
 マイコは、「ミズキ色に染めるしかないでしょ」と言ってくれた。
 それも無理だよ。
 無理だと思っちゃう時点で無理。
 私にはそんな魅力はないでしょ。
 あったら一人じゃないよ。
 胸が苦しい。
 彼にずっと彼女が出来なければいいのに。
 そうすれば・・・あー・・・やっぱりズルい女だ。私は。
 仮に彼が苦しみながらも彼女を忘れたとして、それで私が納得出来るか。
 出来ない気がする。
 罪悪感が残る。
 いっそ気づかなかったら言えるのに。
 きっとスズノさんは言える人だと思う。
 羨ましい。

 私はタイミングが悪い。

 なんでだろう。
 不思議と私は肝心な時にこそ外す。
 初めて彼を好きになった時、彼には彼女がいた。遅かった。
 スズノさん。彼女は私を知らないだろう。
 そして今回。
 せっかくフリーなのに彼は彼女を忘れられない。
 どうしてなんだろう。
 なんてついていない。
 でも本当は今でも凄い嬉しいんだ。
 中学生の時は近づくことも出来なかった。
 嬉しそうな彼を遠くで眺めることしか出来なかった。
 彼の噂を聞いて一喜一憂するのがせいぜい。
 今は違う。
 彼は手の届くところにいる。
 私の横にいる。
 私に向かって話しかけてくれる。
 手は届くのに心の距離は遠い。
 その分だけ苦しい。
 なんて贅沢。
 中学の私が聞いたら顔を真っ赤にして怒ると思う。
 彼はいつも一生懸命話してくれるけれど、どこか心がついてきていない感じがする。どこかへ置き忘れたような。
 彼は優しい。
 私の不安そうな顔を見るまでもなく気を使ってくれる。
 私を凄い丁寧に扱ってくれる。
 それだけでも私は満足かもしれない。
 これ以上は贅沢かもしれない。
 でも、そう思う一方では満たされないものを感じている。
 私って我儘なのかな。今の状況は中学時代からすれば夢のようなのに。 
 彼は覚えてなかったけど私は中二の時に隣のクラスだった。
 彼がクラスメイトと付き合ったと聞いた時はこの世の終わりかと思った。
 泣きはらしたなぁ。
 彼が私に気づくはずはない。
 でも私は知っている。
 彼の優しさを。強さを。繊細さを。
 最初に聞いたのはミカからだ。
 その時は気にも留めていなかった。
「凄い柔らかくて優しい人がいる」
 ミカは一瞬熱を上げたけど、隣のクラスということもあり直ぐに冷めた。
 野球部のハラくん夢中だったし。
 もともと私と同じで積極的な子じゃない。
 優しいなんて社交辞令だと思ってたけど彼は違っていた。
 何人から聞いたっけ。
「隣のクラスに優しい男子がいる」
 また彼だった。
 彼女と一緒のところを目撃した人もいる。
 喧嘩しているところに居合わせちゃった子もいた。
 彼女、スズノちゃんは裏表が酷い子だと噂だった。
 強いものに巻かれ弱い者に強い子。そんな印象。
 表はいつもニコニコして可愛いふりをしているのに、可愛いけど。
 弱い子にはいつも強くでたり嫌味ったらしい子だったらしい。
 私は接点が無かったけど、噂を聞いているうちにいつしか彼女のことが嫌いになっていた。
 あんな子と付き合う男子がいるとしたら余程目がない馬鹿男子だって噂だった。
 それが彼になるなんて。
 ミカも怒ってた。
 私も「なんだ、見る目ないのね」と思った。
 でもミカは彼にじゃない、彼女に怒っていた。
 ミカの話だと彼女はかなり策略家みたいだから「騙されたんだ」って言ってた。
 なるほど。彼は純真そうだからありえる。
 彼女が益々嫌いになった。
 私も学校で見たことがある。
 彼女が彼を怒鳴ってて、彼が困っていた。
 ただ彼は彼女を怒鳴ることなく、ただ聞いていた。
 友達に「痴話喧嘩はよそでやれ」とからかわれていたような気がする。
 でも彼女のことを一言も悪くいわなかった。
 眉を潜めて困った顔をして「悪いね~」と言っただけ。

 好きになった。

 同時に手遅れで泣いた。
 そうなんだ。
 彼女は度々彼を学校で怒鳴っていたけど彼が彼女を責めたところを一度も見たことも聞いたこともない。
 彼が背一杯彼女を受け止めている姿に自分が入り込む余地がないことを気付かされ私は諦めた。入り込む余地はなかった。
 彼に言いたかった。
「その子は止めた方がいい!貴方に相応しくない」
 偉そうにね。
 でも、彼は私を知らない。
 言えるはずもない。
 羨ましかった。
 あんな温かい笑顔で見て欲しかった。
 私の話を聞いて欲しかった。
 一緒に出かけたかった。
 デートしたかった。
 結局は私も彼女と変わらない。
 我儘な女。
 勝手に焦がれて、勝手に失望して、勝手に泣いて。

