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  東方乱力録 作者:クロル
文明開化八分咲き
 最近村の様子がおかしい。何がおかしいかと言えば発展速度がおかしい。
 剛鬼が現われた次の年には女が胸を隠すようになった。それは良い。だが二十年後には青銅のボロい剣を造り始め、五十年で鉄剣、木造建築に鉄の鍬。百年経ってみれば平安もどきになっていた。最早町である。他の町とも交流が盛んになってきている。
 声を大にして言いたい。
 な ん で ?
 何この超速進歩。百年で縄文から平安って、私が知っている世界の七倍は早い。
 剛鬼などは呑気に人間が造る酒の質が上がったなどと言っているが、私はいつ火器が出来るかと戦々恐々だ。火器があれば妖精程度は殺せる。
 私は歳を経て妖力が増えたお陰か「力」の二種類同時操作が可能になっており、ミサイルでもなければ死なないが、かといって人間と戦争は御免こうむる。
 妖怪大将のゆるい方とまで呼ばれるだけあって私は平和主義なのだ。
「妖怪は人間を食べるものだから、仲良くなれとまでは言わないけどさ。もう少
 しなんとかならないかなあ」
「人間に歩み寄る必要なんぞ無いだろう」
 ある日の夕方、岩窟で剛鬼と石取り遊びをしながら話す。
「今はいいよ。でも後で困る」
「理由は?」
「……勘、かな」
 訳の分からん技術革新を続ける世界。平安時代なら紫や神奈子、諏訪子がいそうなものだが噂は聞かない。諏訪湖大戦なんて大仰な名前がついた事件の話すら聞かないあたり、ここが本当に東方世界なのか不安になってくる。でもまあ人がいる以上、歴史は私の知る世界に近いものになるだろう。
「人間を侮ったらいけないよ。彼等の知恵と共通の敵を持った時の団結力は恐ろ
 しい」
「知恵なら白雪もあるだろう?」
「言っとくけど、十年間勝負し続けて一回も石取りに勝てないのは剛鬼の頭が弱
 いだけだからね?」
「何を馬鹿な」
 馬鹿なのはお前だ。私は四つ残った石の内、三つを取った。剛鬼が呻き声を上げる。
「なぜ勝てない……まだ石の数が足りないのか?」
「お願いだからこれ以上増やさないで」
 既に岩窟の半分近くが小石で埋まっている。そろそろ数えるのが面倒臭い。
 私は肩を竦め、ぶつぶつ言っている剛鬼を置いて森の見回りに向かった。



 それから更に二百年、時代が飛ぶ。
 まだ小さかった町は広がり森は切り開かれ、都心にはビルが立ち並んでいた。
 ハァ? である。
 三百年で縄文→平成? もうどう反応していいのやら分からない。
 文化の質もちまちま違う。天皇はおらず、科学技術は発達しているが芸術面の進歩はかんばしくない。そして年号も聞き覚えが無い。
 明らかに東方正史と異なる。東方のパラレルワールドなのか?既に東方が現実のパラレルなんだが。
 だが気になる部分もあった。
 この超文明には天皇がいない代わりに「名家」という支配者層が存在する。ここでの「名家」はただの伝統ある家系というだけでなく、各技術のエキスパート的な側面も持っていた。
 やはり開発された銃火器、服飾、建築と専門にする技術は違うが、その中に医療を得意とする名家がある。
 名を「八意家」と言った。
 偶然の一致か? どうしても気になったので監視カメラの警戒網をかいくぐり、屋敷に忍び込んで家系図を調べてみたが、八意永琳の文字は無かった。むう……
 何かもやもやするが、それ以上調べようも無いので保留した。他に悩む事はいくらでもある。最近悩んでばかりで頭が痛い。
 例えば人妖問題。困った事に人と妖怪の不仲は油汚れよりしつこく納豆よりねっとりと続いている。
 特に最近は私達が住む妖の森も伐採が進み、住家を追われて街に出た小妖怪が撃ち殺される事件が多発していた。
 いくらなんでも理不尽なのでこちらも悪人っぽい人間をさらって報復しているが、いまいち効果は上がっていない。善人をさらうのは気が引けるが、そうも言っていられない状況になりつつあった。
「はぁ」
 ため息が出る。




