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ノブ、それって空耳 作者:奈備 光
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40 スキンヘッドの嘘

 今の話の中に、少し考えるとおかしな点がありましたね。
 伊知さんがどの飛行機に乗ったか、こんなことは調べればすぐに分かります。警察は必ず調べるでしょう。なのに、なぜ犯人は駐車場の時間差などという稚拙なトリックを施したのでしょうか。
 死体が、発見されることなく安全に他所へ運び出せればそれがベスト。しかし、発見されたとしても誰かに濡れ衣を掛けさえすればいいのです。
 つまり、すぐにばれることも想定した上での仕掛けだったのです。
 もちろんその濡れ衣を掛けられるのは金谷さん。四日の夜に金谷さんの携帯からメールを入れ、あたかも彼らが会っていたかのように見せかければいいのです。

 伊知さんの携帯電話が発見されたとき、マナーモードに設定されていました。死体を植え込みの中に放置していくわけですから、音が鳴ると困ります。犯人は、金谷さんの携帯から四日の夜、植え込みに放り出されたバッグの中の伊知さんの携帯にメールを入れた、というわけです。
 この仮説が正しいとすれば、金谷さんの携帯は四日の夜には犯人の手の中にあったということになります。

 さて、アリバイの話に戻りましょう。
 三日の夜のアリバイ。丸山さん以外は、どなたもありませんでしたね。
 松任さんや瑠奈さん、そして丸山さんは、先ほどの理由で除外しましょう。
 残ったのは芳川さん、立成さんと、瀬謡さん。
 芳川さんと立成さんについては、夜八時にパパラッチを出てから、偽のメールが発信された十時四十三分までの間のことです。
 いかがです?
 瀬謡さんはまだ店の営業時間中ですから、大丈夫かな。
 一歩たりとも店から出ていないというお客の証言がありませんか。
 あ、そうですか。大丈夫ですか。それはよかった。
 じゃ、立成さんと芳川さんは?

「事務所のセキュリティに人の出入りが記録されているから、私はその時間は事務所にいたことが証明できますよ」
 そう言ったのは芳川だ。
「そうですか。立成さんは? 三日のアリバイはなく、四日の夜はアリバイがある。その人が、時間差トリックをする資格があるということですよ」
 立成が異議を唱えた。
「今の話じゃ、四日の夜に駐車場の領収書を取りに行かなくちゃならない。わしにはそれはできないぞ。北新地の行きつけのラウンジにずっといたんだ」
「そうですね。その点、芳川さんのほうはどうです? 四日の夜は、ずっと札幌のホテルに缶詰で作業していたということでしたが」
「そうです。そんなことは不可能です」
「ふむ、ま、それは置いておきましょうか。もう一度、立成さんに質問しますよ」
「なんだ!」
 立成が、スキンヘッドを真っ赤にして吼えた。

「立成さん、嘘をつきましたね。パーティの夜、金谷さんを下まで送っていき、彼が地下鉄の駅まで走っていくのを見たと」
「それが嘘だとぉ! わしの潔白は証明されたんじゃないのか!」
「なぜ、そんな嘘をついたんです? 金谷さんが地下鉄の駅まで走っていくのを見たということは、表通りにあるメインロビーまで出て行ったということですよね。ゲストハウスの専用エレベータには、暗証番号を知らないと下からは乗れませんよ。金谷さんを見送ってからどうしたんです? 社員の誰かに下まで迎えに来てもらったんですか? それとも下の事務所から非常階段を通って? それなら、金谷さんが帰ったことが芳川さんの耳に届いているはずです」
「なっ」
「違いますね。あなたは、金谷さんを送ってなどいない」
「なっ」
「送ったと嘘をついたのは、金谷さんがあの夜、あのゲストハウスで殺されたのではない、ということにしたかったからじゃないですか?」
「なんと!」

「つまり誰かを庇うために。そして結果として、須磨の土地売買について、土壇場になって大きな値引きを勝ち取った。これは繋がる話ですよね」
「なんということを! でたらめだ!」
「まだ、でたらめな臭いがしますか。いいですよ。でも、あなたの嘘に気づいたことで、ことの真相がはっきりと見えてきました。さ、芳川さん、いかがです? ……お声がありませんね」
 立成の視線は相変わらず痛い。
 しかし、瞳にはすでに迷いがあった。
 立成がチラッと芳川に眼をやったが、こちらは憮然としたまま目を細めて、あらぬ方を見やっている。

