黒い部屋 其一
白野市
ビルが林立する都市。
都市の多くに
人の目に付きにくい場所が存在する。
怪談の舞台になる不気味な場所。
今回の話の舞台は
住宅街のアパートに住む青年に起きた奇妙な出来事。
築45年
アパートの裏には林がある。
立地条件から夏ともなるとアパート内では虫がはいずり回る事は日常的。
更に老朽化もあって
小さなひび割れがいくつかあり
そこから入り込み建物内部にも住み着いている。
高橋 亮平
(たかはし りょうへい)
近くの大学に通う学生。
昆虫は大嫌いで
子供の頃アリの巣にふざけて指を入れた際
指が倍以上に腫れ上がる程何度も噛まれた事から
得にアリが苦手。
もちろん夏にはよく目にするわけだが
冬には風呂場の壁面のわずかなひび割れにも現れる事も珍しくなかった。
「一体どこから入ってくるんだよ?」
その日も数匹のアリが部屋でうろうろしている。
亮平は殺虫スプレーをかけて部屋から追い出した。
季節は11月中旬。
この時期になると外気から逃れるため壁内に昆虫が住み着きはじめる。
2日程前には
湯舟に10匹以上のアリが水泳を楽しむと言う最悪な光景を見たばかりだった。
「今日は無事に風呂に入れるといいけど」
風呂場の戸を開けると
内部をキョロキョロと見渡す。
「大丈夫・・・か」
風呂のふたを取り
蛇口をひねり湯をためはじめた。
湯気が立ち込め風呂場がほのかに暖まってきた頃。
「っ!
やっぱり出てきたか」
手に持っていた殺虫スプレーをひび割れから頭を出したアリに吹きかけた。
それに驚きひび割れへと戻って行った。
「この部屋だけ異常に出るんじゃないか?」
その日の夜中。
寝ていた亮平は腕に伝わるかすかな感覚に目を醒ました。
跳び起きて部屋の電気付けると
左腕には数匹のアリが張り付いていた。
「うわっ!
なんなんだよ!」
腕のアリを払うと
今度は足にもぞもぞとくすぐったい感覚が伝わった。
足には10匹近いアリがゴソゴソ動き回っていた。
「わっ!!
なっ!
どっから入ってくるんだよ!!」
殺虫スプレーを手に取ると辺り一面に散布した。
「前までこんなとこまで
来なかったのに!」
亮平は毎夜アリの襲撃と
その撃退で寝不足になっていた。
しかし
このままでは寝不足から体調不良になると考え
大家に相談し害虫駆除を依頼。
更に壁面のひび割れもパテで修理した。
これにより虫の入り口はなくなりようやく安心して眠れる、と
亮平は思っていた。
その夜・・・
何かのざわめく音で目が醒めた。
目をゆっくり開けると
音のする方を向いた。
そこいたのは白塗りの壁面を覆いつくす数え切れない程のアリの群れ。
「っ!!」
数千、数万のアリ達がひしめき
本来白いはずの壁は黒く塗り潰されている。
その光景に言葉を失い
呆然となっていた。
(アリっ?
なんでっ!?
駆除したはず!
そもそも入り口はっ!
それより
なんだこの異常な数!?)
頭の中はいくつかの思考が混ざり合い
自問を繰り返すのみで
何一つ答えなど出ない。
亮平は急に立ち上がると
部屋の電気も付けず
ほうきと殺虫スプレーを持ち
壁一面のアリを駆除しはじめた。
「なんなんだ!
なんなんだよ!
おかしいだろ!
なんだよコレ!?」
暴れ狂う様にほうきを振り回し
スプレーを辺り構わず撒き散らした。
なんとか全てを駆除し終わると暴れ回った事と寝不足が重なりそのままその場に倒れ込んだ。 |