僕の細胞
子供の頃、よく父親からゲンコツをもらった。
僕が弟と喧嘩したり、言うことを聞かないと強烈なやつがゴツンと脳天に落ちた。
「そんなに頭を叩くと、脳みその細胞が死んじゃうって学校の先生が言ってたよ。」
僕が悔し紛れに言うと、さらにもう一発くらった。
僕は頭をさすって痛みと涙をこらえながら、学校で習った細胞のことを考えていた。
細胞の一番外側にあるのが細胞膜で、その中にはたくさんのものがつまっていた。
名前の響きが面白くて一発で覚えてしまったミトコンドリア。
逆に名前が似ていて区別がつかなかったリボソームとリンソーム。
そしてもう一つ、細胞の中心には大きな核というものがあった。
それらはどれも丸い形をしていて、細胞の中でふわふわと浮いていた。
宇宙とおんなじだ、と思った。
真ん中にある核が太陽で、それを取り囲むたくさん丸いのが土星や火星や、地球だったりしたら・・・
そんなことを真剣に考えていた。
もしも、そうだったら、そこには僕たちのような人や動物が生きているかもしれない。
まだ人間に発見されていないだけで、そこには地球と同じような世界があるんじゃないか、と思った。
だけど、その”人や動物”たちは自分たちが細胞の中にいることなんて知らないんだろうな、とも思った。
僕たちは宇宙に浮かぶ太陽のまわりを、ふわふわと回り続ける続ける地球という惑星で生きている。
でも、僕たちは、自分たちが何のために生きているのか知らない。
ましてや、地球が何のためにあるのか、宇宙がなんであるのかなんて、、、
それは先生に聞いても、誰にも解らない、と言われた。
だとしたら、僕たちが生きているこの宇宙が何かの生き物の細胞の一つであったとしても不思議じゃない。
そう考えたら、僕はなんだかとても不思議な気持ちになった。でも、いくら考えても、その答えは分からなかった。
だから考えるのをやめにした。
その代わり、とりあえず、これ以上僕の頭にゲンコツが落ちてこないことを祈った。
そして、宇宙の先で強烈なゲンコツが落ちてこないことを、僕は心から祈ることにした。