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続・君という光
作:松の慎


葉月には仲良しの男友達がいます。
その2人の男の子は、4月生まれと3月生まれの同じ年の兄弟。

優しいけど二股ばっかの貴。

明るいけど実は一途な慧。

「あ、慧くんと貴くんだ」
「ほんとそっくりー。絶対見分けらんないよねぇ」
「うんうん。見分けできるのなんて1人しかいないよね」

サンサンと照らす太陽は、9月のものなんて思えない。
半そで制服に、頬にたれる汗を照らす。

「「賀川葉月!」」

去年から教室にクーラーを取り付けているため、みんな涼しさを求めて教室へと急ぐ。
地球温暖化か進む、そんな中、3人はいつも元気なのです。

「貴・慧おっはよー!」
「おー葉月。朝っぱらから元気だな」
「うーす」

慧がこっちに越してから色々あったけど、それをなんとか乗り越えて慧と葉月は付き合ってます。

夏休みもたくさん遊んで、いろんなところへ行きました。
え?受験生なのに遊んでていいのかって?
葉月もそれが気になってたのよ。

『慧は塾とかいいの?進学するんでしょ?』
『えー塾ぅ?そんなの余分な出費だろー。めんどくせぇ』

夏休みに入ったばかりの頃、そんな会話をした。

『貴はー?』

ジュースとお菓子を持って部屋に入ってきた貴に聞く。
机の上に置いて言う。

『俺も行かないかなー。無駄だしさ』
『そんなこと言ってぇ、2人とも落ちるって心配はないの?』
『『ないよ?』』

声をそろえて2人は言う。
受験生が聞いたら怒りそうだな・・・

すると慧が逆に葉月にたずねる。

『葉月はどうなん?』
『葉月はねー、余裕♪』
『お前もなんじゃん』

慧のつっこみに、葉月と貴がふふっと笑う。

『だってねぇ?』
『なぁ』

顔を見合わせてクスクス笑う。
慧は不思議そうな顔をした。

『なんだよー』

貴と声をそろえて言った。

『『音大だもん』』

実は葉月、3歳からずっと習ってるんだ。
高校に入ってからは部活が忙しくなったから一度やめたんだけど、今年の5月に部活も引退したもんだから、またやり始めたんだ。
同じピアノの先生のもとで。

『え、えっ?!音大?!お前ピアノ弾けんのっ?!』
『小学校から中学校までずーっと音楽発表会で伴奏してたもんねっ』
『まじかよー!』

小さい頃からピアノが大好きで、暇があるときはいつも弾いてた。
ピアノのコンクールでも準優勝、優勝などの成績を残した。
中学の頃はそれでも部活とピアノはなんとか両立できたけど、高校に入ってからはそうもいかない。
1年の頃からレギュラーに抜擢されて練習三昧だから、ピアノもやめざるをえなくなった。
でも、ピアノの先生は言った。
またピアノをやるときは、いつでも私のところへいらっしゃい、と。

ピアノをやめてから2年ちょっと経った今、再びピアノを弾く。

「おい東雲兄、校章はどうした?」
「ちょっと先生〜、校章ないのは慧!貴はこっちですよぉ」
「おお、そうか。すまんすまん」

葉月しか見分けがつかない慧と貴。
先生や友達が間違えたときにつっこむのが葉月の役目なんだ。
もちろん葉月は間違えたりなんかしないよ。
だって2人のこと大好きだもん。


*********************************


「賀川さん。よかったら俺と付き合ってくれませんか?」

ある日、手紙で中庭に呼び出された。
行ってみると1人の男の子がいた。

「え・・・っと・・・」

いきなり突然のことで驚く。
葉月でも知ってる、この人。
成績がすごく良い人で、慧みたいなすごくお調子者な人。
貴といつもトップ争いしてたけど、だいたい貴がいつもトップだった。
けど慧がきてからは慧と貴の2人での競争って感じで、この人はいつも3位。
1位と2位はいつも慧か貴。

「品川くんだよね。あの、葉月は・・・」
「知ってるよ、東雲慧と付き合ってること」
「えっ?」

突拍子な答えにあっけにとられる。
どうして知ってるのに付き合ってとか言ってくるんだろう・・・・と心の中で自問自答する。
答えにつまっていると、品川くんは笑いながら言った。

