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異世界オタクライフ 作者:謙虚なサークル
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オタクと二次元

「うおおおおおおおおおおお! カリンたん! カリンたんじゃないか!」

 夢にまで見た懐かしの二次元キャラを見た俺は、矢も盾もたまらず、少女に駆け寄る。

「ひいっ!?」

 が、少女は悲鳴をあげ尻もちをついてしまった。
 おっと、どうやら驚かせたようだ。
 思わず大きな声を上げたし、四つん這いでカサカサ駆け寄ったのもほんのり気味悪がられた原因かもしれない。
 反省反省……俺は来ほんと咳払いすると、立ち上がり少女に頭を下げる。

「これはすまない。俺はカイトと言うものだ。怪しいものじゃない」
「い、いえ……お気になさらず……」

 そう言いつつも、少女はとても怯えている様子だった。
 しまったな。警戒させちまったか。
 ここは一旦距離を取ったほうがいいのかもしれないが、そんな悠長なことをする気にはなれない。
 俺は彼女の持つノートを見たくてウズウズしていた。
 もう辛抱たまらん、俺は怯える少女の肩を掴み、まっすぐに見据える。

「それよりさ! 君が今描いてた絵が見たいんだが! 見せてくれないだろうか!?」
「えぇっ!?」

 困惑し、両手でノートを抱えて隠す少女。
 あかん。完全に警戒されている。まぁ関係ないけど。
 こういうタイプは押しに弱いと見た。土下座でもなんでもして押しまくるべし、だ。

「いやホント、お願いします。チラッとでいいから!」
「そ、そんなことを言われても……」
「なっ! このとーり!」
「うぅ……」

 恥もへったくれもなく、両手を合わせ、頭を下げる。
 少女のノートを持つ手が下がった。やはりだ。ここは押しの一手である。
 更に頭を下げ、地面に擦り付けるように拝み倒す。

「なっ! お願いだ! 人助けだと思って」
「でも……うーん……」
「頼むっっっっっ!!」

 しばし沈黙のあと、少女は抱いていたノートをおずおずと身体から離す。
 真っ赤な顔で諦めたようにため息を吐くと、ノートを俺の前に差し出した。

「はぁ、わかりました。少しだけなら……」
「やったああああああああ!! ありがとなっ!!」

 言い終わらぬうちに、ノートを受け取りページを開く。
 そして一枚一枚、じっくりじっくり、噛みしめるようにしてめくっていく。

「あうあうあう……少しって言ったのにぃ……」

 消え入りそうな声で何か言ってるが、聞こえない。
 ノートに描かれていた絵は、よく見れば魔法少女カリンとはかけ離れていた。
 どうやらまともな二次キャラを見るのが久しぶりすぎて、キャラの区別がつきにくくなっていたようだ。
 いわゆる一般人が金髪ツインテキャラを全て同じキャラに見えるのと、同じような状態である。

(それにしてもこいつはどうだ……!)

 少女の描いていた絵は適度にデフォルメされた可愛らしい絵で、いわゆるマンガ絵である。
 こちらの世界の絵は、基本的に中世ヨーロッパ風リアル調の絵で、まぁ上手いのは上手いのだろうが、俺の琴線には触れないものだった。
 あまりにも、あまりにも懐かしい二次元との再会。
 隣にいる少女を忘れてしまうほど、俺は感動していた。

「あの……そろそろ……」
「すげえ! すげえよアンタ!」

 言いかけた少女の手を掴み、叫ぶ。
 握る手にも力が入り、いつの間にか俺の頬を涙が伝っていた。

「とっても素敵だ。こんな素晴らしい絵は、初めて見た! うん!」
「え……ぜ、全然そんなことないですぅ……」
「そうだって! いやほんとに! すげーから! 俺なんてほら、これ見てよ」

 ポケットから出したのは、一枚の絵である。
 ミミズが這ったようなヨレヨレの線に、サイケディックな色が汚らしく落とされている。
 ところどころ滲み、人間か動物か、そもそも有機物か無機物かすら判断の付かぬ謎の物体。
 ……俺が少し前、暇つぶしに描いた絵だ。そう、俺には絶望的に画力がなかった。

