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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第三十九話 誤解と秘密

 アルバイトを始める少し前、クラスの連中のレイさんに対する態度が変わった。先日の一件以来からだ。いつの間にか僕はクラスでレイさん担当にさせられていた。
(皆グッジョブ)
 彼女に言って欲しいことの全てが僕に来るようになっている。皆、全く無関心に見えてそれぞれ言いたいことがあったんだと思わずして知ることになる。なるほどそうかもしれない。主に「当番をちゃんとやってほしい」とかそうした要請だけど、どうあれ僕にくる。先生ですらそうだったのには驚いた。
「お前から言ってくれないか」
(お前が言え)って話だが。
 だって先生でしょ、悲しいよ。
 でも僕としては嬉しい。この嬉しさを堪えるのが毎回大変である。
 僕はいつも少しだけ「仕方ないなぁ」という雰囲気を二重の意味で醸し出しつつ彼女に話しかける。なにせ彼女には話しかけないでと言われている。仕方なく話しかけざるおえないと彼女に言い訳が出来る。同時にクラスの連中に対しては喜々としてやっていたら何かと疑われるから、この”仕方ない感”は必要に思えた。
 当然ながら彼女からは何も返ってこない。
 にしていもたいがいだなぁ僕も。
 もう返ってこないのが当然と思っている。
 これで彼女が嫌がっていたら完全にストーカーだ。気をつけないと。
(嫌なら嫌って言って欲しい。黙ったまま嫌いになられたら泣くに泣けない)
 我ながら女々しいことを考えている。
 彼女はいつも通り立ち上がって席をはずす。
 最初はレイさんが教室から出るとクラスから喝采を浴びた。
 でも途中からココまでの流れがネタ化してきているように思う。
 お陰で僕も話しかけやすいけど罪悪感も次第に強くなった。

 三日が経過し再び奇跡が起きる。

「ちょっといい」
 彼女が僕を呼んだ。
 再び静まり返るクラス。
 またしてもクラスは大騒ぎ。
(餓鬼共め)
 そう思いながら内心ニヤけてしまう。
 その一方で彼女が怒っているように思え少し胃が痛い。
 もし、嫌われたらどうしよう。
 いつもの場所に上がる。
「ごめん!・・嫌だったよね。からかっているつもりはないんだ。仕方なく・・・と言いたいけど・・・声かけられるのが嬉しくて、つい・・・なんにせよゴメンナサイ」
 先手必勝というつもりは無かったけど思わず声が出た。
「・・・」
 怒っているか。
「本当に申し訳ない・・・」
 謝るしか無い。
 嫌いにならないで欲しい。
 彼女はどこか別なことを考えている様子で口を開いた。
「前にも言ったけど私に関わると後悔するよ。冗談じゃなくて」
 いたく真剣な面持ち。
 久しぶりに正面から見るレイさんの顔。
 綺麗だ。
 透き通るような大きな目が真っ直ぐ僕を見据える。でも威圧感はなく、ただ真っ直ぐ見ている。むしろ僕を心配している?
 女優バリに筋の通った鼻。
 キリっとしまった唇。真ん中あたりが少しプリっとしている。
 眉が少し濃くて短め。
 いつの間にか僕の身体の底から得も言われぬ感動が駆け巡る。
「僕は後悔しないと思う」
 自分でも驚くような声が出た。
 やけに落ちつている。
「最初は皆そう言うの。でも最後には後悔する」
 彼女は動じなかった。
「・・・」
 僕は彼女に見惚れてか言葉が出なかった。
 違う。胸がズキっとしたんだ。
 彼女にどんなことがあったのか気になった。そう思ったら声が出なかった。レイさんは何を恐れているのか。恐れている?そうだ、恐れているような気がする。何を?
「知らないからね君がどうなっても。私は後悔しないから覚悟して。その時が来て、君が私を罵ることになったとしても私はただ無視するだけだから。最低限、自分の発言には責任を持ってよ。男ならね」
 レイさんがこんな物言いをするなんて。
 何があったんだろう?
 思えば彼女はいつも僕には負担をかけ無いよう気を使ってくれている気がする。
「そんな小動物みたいな顔しないの。男でしょ。シャキっとして。弱い男は嫌いよ私」
 ”嫌い”の響きがお腹に刺さった。
 そして”弱い男”のダブルパンチ。
 弱い男、ああ・・・情けない。
 そうかレイさんも僕が弱い男と知って嫌いなんだ。
 だから・・・。強い男になったら僕にもチャンスはあるんだろうか。
 全身の満ちていた高揚感が一気に滝のように流れ落ち抜け落ちる。
「ゴメンナサイ・・・」
「ものの例えよ。そんなに落ち込まないで。それとすぐ謝らないの」
 彼女は少し苛立って見えた。
 弱い僕に苛立っているんだろうか。
 あー駄目だ益々悲しくなってきた。くそ、軟弱もの。
 彼女にもこんな一面があったなんて。
 初めて見た。
 初めて見れせてくれた。え、これってストーカー思考?
 どこか彼女の苛立ちは僕の態度を見てというより、別なものを見ている気がする。勝手な解釈だろうか。もう僕はストーカー思考なんだろうか。
「ごめ・・・・・・えー・・・ん」
 いつもの調子で思わず言いかてしまい軌道修正しようと思ったけど出来なかった。頭が回らない。なんて愚かなんだ僕は。頭も回らない。口も回らない。その上で軟弱で、馬鹿でクソでほんと嫌になる。
 プッと彼女が吹いた。
「ごめ、え~~~んって・・・もう!可笑しいんだから」
 笑っている。
 綺麗だ・・・。
「綺麗・・・」
 ボソッと思わず声に出ていた。
「ちょっと何いってるの」
「ごめ・・・・あーごめ、じゃなくて、スイマセンじゃなくて・・・んー」
 頭を抱える。
 僕は初めて直ぐ謝る癖が自分にあったことに気付かされた。
 先生の言ってたやつはコレだったのか。
「君はすぐ煙に巻こうする」これがそうだ。場を適当におさめようとするって。僕はそんな気はないつもりだったのに。でも、確かに、そんな気がしてきた。

