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エッセイ 

『戦争になればいいのに』と、祖母が呟く

作者: NOMAR

 

 夏、終戦記念日。

 この季節になると思い出すことがあります。

 私が子供のころの反戦教育の学校では、夏休みの宿題に、町の年寄りから話を聞いて戦争についての感想文を書く。

 そんな夏休みの宿題がありました。


 戦争は悲惨なもの、それを子供に教えるための教育です。

『裸足のゲン』が学校の図書室にあり、反戦教育に熱心な学校だったのでしょうか。


 これに私は困りました。

 私の祖母、その本家が、所謂戦後成金だったのです。

 戦後の苦労話を聞こうにも、戦後に食べていたのはすき焼きとかカステラとか。

 食べ物に困ったことも無く、住居に困ったこともありません。

 お金を隠すために畳の下に並べてたりしてたそうです。

 戦後の方が今よりも裕福な暮らしをしていたのです。


 父の会社の経営が傾き、父が祖母の年金を奪うようにして会社に注ぎ込みます。

 そのことに文句を言う祖母を、父が殴ったり蹴ったりして黙らせます。

 そんな祖母に戦後の話を聞いても、

「あの頃の方が今よりもずっと良かった」

「今よりもずっと暮らしやすかった」

 と、言います。


 戦争という状況の中でも、それを利用して稼ぐ業界や企業があるということです。


 叔母が自殺しました。


 叔母は福島の原発事故が原因で難病が発症しました。

 身体が少しずつ動かなくなる病気です。

 そのことで家族の負担となることを嫌い、自ら命を絶ちました。

 国の原子力発電を優先する政策の犠牲者です。


 福島の原発事故の後、1部の土地では地価が上がり、不動産業界、建築業界では利益を出したところがあります。

 原発バブル、復興バブルと呼ばれています。


 戦争もまた同じ。

 悲惨な目に会う人や不幸な目に会う人も増える状況でしょう。

 ですがそこでも利益を出したり稼いだりする人がいます。


 祖母が言います。

「日本がまた戦争になればいいのに」

「そうしたら税金もあの頃みたいに安くなって、暮らしやすくなるのに」

「あの頃の方が、今よりもずっと良かった」


 父の会社の株主が、当時小学生だった私を金で買おうとしたことがあります。

 その株主が子供を買って何をするつもりだったのかは解りません。

 父は売るつもりでしたが、祖母と母が反対して私は売られることはありませんでした。


 祖母が言います。

「こんなにお金で困ることになるなんて」

「孫を売るとか売らないなんてことで、息子とケンカするなんて」

「日本がまた戦争になればいいのに」

「そうしたら、昔のように暮らしに困ることは無くなるかもしれない」

「戦後の方が税金も安くて、今よりもずっと良かった」

 泣きながら祖母が言いました。


 年老いた祖母はボケてきました。

 父に年金をはじめいろいろ盗られたことを不意に思い出すのか。

 父に、

「ドロボー、ドロボー」

 と、言います。

 父はそのたびに煩いと言って、祖母を殴ったり蹴ったりします。

 私は今では籍を外れて、離れて暮らしていますが、父に殴られた祖母が、たまに泣きながら電話してきます。


「なんでこんなことになったのかねぇ」


 子供のころは不思議でした。

 学校では戦争は良くないものと教えられて。

 家では祖母が、戦争になった方が生活がマシになると言います。

 どちらが正しいのかと、悩みました。

 どちらも正しいのだと、解りました。


 誰も戦争なんて望まないなどと、気楽に言う人がいますが。

 私は身近に戦争を望む人がいます。

 愚かと言う人もいるでしょう。

 政治を、経済を知らないと言う人もいるでしょう。

 平和の素晴らしさを知らないと、蔑む人もいるでしょう。

 

 それでも、戦後を体験した年寄りが、『今よりも戦後の方がマシだった』と呟く事実が、ここにあります。


 


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― 新着の感想 ―
[一言] うちの家系も戦後の農地改革で、すべて取られてなれない仕事して苦労した話を聞いたことがあります、マスコミ的には黙殺傾向があるの話ですね。
[一言] 感想を書くまでにたくさん考えてみました。 私はやっぱり戦争反対の立場です。 だけど、お祖母さまのお言葉にも共感できてしまいます。第二次戦争中何不自由なく生きてきて、今が不幸せだとそう感じてし…
[良い点] すごく考えさせられました。立場によって心情や意見は変わるんですよね。 [気になる点] しかし、やっぱり戦争は嫌だな、と思う自分もいる。たとえ自分にすごく得があっても、直接関係なくとも、人が…
感想一覧
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