 伊知さんは四日の昼には披露宴に出席する予定が入っていたのに、永年の友人である瀬謡さんにはなんの連絡も入れなかった。
 なぜか。とりあえずひとつめの課題として提示しておいた件です。
 もうお分かりだとは思いますが、再度整理してみましょう。
 芳川さんが四日の夜、札幌から帰れないかどうか。これを検証してみましょう。
 いいですか。
 札幌を十八時三十分発伊丹二十時二十五分到着の日航機で大阪に帰ってくる。すると、かろうじて二十時四十七分に空港近くの駐車場を出ることができます。翌朝、関空朝八時十分発札幌九時五十五分着の日航機であれば、十一時からの札幌でのパーティに滑り込みで間に合いますね。
 その間に伊知さんの死体まで舞い戻って領収書を。

 さすがに芳川の表情が変わった。
「そんな……。私は朝市で……」

 市場はパーティ会場のホテルのすぐ近く。
 カニ味噌の瓶詰めなんか、朝一番じゃなくても売ってますからね。

 芳川さん、あなた、四日の夜、瀬謡さんに予約の電話を入れたでしょう。札幌からですね。あのすぐ後、携帯は繋がらなくなった。
 五日の朝、塊田瑠奈さんがあなたに電話を入れた。それも繋がらなかった。
 あなたはそれぞれ、適当な理由をこしらえていたけど、それも嘘でしょう。
 実際は二回とも飛行機に乗っていて繋がらなかったということですね。瀬謡さんのときは札幌から伊丹への、瑠奈さんのときは伊丹から札幌への機中だったわけです。

「なんの証拠があって……」
 それにですね、この店へ打ち合わせの後で来たとき、そう、伊知さんの事件をこのテレビで見た日のことです。
 あの日ここへ来る途中、芳川さん、あなたは言いましたよ。
 天神橋筋は工事中だって。
 あの工事、三日の夜からの夜間工事ですよ。
 三日の夜は事務所で残業して、まっすぐ帰宅したんですよね。
 梅田のパパラッチからあなたの事務所のある土佐掘通へは、天神橋筋は絶対に通りません。もちろん、あなたの家がある芦屋へも方向が正反対。
 どこへ行ってたのかな?
 四日からは札幌、続いて東京へと出張。そのあなたが、天神橋筋が工事中だと、なぜ知っていたのかな。

「ちょっと、待ってください。さっきも言ったように、事務所のセキュリティが」
 生駒はピシャリと芳川の言葉を遮った。

 事務所のセキュリティは、作動させなければ役に立たない。
 一旦事務所に戻り、天神橋筋の伊知さんのマンションに向かい、また戻ってきたとしても、施錠しなきゃセキュリティなんてお構いなし。

 芳川の顔から血の気が引いていった。
「言いがかりです。所詮、仮説に基づく話じゃないですか。しかも、私がなぜ伊知さんや金谷さんを殺す理由があるというんです。それを全く説明していないじゃないですか」
 言葉はまだ丁寧だが、目は吊り上がり、口元が震えている。

「でも来月になれば、JCBから伊知さんの会社へ、三日の夜の駐車場料金を引き落とす旨の明細が届くと思う。それは伊知さん自身が支払ったもので、あんたが用意した領収書と矛盾する内容のものがね」
「そんなことは私には関係ないですし、そもそも」
「伊知さんや金谷さんを殺す理由を聞きたいんでしょう。それはあなた自身から、お話になったらいかがです?」
「めちゃくちゃだ!」
「ふう。じゃ、しかたがない。では、今からそれを話しましょう。推測がふんだんに含まれていますが、基本的な筋にぶれはないはずです」

 金谷と芳川の接点は三十年前にもあった。
 警察の調査によって、ふたりは同時期に同じ自動車運転教習所を卒業したという事実が明らかになっていた。
 生駒は、冒頭にその事実を披露した。
 芳川が目を剥いた。
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