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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第四十四話 変身


寒い。
 今年は凄い寒いんだな。まだ十月なのに。
 アルバイトは辞められなかった。
 店長が辞めさせてくれなかった。
 僕の顔を見て店長は何かを察したようで・・・十中八九、勘違いなのだが。
「辞めるな。少なくとも今は辞めないほうが良い。悪いことは言わないから」
「ありがとうございます。でも、僕は・・・」
「駄目だ。却下」
 僕が黙りこむと、店長は何か少し考えて丁寧に言った。
「お前みたいにキッチリ働けるのが辞めたら俺が困るから」
 笑った。
 お金の先については言及しなかった。
 何も言えない僕に対し、
「わかった。休憩の食事にシェイクもつける!」
 何か勘違いしている。
「でも、それじゃ不公平になってしまいます」
 店長は僕がシェイク好きだって言ったのを覚えていた。
 何か少し考えた後、店長は言葉を続けた。
「そもそも世の中は不公平なんだよ。不公平の公平なんだ。それに俺の店なんだから。どうしようと勝手だろ?」
「でも・・・」
「内緒ねこれ。他には言うなよ。言ったら面倒くさいから」
 また笑う。
 何が可笑しいのか自分にはわからない。
 僕はシェイクが欲しかったわけじゃない。
 でも店長の思いは伝わった。
 多分このまま返したらマズイと思ったんだろう。
 今の僕はそういう顔をしているということか。
 ここの店長は言い方は乱暴だけど、僕は好きだ。
 文句を言っているアルバイトもいるけど心根を感じる。
 何の因果か目的なくアルバイトが継続になる。
 シェイクは美味しかった。

 ミズキちゃんはいい子。
 多分、こういう人と結婚したら幸せな気がする。
 母さんも、この子なら満足だろう。
 なのにどうしてだろう。触手が動かない。
 凄い可愛いというタイプではないけど、可愛くないわけではない。
 そもそもスズノとの一件依頼、僕は可愛いかどうかはそれほどに重要に感じなくなっている。
 勿論、可愛くて損はないし嬉しくないはずはない。
 でも嫌な思いをするかどうかは顔じゃないと感じた。
 懲りたのかもしれない。
 スズノを見て思う。
 あんな何も知らない素直そうな顔をして人の心をえぐり倒す。
 挙句に言ってもわかってくれない。
 思いをぶつけても受け取ってくれない。
 理性的に話ても理解しようとしない。
 いやいや、彼女はあれはあれで悪い子じゃないんだ。
 ただ・・・なんていうか・・・鈍感なのか・・・何かが違う。
 魂の色が違うというか、何か決定的な部分ですれ違っている。
 これが世間で言う性格の不一致ってやつなのだろうか。
 それとも・・・先生が言っていたアレなのか。
「型が合わない人間はいる。長くやるなら上手くはいかないよ。疲弊するからね。また型が合わないが故に惹かれるとも言える。型が合わないが故に学びの機会が得られるとも。でも、いずれも長くは無理だ。身を刻すからね」
 身を刻す・・・つまり削るってことだろう。
 オジサンが昔のゲームを持ってきたことがあった。
 子供の頃に僕にくれたんだけど、そのゲームが大好きだった。
 散々遊んだな。
 色々な形のパーツがあり、本体に同じ形の溝がある。
 同じパーツはない中で溝にパーツをはめていく。
 時間以内にはまらないと全部いれたパーツが吹っ飛ぶ。
 その緊張と開放がたまらなく好きだった。
「人には人それぞれの型が生まれながらにしてあるからね。それを変えることそのものは不可能だよ。だから辛くなる。でも、型が違うことを認識するには型が違う相手を前にしないと気づかないものだから学びはある。自らを知ることが出来る。それは相手が良い悪いじゃないんだよね。合わないんだよ」
 先生の話は難しい。
 その時は頭では理解したつもりだった。
 でも、その後にスズノと付き合った。
 つまり頭で話を理解した程度だったんだ。
 僕は無理していたんだと思う。
 今でも自覚はない。彼女とのことは終わってしばらくたったからそう思えるんだろう。もう他人事だから。
 でも、当時は恐らく言いたいことも言えなくなり、自然と足が遠のいたんだ。
 その結果、彼女は浮気をした。
(そうか・・・それなら僕にも原因があったんだな・・・)
 あの時はそうは思えなかった。
 彼女を恨んだりもした。
 辛かった。
 あの話の通じない加減に僕は嫌になっていたんだ。
 彼女には何ら柔軟性や間口の広さを感じなかった。自分の好きは好き、でも興味なしは一切受け入れられない。その上で、自分の価値観を強制しようとする。あれが息苦しかったんだ。僕は「お前はジャイアンかよ」とどこか思っていた。そうだったんだ。僕は無理していた。型がまるで合わなかった。
(・・・酷い言いようだな僕も)
 中学の時は気づかなかったけど今更にして「会話 通じているのかな?」って思うことがある。それは今でも変わらない。あの時の侘びしさったらない。あれなら犬相手に会話していたほうがまだマシな気がする。
(本当に酷い言いようだ)
 ミズキちゃんは違う。
 噛み合っている気がする。
(通じあっている)
 そんな気がする。
 勿論、細かくは違うだろう。
 でも、基本的な部分で通じている感じがする。
 でもなんだろう。
 その一方でスズノにはない何か肝心な部分で薄いフィルターのような存在も感じる。猫をかぶっているというヤツか?でもそれは当然だろう。お互いまだ手探りなんだ。僕もそういう意味では猫かぶっているのだろう。無意識ではあるけれど。
 その点、スズノにはそういうのは感じない。あからさまなぐらいだ。
 身勝手で我儘で自分勝手で・・・って同じ意味か。
 保守的で秘密主義で。
 なんだよ。
 贅沢なこと言っているな僕も。
 じゃあ何か、お前は何様なんだよ。
 そんな気もする。
 でもしょうない。そう感じるんだから。
 もしミズキさんが胸を開いてくれたら僕は即落ちだろう。
 色々な意味で。
 何を考えているんだ僕は。
 彼女は僕に何を見出しているんだろう。
 僕の何がいいんだ?
 スポーツも大したことない。
 勉強が出来るわけでもない。
 ましてやイケメンでもムキムキでもない。
 なんの取り柄もない男。
 僕が女子だったら・・・やっぱり興味ないだろう。
 今度聞いてみようかな。
 いや・・・それは禁句か?
 ああ・・・面倒くさい。
 もう彼女なんていらないかもしれない。