「わかった!」

 そんな僕を見てか彼女が言い放った。
 僕の思考を遮るように。
「こっちこそゴメンね。悪気はなかったの。苦しめるつもりはないのよ。そうよね、私が腹を決めればいいことなのに、マーさんに押し付けようとしてたみたい。ほんと私って卑怯ね。人のこと言えない」
「違うよ、僕が・・・」
 駄目だ。
 また体のいいことを言おうとしている。
 彼女の思いにちゃんと応えないと、応えたい。
「・・・」
 言葉が出ない。
 掛ける言葉が・・・ない。
 本当にないのか。
 本当に。
「・・・嬉しいな、学校でレイさんと話せて」
 なんだそれ。
 まるで会話の脈絡を無視している。
 全く頭が回っていない。
「やだもう・・・」
 彼女の反応は想像もしないものだった。
 泣いている?
(やだ?僕のこと嫌いってこと?)
 どうして・・・。
 何か悪いこといったのかな。
「何か気に障ること言った?」
 黙って首を振った。
「私も・・・嬉しいよ」
「へ?・・・」
 呆けた声が出た。
 なんて言った?
 私も嬉しい?
 どういうこと?
 それって僕のこと好きってこと?
 いやいやいや短絡的過ぎるだろ。小学生じゃないんだ。
 嬉しいってこと?
 僕と喋れて嬉しい。
 少なくとも嫌いじゃないってことだ。
(気持ちが・・・通じた?)
 鳥肌がたった。
 なんだこれ。
 涙が出来てた。
 なんだこれ。
 なんで泣いているんだ僕は。
 彼女が僕を見た。
 益々涙が溢れてくる。
 レイさんは横を向き、声を殺す。
 僕はただ唇を噛み締め天井を仰ぐ。
 ふと、
 どれほど辛いを思いをしてきたんだろう。
 どれほど悲しい思いをしたんだろう。
 どれほど・・・。
 そんな思いが去来し、涙が止まらなくなった。
 予鈴がなっても僕は動けなかった。

 目を赤らめた僕がクラスに戻ってきた時、静かになった。
 唯一ミズシマ先生だけが、
「大丈夫か?」
 と声をかけたが、僕は子供のように頷くしかなかった。
 全員の目線が僕に集中していることに気づく。
(まずい・・・見られた・・・って、そりゃ見るわな)
 一際、熱い目線を送ってきたのはマキ。
 ふとナメカワさんを見ると、何故か笑みを浮かべている。
 クラスの中だけで唯一。
 レイさんはクラスに戻らなかった。
 授業後、クラスが大騒ぎになったのは言うまでもない。

