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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第二十八話 文化祭

 最終日。
 生憎の天気、まだ降ってはいない。
 台風が接近中らしい。
 文化祭を直撃しなくて良かった。
 時期も時期だから仕方がない。
 それでも普段の僕なら「ついてないなー」と気にしたかもしれない。
 今日はそれどころではなかった。
 人生最大のイベント目白押し。
 朗読劇は僕らのグループが最後。
 マツナガはコソッと「一番いい仕上がりのグループ」と言っていた。
 そういうことを言うとプレッシャーになるだろ!
 両親も来てくれる予定になっている。
 しかもその前に顔合わせがあるのだ。
 彼女候補の!
 考えてみるとえらく順番が悪い。
 彼女候補と会って、その後に劇があって、時間があったらモンバーへマキらと一緒に打ち上げ。
 頭の中はメチャクチャだ。

 レイさん
 朗読劇
 彼女候補
 スズノ
 ナメカワさん
 両親
 マキ、ナガミネ・・あー。
 イメージがミキサーにかき混ぜられているようにモザイク上にグチャグチャ。
 レイさんに見てもらいたかった、聞いてもらいたかった。
 いや、寧ろ彼女の朗読劇を聞きたかった。
 この天気だ。もし降ればレイさんは幼稚園の門前にいるんだろう。
 誰を待っているんだろう。
 何を待っている?
 いつか聞きたい。
 聞いても許される関係になっていれば。

(あーもー心が落ち着かない)

 落ち着かなくて貧乏揺すりがマッハ。
 まるで工事中のアレだ。地面をスタンプするヤツ。
 そう思ったら、そんな気がしてきた。
 こういう時はコツがあるって先生がいってた。
 出来ること、出来ることに絞って集中だったな。
「自分が出来ることに絞れば人って焦らないもんだよ。それ以外は全て妄想だからね。妄想に振り回されているとしたら自分の精神バランスが崩れていることを認識しないと。認識したら出来ることに集中するだけ。簡単でしょ?」
 今やれることは・・・朗読劇。
 眼の前の出来ることに集中。
 集中。

「よし!」

 午前中少し模擬店を回るつもりだったけどそんな心境じゃなかった。
 何せ落ち着かない。
 それは皆も同じだったようで、僕らは校舎裏で読み合わせをすることになる。
 これは大天使ナメカワさんの提案。
 彼女のリーダーシップたるや政治家の風格すらある。
 お陰で皆のテンションは最高潮。
 読み合わせの間、マキのヤツは僕のことをチラチラ見ていた。
 お前は俺の保護者か。

 昼前に一旦散会し各自昼食へ。
 本番前に集まりたい人だけもう一度集まることになった。
 僕は食事も対して喉を通らない最中、彼女候補と会うことになる。
 廊下を歩きながら、不意に昨晩の電話を思い出す。
 スズノからの電話。
 別れた原因を「僕を忘れられない」と言ったが、恐らく嘘だろう。
 僕は彼女のことを子犬みたいだと思っていたけど違う。
 彼女は子犬じゃない。子猫なんだ。
 自分の都合だけで相手を振り回す。
 甘えたい時には甘えてくるけど、自分の気が向かない時は何を言っても興味を示さない。振り回せる相手を見つける嗅覚のようなものがあるに違いない。
 一人になり急に寂しくなったのだろう。
 だから寂しいのは嘘じゃない。
 そこに丁度、僕らの文化祭があり思い出したかもしれない。僕を。
 その勢いで来た。
 そう考えると筋が通る。
 会って話したいとシツコイく食い下がられたけど、文化祭だからと断った。
 以前だったら折れていたかもしれない。
 そうだよ、この感じ、まさにスズノだ。
 念の為に「付き合えないからね」と言ったが聞いてない感じ。
 何時までも無理を通せば道理引っ込むと思ったら大間違い。
 僕も成長した。
 あの頃とは違う。
 多分。

