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  東方乱力録 作者:クロル
神々の時代
竹林に引き籠もって三百年が経っていた。あやめの残した力は効果抜群で、三百年間蟻の子一匹侵入を許さなかった。
 許さなかったのだが……
「どいて。……どけって」
 私は寝ている間に体に乗っていた兎の群を追い払った。
 この竹林、蟻の子は通さない癖に兎は通すのである。
「巣穴にお帰り」
 尻尾を叩いて促したが離れようとしない。足に纏わりつくモコモコ、よじ登ろうとするモコモコ、モコモコモコモコ……
「だー!」
 大声を出して威嚇すると慌てて散っていった。竹に体を半分隠してこちらの様子を伺ってくる。
 私はまた群がってくる前に急いで逃げ出した。
 どこからともなく集まってくる兎達は情報も持ってくるので無下に追い返せない。兎のお陰で私は竹林から一歩も出ずに近況を把握していた。
 結局生き残った人間達は滅びたそうだ。兎の曖昧なイメージではよく伝わらなかったが、生活を支えていた技術が消えてサバイバルも出来ずに死んでいったようだった。
 じゃあ妖怪も消えるじゃねーかと最初は慌てたが、何か凄い奴等が現れて凄い事をやってグワーってなって人間が復活したらしい。
 何だそれはと言う事無かれ。兎の知能ではこの表現が限界である。むしろ能力をフル活用して兎の思考を読み取った私を褒めてくれ。
 凄い奴というのは神様の事だろう。東方は古事記の流れを追っていたような気がするし、妖怪やら能力やらが転がっている世界だ。天地創造があってもおかしくない。
 ぶっちゃけた話人妖大戦以前は土地が狭過ぎた。狭い土地を巡って、というのも人と妖の対立の一端だった。土地を広げてくれるのは歓迎である。加えて人間も復活させてくれたのだから嬉しい。今度の人間は月人みたいな性質じゃなけりゃいいんだけどね……
 天地創造では神様同士の諍いも少なからずあったっぽいし、巻き込まれないように一段落がつくまでは安全地帯でのんびりしていよう。



 天地創造の噂を聞いてからかなりの間竹林に籠っていたが、とうとう限界が来た。
 竹林に籠っていては人間を襲えるはずもなく、妖力が妖精並に衰えてしまったのだ。千年近く人を襲わなくても消滅しない辺り私も大概チートである。
 しかしいくらなんでもいい加減竹林から出て人間に関わらなければ消えてしまう。
 そういう事で私は綺麗な満月の夜、兎達に見送られて竹林を出た。
 久方振りの竹林以外の光景は新鮮だった。昔あやめが歌っていた歌を歌いながら霊力を感じる方へ歩く。
「呼ばれてとびでて小妖怪~♪ 呼ばれずとびでて中妖怪~♪ 呼ばれ……おっ!」
 人間発見!
 毛皮のぼっろい服着てるな……髪は不揃いだし靴も履いて無い。まだ縄文時代にすらいってない?
「ま、何でもいいか」
 不安そうに辺りを見回しながら霊力が集まる方向(多分村)に急ぐ人間。私は気配を消して後ろから忍び寄った。永琳に鍛えられた隠行スキルなめんなよ!
「裏飯屋~!」
「っぎゃあああぁあ!」
 ぽんと肩を叩いて声をかけると、馬鹿でかい悲鳴を上げて振り向きもせず脱兎の如く逃げて行った。
 ちょ、あんな台詞でそこまで驚かれても……何か今ので妖力完全回復してるし。
「納得いかねぇ……」
 いや別に良いよ? 月人だったら脅かした瞬間振り向いて銃を乱射してくるし、逃げてくれた方が楽なんだけど。
 こんなに簡単にいくと今まで竹林に籠ってたのが馬鹿みたいだ。どうやら新生人間はかなりの怖がりらしい。親しみが沸く。
「今晩は。随分妖力の強い妖怪ですね?」
「っぎゃあああぁあ!」
 突然後ろから肩を叩かれて悲鳴を上げた。
「出たー!」
「神様に対して失礼な」
 振り返ると髪を左右で団子にした、古墳時代っぽいスタイルの男が立っ……浮いていた。
 ごめんさっきの人間。後ろからいきなり肩叩かれるってかなり怖い。
 それはともかく。
「か、神様?」
「そうですよ。下っ端ですが。それであなたは何者ですか? 最近生まれた妖怪にしては妖力が強過ぎる」
「そりゃ最近生まれた妖怪じゃないから……」
 答えながらよく見てみると、男の体から見た事の無い半透明の力が出ていた。妖力の数十倍密度が高い感じがする。神の力、神力ってやつか? どうやら本物の神様らしい。
「? ……まさか大乱前の妖怪!?」
「大乱が人妖大戦の事を指しているならその通り」
「あわわ大事件! イザナミ様、イザナギ様ーっ!」
 テンパって飛び去ろうとした神様の襟首を掴んで引き戻す。そんなに慌てる事なのか?
「まあ少し待って」
「はい待ちます!」
 あれ低姿勢?
「そっちの質問に答えたんだから、今度はこっちの質問に答えて欲しいんだけど」
「はい答えます!」
 ……こいつ本当に神様? 不安になってきたぞ。



 下っ端神様を正座させて聞いた話をまとめるとこうなる。
 神々は遥か昔大地や人間や妖怪を創ったが、過干渉は発展を阻害するという理由で創造後天上界に戻ってしまった。
 黙って見守っていたのだが双方滅びてしまい、やっちゃったぜ☆ と創り直しに来た。
「滅びる前に何とかして欲しかったなあ……創り直したらどうするの? また天上 界に帰る?」
「元々天上界に居た神は帰りますが、こちらで生まれた神は残ります」
「なんで?」
「天上界も人口増加で悩んでいるんですよ」
 世知辛い。
「えーと、他に聞く事は……あ、今更だけどそんなに畏まらなくてもいいよ。神様ならもっと堂々としたら?」
「年上の方には敬語が礼儀でしょう」
 マジで?
「もちろん最高神の方々はあなたより年上ですけど、今回の創造には人手不足で若い神も駆り出されているんです。本当は私も天上界にいるはずだったんですが……」
「地上に行きたくないって言えば良かったのに」
「そこは公務員ですから」
 ほとんど人間だな。
「ではそろそろ」
「ああ、私の事報告に行くんだったね。どうなるの?」
「特にどうもならないと思いますよ」
「大事件って言ってたのに?」
「天上界の教科書と歴史書と新聞に修正が入ります」
 もうお前ら人間で良いだろ……
 私は夢を壊された気分で星空に消えていく神様を見送った。


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