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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第三十四話 台風一過

 台風は大雨を運び街は一日で水没した。
 彼女と会ったあの公園も、
 彼女が佇む幼稚園も水の中。
 どことなく彼女が待ち人であった誰かと笑顔で去った感覚がある。
 あれほど付き纏っていたスズノも見ず知らずの男と去ったようだ。
(やっぱりな)
 天使は地上から去り、この世界は黄昏の中にある。
 人っ子一人いない。
 僕だけだ。
 僕は逃げ遅れた。
 誰も気にかける者はいない。
 水没した街を地上から眺め、
 懐かしの公園と幼稚園、そして過去を眺めている。
 空は嫌味なほど晴れ渡り、鮮やかな青が目に染みた。

 水没した街に一人佇む自分を夢にみた。

 僕の夢はいつもカラーで鮮明だ。
 なんでこんな夢を見たのかわからない。
 ただ小学生の時に遊園地に一人取り残されたことを思い出した。
 あの感覚に近い。
 厳密には記憶にない。
 記憶にないけど感覚だけは身の内にある。
 母さんの話だと僕は泣いていなかったらしい。
 凄く落ち着いた表情で取り乱す自分たちをまるで他人ごとのように眺めていたと言っていた。
 話かけても「うん、うん」としか言わなかったらしい。
 細かくは覚えていない。
 ただ、この感じ。
 僕は怖かったんだと思う。
 声が出ないほど。
 取り乱せないほど怖かった。
 世界にたった一人取り残されたと感じたのかもしれない。
 慌てふためき取り繕う両親を見て余計に酷く冷めた。
「僕の親はいなくなった」
 何故かその時そう思った。
 これは僕の親じゃない。
 親の革を被った何かだと。
 親の言いつけ通り僕は待っていた。
 親はあの時、僕を忘れたのだろう。
 二人で何やら気分が盛り上がったのかもしれない。
 そして息子の居場所を消失した。
 それがあの取り繕う顔に現れていたように思う。
 そが透けて見えた気がした。
 以後、遊園地という存在がいたく空虚に思え何一つ楽しめなくなっていた。

「ん~気が重い・・・」

 何せ今日は言わなければいけない。
 空はこんなにも晴れ渡っているというのに。
 昨晩は酷い雨だった。
 家の屋根が飛ばされるんじゃないかと思えた。
 叩きつける雨。
 ゴーゴーと唸る風。
 そんな音と、自分の心境があんな夢を見せたのかもしれない。

 学校へ向かう途中。
 一遍の曇もない空を見ていたら全てが大したことないように思えてくる。
 澄み渡る青。
 曇り一つない空。
 空気までもが瑞々しい。

 仕切り直そう。

「あ、おはよ。あのさ、ちょっとお昼休み時間いいかな?」
 思ったより気軽に声をかけられた。
 マイコちゃんの機嫌はまだ晴れてないようだ。
「おはよ。どうしたの?」
「うん、話があるんだ」
「おーどうした?」
「おーおはよ。丁度いいや、マキも昼休み屋上付きあって」
「お前も?」
「うん。今じゃ駄目なの?」
 駄目だから言ってる。
 マキですら薄っすら何かを察しているのに。
「悪いね」
 その横をレイさんが通る。
「おはよ」
「・・・」
 こっちを見た。
 僅かに顔を傾ける。
 珍しいな。
「あー来たか。ちょっと」
 ササキ先生がレイさんを見ると声をかけた。
 さっきから辺りを見回していたのはレイさんを探していたのか。
 彼女は鞄を机に置くことなく先生のもとへ行った。
(なんだろう?)
 先生であれ彼女に話しかけるのは珍しい。
 今となっては先生ですら彼女を空気のように扱っているのが目に見えてわかる。授業で彼女だけはさされない。順番にリーディングするような内容でも彼女は飛ばされる。それを当然のように受け止めている周囲。何より彼女。

