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08話 略奪
「ほう、ではおぬしの最終目標はその弟を打ち倒すことかの?」
 咲耶が言う。
 仕事帰りの会話だ。
 今回は、俺――緋宮慧と咲耶の二人で隣の県まで遠出したのだ。
「まぁ、そんなとこだ。正確には緋宮家の全てを超えること、だがな」
 帰国してから、約二週間。
 そろそろ動く時かもしれない。
「兄弟対決とはのう……。わらわとしてはお主を応援するぞ」
 ククク、と笑っている。
 相変わらず、面白そうなことには目がない狐だ。
「好きにしろ」
 ……。
 そろそろ、形瀬家だ。

「おかしい」
 門の前に着いたときだ、唐突に咲耶がつぶやく。
 ?
「中から人の気配がせぬ」
 !
 玄関を通らずに庭を突っ切る。
 向かうは、居間だ!
「唯衣!美織さん!」
 たどり着いた今には二人の姿はない。
 くそっ!
 敷地全体を包む形で意識の網を広げる。
 しかし、……いない。
 何処だ?
 存在確率の分布も調べる。
 これも、反応がない!
 と。
「慧!」
 咲耶の呼ぶ声が聞こえた。
「どうした!」
 咲耶がいるだろう方に駆けながら叫ぶ。
「ここを、見よ」
 !
 たどり着いた俺は、咲耶が示した場所を見て、先ほどより大きな衝撃を受けた。
「……こ、…………これ……は……」
 正直、声を出せた自分を褒めてもいいだろう。
「驚いたのう。ここの警備は並みの者では突破することはできぬ。突破してもあの二人は相当な実力者だ、……そうそう遅れを取るとは、思えぬ」
 流石の咲耶も声に、冗談やふざけている感じがない。
 ……。
 俺の、目の前に広げられた光景。
 それは。
 何者かが争った後だ。
 物が乱雑としており、所々に血痕もある。
 ……。
 思考が完全に止まっている。
 何も考えられない…………、咲耶が横で何か声を出しているが、理解できない……。
 ドッ!
 膝が床に着く。
「…………唯衣……」
 と。

「しっかりせい、この馬鹿者!」
 パシンッ!
 頬に鋭い痛みがはしる。
 同時に、襟首がものすごい力で掴まれた。
 一喝。
「しっかりせぬか!お主が今やらねばならぬ事は、落ち込むことでも、泣くことでもない!二人を探し出すことであろう!」
 !
 ……。
 ……そうだ。
 今やらなければいけないのは、落ち込むことでも、泣くことでもない!
 ……。
 お前に、喝を入れられるとはな……。
「手を離せ」
 俺の瞳に光が戻ったのに満足したのか、咲耶が掴んでいた手を離す。
「よい。それでこそ慧だ」
 ……チッ。
 ……俺一人だったら心が折れていただろう。
 ゆえに、口に出さずに心の中でつぶやく。
 咲耶、……ありがとう。


 ~形瀬唯衣~
 先ほど慧から連絡があった。
 ――仕事が片付いた。今から帰る。
 ……。
 るー、るーー♪
 思わず鼻歌がこぼれる。
「料理中は集中しな、少し注意力がなさ過ぎるぞ」
 今は、夕食の準備中だ。
 お母さんが文句を言ってくるが、正直頭には入ってこない。
 るるー、るー♪
 今晩の献立は、新鮮なトマトやナスが入った夏カレー。
 ……慧(と狐)、早く帰ってこないかな?
 るーー、るー、るるーー♪
 やれやれ、と言った顔でお母さんが苦笑する。

 それから十分くらい立った頃だろうか。
 ピンポーン!
 玄関の呼び鈴が鳴った。
 ?
 誰だろう、……慧は呼び鈴なんて鳴らさないし、そもそも狐は呼び鈴なんてものあっても使わないだろうし。
「唯衣、見てきな」
 お母さんが夕食の準備をしながら声を掛けてくる。
「はーい」
 エプロンのまま玄関に向かう。
 それにしても、本当に誰だろう?