「気持ちを伝えるのは自由だろ?」

じゃあ、伝えたいってだけなんだよね?
しっかり断れば別になんの問題もない。

「うん。じゃあ、えっと・・・・ごめんなさい」

ペコッと頭をさげて謝った。
品川くんはなんていうだろうと思って、チラッと見る。
すると品川くんは葉月の手を掴んで言った。

「東雲には渡さない。だから覚悟しといて」

そうして、ほっぺにキスをしてきた。

「えっ・・・?!」

キスをされたほっぺを手でおさえると、品川くんはニッと笑って歩いて行ってしまった。
少しの間、呆然としている。
頭の中が上手く整理できない。

慧にさえされたことないのに・・・・
そう思うと、少しだけ目が潤んだ。
けど、慧には言えない。

たとえ葉月が品川くんを好きじゃないとしても、誤解されたら終わりだ・・・
慧は、そういう逆境を乗り越えて今の笑顔がある。
なのにまた慧が傷ついてしまうのだけは、絶対にだめ・・・
慧を傷つけてはいけない。
だって、慧に誓った。




けれど、その日を境に品川くんの猛アタックが始まった。

「葉月ちゃん!」
「わっ、品川くん!」

品川くんが教室まで遊びにくる。
慧に見られたらまずいと思って、廊下へ連れ出す。

「慧に見られちゃうよぉ」
「見られちゃまずい?」
「あたり前でしょー!」
「別にいーんじゃね?」

どうしてこんなにこの人はお気楽なんでしょうか・・・
やっぱりもう一回ちゃんと断ったほうがいいよね。
慧に見つかる前に。

「あの、品川くん。葉月・・・」
「あ、そうだ!大事なこといい忘れるとこだった」
「え?」

言葉を遮られる。
品川くんはポケットから1枚の紙を取り出した。
そして、それを葉月に渡した。

「ピアノコンクール・・・デュエット?」
「そう」

内容をよく読んでみると、コンクールは1ヶ月後、うちの学校でやるらしい。
うちの学校から出た有名なピアニストがうちの学校にきて、リサイタルをやると。
そこでうちの生徒があいさつがわりに最初に1曲弾くんだって。

「それを・・・葉月に?」

そういえば聞いたことがある。
品川くんの家は音楽家だ。
お母さんがギタリストでお父さんは作曲家。
お兄さんはチェロをやってる。

品川くんは確かピアノを習ってる。
中学校のとき、噂で聞いた。
いろんな大会に出ては賞を総なめしてるすごい人。

「どう?やりたくない?」
「なんで葉月を?」
「ピアノ習ってるだろ。夏の大会、準優勝だっただろ」
「うん。なんで知って・・・・あー!品川くん!優勝者!!」
「ビンゴ」

