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ノブ、それって空耳 作者:奈備 光
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9 エンジン音と秘書

ーーーーー0620 芳川ブログ2
このブログに名前をつけることにした。
題して「インタビューブログ」。
知人は「人の輪ブログ」はどうだというが、次々とご紹介いただくというご迷惑な手法がどれほど、続くのか分からないので、一応インタビューブログという名称でいこう。

さて、お二人目。
伊知馨さん。
再び素敵な女性。
店舗などのディスプレイを業とされている。前回の瀬謡さんのご紹介である。
題して「エンジン音」


月並みだと思われるかもしれませんが、憧れはやはりハーレーダビットソン。
子供のときに叔父がその単車を所有しておりまして、一度後ろに乗せてもらってから、はまりました。

学生時代はツーリングサークルに入りまして、日本全国を回ることを夢にしていたものです。
残念ながらバイクでそれを実現することはかないませんでしたが、大人になってから車ではほぼ半年かけて実現しました。もちろん大阪から数泊で、今日は東北方面、今回は九州方面と出かけましてね。一応、県庁所在地をすべてクリアするという目標で。

音というテーマでしたのでエンジン音ということにしましたが、私は単車に乗ることが好きだということなのです。
さすがにこの歳になって、あれに跨るというのも違和感がありますし、体の敏捷性も落ちているので危ないということもあり、今はもっぱら自動車です。それでも単車に乗って走り回っていた頃のことは忘れられません。

単車の良さは、なんといってもあのレスポンスでしょう。
そしてあの爽快感。風。
あ、お題を風切音にすればよかったかな。

単車って、あの小さな機械で、よくぞあれほどのパワーが出るものだとお思いになりませんか。
怖いくらいの「力」が、一気に噴出するとでも言いましょうか。

見方を変えれば、どんな機械も本体部分は小さなものであって、そのカバーがかさ高いのだといえますが、単車はその本体部分、つまりエンジンがむき出しなんですね。
機械そのものに乗っかっている感じ。
一歩間違えば大怪我をするし、結果として人に怪我をさせることもあるわけですが、その恐怖さえも一種の快感といえるかもしれません。
エンジン音はその快感の象徴のようなものだと思うのです。

実は、エンジン音だけではありません。
タイヤが軋む音もそうですし、止まったときにタンクのガソリンが揺れて、タポンタポンというんですよ。自分の胸のすぐ下で。
これが生きた機械を感じるというのかな、その機械を自在に操っている自分を見つめるというのかな、そこが快感なのです。

ところで、なぜ単車っていうか、ご存知ですか。
一気筒だから単車、です。
大学時代にそう習ったんですけど、違うかしら。

昔はほとんどが一気筒でしたが、どんどん進化して、今は二気筒も四気筒も普通にありますね。
私が大学時代に購入したのはヤマハのRD250という空冷二サイクル並列二気筒のバイクでした。
RDというのはヤマハが二、三十年にもわたって出し続けたシリーズですが、今は、もう伝説ともいえるバイクです。

あ、そうそう。
先日、大学の同窓会があって、ツーリングサークルの仲間からおもしろい話を聞きました。
なんと、今でもそのヤマハのRDに乗っている人たちの集まり、つまり同好の士の集まりがあるそうなのです。
たぶん、オンボロに鞭打つように跨って、白煙を吐きながらプスプストロトロ走っているのかなと思うと、なんともいえず懐かしく思います。
きっと、思い出をたくさんお持ちの壮年の方々が楽しまれているのでしょう。
私もバイクを続けておれば、仲間に入れてもらっていたかもしれません。


「格好いいやん。吹き抜けにガラスの螺旋階段。世界のお酒のコレクション」
 生駒は、ため息交じりの優の感想に微笑んだ。
 階段を上がったところは、またひとつのミニラウンジになっていた。
「さすが、ゲストハウスだね」
「ほんと、驚くことだらけ」

 ラウンジには、ゲスト用のガラス張りの浴室があった。
「ひゃ~」と、優がまたしても素っ頓狂な声をあげた。
 浴室のガラスに鼻を擦りつけている。
 内に吊り下げられたブラインドは引き上げられ、ガラスについた水滴の間から浴室の中の様子が見えた。

