0と1/2の交差
本作品は連載として、2015年 08月19日に一度、投稿していたものになります。
旧) Nコード N4394CV
元のページはお話の再編の為、削除させて頂いております。m(_ _)m
俺は高木 幽多。
都会のとある大きなマンションで一人暮らししている。
両親は、俺が凄く小さい頃に病気で他界している。
祖父ちゃんも、祖母ちゃんも居ない。
生まれた時には既に居なかったらしい。
同じ病気で亡くなっていたのかもしれない。
そして、俺も生まれてからずっと身体が弱く、病院の一室に籠りきりが続いた。
ただ、勉強の方は、遅れを取る訳にもいかないと必死でやってはいた。
学校へ行けないのに、何の意味があるんだろうと疑問に感じる事もあったが、取敢えず頑張った。
一時的にでも身体が落ち着いている時にやっていて ――
咳がやばいくらい出始めたら、手術を受ける。
そんな日々が続いた。
一体、どんな病気が俺を苦しめていたのか、医者に何度か訊いてみても分からなかったが、中学に入学してからは何故か落ち着いた。
病気に悩まされる事無く、安心して学校へ通える。
やっと、憧れの学校生活を送れるんだ。
それからいざ、友達をつくろう思ったけど……
……どうやって友達をつくればいいんだ?
そう悶々と思って悩み続けて、気付いたら中学校を卒業していて、もう高校生だ。
こんな事を悩み続けても無駄なんじゃないかと思って、放棄してしまっている。
どれだけ一生懸命頑張っても無駄だと思っていた勉強だけは、中学で身体が落ち着いたお蔭で、無駄になる事は無かった。
一人で寂しくなんかないかって?
彼女いない歴は、自分の歳と同じ。
友達いない歴も、……自分の歳と同じ。
正に『天涯孤独』。
ずっと一人だったから。
一人だったから……。
……寂しくなんかはない。
寂しいと思った、その瞬間に自分が悲しくなるから、そう思わない。
兎に角、死ぬのは怖いと思ってるから、今日も生きる。
しかし、今の環境で生きていく事も、辛い。
俺はこれからも、一人だけの生活に耐えられるのだろうか?
「お前の身体を ―― 、我の素体として利用させて貰うぞ」
そんな不安の続く毎日に変化が訪れたのは、死神を名乗る少女との青天の霹靂な出会いだった……。
※ ※ ※
朝、少し早めに起きて、朝ご飯とお昼の弁当を作る。
テレビのニュースを眺めながら、作った朝ご飯を食べる ―― 一人で。
制服に着替え、いつもの通学路を通り、一人で学校へ向かう。
いつもの様に、難しそうな話をしている先生達の授業を受ける。
昼休みは、朝に作った弁当を。作って来なかったら、学食で適当なものを買って、食べる ―― また一人で。
昼休みが終われば、残りの授業を受け、全ての授業が終わったら、近所のコンビニで四、五時間のバイトへ。
バイトが終わると、真っ直ぐにマンションへ帰り、夕食の準備。
テレビ番組を眺めながら、バイト帰りに買って来たフライドフーズと、作った夕食を食べる ―― 勿論、一人で。
食べ終えた後は、食器を洗い、授業で出された課題を片付ける。
また、週末などの休みの午前中は、溜めた洗濯物を洗い片付けて、部屋を掃除する。
一週間に一回は必ずする ―― 一人暮らしだから。
そして、土曜の正午から深夜までは、生活費に余裕を持つ為、コンビニのバイトに出る。
接客業であるコンビニの仕事は自分には向いていないが、生活費を稼ぐ為と、誰かとのコミュニケーションに不自由しない為に、高校生になってから働いている。
小学生の頃から何回か寄っている所で、また其処で体調が悪くなった時にお世話になった事がある為、オーナーと店長とは顔馴染みであり、そのお陰なのか、自信の無かった面接も通ったのかもしれない。
一緒に立つ相方さんや、オーナーと店長とは仲良くさせて貰っているが、それ以上に仕事の境界を超えた繋がりは、特に無かった。
しかし、生活上ではオーナーと店長が、親みたいな人だと思っている。