そういえば優勝者の名前、聞いたことあるなって思った。
まさか本当に品川くんだったとは・・・・
そりゃ優勝できなかったわけだぁ。
品川くんがいるんだもん。

もんもんとしていると、品川くんが挑戦的に言った。

「やるだろ?」

やりたい・・・
けど、相手が品川くん。
うれしいけどうれしくない。
目指してる人だけど、慧に誤解されたら困る。

考えること5分、品川くんはじっと待ってくれていた。
そして葉月の答えは・・・

「やるっ!!」

あの品川くんとできるんだ。
これ以上の幸せってない。
慧にも前もって話しておけば大丈夫。

それに、ピアノは葉月の夢なんだ。
お偉いさんがたくさん来る前で、弾けるなんてことほど光栄なことってない。

「OK。じゃあ今日からさっそく放課後練習な」
「うん!」

教室に戻る。
授業開始まであと1分もないから、急いで授業のしたくをする。
すると慧が話しかけてきた。

「なんかうれしそうだな」
「えっ、そう?」
「おう」

先生が入ってきて、起立して礼をする。
そして着席。
座って、隣の席の慧に言う。

「あのね、実は・・・・・」

さっきのことをすべて話した。
品川くんが誘ってくれたこと、リサイタルをやること。
もちろん品川くんの告白のことは言わないけどね。

黙ってるのってなんか悪い気もするけど、でも言えない。
大丈夫、ただのデュエット相手なんだから。
少なくとも葉月にとっては。

「へぇ。頑張れよ。ピアノ好きなんだろ」
「え、いいの?」
「なにが?」
「だって、相手男の子・・・」
「平気だろ。葉月はそんな奴じゃないって俺わかってるし」

そう言って慧はニッと笑った。

「う、うん。じゃあ頑張るね!」

好きな人に隠し事するって、こんなに心がチクチクするんだ。
なんだか罪悪感・・・




──────放課後


「おー早いじゃん」
「うん。ピアノ弾けるって思うとなんかうれしくって」

教師の許可をとって音楽室を借りることになった。
教師もリサイタルに向けて頑張ってほしいようで、全面的に協力すると言った。

「なんの曲弾くの?」
「シューベルトの・・・」
「シューベルト?!葉月バッハの方が好きなのにぃ」
「こればっかはどーしようもないっしょ〜」

そう言って品川くんは笑った。
笑うと可愛いんだ、不覚にもそう思った。

結局シューベルトの曲を弾くことになった。
デュエットははじめてだから、すごく緊張する。

「あれ。この曲弾いたことある」
「まじ?」
「ちょっと弾いてみてもいい?」

鍵盤に指を置く。
楽譜を見ながら、昔弾いた感じを思い出しながら指を動かす。
複雑に入り混じる指、重なる音。
この曲ってデュエットもできたんだ。
葉月が弾くこの音色に、どんな音が重なりあうんだろう。
そう思うと胸がドキドキした。

弾いていると、品川くんが隣に座って、一緒に弾き出した。
品川くんと葉月の音が混じって、はじめて聞く音が響く。
ピアノってこんな風にも楽しめるんだ。
そう思えた。

弾き終わって、顔を見合わせる。

「すごいすごーい!これがデュエットなんだぁ」
「だろ。これだからピアノはやめられない」

ああ、そうか。
この人も音楽一家に生まれてずっとピアノと携わってきて、本当にピアノが好きなんだ。

葉月と同じ、ただただピアノが好きな人。

「品川くんも音大?」
「もちろん。でも留学もしてみたいかな」
「ウィーン?それは最高の夢だね!」

音楽について、夢についてこんなに語り合える人、今までにいなかった。
この人は葉月と共通の夢を持ち、同じ道へ行こうとしている。
葉月のことをわかってもらえるって、こんなにうれしいことなんだ。

「品川くんは・・・」
「ストップ。これから一緒にやってく仲なんだしさ、あきらでいいよ。俺も葉月って呼ぶから」
「そうだね。じゃあ晃ね!」

そういえば慧と貴以外の男の子を呼び捨てにするってはじめてかも。
だいたいみんな君付けで呼んでるから。
でも、これから1ヶ月間関わっていくんだし・・・別にいいよね?
それに葉月の目指すべき憧れの人なんだから。

だってすごいよ。
初あわせにも関わらずあんなにきれいな音色が出せた。
それは晃の力だもん。
葉月の音に、晃があわせてくれたの。
並外れた能力だよ、葉月もなりたい、そんな人に。

今日の練習はこれで終わりにした。
もともと今日は葉月の能力を見るだけだったらしい。

「毎日はできないから・・・毎週月曜・水曜・木曜・金曜の4日間な」
「わかった。1ヶ月後だと・・・全部で16回か」
「葉月となら絶対できると思うんだ」
「うん、葉月もそう思う。絶対晃に劣らないように頑張るね!」

隣で弾いてて恥ずかしくないように、さすが晃の相方だって思ってもらえるようにしなくちゃ。
一回習ったことのある曲だとしても、全然間違いもあるし強弱もだめ。
苦手なとこも克服しなくちゃいけなくて、完璧にしなくちゃならない。
1ヶ月あればきっとできる。
ピアノの先生にも協力してもらおう。

ドキドキワクワクする。
夏の大会ではだめだったし、今回もデュエットという形だけどそれでも演奏することに変わりはない。
それに今度の成功は学校の成功。

「さーて、家に帰って練習練習!」



**********************************


「だから、そこは強くだろ!フォルティシモじゃんか!」
「でも2人そろってフォルティシモだったら勢いありすぎだよ!ここは葉月がメゾフォルテにして晃の音を強調させた方が雰囲気でるじゃん!」
「だけどこの局面では全体的に激しくしなきゃだめだろ!」

