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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第十三話 オジサン

 宿題がタイタニック。
 このままでは座礁することは目に見えている。
 そう思うのだがほとんど手は進まなかった。綿密な計画は何も意味をなしていない。
 頭を使わない系を出来るだけ先にし辛うじて進めているが、普段なら数日で終わるこの手のものですら遅々として捗らずイライラは募るばかり。一体全体自分の脳みそはどうしてしまったのか。漫画を開いても上の空で内容が頭に入ってことない。
 そんな最中、叔父さんは来た。
「よう元気だったか魔法使い」
 叔父さんは魔法使いと僕のことを呼ぶ。
「だって性格的に魔法使いだろ」
 らしい。
 母さんの話だとゲームがかなり好きらしい。僕はそれほどゲームはやらないけどどういう役割かぐらいはわかる。RPGが好きなんだろうか。そういったジャンルに勇者、戦士、魔法使いといった職業がある。
 普段は何をしているかサッパリわからない人で、パソコンに強いらしく時々母さんが呼んで厄介になっているようだ。夕飯を一緒にし帰っていくが実によく喋る。何が楽しいのかいつも陽気で、独身なのに子煩悩なのかやたらと僕に話かけてくる。
「どう?彼女出来た」
 ほら、来た。
 中学から毎年1回は聞いてくる。
「まだです」
「なんだよ~早く彼女見つけて叔父さんにその子のお姉さん紹介してよ~。独身のお母さんでもいいから、オジサンいき遅れちゃうよ」
「え、既に行き遅れているんじゃ?」
「あ~れ~?」
 全く叔父さんは実によく笑う。母さんもこの叔父さんが来る時はよく笑っている。父は今ひとつ苦手なようだけど。嫌いではないようだが。
「この際だ、ちょっとでもいいな~と思う子がいたら即アタックしよう。去年も言ったけど結婚と恋愛は別だから遠慮することはない。今のうちに楽しまないと損だぞ。せっかく高校2年生なんだから。よし!この際、誰でもいいから付き合おうか!」
「誰でもいいんですか?」
「ああ、この際もう誰でもいい。可愛いなーでもいいし、エロい身体しているなでもいいし、なんかこの子いいなって思っただけでもいい。とにかく、いいなーって少しでも感じたら告白していくスタイル」
「和博さん息子は受験を控えてますから、それからでも・・・な」
 ほら来た。父さんがアイコンタクトを送ってくる。
「義兄さん、受験はいつでも出来る。私の年でも出来ますよ。でも高校二年の恋は今しか出来ない。今の、まだ感性がフレッシュなうちに、喜びや悲しみをその全身に浴びておかないと人生後悔しますよ」
「中学の時も彼女おりましたし。私は学生時代に彼女なんておりませんでしたよ。だからもう・・・」
「成績も落ちたんだから!」
 母さんも参戦してきた。母さんの猛攻が全く効かないのは叔父さんぐらいだ。だから安心して聞いていられる。
「2人共ご冗談でしょ。中学の恋愛と高校の恋愛は別。受験は恋愛しながでも出来るし」
「だから成績落ちたんだって!大変だったんだから戻すまで。ねー」
(母さん、大変だったのは僕だから)
「彼女がいて成績落ちるなら、勉強する構えはそれが現実。むしろ、その落ちたレベルが実力だから。そのランクから立ち上げていけばいい。その上で彼女いるなんて天下でしょ。人生において差が出る。勉強は自分で構えが出来てからでも遅くないよ」
 父さんが不機嫌そう顔を押し殺ししている。怖い。
 コメカミがピクピクしているのが見える。叔父さんわかってるのかな?
