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リリーナ
作:スピリットQ



<3>


俺たちは、隣りの町メイクルンに辿り着いていた。

「やっと着いた〜! 早くどっかの店で休もうよー」

着いた早々、町の入り口でセレアはその場にしゃがみこんでしまった。

「ったく、だらしねー奴だぜ。三時間ばかし歩いたくらいでこのざまじゃあ、
 長引くかもわからねぇこの旅の行く末が丸見えだぜ。
 言っとくが、俺はそういう奴は見捨てて行くからな!」
「や〜ん!」
「や〜ん! …じゃねーよブリッコ!」

しかし腹が減った。

「よう、リベル。昼はとっくに過ぎてるぜ。どっかその辺の店に入ろうぜ」

中が酒だけの腹に手を据えながら俺は言ったが、俺の言葉に耳を傾ける様子もなく、
奴は町の様子を黙って見つめていた。
ああ、そうかよ。人捜しが優先だってか。確かにそれはそうだ。
でもな、陰険ネクラのアホリベル。俺には腹ごしらえの方が今は先なんだよ!
リベルを睨んで、心の中で俺はそう文句を並べ立てたが、
それまでばてていたセレアが、突然俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

「リベルって誰? さぁ、行きましょ。リリーナちゃん!」

いきなり元気になったセレアが、グイグイ俺の腕を無理に引っ張って、キャッキャと町の中に入って行った。
この脳無し女は、まだリベルのことを無視し続けていた。
まぁ、今までの旅の途中でも度々あったことだが、セレアは男嫌いなのか? ひょっとすると…。
へっ! んなこたぁ、俺には関係ねーっての。
それより今の俺様に関係があることはってーと、メシだよメシ!


セレアが俺の腕を引いて美味そうな匂いのする店の中へ入ろうとした刹那、
へんてこな杖をついた薄汚い今にもポックリ逝きそうな老人に俺はぶつかった。
そしてその反動で、老人はその場に倒れ伏してしまった。

「うう……」

うめきながらも老人は懸命に立ち上がろうとしていたが、俺は知らん顔である。
あったりめーよ。ジジィの前方不注意なんだから俺に責任も義務もありゃしねー。
まさかここでこの俺が、
「ごめんなさい、おじいちゃん。お怪我はありませんか?」
なーんて手を差し伸べるわきゃねーって。誰がやるか。オエ。

「ねぇ、早く中に入ってお食事しましょうよー、リリーナちゃーん。
 ……こんなジジィどうだっていいじゃない」

うーん…。
セレアは、俺と性格が結構似てるかも。
俺も含めて、綺麗な顔している女は、素性が計り知れねーもんだからな。
現にこいつはお嬢様っぽい(?)ところが時としてあるから、家柄は相当なもんじゃねーの?
と、勝手に解釈してみる俺。
んなことより腹ごしらえっと♪

「よっしゃあ! 食って食って食いまくるぞー!」
「きゃあー! そうこなくっちゃ。食いましょ食いましょ!」
「…ま、待ちなされ! そこの礼儀知らずな若人らよ!」
「ああ?」

俺とセレアは老人の方を振り返ると、目をギラッと光らせた。

「この期に及んで礼儀知らず呼ばわりするとはいい度胸してんじゃねーかこのくそジジィ!」
「この優しくて可憐な美少女のあたしのどこが礼儀知らずなのよドン亀!」
「……おいセレア、今の発言には俺も引っかかるぞ。
 容貌は関係ねぇし、大体お前のどこをどう見たら優しいって言えんだよ。
 自分を如実にかえりみてから言え!」
「やーん! リリーナちゃんのいじわるぅ〜!」
「誰がドン亀じゃ! なんちゅー口の悪いおなごじゃ!」
「ジジィこそ迷惑かけんじゃないわよ! ったく、いつまで店の前に突っ伏してんだか。
 商売の邪魔よ邪魔! しっし!」
「別にお前が商売してるわけじゃねーだろ」

いちいち突っ込む俺。ま、どっちの味方でもないからな。

「そこな少年! 突っ立っておらんで、早くわしを起こすのじゃ! 
 年寄りを転ばせといて見て見ぬふりとはなんじゃ! 近頃の若い者は全くこれだから……」

「んだとーっ!? ぶつかって来たのはてめーの方じゃねーか! あーあーやだねー、近頃の年寄りは、
 やたら罪をなすりつけてくるからなー……このくそジジィ!」
「おぬしがぶつかって来たんじゃ! このわしを脆弱ぜいじゃくな年寄りだと見くびって、わざとぶつかってきよったか? 
 年寄りをいじめるのが面白おかしくて…。お〜お〜、そうかいそうかい。わしは可哀想なジジィじゃのぅ。
 そうともそうとも。わしはこの若いもんからいじめられたのじゃ! なんと嘆かわしい!
 偉大なる神ベニーテスよ、この哀れなジジィにお慈悲を〜……」

なんなんだよ、このベラベラ一人で網羅もうらし続けるアブノーマルなくそジジィは。
黙ってりゃいい気になりやがって、神だの慈悲だのって嘆いてんじゃねーよ!

「やい、ジジィ! 俺たちゃ忙しいんだ! 棺桶に片足突っ込んでいるてめぇに構っているほど暇じゃねーんだよ。
 さっさと立ち上がってとっとと消えちまえってんだ。行くぞセレア。
 …さ〜てと、ブタの丸焼きでも頬張っちゃおうかな〜」
「あたし、猿の脳味噌〜!」

自分の脳味噌が入ってないもんで、猿から頂戴するってか?

ジジィを背後にして、俺とセレアは何事もなかったかのようにきびすを返して店の中へと入って行った。
ゆえに、この後の展開を知る由もない。
老人が悔しそうにワナワナと身を震わせている目の前へ、一人の男が腰をかがめ、慇懃いんぎんにも手を差し伸べた。

「お、おお…、すまんのぅ。わしを起こしてくれるのか? いやいやありがたい。何せこの年寄りじゃ。
 一人で起き上がるのも一苦労じゃて」
「お怪我はありませんか?」

男は老人を立たせると、優雅な口調で言った。

「何、心配には及ばぬ。あんたはさっきの輩とは雲泥の差じゃ。何、あんな輩と比べる方がおかしい。
 全く何を考えてるかわからぬ、あやつらは……」

老人が怒り狂っている側で男は微笑し、軽くお辞儀をすると静かにその場を去って行った。















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