 昼、その人は来た。

「おう、やっぱり、お前から言ってや」
 ガチガチのマキが照れくさそうに笑う。
 さっき僕を見ていたのは、この件で緊張していたのか。
 マキにもこんなところがあるんだな。
「もー自分で紹介するとか言っといて。ねー」
 マイコちゃんに釣られて彼女は小さく笑った。
 朗読劇のカップル騒動が二人を変えた。
 この二人は付き合っていることを隠すのを止めたようだ。
 最近は堂々と二人で話している。
 彼女はミズキといった。
「はじめまして」
 彼女は顔を少し赤らめ、やや恥ずかしそうに俯く。
 KA☆WA☆II
「はじめまして」
「んじゃ、後はお若い二人で」
 ちょ、マキ。 
「マッキー早いって!」
「ごめん。これさ一度言ってみたくて」
 お前ねー。
「お前は俺の父親か」
 また笑った。
 クスクス笑うんだ。
 いいねぇ~。
 僕も釣られて笑ってしまう。
 どことなくスズノに似ているような。
 でも違う。
 背はスズノほど低くはないけど、一般的な女子からはやや低めか。
 一般的ってなんだ?って気がしないでもないけど。
 彼女は犬系だな。
 僕は犬派だ!
 高二なのに落ち着いた服装。
 意図的に地味にしたわけでも狙いすぎてもいないような。
 普段からこんな感じなんだろう。これでも少し派手にしのたかも?
 そういえばアクセントのある服だ。
 化粧もしていない。
 大人しい感じ。
 顔は凄い美人というわけじゃないけど可愛らしい感じ。
 まーレイさんとナメカワさんは超高校級ってやつで例外だ。
 文化祭と朗読劇の興奮に加え、胸の高鳴りは最高潮になっていたけど、一方では妙に冷静に彼女ことが見られた。
(マイコちゃんガチじゃねーか)
 彼女は本気で選んでくれたんだ。
 いい子だ。
 友人の彼女探しにガチになるなんて、なんていい子なんだ。
 マキには勿体無い。
 でも二人はベストカップルだと思う。
 高校卒業したら直ぐにでも結婚しそうだな。
「どう?」
 マイコちゃんが彼女に尋ねる。
「す・・・素敵です」

(カーーーッ!)

 生まれて初めてそんなこと言われた。
「素敵だってよオイ!」
 ダメだ顔が熱い。
「あ・・・ども、いや、あの、ミズキさん可愛いですね」
「あひゃひゃひゃひゃ」
 マキ、叩くな。
 それとその下衆い笑いヤメロ!
 恥ずかしてく顔が火が吹きそうだ。
「でもさ、なんだかそれわかる」
 マイコちゃんが神妙な顔をしている。
「え?」
「マーちゃん、ここんところ・・・なんていうかオーラあるよね。凄い魅力的に見える。私も時々ドキっとするもん。とてもその・・・御免ね、振られた人って思えない。きっとその彼女は見る目がなかったと思う」
 マイコちゃんは率直な子だ。
 女性の割に裏表があまりなく嫌味もない。
 本当にいい子だ。
「おい・・・マイコどういう意味だ、まさかお前・・・」
 マキの顔色がみるみる曇る。
 こんなに変わるもんなんだな。
「そういう意味じゃないって」
 え・・・どういう意味?
「親友だからってマイコはやらんからな」
 そういうことか。
 スゴムなよ。
 全くコイツの早とちりは一生治らないだろう。
「何も言ってないでしょ」
 マイコちゃんの話だと、僕の経緯についてはほぼ話しているようだ。
 お互いの為にハッキリサせておいた方がいいと彼女は言った。
 僕がまだ失恋した相手に未練があるということ。
 その上で「会いたいか」どうか聞いたところ、
 彼女は「それでもいい」と言ったとか。

(天使・・・降臨)

