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ESP部のとある事情
作:式織 檻


「きゃあああああああーっ!」
 某県立高校の南校舎の三階において、「ESP研究会」という看板を仰々しく構えている扉の奥から、女子生徒の悲鳴が響き渡ったのは、ある土曜日の午前十時の事だった。


 そしてその一時間後、この「ESP研究会」に籍を置く生徒全員が、その現場たる部室で一堂に会している。
 横にずらっと並べられた四つの椅子の内、向かい合って一番右側に座っている銀縁眼鏡の男子生徒が、この「ESP研究会」のまとめ役たる部長氏。難しい顔で、腕を組んでいる。
 その隣、仏頂面で背もたれに寄りかかって足を組んでいる男子生徒が、坂巻。
 さらにその隣、整った顔に微笑を浮かべて座しているのが、藤沢。
 そして左端、膝を握って小さくなっている女子生徒が、花塚まいみ。彼女はついこの前この研究会に入ったばかりで成り行きに混乱しているのか、頭頂部で一つに縛った髪を小刻みに震わせている。
 そんな四人の眼前を、腕を組んだまま落ち着き無く右に左に行ったり来たりしているのが、ショートヘアーの女子生徒、河野五月である。
 部室の壁に掛かっている時計の短針が丁度十一を指した時、五月は立ち止まり、くるっと四人の方を向いて、話し始めた。
「……今日、悲しい事件が起きました」
 睨む目つきに重々しい口調。しかし椅子に座った四人はその真意が掴めず、首を捻るだけだった。
 そんな聴衆に対し、五月は無言ですっと右手を差し出した。その手に平に乗っているのは、白い紙製のシール。青色のペンで「さつき☆」と書いてある。
「これが何だか――わかりますか?」
「わかんないよ」
 坂巻が即答。その返答に五月は「ふう」とため息をつき、刹那の沈黙、そして思い切り息を吸い込んで、

「私のプリンに着いてたシールなのっ!」

 叫んだ。その風圧に前髪を揺らしながら、
「え? そのプリンとは……?」
 藤沢が質問。五月は部室の隅に置いてある冷蔵庫を指差しながら、
「冷蔵庫に入れておいたのっ! とっておいたのっ! 今日食べようと思ってたのっ! なのにさっき開けたら無かったのっ!」
 人を吹き飛ばす勢いでまくしたてる。
「……そういうことですか」
 と藤沢は苦笑。嘆息しつつふと気付いて右側を向くと、そこにいたはずのまいみが姿を消している。きょろきょろ周囲を見渡すと、まいみは部室の隅でカタカタ震えていた。
 坂巻は「やれやれ」と言うような顔をしながら、
「お前の好物が無くなったのは分かったが、何で僕達を呼び出すんだ? わざわざこんな休日に」
「決まってるじゃないっ! 犯人を捕まえるためよっ!」
「……犯人?」
「そっ」五月は人差し指をメトロノームのように振りながら、「この部室にはちゃんと鍵がかかってたわ。つまり、この部屋に出入りできたのはこの研究会のメンバーだけ」
「……お前、まさかとは思うが、今更、『犯人はこのな――』」
「『犯人はこの中にいるわっ!』」
 五月は、ドドドンッというSEが聞こえてきそうな気迫で言い放った。
「……犯人を捕まえてどうするつもりなんだ?」
「警察に突き出すのよっ!」
「……プリンの盗み食いで駆り出されてたんじゃ、警察もやってられないだろうに」
「加えて弁償もさせるわっ! もちろん十倍返しっ!」
「……どこのいじめっ子だ、お前は。むしろ捕まった犯人の方が可愛そうだ」
 坂巻は呆れ顔。しかし五月はそんな表情を気にすることも無く、
「さ、一人ずつアリバイを言ってってもらいましょうか。私が最後に確認したのは昨日の夕方五時三分十二秒二六だったから、その後よっ」
 言いながら、五月が最初に視線を向けたのは部長。その部長は、
「ふ〜む。我らが部室で、よもやそんな由々しき事態が起きようとは……」顎を手で押さえている。「ちなみに僕は、昨日の午後六時頃に一度ここに来たが、冷蔵庫には触っていないぞ。その後は塾に行き、そこから即帰宅。今の今まで家から一歩も出ていない」
「言い切れる?」
「ああ。取っ手の指紋でも調べてくれればいい」
「指紋を拭き取ったかもしれないじゃない」
 五月はなおも疑う目つき。
「……プリン一つに、完全犯罪でも看破する勢いかよ」
 と、ジト目で嘆息している坂巻の横から、
「ふふ。もし指紋を拭き取っていれば他の指紋も同時に消えてしまい、逆にばれてしまうよ。手袋をした手で開けても、同じ事だしね」
 と言う藤沢のフォロー。五月は、
「ふ〜ん、そっか。じゃあ、部長はシロね」
「……あっさりしすぎだ」と、坂巻の呟き。
 五月は首を右に四十度ほど回し、
「じゃ、次、藤沢君は?」
「俺かい? 俺が昨日から今まで、この部室に来る暇が無かった事は……え〜と……一組の穂坂さんと、九組の鳥羽さんが証言してくれると思うよ」
「ふ〜ん、そっか」と、五月。
「……お前は別の罪に問われるべきだな」と、再度坂巻の呟き。
 五月はくるっと振り返り、今度は教室の隅で小さくなっているまいみに視線を向けた。
「まいみちゃんは?」
 名前を呼ばれてびくっと肩を震わせたまいみは、心持ち顔を上げ、
「わ、わたしは……その……き、昨日は……お、お友達と……えと……あ、遊んでました」
 命乞いのように言う。五月はギラリと瞳を光らせ、
「……誰と?」
「え、えと……同じクラスの、瑞希ちゃん……金村瑞希ちゃんです……」
「ふむ、証言者がいると……。じゃあ、まいみちゃんもシロか」
 五月は納得したように顎を縦に動かす。そして視線を横に移動させ、
「じゃあ、犯人は坂巻君ねっ! さ、今すぐプリンを百個買ってきなさいっ!」
「おい! 何で僕なんだ!」
「だって、他のみんなはアリバイあるし」
「僕のアリバイを聞いてないだろ!」
「聞かなくたって、あんたが自動的に犯人よ」
「自動って何だ! 僕は昨日、放課後すぐに家に帰ったんだ! 部室には来てない!」
「つまり、証言者は家族だけなのね? それじゃ、アリバイとは認められないわ」
 言い返せなくなり、「ぐぬぬ〜」と歯軋りをしている坂巻の後ろから、
「あ、あの……」と、まいみが挙手をした。「昨日の下校途中に、坂巻先輩を見かけました。一人で商店街を歩いてました」
「ほらみろ。僕はちゃんと帰ったんだ」と坂巻は胸を反らす。
「一旦帰って、また部室に来たかもしれないじゃない」
「それを言うなら部長とまいみちゃんもだろ! 藤沢以外、誰もアリバイが無くなるよ!」
「う〜ん……それは困ったわね」
 顎を手で押さえ、考え込む五月。坂巻は「困ってるのはこっちだ」と言うような顔をする。
 と、藤沢が仕切り直すように、
「と言うことは、みなさんの証言を信じるならば、昨日部室に入ったのは部長のみという事ですね。しかし、部長は冷蔵庫に触っていないと」
「うむ、そうだ」頷く部長。
「では、部長。昨日、この部室でプリンを食べませんでしたか?」
 藤沢の質問に、部長は「プリン?」と少しだけ首をかしげ、そして思い出したように、