 そんな気苦労が続くある日。爽やかな秋晴れの朝、岩窟に捉えにくい特徴的な妖力が近付いてくるのを感じた。立ち上がり、外に出て出迎える。
「久し振り、あやめ」
「私に気付いて出迎えてくれるのは~、白雪ぐらい~」
 間延びした声と共に森の奥から妖怪が姿を現した。「惑わす程度の能力」を持つ友人、あやめである。
 黒髪黒目で浅葱色の着物を着た少女だ。それだけなら純和風だが、赤いリボンのついたシルクハットを被っている。ちなみに中で兎を飼っている。世に名高いZUN帽だ。
「それはあやめが気配と見た目を惑わせてるからでしょうに」
 私は観察力と察知力を上げているので知覚できる。
「これは癖だから~」
 眠たげに半分閉じられた瞳を更に細めた。あやめはこれで笑っている。
 こちらにふらふらと歩み寄り、私を見下ろした。
「白雪、縮んだ~?」
 からかうような口調にイラッ★ときたので思わず脚力を強化して脛を蹴飛ばしてしまった。
 うるっさい! 百年ぐらい前から成長が止まってんだよ!
 身長は幼女を脱出して少女スレスレ。あやめより頭一つ小さい。この性悪は、会う度にそれをネタにからかってきやがるのだ。
「痛い~」
「痛くしてんの!」
 あやめの再生力と回復力を下げてやる。「力を操る程度の能力」は、体外操作の場合効果が相手の妖力や霊力によってレジストされる。あやめは剛鬼や私に匹敵する大妖怪なので、全力で力を下げてやるぐらいで丁度いい。せいぜい痛がるがよい。
 あ、力は同時に五つ操れるようになりました。
「酷いけど~、そんな所も可愛い~。あ、そう言えばまだ食事してなかった~。
 行って来るね~」
 痛がるだけ痛がって不意に森に消えようとしたあやめの襟を掴んで止めた。危ない危ない。
「首が絞まる~」
「締めてんの! あそこの町は襲わないって約束忘れた?」
「いいじゃない少しくらい~、あ、苦しい苦しい」
「あやめが襲うと骨も残らないでしょうが!」
 あやめは能力をフル活用して人心を惑わせ、内紛を起こして自滅させた上でのんびりと屍を食らう。えげつない上に質が悪く、私が知る限り町を十は全滅させている。
 とんでもない妖怪である。時々うっかり人を食べようとするだけの剛鬼が可愛く見える。
「い、い、か、ら、酒でも飲んでなさい」
 岩窟に引き摺っていき、口に一升瓶を突っ込んだ。あやめは抵抗していたが、鼻を摘んでやるとむがむが言った後飲み始めた。飲んだついでにアルコールの抵抗力を下げてあげる。
「ふにゃ~?」
 あやめは目を回して倒れた。よし、急性アルコール中毒作戦成功。これで明日の朝までぐっすりだ。永眠するかも知れないが、大妖怪だし多分大丈夫。
「全く手間のかかる……」
 あやめが来る度にこんな感じである。隙あらば人間を食べようとする困った妖怪だが、冷酷無比なのは人間に対してだけで仲間には手を出さない。本能に忠実な妖怪とも言えるのであまり強く出られないのが困りものだ。
 文明開花によって増した妖怪の迫害。彼女のような食欲旺盛な妖怪がいなくなっても、最早人妖共存は難しいのかも知れない……





 その夜、とっておきの酒を飲ませてしまった事がばれて剛鬼にぶん殴られた。体が千切れるかと思った。
 そんなに怒らなくてもいいじゃん! 鬼!
 あ、実際鬼だった。


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