「も~お願いだからこの子に余計なこと吹き込むのは止めて。責任とれるの?」
「とれるわけない」
「ほらー!だったら黙っててよ」
「じゃあ、姉さんは彼の人生の責任とれるの?姉さんの言う責任ってのは受験の話だけでしょ」
「とれるわよ!」
「はい、露骨な嘘でましたー」
「親だからとるに決まってるでしょ。とにかく今は受験、何よりも受験です。恋愛なんて済んだら幾らでも出来るでしょ」
「恋愛より、人付き合いより受験が大事だって?」
「そんなこと言ってないでしょ」
「学歴が大事な結果、姉さんはコウなの?」
「いい大学いったからこそこの人に出会えたんだから。だから家も持てたし。あんたはまだあのアパートに住んでいるんでしょ」
「つまり姉さんは家をもつ為にこの人と結婚した。家の為に学歴を入手したと。言い換えると人生とは家を得るためのものだと、こう仰りたいと」
(叔父さーん、もう止めて~)
「誰もそんなこと言ってないじゃない!」
「自覚なしと。どう思うよ魔法使いの錬金術士」
「え、僕・・・」
「受験ですよ!受験!この前も言ったでしょ。ね!」
「いいから姉さん、俺はマジシャンに聞いているんだから。この子は下手な大人よりわかっているよ」
「わかりません」
「えっと、母さんの言うことは最もだと思う・・・」
 これじゃ収集がつかない。
「ほら!ほらね!」
「はい、そこ黙ってー。そして?」
「でも・・・それだけじゃないと思う」
「さすが!本人がそう言うんだから。恋をして受験もする。はい決定!」
「息子はまだ早いですよ・・・」
 父さんが一気に老いた。
 この叔父さんが来ると僕は痛快な気分になる。父さんはあんまり呼ばないで欲しいみたいだけど。
 母さんはあれだけ言葉のバトルを繰り広げながら暫くするとまた呼ぶし、悪く言うことはないのが不思議だ。これが姉弟と他人の差だろうか。仲が良いのか悪いのか。母さんのことだから本当に嫌なら呼ばないはずだ。

「なあ、興味ある子いないの?」
 廊下ですれ違う瞬間、肩を組み聞いてきた。
「いないでは、ないです・・・」
「だろ。んで誰よ。また写真みせて」
 ボソボソと言う。
「いや写真はないんですけど」
「ほら集合写真あるじゃない。あの美人か?ナメ・・ナメンゴ」
「滑川さん?」
「ナメちゃん。違う?」
「違います。彼女は競争率が高すぎて。あの・・叔父さんが幽霊がいるって言ったじゃないですか」
「・・・あー言ったいった。え?・・ひょっとして超美人だった」
「はい」
「キタ、キタ、キタ、キター、で、好きなの?」
「好きとかじゃなくて興味があるというか。気になるというか・・・」
「それって好きと同じだよ」
「いやいやいや違うんです。そういうんじゃないんです本当に」
「そうか。ま、何はともあれ、付きあおうか」
「いやいやいやいやいや」
「まずは告白だ。超美人なら振るのも上手だろうからいいぞ。自意識過剰タイプは相手にダメージを与えるから心の傷になる。その点、美人はいいぞ。振るプロみたいなもんだ」
「え、ちょっと待って下さい」
「付き合うイコール即ヤルってことじゃないから大仰に構えない方がいい。あんたの両親はソコ気にしているみたいだけど。でもま、万が一彼女がきたら応えないと男じゃないぞ。基本ないけど。だから付き合い始めたらアレは買っとけ、じゃないと応えられないから。無しは駄目だ。どうあれ男の責任だよ。今ならネットで注文できるから恥ずかしくないだろ?安いし。それとだ、あんまり安いのは穴が空いているのもあるそうだから注意ね。事前にみとけ」
「いやいやいやいやいやいやいや」
「とにかくだ、考えるのは付き合ってからでも遅くはないってこと。興味がないなら別だけど。彼女に興味あんだろ?」
「え・・・まー好奇心はありますけど・・・」
「はい好きって言った」
「え?ですから好奇心であって・・・」
「好奇心ってどう書くっけ。好きという奇妙な心だよ」
「あ・・・」
 僕はドキっとした。
「高三になってからじゃいよいよ大変だぞお前のお母さん。我が姉ながら昔からヒステリー持ちだから。悪い人じゃないんだ許してやってくれ。苦労かけるよお前には。お前が本当に心配なんだよ。いい子だから。恋も受験も両立させるってとこ見せてやれ」
 そう言うと叔父さんは僕の肩を叩いた。
「くぅ~楽しみが増えた。その子、美人のお姉さんいるぅ?」
