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  東方乱力録 作者:クロル
妖々夢・春雪異変
 暖い季節は終わり、辺境は白銀の幻想に閉ざされた。人々は、いつ終わるとも分からない長い冬に、大人しくなった。

 しかし、元気な犬と妖怪達には冬など関係無かったのだ。そう、ここ幻想郷は、もとより人間の数は少なかったこともあり、冬は冬の妖怪たちで騒がしかったのだ。

 次第に雪は溶け、白銀の吹雪も桜吹雪へと変化する頃になった。
幻想郷も、例外なく暖かい季節になるはずだったのだ。

 そして五月、春はまだ来ない。





















 そう。春雪異変である。
 情けない事に私が異変に気がついたのは五月の中旬だった。今年はちょっと雪溶けが遅いなーとは思っていたのだが、神社にカレンダーは無いのであまり違和感が無かった。人里に買い出しに行かなかったらもう一ヵ月は気が付かなかっただろう。
 いや予備知識はあったんだけどね? 二年連続で異変が起こるなんて思わないじゃないか。原作のゲームは確か一年一作ペースだったけどさ、あれはゲームだから。現実では異変なんて十年に一度でも多いぐらいだから。
 春雪異変は地味……地味でもないか、派手に迷惑な異変だから事前に潰してしまおうと思ってたのに……まだ慌てる時間じゃない、なんてのんびりしてたら普通に異変発生だよ。
 なんなの? このまま年一で異変が連続するの? 馬鹿なの死ぬの?
 降りしきり降り積もる雪は人を屋内に閉じ込める。人里では農業も狩りも出来ないのでほとんどの人間は春に備えて内職をするのだが、その内職も終わり食料も尽き始め、終わらない冬に皆不安を抱き始めている。春雪異変ってさり気なく被害が大きいよね。幽々子も少しは生きてる人間の事を考え欲しいものだ。
 とにかくこれは炬燵に足突っ込んでぬくぬくしてる場合じゃない……と思いつつ、買い出しから帰った私は神社に戻るなり炬燵に潜った。至福。
「あ~……生き返るー」
 フランと霊夢は炬燵から顔だけ出して蕩けている。寒いもんね。動きたくないよね。私もジャンケンで負け無ければ外に出なかった。
 つまり異変だろうが外は嫌だ。魔術か妖術で炎を纏えば寒くはないのだが炬燵には比喩的意味で魔力がある。魔力稼動だから実際に魔力もあるけど。出たく無い。そしてこういう時のために巫女がいるのだ。
「れ~む~」
「……あによ」
 声をかけると霊夢は寝そべったまま半目で顔だけこちらに向けた。頬に畳の跡がついている。
「里で聞いたんだけどねー、実はもう五月なんだってさ」
「はぁ?」
 雪が降れば冬。つくしが出れば春。セミが鳴けば夏で山が紅葉すれば秋。正月やお盆は里で集まりがあるので分かるが、そういったイベントが無いと博麗神社の時間感覚は非常にアバウトだ。特に冬は新聞を届けに来る文が比較的大人しくなる上に里に行く回数も減るのでそれに拍車がかかる。
「もう五月なの?」
「五月」
「……異変?」
「異変だねぇ」
 私と霊夢は体を起こし、同時に涎を垂らしておねむのフランを見た。
 この子に異変だと言えば大喜びで飛んで行きそうだが、フランに任せると異変を放置するより酷い事になる予感がする。白玉楼半壊とか、幽々子強制成仏で冥界の霊が溢れたりだとか。フランも割と落ち着いてきたのだが時々目を離した隙にはっちゃけるので油断ならない。
「そもそも居候だしこの子は除外するとして……あんた行く?」
「やだ寒い。霊夢行って来て」
「私だって寒いわよ。神様なら吹雪ぐらいどうにでもなるでしょ」
「気象操るのはちょっと……知ってると思うけど私の神徳は恋愛成就(魅力強化)とか無病息災(病への抵抗力強化)とか合格祈願(学習力強化)とかそういうありきたりなヤツだから」
「使えないわねぇ。金運も上げれないし」
 霊夢はやれやれと首を振った。
 あれおかしいな……霊夢って私の巫女だよね。なんでこんなに言われるの? 遠慮無さ過ぎだろ。
 しばらくごたごたと異変解決の押し付け合いをしたが、最後は私が神様命令で霊夢に行かせた。巫女は神様にこき使われる為に存在するのである。
 嫌そうな顔をしながらも全身を覆う鎧のように不可視結界で纏って寒さを緩和し、霊夢は縁側から空の向こうに飛んで行った。去り際に縁側の障子を全開にしていく辺りに神様に逆らえない巫女のささやかな抵抗を感じる。
 私は遠隔操作術で炬燵に潜ったまま障子を閉めた。数秒部屋に寒風が吹き込んだせいで室温が下がり、フランがくしゃみをして目を覚ます。
「んぅ……夜?」
「まだ昼だよ」
「……んー」
 フランはぼんやりしたまま一度炬燵の中に顔を引っ込め、私の横に出てきた。そして私を抱き枕にしてまた寝てしまう。強く抱き締めらて肋骨が軋んだ。宿儺と言いフランと言い、私は抱き枕属性でもあるのか?
 何となくフランの幸せそうな寝顔が癪に障ったので同じぐらいの力で抱き返し、私ももう一眠りする事にした。
 私達は一生懸命惰眠を貪るから霊夢も頑張れ。起きたら雪解けが始まってるのがベストだ。