 皆が言っていた通り、ミカの言っていた通りの人だ。
 もっと早く気づいていいれば。
 彼の噂を聞いた時から気にはなっていたんだ。
 私はあの二人は続かないと思った。
 彼女が原因で別れる。
 一ヶ月もたない。

 その時は私にもチャンスがある。

 やっぱりズルい。
 でも、大方の予想を裏切って三ヶ月が過ぎた。
 そして彼女は変わった。
 彼と付き合って凄い穏やかになったって聞くようになる。
 私も見た。
 あの表情。
 彼と付き合う前、彼女はどこか心根を隠している感じがした。どこか腹黒いというか。後ろ暗いものを感じていた。それが穏やかな表情になっている。
 驚いた。
 学校で彼を怒鳴り散らすことも無くなった。
 二人でよく笑っている。
 でもイチャイチャはしていない。
 ただ楽しそうに話している。
 イチャイチャしているカップルもいないではない。
 先生に注意されている。
 気持ちはわかるけど、やっぱり私は違うと思う。学校だし。
 皆は「もうやったんじゃない?」って噂してたけど、そうじゃない気がした。
 そういうことじゃない。
 その後でミカが目撃したって聞いた。
 学校で彼女が彼の手をつなごうとしたら、
「だから駄目だって言ったでしょ、公共の場では節度をもたないと。放課後まで我慢して。それに我慢した方がそれだけ嬉しいでしょ?僕も嬉しいし」
「だって!彼って大人ね!」
 ミカは興奮しいた。それを聞いた私もだけど。
 付き合い始めた当初はそういうやり取りで喧嘩していたかもしれない。
 その頃になると彼女は「も~」と言いながら我慢していたらしい。
 それを聞いて気づいた。
 彼が変えたんだ。
 わかる気がする。
 彼が彼女を変えた。
 彼女を受け止めてあげたから安心したんだと思う。
 居場所を見つけた。
 私はチャンスが失われたことに失望した。
 泣いた。
 泣き腫らした。
 そして次々と使い捨てのように分かれていくカップルが多い中、二人だけは続いた。ミカや皆は奇跡のカップルって言っていたな。でも私からしたら奇跡でもなんでもない。彼が全て受け入れているだけ。彼女じゃない。

 私のチャンスは永遠に失われたと思って、また泣いた。

 いつだったか、お父さんに彼女のことを言ったら、
「お父さんの頃なら、そういう女子を”ぶりっ子”って言ったな。男は表面上はぶりっ子に弱いからねぇ。つい靡いちゃうけど、同時に気づいていもいるんだよ、ぶりっ子だってね」
「でも、なびいちゃうんだ」
「それが男だからね」
「ふーん」
 でも彼女は可愛いからぶりっ子とは言わないんじゃないのかな?ってくだらないことを思った。

 マイコから彼の話を聞いた時は心底驚いた。
「知っているその人!・・・ずっと気になってた」
 人生最大の勇気を振り絞った。
 それでも好きだったとは言えなかった。
 マイコはいい子。
 同級生なのにお姉さんみたい。
「ミズキ・・・わかった。どうにかする!」
 嬉しかったなぁ。
 本当にマイコは最高の友達。
 感謝しても感謝しきれない。
 文化祭で彼を見た時は心臓が飛び出しそうだった。
 あの頃より大人びている。
 あの穏やかで優しい笑顔。
 胸が張り裂けそうだった。
 忘れかけていたあの熱が。
 直ぐにでも付き合って下さいって言いたかった。
 嬉しくて眠れなかった。

 でも・・・。

 すぐ気づいた。
 彼は別な人を見ている。
 気づいちゃった。
 紹介される前に振られたことは聞いてた。
 少し話して、彼が忘れられないことはわかった。
 芯が抜けている。
 心ここにあらず。
 だからマイコも最初に警告してくれたんだ。
 上がってくる熱と引っ張る熱に困った。
 でもマイコの後押しのお陰で勇気が出た。
「彼は優柔だから、基本は押しまくれ!」
 マイコは本当にいい子。
「彼が本気になるまで触らせちゃ駄目よ。男なんて基本やりたいのが先だから。タカちゃんが言ってたけど他の女のこと考えて出来ちゃうんだから。マキもヤラせろヤラせろって煩いの」
「そうなの?」
 我ながら恥ずかしいぐらい目がランラン。
「うん。でも触らせない」
「でも・・・キスはしたんだよね」
 こんなこともマイコになら言える。
「キスぐらいはね」
 キスぐらいだって・・・いいなぁ。
「いつならいいものなの?」
「うーん、それ私も考えたんだけど、やりたいより好きが上回っているって感じたからかな。後、自分で・・・仕方がないって思ったら」
「キャー」
「ちょっとヤメテよ、恥ずかしいじゃない」
 さすがマイコ。
 恋愛師匠。
 好きが上回ったらかー・・・なるほどなー。
「でも、もし、そうなる前に嫌われちゃったら?・・・断るのも怖くないの?」
「んー・・・その時はその程度の男だったってことで、むしろ良かったでしょヤラなくてって感じかな。それぐらで他所見するならその程度の男ってことでしょ?たいして好きでもなかったのよヤリタイだけで」
「なるほどぉー!師匠ぉ~」
「ちょっとやめてよ」
 でも、男子ってそんなに・・・。
 あ、駄目、多分赤くなってる。
 お父さんが聞いたら泣いちゃいそう。
 小学三年生の時、タカシ君と運動会で手をつないだだけで泣いてた。
「お前がどうにかなったらお父さんどうすればいいんだよ」
 本気泣きだったわね。
 男性って不思議。
 そんなお父さんも私達の頃はヤリタイだけったのかな・・・。
 ちょっと私、何考えているの恥ずかしい。
 でも彼はどうなんだろう?
 彼もそうなのかな。