「えーと……なんですか、これ」
「一応女の子」

 付け加えるなら魔法少女カリンなのだが、まぁうん、これ以上は言うまい。

「……ぷっ、ふふふ」
「あ、くそ! 笑いやがったな」
「ごめんなさい。つい……あははは」

 うぅ、恥ずかしい。見せるんじゃあなかったぜ。
 でもつい同じ趣味を持ってる人には自分の事も見せたいもんだ。
 ヲタクならそれはなおさらである。
 少女はひとしきり笑うと、初めて俺の目を見た。
 怯えの色が少し褪せている気がした。

「…………リシャ。私の名前はリシャ、です」
「おおっ! よろしくな、リシャ!」
「は、はい……えと、カイトさん」

 俺が手を取ると、リシャは弱々しく握り返してくれた。
 少しは心を開いてくれたのだろうか。

「もうちょい見ていい?」
「ふふ、どうぞ。気の済むまでご覧になって下さい」
「サンキュ!」

 俺はリシャのノートを、じっくりと貪るように見返すのだった。
 どれくらい経っただろうか、気づけば日が沈みかけていた。

「あ! すみませんカイトさん。私もう帰らないと……」
「おお、悪い悪い。時間を忘れちゃったぜ。よかったらまた見せてくれよな」
「……はい、喜んで」

 はにかむように笑うと、リシャは手を振り街の方へと駆けていく。
 俺はそれを、リシャの姿が見えなくなるまで見送っていた。

 その夜、レティシアと食事中にも俺は時折ニヤけていた。
 それに気づいたのか、レティシアが俺の顔をじっと見ている。

「……何だか随分とご機嫌ですわね。カイトさま」
「へへ、まぁな」
「もしや、女性……とか?」
「さて、何だと思う?」
「そうでないことは間違いないと思うのですが……」

 じゃあ何で聞いたし。
 レティシアは上品に紅茶を口につけながら、微笑む。

「そもそも、私に欲情しない時点で他の女性に気を持つなどありえませんので」
「自信家ですこって」
「惚れ直しましたか?」
「まず惚れた記憶がございませんなぁ」
「まぁ、酷いですカイトさまったら」

 頬を膨らませるレティシアを横目に、俺は食事を口に運ぶのだった。



 ――――その翌日も、俺はあの草原に来ていた。
 もしかしたらまた、リシャに会えるかもと思ったからだ。
 他にやることがなかった、ともいう。
 うーん、我ながら暇人。

 ぼんやりと雲が流れるのを見ていると、ここが異世界だというのを忘れそうになる。
 家に帰ればマンガが無造作に置いてあって、テレビを付ければアニメをやっていて……はぁ。
 叶わぬ理想にため息が出る。

「どうしたんですか? ため息なんか吐いて」

 ひょっこりと俺の顔を覗き込む少女。
 リシャだ。

「いよぅリシャ! ここにいれば会えるかも、と思ってな」
「私も、その、もしかしたらと」

 はにかんだように笑うリシャ。
 俺が起き上がるとリシャもその横に腰を下ろした。
 後ろに回された腕には、先日のノートが覗いている。

「あ、あの……それでまた描いてきたのですが、見ますか」
「見ますとも!」
「で、ではどうぞ」

 真っ赤になりながらノートを手渡すリシャ。
 それを受け取りパラパラとめくる。
 うーん、やはり素晴らしい絵だ。
 先日、見たところが終わり、新たなページを開く。

「こ、これは……ッ!」

 思わず驚愕に目を見開いた。
 そこに描かれていたのは、リシャの絵に加えられた文章。

 いわゆる絵本の要領で、絵と文章で物語を紡がれていく。
 この世界にも絵本というか、絵物語はある。
 だがどうも、大人向けというか俺の好みでないのでイマイチ惹かれなかったのだがリシャのはまさに俺の好みどストライクだった。
 いわゆるラノベ的というか、キャラ重視のものだったからかもしれない。

「いい、いいよリシャ! 面白い!」
「えへへ、ありがとうございます」
「ただ、一つ……これには重大な欠点がある」
「えっ!? な、何ですか……?」

 おずおずと聞きただすリシャを正面に見据え、俺は言った。

「短いっ! もう読み終わったじゃねえかよっ! 続きはないのかっ!」

 ぽかんとした後、リシャはクスリと笑う。

「ふふ、だってまだ終わってませんから。続きはまた明日、書いてきますね」
「おうっ! 楽しみにしてるからなっ!」
「はい!」

 頷くと、リシャは満面の笑みでそう応えるのだった。
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