 居る所にはいるもんだ。
 なんで今迄現れなかったんだ?
「最初は知り合いレベルから始めれば?」
 マイコちゃんはいった。
 そう言ってくれるのはありがたい。
 彼女がこんなに出来た人だったとは知らなかった。
 マキの野郎。
 許せねぇ。
 理由なき憤りが湧き上がる。
「お互い相性もあるしね。こればっかりは何度か会わないとわからないし。マーちゃ~ん、男なんだからリードしにゃきゃダメよ~」
「しにゃきゃかって、お前は猫か」
 マキは細かいことろを気にする。
 マイコちゃんは猫系かな?
 猫も悪くない。
 うん、いい猫もいる。
「揚げ足とらないの!」
「へへ」
 学校でこうした二人を見るのも初めてかもしれない。
 これまでクラスではまるっきり他人のふりだった。
 普段からこんな感じなんだろうな。
「この人ね、奥手だから気をつけて。そのクセ結構女好き」
「え?待って、それどういう・・・」
「え・・・」
 ほらー軽く引いたでしょーよ。
「ま、冗談よ。最近はなんかアチコチで人気出てきたから気をつけて。これ言っちゃおうかなぁ・・・あのね、更衣室でも有名なのよ。あのナメちゃんがご執心だって」

(こ、こ、更衣室!人気?ナメカワさんがご執心?え?)

 ごめんなさいもう限界。
 パニック寸前。
「こいつ男子のナメカワ不可侵条約を破りやがって」
 初耳だよ。
「マーちゃんは悪くないよ。彼女の方から行くんだか」
「そうだけど・・・あ、なんか段々腹立ってきたな・・・マイコ紹介することなかったんじゃねーの?」
「何言ってるの。あんたが『誰か紹介してやってくれねーかー』ってすがりついて来たんじゃない。それに・・・なんか面倒みたくなるんだよね君見てると」
「お前・・・?」
「だから違うって。母性本能っていうのかな、なんか構いたくなる」
 さっきから僕は何も喋ってないがどんどん話が進む。
 このシチュエーションはまるで親戚の叔父、叔母からお見合いを世話されているような感じじゃなかろうか?オジサンが言ってた。居心地悪いって。これは居心地悪い。
 不意に彼女と目が会うと、また顔を赤らめる。
 なんだこの可愛い生き物は。
 凄い奥手なのかな?
 ま、人のこと言えないけど。
「なんだか置いてけぼりだね僕ら」
 声をかける。
「そうですね」
「なになになに~いい雰囲気つくっちゃって、早速なんかピンと来た?」
 気が早いわ。
「ん~悪くなさそうじゃない。なんかウキウキしてきちゃった」
「だな」
 マイコちゃんが時計を見た。
「悪いね。なんだかバタバタしてて」
 僕も頭を下げる。
「こちらこそスイマセンでした本番前なのに」
 彼女もペコリと下げた。
「んー来週さ、四人で映画いかない?」
「お、いいね~行こう」
「僕は大丈夫」
「私も大丈夫です」
「決まり!詳しくはチャットでね。じゃ、ミズっちゃん朗読劇みてって!」
「うん、ありがとう。頑張ってね。ありがとうございます」
 またペコリと頭を下げる。
 あーいいなーこういう感じ。
 落ち着いた服装。
 礼儀正しさ。
 緊張と不安。
 言葉少なめ。
 もし付き合うなら落ち着いた関係になれそうだ。
 もうスズノの時のような二の鉄を踏みたくない。
(今度は定期的に誘わないとなぁ)
 そう考えただけで面倒くさいけど。
 そうでもしないと気がないように思われるようだし。
 事前に色々お膳立ててしてくれていて本当に助かった。
 場合によっては言いたくないことも言わなきゃいけないかと真剣に悩んでしまった。
 下手に期待させても悪いし、正直すぐに付き合うとかそういう気にはなれない。そんなに簡単に割り切れない。彼女のことを考えるとまだ頭がゴチャゴチャするし。

(友達からだ)