(・・・)

 これも逃げなんだろうか。
 逃げかもしれない。
 いや、逃げなんだ。
 だって欲しい。
 心のどこかで欲している。

 翌日、いつも通りの朝。
 なるほど母さんの言うように二学期の勉強は手強い。
 何を今更言っているんだって話だけど。
 僕は今、初めて勉強に燃えてきているかもしれない。
「おはよう」
 いつもの挨拶。
「おはよ」
 いつもの・・・え!
(誰!?)
 彼女が・・・。
 レイさん・・・?
 普通の格好をしている。
 ボサボサだった髪にブラシを入れ、長いロングのストレート。
 制服はいつも通りボロボロだけど、皺をちゃんと伸ばしているのがわかる。
 外で会った時のように背筋がしゃんとして・・・顔がハッキリ見える!
 何よりも「おはよ?」今、「おはよ」って言った?
「おはよ・・・」
 クラスがざわついている。
 マキが目を剥いて僕に近づいてきた。
「え、おま、え、誰?この美人。おい、お前の知り合い?どこのクラス?転校生?」
 マキの動揺が、どこかコミカルに見えた。
「何言っているんだよ・・・レイさんだろ」
「えええええええ!」
 マキからだけじゃない声。
 その声に僕が驚いた。
 なのに彼女は動揺していない。
 僕だけを見ている。
「この前は本当にごめんなさい」
 皆の注視の中、彼女は深々と頭を下げた。
「え?あの、えー?」
 混乱している。
 同時に色々なことが。
 どういう意味だ。
 何が彼女にあったんだ。
 意味がわからない。
 この前は僕を皆の前で怒鳴って、今度は謝るって意味がわからない。
 待てよ、寧ろだからか。
 彼女はわざと皆の前で謝罪しているのか。どうして?
 それになんで・・・その格好。
「と、とにかく頭を上げて。君は悪くないから。僕が余計なことをしたんだから」
「本当に、心から、申し訳ありませんでした」
 えええええ!
 わからない。
 どうしてそこまで。
 何が、どうして・・・こうなったら。
「こちらこそ、すいませんでした!」
 負けじと頭を下げる。
 クラスのガヤが遠のき、時がすぎるのを待つ。

