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囚われの雪うさぎ

作者:倉原晶
 ふわふわ……ひらひら……

 灰色の空を舞い降りながら、私は仲間たちと会話する。

 どんな所に降りるのかな、何に会えるかな。

 生まれたばかりの仲間たちと、白くて冷たい衣をまとって降りていく。


「わぁっ! 雪だ! 雪が降ってきたよ!」

 子供たちの歓声が聞こえ、私たちは地上が近いことを知った。子供がたくさんこちらを見上げて喜んでる。

 仲間の何人かが、その子供の口に飛び込んだ。

「ひゃっ! 冷たいっ! 食べちゃった!」

「ほら、寒いからお部屋に入りなさい」

「積もるまで待とうね!」
「そうだね! そうしよう!」

 子供たちは大人に連れられて暖かい部屋の中に入っていった。
 子供たちが部屋の中でも楽しそうに遊んでいるそのすぐそばに、私たちは舞い降りた。

「ここは……何処かしら?」

 雪と一緒に舞い降りた、私たちは雪の精霊。
 時々こうして雪と共に地上に降りて、そしてまた雪と共に溶けて空に昇って行く。

「やあ……積もったね。ここは幼稚園の庭だよ。子供たちが遊ぶ所だ。君たちは運がいい。目一杯子供たちと遊べるんだから」

 私の疑問に答えてくれたのは、冷たく冷えきった金属の骨組みのようなモノ。

「……教えてくれてありがとう。あなたは誰?」

「わたしはジャングルジムだよ。子供たちと遊び続けて二十年くらいかな。時々君たちに会えるのが楽しみだよ」

 地に響くような深い声で私たちに話し掛けてくれる。きっとすごく物知りなんだろうな。

「もうすぐ子供たちが出てきて遊ぶよ。今年はこんなに早い時期から積もって、子供たちは大喜びだ」

「ねえ、遊ぶって何をするのかしら」

 私たちはとってもウキウキワクワクしてる。

「すぐに分かるよ」

 ジャングルジムが言うと、部屋の扉が開いて暖かい空気といっしょに子供たちが走ってきた。

「わぁー! 積もった!」
「雪だるま作ろう!」
「雪合戦しよう!」

 子供たちは口々に言いながら私たちを踏みしめ、いろいろな形を作り出した。

「雪だるま出来た!」

 仲間の何人かが丸い形になって、顔を付けられた。
 他の仲間は小さなボールになって、ぶつかり合って遊んでいる。

「……いいなぁ……私は……」

 庭の真ん中では子供たちが雪を好きなように形作り、投げ合って遊んでいる。仲間たちはその子供たちにあたためられて少しずつ天に還っていく。
 庭の外れに舞い降りた私の周りの雪は新しいままだ。せっかくこんな素敵な所に舞い降りたのに、このまま太陽に照らされて空に還ってしまうのかな、と思うと少し寂しい。


「あ……ここの雪、キレイ」

 楽しそうに遊んでいる子供たちからはなれて、おとなしそうな女の子が私の周りの雪に気付いた。

「……なに作ろっかな……」

 女の子はしゃがみ込み、雪を集め始めた。私も一緒にすくい取られ、女の子の手で新しい形に作り変えられる。

 何を作ってるのかな。この子の手、温かいけど、出来ればまだ溶けたくないな……。

 私は女の子のキラキラ輝く目を見ながら、自分がどんな形になっていくのかとても楽しみになってきた。


「できた!」

 女の子は嬉しそうに近くにいた大人に声を掛けた。

「せんせい、見て! うさぎさん!」

「あらー本当。可愛らしい雪うさぎね」

 私の周りの雪はしずく型に盛り上げられ、赤い木の実を二つ、ツヤツヤの緑の葉を二枚付けられていた。

 これ、雪うさぎ……って言うんだ。かわいい!

 しばらくすると、たくさんの大人がやって来て、子供たちを連れて行ってしまった。

 女の子は最後まで残っていたけど、そのうちに一人の女の人が走って庭に入って来た。

「もう、ママおそーい!」

「ごめんね、雪で電車が遅れちゃったの。さ、帰りましょう」

 女の子はママと呼ばれた人の手を取りかけ、ふと私を振り返った。

「あのね、雪うさぎ作ったの……見て」

 女の子に連れられて、ママが私を覗き込んだ。

「あら、かわいい雪うさぎね。上手に出来ました!」

 ママに頭をなでられ、女の子は嬉しそう。そして、女の子はニコリとママに言った。

「ねえ、持って帰ってもいい?」

「……雪うさぎを?」

「だって……溶けちゃうでしょ?」

「家までもつかしら……」

 ママが首をかしげると、「せんせい」と呼ばれた大人がニコリと笑った。

「保冷バッグで持って帰ります? 明日返して下さればいいですよ」

 私はヒョイと持ち上げられて真っ暗なカバンの中に閉じ込められてしまった。

 え……? 何処に行くの?