練習の場である音楽室は放課後、男女の怒鳴り声が響く。
偶然その前と通りかかった生徒がドアを少しあけてのぞき見るほどだ。
それでも2人の声はやまない。
なかなか2人の意見があうことがなく、なかなか次に進めない。

「じゃあここどうすっか」
「んー、そうだなぁ。ここは高い音を出すために葉月がフォルテで、晃がピアノでいいんじゃないかなぁ?」
「じゃあそれでやってみるか」

3節を弾く。
葉月の言ったとおりに弾く。

「おーいんじゃね?」
「でしょ!あ、じゃあこっちは?」
「じゃあこっちは・・・・」

意見があわないこともあるけど、あうことももちろんある。
あわないときはお互いの意見両方をやりあって、より曲の場面にあっている方を取り入れるようにしている。
そうやって少しずついい音色を出しつつ先へ進んでいくんだ。

「葉月いい音感持ってんだなぁ」
「晃こそー。やっぱり晃はすごいよ。葉月の憧れだなぁ」

ふふっと笑う。

「葉月幸せ者かも。こうやって一緒にピアノ弾けるんだもん」

同じ年ってこともあるせいかな、意識しちゃうんだ。
なんていうのか・・・ライバル意識?
晃のライバルになんてまだまだほど遠いけど、でもそんな感じ。
葉月にとっては最高の相方。

あ、もうすぐ練習終了の時間だ。
今日は慧がお迎えにきて一緒に帰れる日だ。
今までは慧には先に帰ってもらおうとしたけど、今日は付き合って4ヶ月の記念日だから。
もちろんプレゼントも買った。
だからこのあと慧の家に行って貴も含めて3人でお祝いするんだ。
毎月それが恒例なの。

あとちょっとだから頑張ろうと、気合を入れなおしていると、晃が口を開いた。

「なぁ、葉月」
「ん?」
「俺さ、2週間前に言ったよな。東雲がいても諦めないって」
「あ・・・うん。でもね、葉月はやっぱり慧しか見れないよ」

憎まれ口ばっかだけど、それでもいつも隣には慧がいる。
それは他の男の子でも、もちろん貴でもだめなんだ。
慧だからそばにいる。

「それでも諦めないって言ったら?」
「そんなのっ・・・・」

振り返った瞬間、バランスを崩してよろめいた。

「わっ!」

転びそうになったけど、なんとか晃が抱えてくれて助かった。

「あ、ありがと。晃」
「いえいえ」

葉月が抱きかかえられたまま晃にお礼を言った、その瞬間だった。
教室のドアが開いていて、いつの間にかそこに慧が立っていた。
葉月はそれに気づいて、目を丸くした。

「け・・・い」

すぐに晃から離れて、慧のもとへ駆け寄ろうとした。
けど、駆け寄る前に慧が言った。

「・・・なにやってんだよ」
「ちがっ・・・これは偶然でっ」
「偶然抱き合ってたってか?」

慧の目力に言葉が出ない。
言葉が出ないでいると、慧は髪をくしゃっと握った。

「最高の裏切りだよな」
「違うよ!晃はただ葉月を助けてくれただけでっ・・・」
「いいよ、もう」

慧は廊下の方を振り向く。
そして、こう呟いた。

「・・・やっぱ信じないほうがよかった」

そして慧はそのまま音楽室を出て行った。
追いかけようとしたけど、あまりに突然のことすぎて動けなかった。
確かに葉月たちが抱き合ったのは偶然。
偶然だけど、それを慧に見られてはいけなかったのに。
慧だから、いけなかったのに・・・

だって、慧は前と同じ苦しみを味わうことになってしまうから。

「葉月・・・大丈夫か?」
「うん・・・。じゃあまた明日ね」
「ああ」

葉月も音楽室を出る。
とぼとぼと廊下を歩いて、昇降口へと向かう。
下駄箱から靴を取り出して、学校を出る。
そして、ふとカバンと見つめて思った。
プレゼント、どうしよう・・・

