第六話 どうして
「・・・」
しばらく加奈は黙っていた。
この女の人が『監視者』という現実があまりにも信じられなかったのだ。
「どうしたの?」
優しくたずねてくるこの美人な女の人が『監視者』だという現実が。
「あ、はい・・・」
曖昧に加奈が返事をすると、女の人はぽつりと言った。
「どうやら『監視者』というだけで拒絶されてるみたいね・・・当然だけど。」
「だって・・・私は見張られているんですよ!?たった一枚の手紙のために!」
加奈が思い切りヒステリックに叫ぶと、『監視者』はゆっくりと瞬きをした。
「えぇ、確かにたった一枚の手紙だわ。」
あまりにもさらりと言われたので、加奈はなんだか力が抜けた。
「私は、こんな手紙に運命を左右されるのは嫌です」
そういう言葉が自分でも出てくるとは思わなかった。
でも、本当にそうだったのかもしれない。
あの男の人・・『追う者』のようにはなりたくない。
だけど、死にたくもない。
気が付いたら、口から言葉が飛び出していた。
「こんな手紙っ・・・『不幸の手紙』といったって過言じゃありません!」
『幸福の手紙』
『追う者』はそう思っていたんだろうか。
こんな・・・無力な人間を狂わせるような手紙を。
『幸福になれる手紙』だなんて感じていたんだろうか。
「加奈」
あまりにもそっけなく、『監視者』が加奈の名前を呼んだ。
「『監視者』はどうして『監視者』になったのか知らない?」
「知りません・・・っ知りたくありません」
「そう」
それとなく『監視者』はつぶやいた。
「でも、いずれは知るわ。どうして私が『監視者』になったのか。」