「ああ、プリンなら食べたよ」

「へ?」と、五月と坂巻とまいみがハモる。
 刹那の静寂が部室に流れ込んだ。そして五月が口をパクパクしながら、
「ちょ、それ、私のプリン――」
「いや、さっきも言った通り、僕は冷蔵庫に触ってはいない。僕が食べたプリンというのは、そこの机の上に置いてあったものだ。注意書きも無かったし、丁度小腹が空いていたので、頂いたんだが――」
 聞き終わらないうちに、五月はトトトッと部室の隅に駆けて行き、そこに置いてあるゴミ箱を覗き込んだ。そして紙くずの上に積まれている空のプラスチックカップを発見し、
「あああああっ! これ私のプリン! これ私のプリンですよ!」
「だから違うよ。冷蔵庫に入っていたものじゃないんだから」
「だってこれ、私が買ってきたのと同じですよっ! ちゃんと冷蔵庫に入れておいたんですっ! 部長、嘘ついてますねっ!」
「いいや、断じて違う。君がプリンを机の上に置きっぱなしにしていたというなら話は別だが。しかしその場合、君の不注意による責任が大である事甚だしいよ」
「いいえっ! ちゃんと冷蔵庫に入れて置きましたっ! 私の名前が書いてあるシールは、冷蔵庫の中に落ちてたんですよっ! 部長がシールを剥がして、プリンを盗ったんですっ! 何て滅悪なっ!」
「いや、さっきも言った通り――」


 なおも続く五月と部長の言い合いを眺めながら、
「どう言う事?」
 と首を捻る坂巻に、隣に佇んでいる藤沢が微笑を浮かべながら、
「これは、部長の能力のせいだね」
「部長の能力……? ああ、『念動力』か……」
 納得顔で、傍観を続ける坂巻。
「しかし『ESP(超感覚)部』の部長が、実は『PK(念動力)能力者』だったっていうオチはどうなんだ?」
 藤沢は「ふふふっ」と笑い、
「いいんじゃない? 部長も、超能力なら何でも良いって主義の人だから。ふふ。ま、今回のこれは、超能力が社会的に認知されれば、過去のミステリ小説が破綻してしまうという、良い例だよね」
「…………そうかあ?」


次作と投稿順序が逆になってしまったんですが、まあ、問題ないですかね?













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