「いえ・・母さんの話だと天涯孤独みたいです」
「そっか・・・大変な思いして生き来たんだろうな」
 珍しくシリアスな表情になると何やら考えている。
「慎重になるのもわかる。でも逆に寧ろ軽く告白して軽く振られて来ればいいじゃないか。マジになると彼女の人生に飲み込まれるかもしれないし。そこは自分の本音を見極めるんだね。迷ったら友人や大人に相談する。お前そういうセンスは両親よりありそうだからオジサンは安心してるけど」
「え、そんなことないですよ」
「あるある。オジサンの目に狂いはないよ。狂いがないから独りもんなんだよ」
 そう言うと破顔し大笑いしている。
「ここ、笑うところね」
 全く不思議な人だ。どこからどこまでが本気なのか全くわからない。
 リビングへの戸を開けると父さんと母さんが不審そうな顔をしている。
「何の話してたの?」
「秘密だよ、なあ魔法使い」
 僕はただ笑うしかない。
 にしても父さんのあの表情ときたら。僕にはまず見せない感じだ。
「じゃあね姉さん義兄さん。毎度のことながら邪魔したね。いつもありがとう美味しかったよ。魔法使い、うまくやれよ~」
 最後にニヤリと笑い叔父さんは帰った。
 両親からは「何のこと?」と聞かれ、釘を刺されたが話半分に聞く。母さんの頭にはまるで受験しかないようだ。父さんはまだいい、僕を信頼してくれている気がする。母さんだ。そんなに受験が好きなら自分ですればいいんだ。
 自分ではわからない。彼女が好きなのか、そもそもどうしたいのか。でも好きとは違う気がする。ただ興味があるのは叔父さんの言う通りだと思った。興味がある。宿題が捗らないほどに。
(そうだ・・・だから宿題が進まないのか?)
 興味があるイコール好きなら、僕は彼女のことを好きなんだろうけど。わからない。単なる好奇心だと思う。
(好きという奇妙な心か・・・)
「わからない」

 翌日あの公園に向かった。

 雨は降っていない。
 改めて見ると夢の中で見た公園とは違うようだ。あの公園はどこなんだろう。壊れた鉄の門。元々は水色だったであろうが錆が侵食している。石柱には恐らく幼稚園の名前が掲げてあったのだろうが今はない。
(そもそも保育園かもしれない)
 園児が遊んでいたろう滑り台。
 施設の二階から滑り降りる形状になっている。夢の中ではこういうのは記憶にない。単体の滑り台だったような気がする。
(昔あこがれたなぁコレ・・・)
 滑ってみたいけど不法侵入になるし、何よりもジャリジャリで滑らないだろう。
 校庭はうちの学校に比べたら遥かに狭い。中央には古錆びた時計。柵周辺は花壇でもあったのだろうか。草がぼうぼうに生えている。小さな鉄棒。小さな雲梯。後は砂場がある程度。砂地の校庭は案外しっかりしている。いつ頃、閉園したんだろうか。中学時代に通った時はまだやっていたと思うのだが。
(鉄砲水は通らないよなぁ)
 この辺りには河川も無いし、周囲の環境からしてそうしたことは発生しそうにもない。そもそもココは少し小高い位置にある。だとしたらあの夢はどこから来たのかわからない。
(あの日も来たのかな)
 あの夢のあの子は彼女と何か関係があるのか。彼女そのものなのか。でも夢ではミイちゃんと自分のこと言っていたけど。いや、そもそも乳幼児の言葉のもつ根拠って異次元のものだから。麗子さんはこの幼稚園の出なんだろうか。 何をするでもなくボンヤリと過ごした。
(帰るか)
 来てよかった。決心がついた。宿題は一旦横へおこう。計画は白紙だ。マキやヤス、ミツらには宿題が終わってから遊ぼうと言ったけど、家に帰ったら連絡いれよう。連中のことだからチャットしてるだろうし。
(夏休みを仕切り直しだ!)
 叔父さんが言うように好きなんだろうか?やっぱり違うと思う。
(じゃあ、どうしたいんだ)
 叔父さんが言うようにそれを確かめる為にも告白したほうがいいのか?それは安易じゃないのか。相手に失礼だろう。そもそも好きかどうか確認する為に付き合うっておかしくないか?あんな美人とじゃ不釣り合いだし。じゃあ、なんで僕はニヤけているんだ。
(彼女以前に俺自身の心がわからん)
「またね」と言った。
 僕の頭の中であの日の彼女が繰り返し再生されている。
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