せっかく買ったのに。
こんな形で記念日が終わってしまうの。
好きな人との記念日が祝えると思ってたのに・・・

「そうだ、電話っ」

携帯を取り出す。
そして慧の携帯へと電話をかけた。
ずっとコールがなりっぱなしで、ついには留守電。
何度かけてもその繰り返しだった。
家に行こうにも、直接話す言葉も出ない。
かといってプレゼントだけ置いてくるってわけにもいかない。

「・・・なんでこうなっちゃうんだろう」

やるせない気持ちを胸に、自分の家へ帰った。


***********************************


「葉月、集中しないなら帰れよ」
「えっ・・・」
「プライベートでなにがあっても、それを考えたまま演奏したらメロディーに不安が出るんだよ。やる気がないなら帰れ」

昨日の今日。
元気な気持ちになれるわけがない。
けれど、晃の言うことは正しい。
葉月になにがあっても、それをピアノに出す必要はない。

「・・・ごめん。ちゃんとやる」
「よし。じゃあ次はここから」

いつものようにピアノの練習をする。
慧のことは考えないようにと集中するも、やっぱり頭の奥では考えてしまう。
思ってしまうんだ。

慧を考えない日があるわけがない。

『新しい道、見つけようと思った。だけど、そんなものはない。ここにも、ない・・・・。ここにも、ないんだ・・・』

肩を震わせながら、目を潤ませながらそう言った慧を、傷ついてる慧を守りたいと、葉月は絶対に慧を傷つけないと、あの時誓った。

でも誓っただけじゃだめなんだ。
誓いは守るためにある。
破るために誓うんじゃない。

じゃあ、葉月は?
昨日あんなところを見せて慧が傷ついていないわけがない。
ただの慧の勘違いだったとしても、それでも傷つけたんなら同じだよ。

「ごめん、晃。葉月行かなきゃ。今・・・行かなきゃいけないの」
「・・・しょーがないな。頑張れよ」
「うん、ありがとう!」

葉月はピアノの椅子からおりて荷物を持ち、急いで音楽室を出た。

「ちぇ・・・俺のはいる隙なんかちっともねぇじゃん。ま、しゃーないか」

こんなことでだめになったらその程度の気持ちなんだよ。
きっとなっちゃんなら、葉月にそう言うだろう。
由宇も、違う人をはやく見つけなよ、って言うんだろう。
けど、葉月にはそんなのない。
『他』なんてない。
『慧以外』なんてありえない。
葉月が慧を傷つけていい理由なんて、どこにもない。



***********************************


「真奈美・・・結局お前も葉月も同じなのか」

家の裏の公園、だれも通らない静かなスポット。
俺の穴場。
ベンチに座って、土を見つめる。
上を見上げる気力もない。

昔の彼女を思い出して、葉月と照らし合わせて、こう思う。
やっぱり雰囲気が似ていたら同じ行動も取ってしまうものなんだろう。

葉月はそんな奴じゃないってわかってる。
俺、葉月にそう言った。
本当にそう思ってたんだ。
葉月は真奈美と一緒じゃないって、信じたかった。
今も信じることはできる。

でも、やっぱり信じられなくなってしまうんだ。
昨日葉月からの電話に出れなかった。
何度も何度も鳴る携帯に出ることができなかった。
別れようと、飽きちゃったんだと言われることが怖かった。
でもその反面、裏切るんだったら行動に起こす前に言ってくれたら良かったとも思ってしまうんだ。
とっちにしろ自分が傷つきたくないだけなんだろうな、俺って。
そんなの弱すぎる。

「お前が葉月とケンカするなんて、あの日以来だよな」
「兄貴・・・」
「でもあの日、ケンカして付き合ったんだよな。今回はなにしたんだ?」
「葉月が・・・」

葉月が浮気した

そう言えなかった。
だって、俺にはそう思えないから。
きっとなんかの偶然に違いなくて、葉月があの男を好きでいるわけないってちゃんとわかってる。
わかってるくせに、心で思ってることとは違う言葉がでてくる。

