ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  東方乱力録 作者:クロル
グルメ幻想郷
 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 博麗神社
 本日夏真っ盛り、洗濯日和である。霊夢が面倒臭そうに洗濯物を物干し竿に通していくのを私は縁側で足をぷらぷらさせヴァニラ・アイスを舐めながらのんびり眺めていた。傍らには先程読み終えたジョジョ三部が積んである。やっぱ書籍は外界モノに限るよね。
 ちなみに衣も久し振りに天日干しているので私は今百合模様の着物姿だ。あの衣は一着しかないかんね。巫女服着ようにもサイズ合わないし宿儺の贈り物を有り難く着させてもらっている。採寸された記憶も無いのに気味が悪いぐらいピッタリだった。
 風に揺られてはためく紅の衣。莫大な魔力とかなりの防御力、再生機能を持つ特級のマジックアイテムでもある。盗まれても最早私の体の一部と化しているため念じれば手元に戻る。こうして開け広げに干していても盗難の心配は無かった。
 洗濯物を干し終えた霊夢が籠を小脇に肩を回しながら霊夢が戻ってくる。手を突き出されたので食べかけのほとんど無くなったアイスを渡すとはたき落とされた。お前……食べ物は大事にしろよ。
「イチゴがいいわ」
「はいはい」
 巫女の要求に従順に答える神。悔しい、でも従っちゃう……なんて事は無いけども、霊夢は自分じゃアイス作れないからね。大した手間じゃないから作ってあげる。
 台所で魔法を使いアイスを作って居間へお届け。霊夢は畳に仰向けに寝転がって葉団扇を動かしていた。
「はいよお待たせー。その団扇どうしたの?」
「パパラッチからぶんどっ……譲ってもらった」
「ええぇ……いいのかなぁ……」
「丁度新調するつもりだったらしいわ」
 それならいいか。








 日も真上に昇りむあっとした風が激しい直射日光と共に吹き付けてくる中、私は命蓮寺の入口でナズーリンを待っていた。一緒に食材ハントをしに行く約束をしているのだ。
 命蓮寺は人間も妖怪も平等に受け入ている。そのお陰か順調に檀家を増やし御布施も少ないながら入り始めたが、六人が食べていくには到底足りない。白蓮も正式な捨食・捨虫の魔法は習得しておらず、妖怪の力を借りた亜流の術で若さを保っているので食事を必要とする。
 空いていた土地を耕して畑にしてみたもののまだ収穫時期は遠く、命蓮寺は食料難に陥っていた。断食という手もあるが無闇にやれば体に毒である。
 そこで山菜や野草の類でやりくりをしようと考えたが生息域が分からず、ナズーリンに探させようにも食べ物は探しても手下達が食べてしまうため私に教えてくれと頼んで来た。今回はナズーリンが代表で取り敢えず場所だけ覚えておくつもりらしい。
「すまない、待たせた」
「ううん今来たとこ」
 門からダウンジング棒を持って出て来たナズーリンに笑顔で返すとうさん臭そうな顔をされた。ほんとは五分ぐらい待ってたんだけどね。
「んじゃ行こうか」
「ああ、宜しく頼む」
 私はナズーリンに神社から持って来た小さめの竹籠を背負わせて目的地へ飛んだ。後ろにナズーリンがついてくる。
 幻想郷には妖怪や神ばかりではなく「幻の食材」も多い。
 化学汚染されていない清らかな空気や土や水が豊かな自然を育む。トキも日本カワウソも日本オオカミも普通に住んでいるぐらいだ。外の世界では見られない特殊な食材も当たり前に存在する。
「今日は魔法の森に行ってみようか。あそこはキノコ類が豊富だね。虫もちらほらいるかな。でも動物は少ない」
「なぜ」
「だからキノコ類が豊富なんだって」
「…………?」
 ナズーリンは訳が分からない、という顔をした。なんたって冬虫夏草ならぬ冬獣夏草がいるからねぇ。動物はコソコソひっそりと命を繋いでいる。
 私達は魔法の森の入口に降り立った。森の境界に渦巻く瘴気をナズーリンは気味悪気に見る。尻尾が不安そうに揺れていた。
 ……なんで妖獣の類は尻尾が素直なんだろう?
「やめとく?」
「……いや。食材が採れる場所は把握しておきたい」
 尻尾を捻ってモジモジさせながらもキッパリ言ったので続行する事に。森に足を踏み入れる。
 薄暗い森に入るとひやりとした空気に包まれた。日が当たらない森の中は気温は低いが湿度は高く、じっとりとした嫌な汗が肌にまとわりつく。私は自分とナズーリンに保湿魔法をかけて湿度を一定値まで下げた。魔法は陰陽術や妖術と比べて使い勝手が良いから重宝する。
 森に入ってすぐに私は足元の背の低い草の間に茶色い傘の小さなキノコを見つけた。もぎ取ってナズーリンに見せる。
「このキノコは一応食べれるよ。魔法の森なら結構どこにでも生えてる」
「ほほう」

