しゃべるネコ 其一
白野市
ビルが林立する都市。
都市の多くに、人の目に付きにくい場所が存在する。怪談の舞台になる不気味な場所。
今回の話の舞台は、
白野市に古くから店を構える和菓子店
「卯月」
で働く見習い職人の身に起きた奇妙な出来事。
白野市の誕生と共に生まれ昨今の洋菓子ブームに押される事無く
地元民に愛される和菓子店。
幼少の頃からそこの最中が大好物だった。岸 洋子
(きし ようこ)
どんな時でも明るいお店の看板娘。
最初は菓子作りの補助として働いていたが
しだい菓子作りに魅せられ菓子職人として修行をはじめた。
「お疲れ様でした」
一日の仕事が終わり、
店内の電気が消された。
だが、洋子にとってはここからが修行の時間。
近々大手菓子メーカーが主催するコンクールがある。そこで入賞する事が一流と認められた証。
修行は毎日深夜まで続いた。
「洋子ちゃん
ちょっといいかい?」
ある昼の休憩中のこと
店長に事務室へ呼ばれた。そこには親友の宏子がいた。
「コンクールについての作品規定の事だが、、、
その前に話があってね
宏子ちゃんもエントリーする事になった」
「え?」
「これからはコンクールに向けてライバル同士だね」
「遠慮しないから」
宏子が職人になろうとしたきっかけも洋子と同じ
そして互いに技術を競った親友でありライバルだ。
宏子は美術大学出身とあり細工が得意。
入賞のハードルは高い。
あれから数週間が経ち。
コンクールまで1週間
洋子は焦っていた。
作品の案が固まらない。
宏子はなんとか形になり
すでに仕上げの段階。
「洋子……
大丈夫?
顔色…良くないよ?」
「…うん…
だめだね
ライバルに心配されちゃって…」
宏子の優しさが嬉しかっただが、それ以上に悔しかった。
知識、技術、才能
どれも同じでありながら
今だ何も形にならない
対象に順調なライバル。
うらめしくも思えた
それでもやれる事は菓子を作り、
納得するデキのものを完成させる事だけだった。
しかし、
連日続けた深夜までの作業がたたって体調を崩し、即日入院。
とてもコンクールに間に合わない。
洋子は放心状態だった。
まるで全ての苦労が無駄だった様な虚しさ。
突然すぎて涙も出ない。
その日の夜は妙に寝付きが悪かった。
ショックもあったがそれ以上の違和感。
何度も目を開け
寝返りをうち
起き上がってはまたベッドに転がる
その繰り返し。
窓を開けると
ひんやりとした夜風が吹き抜けた。
ふと・・・
声が聞こえてきた。
(・・・おや
私の声が聞こえるとは)
男性の声
紳士的な口調
でもここの病室にそんな人はいない
ましてや夜中の2時
起きている人はいない。
幽霊かとも思ったが
不思議と嫌な感じはしなかった。
「誰・・・?」
その声に問いかける。
(窓の外を見てごらん
見えるでしょ?)
窓の外
ベンチ近くにうっすらと発光する『何か』が見えた。洋子はまるで引き寄せられる様にそこへ向かった。
「…誰か……いるの?」
「こんばんわ
お嬢さん・・・」
そこにいたのは真っ白い
ネコだった。 |