「せっかく昨日俺もプレゼント買って祝おうと思ってたのにな」
「・・・ごめん」

兄貴の顔が見れない。
兄貴は俺の目の前にしゃがみこんで、言った。

「・・・葉月はいっぱいいっぱい悩んだ。お前に言えないから余計悩んだ」
「え・・・?兄貴知って・・・」
「俺ずっと相談されてたからな。でもお前には教えてやんない」
「なっ・・・」
「慧がもっと強くなんなきゃ2人は前へ進めない。自分を守ってばっかじゃだめだ。お前は男なんだから、お前が葉月を守ってやれよ」

そう言って、兄貴は公園を出て行った。
取り残されて、兄貴が言った言葉を考える。
相談って、なにを?
悩んだって、なにを?

そういえば俺、葉月のこと一度も助けてやってない。
葉月はいつも笑っててくれるから、なにも悩んでないのかと思ってた。
・・・だけどそれは、俺を守るためだったんだ。
俺のために、葉月はいつだって笑ってた。
俺、葉月のことなにも知らないんだ・・・
夏休みにあんなに遊んだのに、ピアノをやってたことすら知らなかった。
知らなかったんじゃない、知ろうとしてなかっただけなのかもしれない。
知らなくても付き合っていける、そんな甘い考えをしているからだめになってしまうんだろうか。

『葉月は慧と一緒にいたいよ』
『・・・こんな俺なのに』
『慧だからだよ』
『あんなに毛嫌いしたのに・・・』
『それでも』

葉月・・・

『・・・いずれお前も俺を好きじゃなくなるかもしれないだろ』
『そんな日、来ないよ』

葉月、どうして俺ってこんなに弱いんだろうな。
葉月がいなきゃなにもできない。

そのくせ葉月の力にもなってやれなくて、辛い思いばかりさせてた。
しないばかりか気づきもしないなんて、俺って本当に最低だ・・・

目をつぶって、そう思っていると、土の上をザッと歩く音がする。
俺は不意に目を開く。
俺の目の中に見えるのは、ピンクのマークのアディダス。
見覚えのある靴。
上を見上げた。

「ここにいた」

葉月・・・

「聞いて、葉月浮気とかそんなんじゃないの。転んで・・・助けてもらっただけなの」

そしてまた、下を向く。

「うん・・・うん、わかってる」

そうして、小さな小さな声で呟くんだ。

「わかってたんだ・・・」

葉月はそんな奴じゃない。
知ってるよ、そんなこと。

ただ、昨日のあの光景が、真奈美のときと重なって見えたんだ。
真奈美に言いたかったこと、葉月に言ってしまっただけなんだ。
家に帰って気づいた。
なんてことを言ってしまったんだろうと。

「・・・兄貴にいろいろ相談したんだって?」
「あ・・・うん。晃のこと」
「なんで俺に相談しなかった?」

どうしてこんなこと聞いてるんだろう。
だって、答えはわかってるじゃないか。

「言えないよ・・・だって、慧を傷つけたくないもん」

ほら、俺のため。
すべてはみんな俺のために。

「なにが、あった?」
「・・・告白されてほっぺにキスされた。それからピアノのデュエットに誘われた。慧がいても諦めないって言われて・・・」

ばっと身を起こして、葉月を見た。
目を見開いて、太い声で言う。

「なんでそんな大事なことっ・・・!」
「だって葉月はっ・・・・」

葉月の言葉が止まる。
その目にはたくさんの雫。

「葉月・・・」

葉月に触れようとしたけれど、俺の手はそれを拒むように引っ込める。
葉月は言った。

「・・・だって葉月は、慧のことが大好きだから」

そしてニコッと笑うんだ。
なんでこんな俺のためなんかに泣いてくれるんだよ。
いっぱい傷つけて悩ませて、勝手に勘違いしてケンカして・・・・・普通の彼氏にだったら言えるようなそんな相談が言えなくて、普通の彼氏だったらその男を殴っているだろうのに俺は逆に葉月を泣かせて。

俺に相談したら、昔を思い出すかもしれないって思ったんだろ。
俺が傷つくかもって思ったんだろ。

自分はどんなに傷ついてでも、俺を守りたかったんだよな・・・
あのとき俺が、デュエットをとめていれば良かったのか?
けど、葉月の夢を奪う権利なんて俺にはない。
じゃあどうすれば良かった?
どうやって知らないのに守れって言うんだよ・・・