 朗読劇は最高の仕上がりだったと言っていいかもしれない。
 文化祭とは思えないほどの万雷の拍手。
 僕は泣きそうになる。
 女子はかなりの子が泣いている。
 カーテンコールで横一列になり誰からというでもなく自然と手をつなぐ。
 僕の隣は相方のナガミネさん。
 初めて握った彼女の手は柔らかく華奢でか弱い女性の手そのものだった。
 僕は皆が一斉に頭を下げた時、
「ありがとう」
 彼女に向かってひとりでに言葉が口をつく。
 舞台の袖に戻ると、彼女は改めて僕の右手を両手で強く握り、泣きながら言った。
「こっちこそありがとう。色々と御免ね私人見知りが激しくて、特に男子とほとんど喋ったことがなかったから、どうしていいかわからなくて。本当にありがとう。君のお陰で少し勇気がもてたよ。声優の夢も応援するって言ってくれて本当に嬉しかった!」
 あーもうダメた声を上げて泣きたい。
 僕はこういう時、女性に生まれてきたらどんなに良かったかと思ってしまう。

(映画だとここで僕が抱きしめて、二人は幸せな暮らしを・・・)

 不純なことを思いながら不覚にも少し涙が出る。
 彼女のことを誤解していた。
 あの不思議な返しは照れ隠しの裏返しだったんだ。
 普段は一行以上喋らなかった彼女があれだけの言葉を発する。
 その重さを感じたら余計に胸を揺さぶられた。
「ううん、こっちこそ色々無理いって御免ね」
 彼女は驚いたような顔をすると顔を紅潮させ、
「そんなセリフはイケメンに限るんだからね!」
 意味不明な言葉を発する。
 一瞬ポカンとしてしまう。
 でも彼女がその場にヘタリこみ僕の思考を遮る。
 初めて心が通じたような気がした。
 気づかれないように目に溜まった涙を袖で拭う。
 ナメカワさんが僕らに寄ってくる。
「二人ともお疲れさまー、凄い良かったよ~」
 彼女の背中をさすりながら声をかけている。
 彼女は興奮こそしていたが一方では落ち着いて見えた。
 さすがである。
 そしてマキ、ヤス、ミツがやって来ると我らマイサンズ恒例の挨拶。
「フォーーーーッ!」
 マキが昔流行ったお笑い芸人のような雄叫びを上げる。
「リア充大爆発!」
 続けてヤスが謎の呪文を唱える。
(それ・・・使いドコロ間違ってないか?)
 ヤスは時計屋の主人を怪演していた。
 ミツは言葉を発せず、何故か両手を広げ満足そうに頷いている。
 どこかで見たような・・・。
(あーあれは、アル・カポネの真似か)
 しかも厳密にはアル・カポネを真似た芸人の真似に違いない。
 ツッコミ不在。

「ハイハイハイ、皆外出てー最後のお仕事だよー」

 手を叩きながらマツナガ。
 僕のアイデアだったのだけど、出口でお出迎えし帰る客を見送る。
 父さんと芝居小屋を観に行くと必ずやっていたんだ。
 あれは、なんか嬉しかったのを記憶しているから提案した。

 出口には人がごった返している。

 それぞれの家族、友人、恋人等がいるのだろう各々が盛り上がる。
 声という声が折り重なり大きなノイズになって聞こえる。
 なのに母の声にすぐ気がついた。
「良かったわ~お母さん泣いちゃった」
 目を赤くした母さんが言う。
「ありがとう、楽しんでもらえて良かった!」
「なかなかのもんだったぞ」
 さすが父さんはシビアだ。
「父さんのお陰だよ。よく芝居とか連れってくれるじゃない。
 カーテンコールやお出迎えも、そこから僕がアイデア出したんだ」
「そうか役に立ったか!また休みができたら行こう、今度は三人で」
「行きましょ」
「いこいこ!」
 ミズキさんがコチラを眺めているのが目の端に映る。
 手を振ったら、ペコリと頭を下げる。
 笑顔だった。

(あー・・・僕はこのまま死んでも悔いないかも)

 それぞれの感慨を胸に文化祭は終わりを告げる。
 放課後のモンバーはもっぱら朗読劇のグループメンバーで盛り上がる。
 当初、マキ、ヤス、ミツの四バカで行くつもりが、マイコちゃんの友達らとも合流することになり、更には朗読劇のグループ全員が揃うほどの大所帯になる。サイトウとナメカワさんだけは二グループ掛け持ちだったので後から顔を出した。
 全てが夢のよう。
 夢の一ヶ月。
 夢の終わり。
+注意+
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