「……なにこれ」
「お嬢様がどうしてもと」
 起きたらレミリアがフランの背中にくっついて眠っていた。私とフランが抱き合い、フランの背中にはレミリアが。正方形の炬燵の一辺に幼女と言えど三人が無理矢理入っているので狭苦しい。
 吸血鬼姉妹は目を覚ます様子が無く、その寝顔を咲夜が座布団に正座して見ていた。心なしか口許がニヤけている。
「いつ来た?」
「一時間ほど前に。妹様用の血液は冷蔵庫にしまっておいたわ」
 レミリアが訪ねて来たって事はもう夜か。霊夢居ないから夕飯の支度は私がやらないと……
「雪は収まっ……収……収まってた?」
 炬燵から出ようとしたら眠るフランに無意識でしがみつかれ、引き剥がそうと四
苦八苦しながら聞くと咲夜は首を横に振った。
 あららまだなんだ。どうせ霊夢は前情報も無しに勘だけで正確に白玉楼に一直線だろう。途中で弾幕決闘を挟みながら進んだとして……ああ吹雪だから飛行速度はいつもより落ちるか……そうだな、不測の事態が無ければあと二、三時間あれば解決かな。
 私はレミリアをフランに抱き締めさせ、炬燵から抜け出した。余程良い夢を見ているのかだらしない笑顔で眠る主人を咲夜はニヨニヨ眺めている。
「咲夜とレミリアは夕食要る?」
「食べて来たわ」
 咲夜は返事をする間もレミリアから目を離さない。そうですかお楽しみ中ですか。邪魔してごめんなさいね。
 私は台所に行き、踏み台を出して夕食を作り始めた。今日は豚汁だ。
土間の水瓶から水を汲もうとしたら薄く氷が張っていた。おおう、通りで寒い訳だ。
 氷を割って柄杓で鍋に水を入れ、竈に置いて火にかける。魔法で自分の周りを暖めつつ人参と大根を切った。料理をしながらつらつらと考える。
 原作では西行妖が満開になりかけていたが、この世界では西行妖の春度キャパシティが大きい。千年前に私と紫の二人がかりで全力封印を施したので、生半可な量の春度で封印は解けはしない。
 春度は`力´とは呼べ無いので紫の協力が無いと操れないが、感じ取るぐらいは出来る。数年前の春度調査から変動が大きな無ければ幻想郷全体の春度を集めても満開には届かないだろう。千年前の出来事なのではっきりとは覚えていないが、西行妖はそれぐらいの許容量はあるはず。
 つまり万一霊夢が幽々子に負けても西行妖が満開になり封印が解ける事は有り得ない。外の世界の春度も集めれば話は別だが、流石にそこまではしないし出来ないだろう。
 幽々子がやっている事は全て無駄なのだ。
 通信符でそれを教えてやろうにも霊源が切られていて連絡がつかない。霊夢にボコられて目を覚ますがいい。
 