 真っ暗な中でユラユラ、ゴトゴトと揺られ、私は不安でいっぱいになった。仲間たちは明日には空に還るのに、私はどうなるのかしら。



「ただいまぁ! ママ、おやつ!」

「はいはい。まずはこの雪うさぎをなんとかしなくちゃね」

 ママの声が聞こえたとたん、私の目の前が明るくなった。

 あ、あったかい……。

 ふわりと暖かい空気が入り込んで来たと思ったら、すぐに冷たい板の上に乗せられて、もっと冷たい真っ暗な部屋に入れられてしまった。

「ここ……どこ?」

 何かたくさんの物がゴチャゴチャと入っている部屋。色々な匂いがする。

「ここは冷凍庫だよ」

 私よりもずっと奥に入っている丸い箱が言った。

「冷凍庫?」

「凍った物を溶かさない部屋さ。僕は夏からここにいるアイスクリームさ。君は何?」

「私は雪うさぎよ」

「雪うさぎ……? 食べ物じゃなさそうだね。でも、あの子のイタズラでもなさそうだ……」

「ママがこの子を入れたよ。イタズラじゃないよ」

 私よりも出口に近い所にいる袋が言った時、ガラリと出口が開き、今喋っていた袋がヒョイと持ち上げられた。

「おうどん! おうどん!」

 女の子の声が一瞬聞こえてまたすぐに真っ暗になった。

「今日はうどんか。昨日はたい焼きが出て行ったばっかりなのにな……」

 アイスクリームが少し悔しそうに言った。私は首をかしげる。

「ここは、食べ物の入るところなの?」

「そうだよ」

「じゃあ、何で私がいるのかしら。あの子は私を食べるつもりなの?」

 確かに、食べられた仲間もいたけど……どうなったのかしら。

「さあね。食べるというより、溶かさないためじゃないの?」

「え? 溶けないと私、還れない……!」

 還れなかったらどうなるのかしら。不安が広がって、涙が出てきそう。

「僕なんか、食べてもらえないんだぞ。一緒に買われた仲間はみんな食べてもらったのに。僕だけ忘れられて……」

 アイスクリームの寂しそうな声が聞こえ、私はその真っ暗な部屋でしくしくと泣き出した。


 それから毎日扉は開くけど、出ていくのは食べ物ばかり。
 仲間がいなくなったと思ったら、新しい食べ物が次々にやって来ては出て行ってしまう。
 私とアイスクリームは一番奥に押しやられ、気がついたら可愛い耳も目も、取れてしまっていた。

「……これじゃあ私、雪うさぎじゃないね……」

「そうだね」

 アイスクリームも気の毒そうに頷いた。


 どれくらいの日がたっただろう。
 冷凍庫に入ってくる食べ物がだんだん変わってきた。

 ある日、バタバタと騒がしい音がして、女の子とママが冷凍庫の扉を開けた。

「わあ、この中に入るかなぁ……」

「そうねぇ、ちょっと整理しましょう」

 ママはそう言って冷凍庫の中をゴソゴソと片付け始めた。
 じっとりとした生温い空気が入り込んできて、みんながドキドキしているのが分かる。
 でも私はどうせ食べ物じゃないし、いつまでもここにいるんだろうな、そう思ってたら、女の子がびっくりした声を上げた。

「あれっ! これ……」

 そして女の子の小さな手が、私の隣のアイスクリームをつかんだ。

「去年のアイス、残ってたんだ! ね、ママ、食べてもいい?」

「まあ、本当ね。アイスは賞味期限がないって言うし……今日のおやつに食べちゃいなさい」

 アイスクリームさん……食べてもらえるんだ。よかったね。

 私は自分のことのように嬉しくて、アイスクリームが女の子の手で笑っているのを見送った。

「あら……これ……何かしら。雪……?」

 ママが私を見つけた。

「あら、雪うさぎね。目も耳も取れちゃって……」

 ママは私が座っているトレーごと引っ張り上げて、私を机の上に置いた。

 ……暑い……。

 外は驚くほど暑く、ママも、女の子も見たことがないくらい薄い服を着ていた。

「どうしてこんなに暑いの?」

 私が机に尋ねると、机はクスクスと笑った。

「夏だからさ。ママはたくさんアイスクリームをもらったから冷凍庫を空けたかったんだよ。……君は雪?」

「ええ。雪うさぎよ」

「夏は初めてだろ?」

 優しい声で机は言った。きっと、私なんかが想像もできないくらい長い間、女の子やママを見守ってるんだろうな、と思うと少し羨ましかった。

「ええ……素敵ね。暑くて……明るいわ」

 身体がどんどん溶けていく。ああ、これで私も空に還れる。

 熱い太陽に照らされて、雪うさぎの身体はあっという間に溶けてしまった。私は見たことがないくらい濃い緑の木々を抜けて、真っ青な空に舞い上がった。

 すごい……、きっとこんな空を見たのは私だけよ。還ったらみんなに教えてあげなくちゃ……!

 私は初めて見る夏の景色を目に焼き付けて、雪の精霊の仲間たちのもとに還って行った。

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