だから、寂しくないと思える、もう一つの理由なのかもしれない。
色々大変だが慣れてしまえば、どうって事もない。
そんな風に、俺の生活はループ ―― というよりは、リピートされる。
全てが片付いた後の日曜日は、ネットサーフィンに勤しむ。
面白いゲームを見つけたら、じっくりやり込むが、直ぐにカンストしちゃうので、他のゲームへ渡る事も多い。
後は、ベッドの上で座ったり、寝転んだりしながら、有名な著書の小説や漫画を読むくらいだ。
結構、退屈だ。一人しか居ないのだから。
外へ出る事は、学校と買い物、コンビニでのバイト、市役所や銀行へ、生活する上で必要な手続きに向かう事以外にあまり無い。
身体の事もあるから、遠くへは行けない。
いつか誰かと、遠い場所へ行ってみたいな……。
お前の身体を ―― 、我の素体として利用させて貰うぞ。
「……は?」
突然、背後から何か声が聞こえた気がして、思わず声が出た。
直ぐに振り向くが、誰も居ない。
当然だ。此処はマンションの、俺一人しか住んでいない一室だ。
……空耳か。
俺は歯磨き粉をたっぷり付けた歯ブラシを口に近付け、洗面所の鏡へ顔を向ける。
……
後ろを振り向いてみる。
誰も居ない。
もう一度、鏡を見る。
俺の左肩上に誰かが居るのが映っている。
鏡へ向いたまま、左肩上へ右手を伸ばしてみる。
鏡に映る俺も同じ様に、左肩上へ右手を伸ばす。
俺は鏡に映る誰かに触れる ―― 事は出来なかった。
……鏡に何かが貼り付いているのだろうか?
鏡に映る誰かに手を伸ばしてみて、触れてみる。
シールとかの何かの異物がある事は感じ取れなかったが、金属板の冷たさを感じ取った。
……
「うわああああぁぁぁぁ!!!!?」
近所まで響く位に大きく叫んだ。
※ ※ ※
俺の叫び声で、近所から駆け付ける人が居たが、俺が何か怪我や病気で倒れていた訳でも無かったので、直ぐに帰って行った。
しかし、幽霊という不審人物(まあ一応、人の形をしている訳だし)が居るのだが、不思議な事に見えなかったらしい。勿論、鏡の方を見て貰っても、だ。
それを確認すると、見えないものにこれ以上、居ると言っても無駄だろうと思うので、蜘蛛やゴキブリなどの虫ごときに驚いて叫んでしまった、という事で済ませる事にした。
ところで、俺の叫び声に、幽霊も吃驚したらしい。
幽霊は、鏡の左下に小さい姿で映り、震えている。
幽霊が怯えててどうする……。
……まぁ、見えるなんて思わなかったんだろうな。
俺は溜め息をついて、鏡に映る幽霊の位置を確かめ、幽霊が居るであろう方向を向いて話し掛けた。
「……で、お前は俺に何しようとしていたんだ?」
「……」
幽霊は黙っている。
「その鎌で俺を殺そうとしていたのは間違いないよな?」
「……!」
鏡に映る幽霊は、両手で不気味な黒い鎌を持っていた。
黒い鎌は、何かの生物の様に蠢いている ―― かと思えば、ただそう見える様に作られているだけだったり。
よく見ると幽霊は、烏の濡れ羽色の長い髪と、綺麗な顔立ちをしている。そして、半袖の白いカッターシャツ、首元には白いラインが所々入った紺色の大きなリボン、灰色の濃色と薄色のタータンチェック柄に水色と黒のラインが規則的に並んだスカート、足元は紺色のハイソックス ―― 何処かの学校の可愛い学生服を華奢な身に纏った少女の姿をしていた。
幽霊だから当然、肌は青白かったが、人の肌に近い色の明るみがあり、コスプレしている美少女みたいだ。
鎌を持っていなければ、普通の女の子なのになぁ……。
とポジティブに思考を巡らせると……
あれ、何だか可愛いぞ……?
ついに俺の目が可笑しくなったか。
そんな煩悩の思考に気付き、自分の頬を数回パンパンと叩くと、少女の幽霊は驚いて、慌てて何かを言いながら止めに入る。
……やっぱり可愛い。と思ったが、やはり何だか可笑しい。
少女の幽霊は必死に何かを口にした様だが、―― その声は聞こえなかったのだ。
どういう事だろうか?