 フランと一緒に豚汁を食べ終わり、吸血鬼姉妹がキヤッキャウフフしているのを咲夜と並んで眺めていると懐の通信符が震えた。そういやマナーモードにしてたな。
 私は廊下に出て通信符を耳に当てた。まんま携帯電話である。
「はいもしもし」
『あ、白雪? 異変の首謀者はとっちめたわ。でも面倒な事になってたのよ』
 この声は霊夢か。無事幽々子には勝ったみたいだが……妖々夢って幽々子に勝って終わりじゃなかったか? なんだ面倒な事って。
『白玉楼ってとこの亡霊姫が春度集めて妖怪桜を咲かせようとしてたんだけど』
「うん。知ってる」
『は? ……知ってるならあんたが行けば良かったじゃない』
「寒いから」
『…………』
 通信符の向こうから呆れたようなため息が聞こえた。幽々子を撃墜するにしても説得するにしても白玉楼まで出向かなくてはならない。吹雪の道中は寒い。寒いのは嫌だ。炬燵の方がいい。
「それで問題って? 妖怪桜が溜め込んだ春度を開放して終わりじゃないの?」
『それがね、溜め込まれた春度が別の力に変わってんのよ』
「……え?」
 あれ?
『春度を吸ったそばから何かを封印するための力に変えてるみたい』
 ……キャー! 忘れてた!
 春度を封印を継続する力に変換するように仕込んだんだからそりゃ元に戻らない。
『どうすんの?』
「ちょ、ちょっと待って」
 えーと、西行妖を消滅させても一度別の力に変わった春度は元に戻らないよね。そんな事したら幽々子も消えるし。
 春度を封印の力に変える術のベクトルを逆にして封印の力を春度に変えるようにすれば良いか。よし。
「霊夢、その桜にかけられてる術読み取れる?」
『……んー……大体は』
「良かった。なら力の変換を意味してる部分を書き換えて反転させてみて」
『分かった』
 霊夢の声が途切れ、ゴソゴソ音がした後に一拍間を置いて爆発音が轟いた。三人分の悲鳴が上がる。幽々子と妖夢いたんだ。
「何? どしたん?」
『……ケホッ……弾かれたわ。物凄く弾かれた。誰が施した封印か知らないけど外部からの干渉を拒絶してる。私じゃ弄れそうも無いわね』
 アチャー……
 考えてみればもっともだ。千年前のものとは言えトップクラスの大妖怪二人掛かりの全力封印。もしかすると世界一強力かも知れない。いくら霊夢がずば抜けて優秀な巫女でも解除は無理だろう。
「あー分かった、私が行く。一時間ぐらい待ってて」
『はいはい』
 私は霊源を切って通信符を懐にしまった。ため息を吐く。
 どうせ行く事になるなら始めから私が異変解決に行けば良かった。霊夢に任せてだらだらしようと思った罰があたったのだろうか。私は罰をあてる側だけど。
 居間に戻るとまだ幼女達はイチャついていた。畳に転がって羽をしきりにパタつかせながら首筋に甘噛みしたり羽の付根を指でなぞったり……なんかそこはかとなくエロい。
 二人は私に気付く様子が無いので、ハンカチで鼻を押さえてカリスマブレイク中の主人を凝視している咲夜に二、三時間留守にする事を告げた。紅魔館組だけが神社に残る形になるが乗っ取られはしないだろう。
 私は草履をつっかけて玄関から外に出た。幸い吹雪は止んで月が出ていたが肌を刺す様な寒さだった。ああ嫌だ嫌だ。
 吐く息を白く後ろに棚引かせながら空に飛び立つ。私、この異変が終わったら炬燵と結婚するんだ……


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