 今日は屋上開放日。
 週に一度。
 いつもなら屋上でお弁当をしようとする学生でごった返すのに、昨夜の今日で屋上は水浸しだから全くといっていいほど生徒はいなかった。僕にとっては好都合。それもあって屋上にした。
「どういうこと?」
 昼休み、僕は告げた。
 ミズキさんとは付き合えないこと。
 スズノと寄りを戻すわけではないけど、彼女を放っておけないこと。
 全部話した。
「ごめん、本当に」
 同級生に初めて頭を下げる。
 深々と。
(ん、まてよ?レイさんにも下げたことあったっけ?)
 それで全てが片付くとどこかで思っていた。
 決意は堅い。
「納得いかない」
 でも彼女の答えは予想外だった。
「わかるけど、コイツがそう決めたんだから仕方ないだろ」
 マキは支持してくれるようだ。
 僕はむしろマキがゴネるような気がしていた。
「おかしいよその考え方」
「え、どうして?」
「彼女は彼女でしょ。マーちゃんはマーちゃんなんだから。犠牲になることはない。人が良すぎるよ」
「僕は犠牲とは思ってないよ。放っておけないのは僕の気持ちだから」
「んー・・・やっぱり駄目!絶対駄目!納得出来ない」
 どうしてこうもすんなり事が運ばない。
 マイコちゃん、君の納得の為にそれこそ僕を犠牲にしたいのか?
「おいヤツの気持ちも考えてやれよ」
「考えてるわよ。駄目、とにかくそういう理由なら駄目」
 僕はため息を一つついた。
 スズノといい、マイコちゃんといい、なんでこうも・・・。
「悪いけど僕は決めたんだ。無責任に彼女とは会えないよ」
「元カノと付き合いたいの?」
 まただ。
 だからそんなこと一言でも言ったか?
 人の話をちゃんと聞いたのか?
「だから違うよ」
「だったらいいじゃん」
「何が?」
「元カノは友達に戻った。でも彼女じゃない。ミズキとだって友達。どっちとも付き合えば」
「でも彼女に悪いよ」
「ミズキのこと嫌いなの?」
 誰がそんなことを言っている。
 なんなんだこの聞き分けのなさは。
「嫌いじゃないよ」
「じゃー同じでしょ」
「この前の一件といい彼女をあまり厄介なことに巻き込みたくないんだ」
 彼女は少し黙りこむと何かを考えている。
 死の宣告を待つような心境。
「わかった!」
 ふぅ・・・ようやく納得してくれたか。
「私ミズキに聞くわ」
「え!?」
 勘弁してくれよ。
「ミズキに悪いと思っているんでしょ。じゃ、本人がイイって言えばいいわけじゃない」
「えー?」
 おいおいおいおいおい。
 マキが「頼む、コイツの言うこと聞いてくれ」って顔してる。
 スズノのモードと同じで、ここは引き下がるしかない彼女のポイントなんだろう。
 全く。
 全くだよ。
「・・・わかった。マイコちゃんの紹介だしね。何より彼女にも選択権はあるね」
 そうだ。
 自分でいいながらえらく納得した。
 僕は一人相撲で全てを解決しようとしていたけど、考えてみると彼女にも話すべき内容なんだ。彼女も当事者なんだから。
 自分が思っていたのと全く異なる結果になったけど、これはこれで仕方のないことだろう。でも、この問題をまだ引きずるのかと思うと気が重い。

「せっかくだから今日はここでお昼とろ?」
 彼女の提案でこのままお昼タイムに。
 マキはマイサンズを呼びに行き、彼女はお弁当を取りに行く。
 僕は濡れてもいいから立ってでもここで食べるつもりだったから弁当持参。
 今日は屋内にはいたくない気分。
 走り去る彼女の足取りは何故か軽い。
 あれほどの嫌悪感を僕に向けていたのに。なんなんだ?
 彼女の足取りが軽い原因がわからない。
 マキもほっとしたようだ。
 こんなことなら彼女なんてもういらないよ。
 面倒くさい。
 ただただ面倒くさい。
(はー・・・・疲れた)
 今日の空のように一発で胸のすくような解決とはいかなかった。
 決めたら決めたで新たな問題が起こるもんだ。
 空はこんなにも青いのに。
「ど・お・し・た・の?」
 振り返ると大天使の姿。
「お、おー・・・いや別に色々とね」
「ふ~ん、レイの色々っやつね」
 彼女は含みのある笑みを浮かべる。
(可愛い・・・)
「お昼食べないの?」
「うん、食べるよ。いつもの連中を待っているんだ」
「ここで食べるの?」
「そういうことになった」
「座れないでしょ?」
「なんか、マイコちゃんがレジャーシート持っているとかで」
「さすが彼女ね~私も混ぜてもらおうかなぁ~」
「座れるかなー」
 取り留めもない会話。
 なんか安心する。
 彼女が歩み寄る。
 ん?
(近い!)
 この距離は恋人同士の距離でしょーよ。
「あのさ、余計なこと聞いていい」
 慎重なものいい。
 小声で語りかける。
「え、な、なに?」
「やだ、そんなに緊張しないでよ」
 笑った。
 ヤヴァイ近い可愛い。
「いやー」
 取り繕う自分。
 何が「いやー」なんだ。
「彼女のことどう思う?」
「彼女って?」
 彼女?
 この場合の大天使の言う彼女って誰だろう。
 マイコちゃんのことかな。
 あーそう言えば大天使にはスズノのことバレバレなんだよな。
 あの時は危機一髪だった。
 ナメカワさんがいなければどうなったか。
「マイコちゃんのこと?それとも元カノ?」

「ん~・・・」

 違う?誰のことだろう。

「麗子さんのこと」

 全身が硬直する。
 完全な不意打ちだった。
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