何故、俺を今にも殺そうとしないのか。そして、俺の事を心配しているかの様に労ろうとしているのか。
少女の幽霊が何かのアクションを起こす度に、色々と疑問が生じる。
「あー……、その……スマナイが、お前が何かを言おうとしているのは分かるが、聞こえない」
と歯切れ悪く話し掛けると、少女の幽霊は驚いた表情を浮かべては、何かを言いながら一人騒がしくジタバタともがき始めた。
だから何を言っているのか、聞こえないって。
しかし、俺からの声は聞こえている様だ。
騒ぐのに疲れたのか、落ち着きを取り戻そうと深呼吸を始めると、今度は背後から何かを取り出そうと手を動かしている。
すると、ホワイトボードとマジックペンを取り出し、シュピーン!と謎の擬音語を発しながら構えた。
謎の擬音語だけは聞こえたんだが、何処から取り出したんだ……。
一度気になって振り向いてみたが、ホワイトボードとマジックペンは ―― 其処には無かった。
……兎に角、幽霊なのに、小動物の様な可愛さを振り撒いてくれるので、癒されるのは確か、かもしれない。
そんな少女の幽霊の事が気になりだしたので訊ねてみた。
「……あー、そうだな。色々聞きたい事もあるし、それに答えて欲しいんだけど。先ず、お前の名前を知りたいな」
少女の幽霊は笑顔で頷いて、スラスラとホワイトボードに何かを書き始めた。
そして、書き終えたボードを、俺に見える様に鏡に向ける。
それにはこう書かれていた。
『わたしは死神です』
……
死神!?
その漢字二文字が見えた瞬間、これから襲い掛かるのかもしれない恐怖を肌に感じた。
「えー……っと、ちょっと待って。お前の名前が、それなのか?」
少女の幽霊 ―― 死神さんは笑顔でこくりと頷いた。
マジかよ。俺、これから殺されるのか……。
……い、いや。決して本物とは限らない筈だ! ただ、死神を名乗っているだけの幽霊かもしれない!
「あー……、ほんとに死神なのか?」
またもう一度、笑顔でこくりと頷いた。
……冗談はその笑顔だけにしてくれ。
死神さんはまたスラスラとボードに何かを書き始めた。
そして、書き終えたボードと笑顔を、俺に見える様に鏡に向ける。
『あなたを助けに来ました』
……
……はい?
「え……、どういう事?」
死神さんは直ぐにボードに書き込んで、それを見せてくれた。
『書いた文の通りです、あなたを助けに来ました』
「ちょっと待って。死神だよね? ……俺を殺しに来たんじゃないのか?」
死神さんは慌てた表情で口を開き、俺に必死に何かを伝えようとする。
俺に声が届かない事を思い出すと直ぐに落ち着いて、ボードにマジックペンを走らせた。
『そんな、とんでもないです! あなたに憑りつかれている妖魔を回収しに遥々、冥界からやって来たのです!』
死神の衣を纏った天使かよ。
『しかし、肝心の妖魔が、外の何処かに行っちゃったので、暫く此処に居させて貰っても良いでしょうか?』
死神さんは上目遣いの表情で、俺の反応を伺っている。……断り辛いな。
俺は少し考え込んだが、直ぐに答えを出した。彼女が俺の味方である事を述べた上で、外で危険なもの ―― 妖魔が彷徨っているのなら、それは放っては置けない。未だ分からない事も多いし、それしか答えは出せなかった。
「……そう、じゃあ暫く此処に居ても良いよ。何か問題が起きた時、俺では何も出来ないしな……。宜しくお願いするよ」
死神さんの表情が明るくなると、ボードに急いで書き始めた。
そして、書き終えたボードと、これ以上に無さそうな笑顔を、俺に見える様に鏡へ映す。
『ありがとうございます!』
こうして、死神さんと暫く同居生活を送る事になった。
しかし、肝心な疑問が解決していない。
「お前の身体を ―― 、我の素体として利用させて貰うぞ」
最初に聞こえた、あの声は誰のものなのだろうか?
死神さんのいう妖魔の声……なのだろうか?
もし……、彼女のものであるとしたら、妖魔を回収しに来たのは嘘なのかもしれない。
だとすると、いくら綺麗な容姿で可愛らしく振舞ったりしてても、このまま近くに居させるのも危ない。
……でも。
今は襲って来る気配も無いし、心の中で何かもやもやとしているものを取り除いてくれている感じがするから、傍に居させてあげる事にしよう。