・・・違う、知ろうとしなかったのは俺だ。
きっと兄貴は葉月の異変に気づいた。
一緒にいる月日とか、そんなものは関係ない。
兄貴よりはるかに短くとも葉月のことを一番理解してなくちゃいけないのは俺なのに。

「俺、結局自分が可愛いんだ。自分しか守れない・・・どうやったら自分を守れるか、そればっかり考える」

顔を手で覆う。
眉間にしわをよせて、ぎゅっと唇をかみしめる。

「葉月の悩みすら聞いてやれなくて、泣かせることしかできない・・・」

こんな弱い俺、だれも望んでいない。
俺だって自分がこんなに弱いなんて思っていなかった。
表面上は明るくても、中身はこんないももろく、儚いんだ・・・

「強くならなきゃいけないのに・・・・っ・・・・」

嫌気が出る。
こんな情けない自分に吐き気がする。

こんな俺はだれかを愛する理由も、愛される資格もないに違いないんだ。
許す許されないの問題じゃない。
俺という存在がだれかを傷つけるのなら、あってはならない存在なんだ。
俺がこんなんだから、みんなから突き放されるんじゃないのか。
俺は愛されていないんじゃないか・・・

「それでもお前のそばにいたいって願う俺は、わがままなのか・・・」

手に汗をかいているのが分かる。
それでも顔は手で覆ったまま。

「それでもいいよ」

葉月はそんな俺を抱きしめた。
俺は顔から手を離す。
葉月はひざまづき、俺の首を抱き寄せる。

「弱くたって、いいんだよ・・・・わがままなんかじゃない」

どうしてお前はそんなに優しくて、心が広いんだろう。
普通なら突き放すだろ。
普通なら見捨てるだろ、俺みたいな奴。
なのになんでいつもそうやって俺を抱きしめて、助けようとしてくれるんだ。

俺のために泣いて、俺のために傷ついて、それなのに俺を好きでいてくれる。

「知らないだろうけど慧はいつだって葉月を支えてくれてるんだよ。慧が隣にいてくれるだけで、葉月は幸せなんだよ・・・」
「葉月・・・」
「なにかをしてほしいなんて願ってない。ただ隣でいつものように話をして、笑って時にはケンカもして・・・・そんなごく普通の生活が送れるだけで葉月は幸せ」

左頬に涙が流れる。
ポタッと土に落ちて、吸収される。
右頬にも、流れた。

「こんなに弱い俺を・・・受け止めてくれるのか」
「慧だからだよ」

こいつは絶対に裏切らない。

知ってた。
知ってたけど、信じきれなかった。
でもそれでもお前はそうやって、何度でも俺を受け止める。
だから俺はもう一度頑張ろうって思えるんだ。
弱くてもろくて、儚い俺を守ってくれるから、再び踏み出せれるんだ。

「葉月っ・・・・」

俺の手で葉月をぎゅっと抱きしめた。
葉月も、俺を抱きしめているその手に少しだけ力を入れる。

言葉なんかいらない。
俺は愛されてる。

「俺、もっと前に歩み寄る努力をするよ。お前の隣にいるのが俺であることを恥じないために」

今までにない最高の笑顔を見せた。
葉月はすごく驚いた顔をしてみせたから、俺がなんだよ?と言うと葉月はおそるおそる答えた。

「慧・・・そんな顔して笑えたんだ」
「失礼な」
「そっちの方がいいね!」

お前だっていつも俺に見せてくれてるよ、最高の笑顔。
俺がそんな笑顔になれたんだとしたら、それは葉月のおかげ。
すべては葉月がいてはじまった。

『あ、葉月ね、賀川葉月って言うの。貴の弟なんだってねーよろしく!』

そう、すべてはあの時からはじまっていた。
あの頃は嫌で嫌でたまらなかったけど葉月が兄貴の幼馴染みであること、今は本当に感謝してる。
席が隣になったこと、そんな些細な偶然に本当に感謝する。
すべては偶然が重なりあって迎えた結末。