 アルバイトをしてみたものの、そのお金をどうやって渡すか僕は全く考えていないことに気づく。彼女は受け取らないだろう。そもそも幾ら必要なのかもわからない。お金が足りないのなら意味がないんじゃないか?そんな疑問をも湧いたが、それはバイトの店長が打ち消してくれた。
「そういうのを手付金って言って、払う意思を表明するものだから足りなくて平気だよ。最終的に全額払えばね。逆に君の年齢ぐらいだとネット詐欺とかも気をつけなきゃいけないよ。ついでだから言っておくと、払えと出ても身に覚えがないなら一円も払ったら駄目。下手に払うと契約が成立したことになるから後々面倒だ。にしても君の年でねぇ、このご時世で、偉いなぁ」
 店長は誤解をしている。
 というより、そりゃ誤解もする。
 面談の時、僕のアルバイト動機がそうさせた。学校での諸費用返済の為にアルバイトしていると解釈したようだ。無理もない。悪気はないんだけど、「好きな人が退学しない為にアルバイトを始めました」なんて口が裂けても言えない。僕が店長だったら「何言ってんのコイツ?」ってなるだろう。
 上手く僕の意思が伝わらなかったようだけど、下手に説明すると面倒なことになりそうだったので(バイトの面接も通ったことだし)そういうことになった。
 どう考えても先生に直接渡すことは出来ない。やっぱり彼女に渡すしかないのか。でも、彼女は受け取ってくれないだろう。郵便ポストに入れておこうか?でもそれって時々、ニュースになるけど気持ち悪がって警察に届けてしまうかもしれない。
 ヤスに貸してもらった漫画にあった「ガラス板の仮面夫婦」にいたような「赤紫のバラの人」みたいに「君を応援する者より」的な感じで渡すのはどうだろうかとも思った。それだと唐突過ぎる。単に気持ち悪いだけだろう。
「わー赤紫のバラの人からだわ」ってならないでしょ。少なくとも、あれは前段階があってああなるのであって、僕にはその前段階がないわけだから。単に気持ち悪いだけだ。
 店長は手付金、前金は速い方がいいと言っていた。返済意思の表明だからと。
(どうしよ・・・)
 僕の名前を添えてポストに入れたら。
「怖い・・・」
 その時、どんな反応しているか知りようがない。
 ひょっとしたら二度と、金輪際、僕と話したくないと思うかもしれない。
 失望して・・・まさか。いや、彼女に限ってそれはない。
 でも、もし・・・。
 怖い。
 やっぱり駄目だ。
 それだけは出来ない。
 様子を見守った方がいいのか。
 でも、じゃあ、僕はなんでアルバイトしているんだ?
 馬鹿なんじゃないのか。
 勉強も進まないし、この前の小テストに至っては最悪だった。
 ここまで犠牲にして目的を達成出来ないとしたら僕は何をやっているんだ。
 でも、彼女は受け取らないよなー。
 そういう人だよ。
「そうだ!」
 この前、ササキ先生からもレイさんのことで注文されることがあった。
 これはチャンスかもしれない・・・。
「これ彼女から先生に渡してと言われて」
 それで渡せば万事解決じゃないか。
 レイさんは先生とはまともには喋らないだろう。それあっての担当だ。
 ササキ先生も僕に対しては言うけど、今の感じだと先生もレイさんに直接は言わない。だとしたら全部僕を通して行われる。
「これだ!」
 我が意を得たと言う思いで封筒を用意する。
 ボールペンをとり彼女の名前を書こうとするが止まった。
 名前を書くと筆跡でバレるかもしれない。
 ただお金だけ入れればいいか。
 そして「これ彼女から先生に渡して欲しいって」と言えばいい。
「なんだこれは?」ってなるだろうけど、
「わかりません」でいいんだ。
 お金を見れば「あー」ってなるだろう。

「完璧だ!」

 店長が気を利かせてくれて今週分のアルバイト料が手元にある。
 心臓が高鳴る。
 凄い悪いことをしている気がして、いや実際悪いことをしている。
 僕は学校を先生をレイさんを騙そうとしている。
「これはやっぱりイケナイことじゃないのか・・・」
 お金を持つ手が震えた。
 いや、もう考えている場合じゃない。
 速いほうがいいって店長も言ってた。
 そうだ。
 バイト料を受け取った以上、「どうだった?」って聞かれるはずだ。
「まだ渡してません」じゃ済まないだろう。
 そうだ、もう後戻りは出来ないんだ。
「うわー・・・後々面倒なことになりそうだな・・・」
 だから秘密なんて持ちたくないんだ。
(まてよ、なんか今の僕って秘密だらけじゃないか)
 僕は意を決しアルバイト料をいれる。
 願いを込めて。
 秋の風が涼しさを運んできていたけど、どうしてか僕の額からびっしりと汗が流れていた。
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