 一昨日は初めて呼びだされた。

 ドキドキした。
 いつもと違う。
 でも、そのドキドキは彼をみて飛んだ。
 何かあった。
 多分、彼女との間に。
 顔面蒼白で寂しそうな顔。
 抱きしめて上げたかった。

(多分・・・今彼を抱きしめれば・・・)

 出来なかった。
 彼も待っていたかもしれない。
 でも彼もしなかった。
 手を出さなかった。
 私にはハードルが高すぎる。
 手も繋いだことないのに。

(彼に抱きしめられたら、私は・・・)

 ズルい気がした。
 弱みにつけ込んでいるような気がして。
 彼は何があったか話すことなく、
 しばらく二人で歩いて、他愛もない話をして別れた。
 私も聞かなかった。
 聞いてはいけない気がしたから。
 帰る彼の後ろ姿をずっと見る。

(振り返ってお願い、勇気をちょうだい)

 心のどこかで声が聞こえる。
 もし彼が一言でも何かキッカケをくれたら私は離さなかったと思う。
 彼はただの一度も振り返ることはなかった。
 立ち止まることもなく一定のリズムで歩く。
 臆病な自分を呪う。

(私、何をしているんだろう)

 その夜、怖くて彼にチャット出来なかった。
 怖い?
 私は怖いと思ったんだ。
 そもそも怖いのか。
 何が怖かったんだろう。わからない。
 なんでか知らないけど自分の腿を何度も叩いた。
 わけもなく。
 それとも悔しい?
 何が悔しんだろう。
 自分が情けないのかもしれない。
 何が、情けないんだろう。
 勇気がない自分が。
 彼からも来なかった。
 この日ほとんど眠れなかった。

 翌朝、震える手でメールをうつ。

(大丈夫?)

 たった一言。
 でも送信出来なかった。
 どうしてか涙が出た。
 情けないやら悔しいやら。
 鏡を見たら酷い顔。
 何を思ったか自撮りをする。
 この酷い顔を残しておきたい。
 徳川家康さんが絵に残した心境ってこれかな?

 この日、授業は全く頭に入らなかった。
 彼が気になって。
 そわそわして。
 放課後、彼にメールをしようとしたら彼は携帯持たないことを思い出す。
 幸か不幸か。
 不安で仕方がない。
 何が不安なの?
 わからない。
 もう何がなにやらわからない。
 落ち着かない。
 トモコにカラオケ誘われたけど止めておく。

 家で彼が帰る時間を待つ。
 チャットを開いたまま、文章を推敲する。
 送信をたった一度叩くことが出来ない。
 何度も何度も書き直す。
 怖い。
 帰った時、母さんが「どうしたの?」って。
 心配している。
 お母さん御免なさい。
 戸を叩く音。
「ねえ、パークマルコシのショートケーキあるんだけど一緒に食べない?」
 あー私の大好物。
 わざわざ買ってきてくれたんだ。
 お母さん大好き。
 少し考えて、
「うん、ありがとう。すぐ降りる」
 母さんに気を遣わせている。
 情けないなぁ。
 気分を替えよう。
 そう思った瞬間、スマホが目に入る。
「んー・・・ん!」
 勢いで叩いた。
 知らない。
 もう知らない。
 送っちゃった。
 母さんの恋話でも今日は聞きせてもらおう。

 あー・・・今頃どうしているのかな。
 彼の声を聞きたい。
 彼の心が私に振り向いてくれたらどれだけ幸せだろう。
 胸が苦しい。
 あの頃を思えば贅沢な話かもしれない。
 でも・・・。
 告白すべきなんだろうか、それとも待つべきなのか。
 マイコなら「好きなら告白しちゃいな」ってことなんだろうけど。
 私は過去の彼を好きだったに過ぎない。
 今の彼のことは幾らも知らない。
 だって会ったのは何回でもない。
 それで好きって言っていいのか戸惑う。
 熱を上げすぎて自分でもよくわからなくなってる気がする。
 もし、万が一言って断られたらと思うと怖い。
 その時、全てが壊れそうで震える。
 そうなったら私は・・・。

「ミズキー紅茶いれたよ~」
 お母さんだ。
「ありがとうー、今行くねー」
 ケーキを食べて頭を冷やそう。
+注意+
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