【マジックマッシュルーム:捕獲レベル1以下】

「……幻覚作用あるけど」
「駄目じゃないか」
 お気に召さないようなのでポイと捨てて先に進む。まあ幻覚作用抜きにしてもあんまり美味しくないし、半分冗談だ。命蓮寺の連中がラリッても困る。
 道に迷っても空を飛べばいいので森の中心部に向けてざくざく歩いた。ナズーリンは小鳥の囀りや獣の鳴き声が聞こえない森に不審そうにしながらも私の後ろをちょろちょろ着いて来る。
「仏教は肉が駄目だったかな」
「その通りだよ」
「魚は?」
「魚も駄目だ。果物はいい」
「そう? なら森の入口付近にイチジクがあるから秋になったら採りに来ると良い」
「覚えておく」
「うむ。品種改良されてなくて甘味が少ないから、食べる時は干して――――お」
 私はトネリコの木の根元に赤い傘のキノコを見つけた。シイタケぐらいの大きさだ。
「これも食べれる」
「……幻覚作用は?」
「無い無い」
 私はしゃがみこんでキノコに手を伸ばした。柄を掴んで折り取ったその瞬間、傘が小さな火柱を上げる。ナズーリンは小さく悲鳴を上げた。

【メイジマッシュルーム:捕獲レベル2】

「採る時に火傷注意。辛味があって美味しい」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。どうなっているんだこの森の植生は」
「どうなってるって言われても……」
 私は周囲を見回した。丁度都合良くトネリコの幹に紫斑のキノコが生えていたので指先でつつく。
 途端にキノコはキシャア! と鳴いて傘を振り、小指の爪くらいの火球を投げ付けてきた。
「こうなってるとしか言いようがない」

【ウィザードマッシュルーム:捕獲レベル4】

 傘を握り潰され断末魔の悲鳴を上げたキノコを見てナズーリンは頭を抱えていた。
 気持ちは分かるけど受け入れないといかんよ。常識は投げ捨てるもの。
「こいつはちょっとアクが強いから長時間茹でないと食べれない」
「……食べるのか、それを」
「食べるさー。好き嫌いはいけない」
 物凄く嫌そうな顔をしながら反論の言葉を探しているナズーリン。しかし言葉が出る前に頭上の枝から飛び降りたキノコが奇襲をかけてきた。
 キノコは鋭い牙がズラリと並ぶ口をぐわっと開き、ナズーリンの丸耳に齧り付く。
「うわぁあああああ!」
 叫び声を上げてナズーリンは耳を食いちぎろうとするキノコに爪を立てた。パニックを起こして落ち葉の上を転げ回り、ようやくキノコをズタズタにして降り払った時には耳から血を滲ませてぐったりしていた。

【肉食エリンギ:捕獲レベル2】

「傘は甘いけど柄は苦い。樹上からの奇襲が得意技の肉食キノコ」
「私の知っているキノコと違う」
「残念これが現実です」
「キノコが嫌いになりそうだよ……」
「それならキノコ以外も探そうか」
 ナズーリンの要望でキノコを除外して採取を続けた。
 魔法の森はキノコが印象的だがそれだけでは無い。ハチミツ、果物、ハーブ、探せば結構色々見つかる。
 ナズーリンは野生のパイナップルにハチミツをかけて食べている内に冷静さを取り戻し機嫌を直していた。なぜ南国でもないのにパイナップルがあるんだ、などと突っ込んではいけない。幻想郷では常識に囚われてはいけないとどこかの巫女も言っている。
 小さな籠も芋や野草で一杯になる頃、私達は魔法の森の奥深くに入り込んでいた。
 キノコの襲撃を警戒して油断無く周囲に気を配っていたナズーリンが私の肩を叩き、蔦が絡まった木々の奥を指した。紫色の何かが蠢いている。ほほう?
「よく見つけたねぇ。あいつは滅多に外に出てこないのに」
「また動くキノコかい?」
「んにゃ、もっと可愛い奴だよ」
 私はナズーリンを待機させて気配を消し、紫色の背後に回った。そーっとそーっと忍び寄り、背中から口を押さえて抱き締めた。
 いきなり襲われたマレフィはびくんと痙攣して暴れ始める。耳元で私だよ、と囁くと顔を真っ赤にしてますます暴れた。うん、口と「胸を」掴んで拘束してるからね。ガリガリの癖に意外とでかい。
 私は呆れ顔のナズーリンの元へマレフィを連行した。
「こうやって口塞いで詠唱できなくすれば簡単に捕まえれる」
「どう反応すれば良いのやら分からないよ」

【マレフィ・ノーレッジ:捕獲レベル20】

 マレフィはもがもが言いながら手足をばたつかせていたが、ほんの十数秒で疲れきって動かなくなった。体力無さ過ぎ。
 手を離して解放すると荒い息をついてよろよろと木の幹にもたれかかった。
「……こ……この……へん……たい……」
 切れ切れに言うマレフィはフルマラソンに挑戦して途中で動けなくなった引き籠もりの様な顔色だった。
 同性に胸掴まれたぐらいで変態言うな。相変わらずマレフィは初で困るよ……だがそれが良い。
「マレフィ、もっと肉つけなよ。肋骨浮いて無い?」
「余計な……お世話……よ……」
「ナズーリン、これが野生の紫モヤシ」
「煮ても焼いても食べられそうに無いな」
 マレフィが毒舌ならナズーリンもなかなか毒舌だった。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。