第十話 決断
悲鳴が耳に響いたとき、もうだめだと思った。
全てが、消えてしまう……
でも、聞こえた。
真実の音。
『 さ よ な ら 』
消えてしまうんだ。
神も人も生物も、全てが。
でも、それでも良かったから、『×』を描いた。
私の全てをかけた。
「全く、とんでもねえことするよな。 おまえってさ。」
いきなり『追う者』が現れた。
「何しに来たわけ? ……もう終わりよ。」
「終わりじゃねえよ。」
さらりと言われて、私は少しひるんだ。
「どうして? そんなこと言えるのよ。 もう……私なんか生きてられないのよ!」
「何で?」
「私は、『×』を描いたからよ。」
「わかってるよ……でも、今更だろ。 手紙なんかに執着してたお前が悪い。」
どうして?
涙が出た。
私なんか、いらないんだよね?
誰もが、私の存在を否定したよ。 それが日常だった。
当然の仕打ちだと思ってたよ。 でも違った? 違うの?
「っもう……私は消えるの。 さよなら。」
「……本当に、それでいいんだな?」
『追う者』は私の目の前から消えた。
誰もいない部屋に、沈黙が流れる。
私は、わずかな力でペン入れからカッターを出した。
自殺しようって、思った。
だって、いらないんでしょう?
手紙だって消しちゃったし、母親は浮気しているし、誰も助けてはくれないし、きっと明日からはいじめが始まる。
いらないんでしょ……
私は、カッターを、自分の手首に持っていった。
涙は、出なかった。
きっと、私がいなくても世界はなにも変わらずに日常を過ごしていくんだろう。
「さよなら」
今度は本当の『さよなら』。