「頭を上げて」

 彼女が僕の肩に手をおいた。
「改めて、これからからもよろしく」
 クラスの女子から悲鳴。
 というか黄色い声?
 今度は軽く頭を下げる。
「あ、はい、こちらこそ・・・お願いいたします」
 何を?
 これからって、これからもって何?
 それとこの表情。
 顔から光が放たれているような。
 ぬくもりを感じる表情。
 今までこんな顔を彼女から見たことがない。
 彼女はいつもどこか影があった。
 嬉しい時も、楽しそうな時も。
 それが輝いて見える。
 何が・・・あったんだ?
 僕は脳みそをフル回転させる。
 過去の事象が走馬灯のように巡る。

(まさか・・・)

 黄色いレインコート。
 雨の中の彼女。
 何かが、待ち人か、何か、目的の何かが遂に来たんだ。
 そうに違いない。
 彼女に、レイさんに、こんな劇的変化をもたらす何かって言ったらそれしか思い当たらない。遂に来たんだ。待ち人か何かが来たんじゃないか?
 何時だったか彼女が言っていた。
(マーさんて言っていたな)
 僕と印象がだぶるって。
 ていうことは男。
 彼氏か?
 それとも。
 その人が来たんだ。
 もしくは違う何かが。
「・・・良かったね」
 僕はポツリと声が漏れてしまう。
 聞こえないと思えたその言葉は彼女の耳に届いたのか、
「うん」
 その返事かどうかはわからないけど、言葉を返した。
 予鈴。
 ササキが来る。
「あー・・・・」
 いつものように見回している。
 見当たらないのか、
「おい、アレはいるか」
 ササキは以前僕に見せたようにジェスチャーする。
「あー・・・先生」
 ナガミネがこっちを指をさす。
「ん?どこ」
「ですから彼女が」
「・・・えーっ!」
 ササキのいつものローテンションからの声が尻上がり。
 クラスがどっと笑う。
「ササキ先生、何いまの。やだも~」
 女子達が冷やかす。
「お前・・・え、えー?」
 爆笑でクラスが揺れた。
 彼女がササキを一瞥する。
「え・・・お前本当に・・・え?」
 再びどよめく。
「お昼休み、上に来てくれる?」
 僕に笑顔を向ける。
「うん・・・」
 つられてか僕も笑顔になる。
 レイさんはササキの元へ。
「お前・・・」
 先生は未だに信じられないようだ。
 無理もない。
 別人だ。

 ササキの動揺が繰り返される度にクラスが湧いた。

 彼女を見ていると胸が一杯になる。
 熱くなる。
 満たされる自分がいる。
 なんでも出来そうな気になる。
 ミズキちゃんには感じないものがある。
 何が違うんだ。
 顔か。
 スタイルか。
 僕は人間は結局のところ性格だと思っているけど。
 顔や身体しか見ていないんだろうか。
 わからない。
 そもそも顔で判断しちゃいけないのか?
 いけないとは思わない。
 けど、でも、やっぱり顔だけじゃ満たされない気がする。
 顔でいったらスズノの方が多分タイプだ。
 僕は可愛い感じのほうが好きだ。
 レイさんは美人。僕は敬遠するタイプ。
 なのに僕はスズノは考えられない。
 性格的不一致。
 でも最初の印象は顔や身体から来るものだ。

 思い出した。

 僕が最初に彼女を目にしたのは黄色いレインコートだった。
 一人楽しそうにしている彼女の顔を見た時に何かが始まった気がする。
 ということは・・・顔なんじゃないか。
 顔を見て好きになったのか。
 なっちゃいけないのか?
 わからなくなってきた。
 僕はどうしたいんだ。
 彼女はどうしたいんだ。
 彼女に何が起きた。
 わからない。
 ふと、ある視線に気づく。
 一人だけ面白くない顔でレイさんを見ている。
 ナメカワさんは凡そ彼女に似つかわしくない顔でレイさんを見ていた。
 どうして?
 何があったんだ。
 あー・・・何もかもがわからない。
 世の中は謎だらけだ。
 ミズキさんに決めようとしつつあった僕の固い意思はどこか消え行こうとしている。
 先生は彼女がいいと言った。
 自分もしっくり来る思っている。
 うまくいく気がする。
 じゃあどうして僕はレイさんのことを思うとこんなにも満たされる。
 僕はどうすればいいんだ。
 何が正しいんだ。
 誰か教えてくれ。
 レイさんはなんで僕をあんな温かい目で見るんだ。
 ナメカワさんは、どうしてそんな険しい顔で彼女を見るんだ。
 わからない。
 僕はどうすればいいんだ。
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