「ステキ!」
 ジャグジーバスに湯が張られ、盛大に泡立っていた。
「入ってみよ」
「え、今?」
「アホ。見にいってみるんやろ」
 真っ白なパウダールームを通り過ぎ、浴室に入ってみて、またもや驚いた。
 浴室続きにデッキが張り出しており、そこにさらに大きなジャグジーバスが据えられていたのだ。
「うおおっ、露天風呂!」

 ここからも湯気が立ちのぼっている。と、
「わわっ、すみません」
 すでにふたりの男性客が浸かっていた。優は後ずさり。しかし出てくるなり、
「プールは止め。お風呂に入ろう!」
「本気かよ」
「ルナの水着を借りるから平気!」と、早速、備え付けのシャンプーなどを点検し始める。

 生駒は渡り廊下に足を向けた。
 空中を歩く印象。二階建ての渡り廊下だ。
「さ、母屋の二階を見て回るぞ」
 こちらのブロックは客が泊まる寝室なのだろう。小ぶりな部屋にひとつずつベッドが置かれてあった。

 それにしても金谷は相変わらずだ。
 飲み癖の悪いのは今に始まったことではないが、世界中の地酒コレクションなんて、ぴったりの居場所を用意してやったようなものだ。
 クライアントとの打ち合わせに、平気で無精ひげを生やしたままで出席するような男だ。
 いってみれば無頼漢ということになるが、少し崩れすぎている印象が自分の仕事の量も幅も狭めていることに気がついていない。
 飲み過ぎなければいいが。

「ねえねえ、ミラーサイトがあるって、ノブ、知ってた?」
 優はゲストルームのベッドに腰掛けて、枕なぞを点検している。
「いや」
「松任さんも知らなかったみたいね」
「ん?」
「びっくりした顔してた。秘書なのにね」
「プライベートなブログだからじゃないか?」
「でも、インタビューに同席してるんでしょ。ただならぬ仲とか」
「また、勝手な想像を。おい、寝転ぶな」

「キャリアウーマンかあ。……死語かな」
「賢い人ではあるな。おい、起きろ」
 松任は女性にしては上背があり、痩せぎす。好みの問題かもしれないが、性格がきついという印象を受ける。
 ただ、立成も言ったように聡明であることは確かだ。
 インタビューのとき、松任歩美はどんなことでも期待以上の成果を挙げてくれると、芳川は最大限の賛辞をつけて紹介してくれたものだ。

 頭の回転も口の回転も早い人の中には、相槌を打ちつつ人の話を横取りするものがいるが、松任は相手に気持ちよく話をさせる知識と知恵、そして技術を心得ていた。

「弱点もあるけどね」
「へえ、なに?」
 生駒のインタビューの日、紹介者として同席していた金谷が、伊知のエンジン音のお題を引き合いに出して、自分も車が好きだという話を始めたときのこと。
 事故を起こしておきながら被害者の身になったことさえない人が、意味もないそんな自慢話をしたがるものだ、と松任はビシリと切り捨てたのだ。

「ちょっと唐突な反応だった」
「ふうん」
「松任さんは高校生のとき交通事故にあって、ピアニストになる夢を捨てたんだ。そう、芳川さんは庇っていた」
「ふうん」
「以来、松任さんは、自分はもちろん、夫も運転のできない男を選んだらしい」
「それって、弱点っていうのん?」
「冷静でいられなくなるってのも、弱点だろ」
 と、「うわ」と、小さな叫び声を上げて、優が飛び上がった。
 入ってきた男女も、優の格好を見て驚いたのだろう。戸口のところでピタリと足を止めた。
 しかし律儀なことに、そのまま立ち去っては失礼だと思ったのか、なにごともなかったかのように部屋に入ってきて、笑顔を向けてきた。

「あの、私、丸山と申します。九番目にインタビューを受けたものです。ご挨拶をさせてください」
 男が名刺を差し出してくる。

 丸山徹。コンビニエンスストアの経営者だという。
 生駒と同じような年齢だが、茶髪にマシュルームカット。
 例の、強烈な存在感を発散している黒ドレスの美人を伴っていた。妻の祥子だという。年齢が少し離れているだけでなく、なんとなく不釣合いな感じがしないでもない。

 丸山は、生駒が一瞬抱いたそんな印象にはお構いなしに、白い顔をほころばせた。
「ここの住宅は、なかなかのものですね」
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