俺は1人じゃない。
心配してくれる兄貴がいて、俺を守ってくれる葉月がいる。
俺が弱音をはいても、泣いても、嘆いても、抱きしめて受け止めてくれる。
それは他の奴らにとってはなんてことのないことかもしれない。
けれど、俺にとっては生きていく上での支えになる。

真奈美、俺はあの頃とちっとも変わってないけれど、でも隣にいる奴が葉月だから変われそうなんだ。
葉月と今、こうやって一緒にいられるのはお前という挫折を味わったからなんだろうな。
月日が経った今では、真奈美とのことも俺の思い出の一部に加わってる。
俺の弱さを引き出したお前とそれを受け止めてくれる葉月。
お前ら2人がいてくれたから、俺は今こうしていられるんだってこと、うれしく思うよ。

いろんなことがあった。
でも、それを乗り越えなきゃ前へは進めないんだよな。
たとえ失敗しても大丈夫。
優しく包んでくれる奴がいるから。
乗り越えられたら、微笑んでくれる奴がいるから。

だから俺は、頑張れる。

「俺、お前がいるなら頑張れる」

はじめて知った。
こんなにも人は人を必要とし、愛され愛したいものなんだと。

知らないならこれから知っていけばいい。
弱いならこれから強くなればいい。
守りたいのなら、守れるようになればいい。
葉月が俺にしてくれたように、今度は俺が葉月にしてやるんだ。
恩返しってわけじゃないけど、葉月だって思ってるほど強くもないんだ。
それを守ってやれるようにならなきゃ葉月を好きでいる意味がない。

「慧に会えてよかった。慧がいてくれてよかった。みんな、そう思うよ。慧はみんなに愛されてる」

無償の愛を与えてくれた。
俺はなにもしてあげられないけど、それでもそばにいてくれる。

「今まで出会った人も真奈美さんもきっと時々ふと思うよ。慧は元気でいるだろうか、今日も笑ってるだろうかって」

葉月の目を見つめる。
優しそうな瞳。
その目に俺はどうやって写っているんだろうか。
その目はこの世界をどのように見ているのか。

「幸せでいるだろうかって。そう思うんだよ、これからも」

みんなが俺を思ってくれている。
本当に?
もしそうなら、うれしい。
今まであったことは意味のないことなんかじゃないって証拠だから。

「だから葉月も思う。出会えてよかった。慧がいてくれてよかった」

葉月は俺の手をぎゅっと握る。
そして、言った。

「ありがとう・・・ありがとう」

俺には言っても言い切れない言葉。
その言葉にはこれほどの重みがあったのか。

「ありがとう、葉月」

俺も葉月に出会えたこと、うれしく思う。
ここにいてくれて、ありがとう。
やっと俺、ここから始めることができるんだ。
もう後ろを振り向いたりしない。
たとえ分かれ道があっても葉月と一緒に進む。
上り坂も曲がりくねった道も、どんなときも進んでいく。

そうしたらいつかきっと、ゴールは見えてくる。














「葉月、頑張れよ!終わったら飯食いに行こうぜ!」
「うん、じゃあ行ってくるね!」

迎えたリサイタル。
あいさつがわりに葉月と品川が舞台でピアノを弾く。
いろいろあったけど、品川は葉月の憧れの人ってわけだし、大目に見た。(笑)
それに俺自身も葉月の晴れ舞台、見たかったんだ。
もちろん品川には喝を入れといたから。(笑)

きっと高校を卒業したら別々の道を歩む。
大学だって離れてしまうし、なかなか会えなくなってしまうかもしれない。
けれど俺たちには、俺たちをつなぐものがある。
どこにいようともどこへ行こうとも愛し愛されているんだ。
俺たちは1人じゃない。
ふと思えば、いつだってみんなが自分を思ってくれている。
いつか大人になって今日のことを笑いあうんだ。







俺たちは

いろんなことを乗り越え挫折し、そして喜びを。



俺たちは

だれかに頼られて、愛されている。





俺たちは

こうやって年をとっていくんだよ。


        fin


続を書いてみましたw
なんかこの2人好きで、また書きたいなぁとか思ってたんです(・∀・)

「続・君という光」しか読んでいない人は是非「君という光」も読んでください♪

それでは、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。













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