第九話 消滅
「ふーん?」
少年は私を面白そうにじろじろ見た。
「どうして?」
私にそう聞いた彼の表情は、少し硬くなっていた。
「必要じゃないような感じがして。」
嘘。
そんなわけなかった。
今ここで運を失ったら、きっと、私は自信とかも失うだろう。
だけどわかってた。
それが、正しいってこと。
自分の道は自分で歩くもの。
いつか教えられてもいない『孤独』を身に付けたときに、感じた気持ち。
今もまだ残ってる。
涙なんか出ない。 立ち止まったりしない。
当たり前、だと思ってた。
けどちがったみたい。
私はもともと『独り』じゃない。
違うの。
私の『孤独』は、ただの道筋みたいなもの。
だから、それから抜け出すことなんか容易にできるの。
「……本当に、そうするの?」
もはや冷静さを失った少年の声が私の心に響いた。
「ええ。 私は、そうすることで成長できると思う。」
「それで何もかも失っても?それでも、いいって?」
「当然じゃない。」
もう迷いはなかった。
私はゆっくりとボールペンに手を伸ばした。
小さな斜線を描く。
「……やめろっ!」
いきなり少年が私のボールペンをひったくった。
「何するの!?」
すると、少年は私を睨んだ。
「この……手紙は、俺の先祖の手紙だ。 だから、この手紙を滅するということは、俺の家系も滅するということになる。」
「そう。 でも、私だって死にたくないわ!」
私は思い切り少年を突き飛ばして、もう1つの斜線を柔らかに描いた。
少年の絶叫が聞こえて、
この世の全てが消えた気がした。