「唯衣さん!」
 両手を広げ、こちらに歩み寄ってくる男性。
 何と、緋宮家の次男、……聡だった。
「聡さん、お久しぶりですね」
 笑顔を取り繕って答える。
 しかし。
 私は、どうにもこの人が好きにはなれない。
 というより、緋宮家全体が好きになれないのだ。
 慧は例外だ。
「何のご用でしょうか?」
 現在、この屋敷には慧(と狐)が住んでいる。
 できれば、直ぐにお引取り願いたい。
「十三家に関する事なら、母を呼びますが……」
「いえいえ、今回はあなたを迎えに来たのです!」
 私の言葉を無視して、とんでもないことを言い始めた。
「喜んで下さい。貴方と僕は、婚約者です!」
 !
 一瞬何を言われたか分からなかった。
 婚約者?
 誰と誰が?
 ……?
 ……。
 ………。
 …………。
 !
 意味を理解したとき、取り繕っていた笑顔の仮面がはがれた。
「ふざけないで下さい!」
 私と、目の前のこの男が?
 視界が真っ赤に染まる。
 考えただけでもおぞましい。
 悪夢以外の何者でもない。
 私は知っているのだ。
 この男が、慧をどれだけ虐めていたのかを。
 そして、……どれだけ追い詰めていたのかを。
 キィンッ!
 周囲に光の円陣が浮かんだ次の瞬間。
 唯衣の周囲に四神が戦闘起動していた。
「帰って下さい!」
 こちらの反応が予想外だったのか、少しの間ポカンとした後。
 苦笑しながら。
「そんなに嫌がられると、少し傷つきますよ」
 と、おどけた口調で話す。
それを完璧に無視して繰り返す。
「帰って下さい!」
 四神が淡い光を放ちながら自分と聡の間に移動する。
「唯衣さ……」
「誰が、誰の婚約者だって?」
 !
 聡の言葉を無視して割り込んだのは。
「お母さん!」
 唯衣の母、美織である。
 聡を睨みつけ。
「緋宮家からの縁談は断っといたはずだが」
 お母さんがとんでもないことを言い出す。
「え?お母さん、縁談って?」
「あー、その、なんだ。……実は緋宮家から、唯衣を婚約者に欲しいって縁談があってね。でも唯衣本人にはそんな気はないだろうし、彼も帰ってきているから……」
 母の言わんとしたことを理解する。
 慧のことを彼と言ったのは、緋宮家の次期当主が目の前にいるからだろう。
「まぁ、そういう事だ。帰りな」
 前半は私、後半は緋宮聡向けての言葉だろう。
 だが。
 聡はにんまりと笑うと、次の爆弾を投げつけてきた。
「形瀬丙殿は、今回の縁談を承知しましたよ」
 !
 今度こそ何を言われたのか理解できなかった。
 しかし。
 一瞬早く理性を取り戻したお母さんが。
「……だとしても、私は反対だね。お前に唯衣はやれん!」
「!」
 聡の顔が奇妙にゆがむ。
 さらに、お母さんの声が響く。
「子供には……、唯衣には幸せになって欲しい。親としては当たり前で、絶対に譲れないものだ!お前に唯衣をやっても幸せに出来るとは思えない。帰って、あのろくでなしに伝えな「娘の恋愛ぐらい自由にさせてやれ」ってね」
 ……。
 父親の了承、これは彼にとって絶対の切り札であったはずだ。
 それを拒まれてか……、聡の顔に危険な表情が浮かぶ。

「……そんなに、…………そんなに、あの兄さん(ゴミ)がいいのか!」
 聡の怒声が響き渡る。
 先ほどのお母さんより大きな声だ。
「認めない!認めないぞ!僕は認めない!あんなゴミより僕のほうが何倍も優れている。体術だって、呪術だって僕のほうが優れているんだ!」
 聡の怒声は続く。
「あんなゴミなんかより僕のほうが優秀なんだ!唯衣さんには、なんでそれがわからない!唯衣さんに相応しいのはこの僕だ!あんなゴミじゃないい!!」
 ハァハァッ。
 怒鳴り散らしたことで怒りが一周したのだろう、わずかに冷静になる。
 だが、目には危険な光が輝いている。
「唯衣さん、僕と一緒に緋宮本家まで来てください」
「嫌です!」
「帰りな」
 最初の言葉は聡、次の言葉は私、最後の言葉はお母さんだ。
 だが、聡の返答は私の予想を大きく裏切るものだった。
「そうですか。……では唯衣さんに来ていただけないなら丙殿の危険は保障しかねますね」
 お父さん!
「そん」
 な、とは続かなかった。
 私のお腹に聡の拳がめり込んだのだ。


 ~形瀬美織~
 唯衣の意識が途切れたためか四神の動きが止まる。
「唯衣!」
 即座に黄龍を召喚。
 ダンッ!
 黄龍が、唯衣を抱えている聡に突進する。
 しかし。
 ゴッ!
 左右より飛来した三十を超える数の炎弾が黄龍に着弾する。
「伏兵!」
 周囲に隠れていたのだろう、聡の周りに二十を超える人間が現れる。
 聡が命令を下す。
「静かにさせろ」
 その言葉を受けて、周りの人間が動き出した。
「なめんじゃないよ!ガキ!」


 ~緋宮聡~
 倒れて動かない唯衣の頬をなでる。
 ……ようやく手に入れた、僕の愛しい人。
「ああ……、初めてあった時から憧れていた。ようやく……、ようやくだ。ようやく手に入れた。二度と離さないよ唯衣さん……」
 ドォンッ!
 一際大きな音が鳴り響き静かになった。
 形瀬美織が倒れたのだ。
 正直、化け物としか言いようがない。
 一対三十、にも関わらずこちらの人員で動けるのは残り二人だけだ。
 他全ては、戦闘不能の状態で転がっている。
 これでも時期当主たる僕を守るために組織された護衛隊だ、弱いわけがない。
 ……それが、たった一人の人間に二八人。
 死んではいないが、重症、重態のオンパレード。
「子を想う母……、か」
 立って動ける二人に負傷者と形瀬美織の回収を命じた。
今回は、予定では前中後の三部構成でした。
しかし、いざ出来上がってみれば全部で四部構成www
しかもラストが今までで一番長いとかwww

まぁ、次話はさらに聡が壊れますww

では、では~


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