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風の名のもとに
作:三神ざき



お金、無いかも・・・


「霞お姉さま!起きてください!大丈夫ですか!?」

 宿に戻った楓は霞を必死に揺り動かして起こそうとした。町の人々は既に目を覚まし何があったのかと自分達に降りかかったザンドマンの八つ当たり的行為に疑問を投げかけている。

「う、うーん」

 楓の声に反応し霞は徐に目を開けた。それを見て楓はホッと胸をなでおろす。

「良かったぁ」

「何、楓。そんな顔をして何かあったの?」

 霞は身体を起こしつつ喜んでいる楓の顔を見て不思議そうにしていた。楓は事の事情を説明する。

「そう、そんな事があったんだ。じゃあ、楓が何とかしてくれなかったら私ずっと寝たままだったわけね」

「はい」

「ありがとう楓」

「いえいえ!不肖楓、霞お姉さまのためなら火の中水の中です!」

 びしっと手を額の上に当てポーズを取っている楓に霞はちょっと微笑んだ。

「しかし、ザンドマンとか言う幻獣が居たなんてね」

「そうなんですよ!しかもそのザンドマンっておじいさんが・・・」

 楓が言葉の続きを言おうとした瞬間、霞は胸に違和感を感じた。ふと自分の胸を見ると誰かの手が胸を鷲掴みにしている。それと同時に後ろから声が聞こえた。

「ふぉふぉふぉ。そこの女子より小さいが手のひらすっぽりサイズで良い感じじゃ」

「ああ!ザンドマン!」

「何を触っている!」

 霞はカッとなって胸を掴んでいた手を振りほどくと、すぐさまベッド脇においてあった剣を抜いて後ろのザンドマンに斬りかかった。ザンドマンは笑いながらその剣をひょいっと避けた。

「うむうむ。確かにその楓とかいう女子の言うように綺麗な女性じゃが、わし的にはやはり女子の胸の方が良いのぉ〜。大きさと言い感触と言いわし好みじゃ」

「楓、なんなのこのおじいさんは?」

「ええ!この人が町を眠らせていた元凶のザンドマンです。すっごいスケベなんですよ!ちょっと!何しに出てきたのよ!!!」

「いやぁ、女子の大切な人が綺麗な女性と聞いての。一見したくて来ただけじゃ。それじゃ、満足したしわしは帰るの」

「さっさと帰りなさい!もう出てこなくて良いからね!」

「ふぉふぉふぉ」

 笑い声を残しながらザンドマンは姿を消した。

「もう!あのスケベじじい!私ですらお姉さまの胸なんて触った事無いのに!!!」

「護にすら触らせた事無いのに!私としたことが・・・お嫁にいけない・・・」

 二人はそんな事を思いつつ、消えていったザンドマンの虚空を睨みつけていた。そこへそんな事があったことなぞ露知らず、部屋にふっくんが入ってくる。

「どうかしたんでしゅか?二人ともそんな怖い顔して」

「あ、ふっくん。ううん、ちょっとね。ところで護さんは起きた?」

「それなんでしゅけど、おかしいんでしゅよね。お兄しゃん、どんなに声を掛けても目を覚ます気配が無いんでしゅよ」

「え?」

 そのふっくんの言葉に不安を覚えた霞は直ぐに部屋を出ると、護の部屋に向かった。ベッドでは護が気持ちよさそうに眠っている。

「護!起きて!護!!!」

 霞が必死になって護を起こそうとするが護は確かに起きる気配が無い。焦る霞に対し遅れてやってきた楓とふっくんは不思議そうに護を見ていた。

「楓!どういうこと!?ザンドマンの霧は消えて効果が無くなったんじゃなかったの!?」

「そのはずなんですけど・・・。実際町の人々は目を覚ましてますし、霞お姉さまだって目を覚ましてますでしょ?」

「ねえ!護!起きてよ!!!」

「変でしゅねぇ。楓しゃん。一度ザンドマンしゃん呼んで聞いてみたほうが良いんじゃないでしゅか?」

「ええ〜。あのスケベじじい呼ぶのぉ。私嫌だな」

「でも、お兄しゃん起きないと旅できないでしゅよ?」

「楓、お願いだから呼んで!」

「うーん。お姉さまのお頼みならしょうがないです。じゃあ・・・あ!」

 ザンドマンを呼ぼうとして楓は重大な事に気がついた。

「どうしよう!考えてみたら私、召喚の仕方知りません!」

「え?でもさっき出てきたじゃない?」

「あれは勝手に出てきたんですよ。私が呼びたくて呼んだんじゃありません」

 そう、楓はザンドマンと契約をしたといっても肝心の召喚の仕方と言うものを知らなかったのだ。そうなると、呼びたくても呼びようがない。

「楓!なんでもいいからそれっぽいこと言って、なんとか呼び出して!」

「あ、はい!」

 霞に言われ、出でよザンドマン!などといろいろ叫んでみるが一向に出てくる気配は無い。四苦八苦している時に楓はふと思いついたことがあったので言ってみる事にした。

「・・・出てきたら私の胸触らしてあげるのになぁ」

 ポツリと何気なく呟いてみた。するといきなり目の前にザンドマンが現れる。

「本当か!女子!」

「やっぱり出てきた・・・本当にスケベなんだから」

 呆れて冷たい視線を楓はザンドマンに送りつつ、手をワキワキしているザンドマンを引っ叩くと状況を説明して何故護が起きないのか聞いてみた。

「おかしいの。わしは既に霧を解いておるからこの者にも効果は切れておるはずじゃ」

 引っ叩かれた頬をさすりながら自分のせいではないことを主張すると、護の方に歩み寄り額に手を乗せた。何かを探っているような素振りを見せると乗せていた手をはずし髭を撫でる。

「こやつ・・・ただ単に寝ておる」

「はっ?」

 ザンドマンの言葉にその場に居た全員が拍子抜けした声を出した。

「つまり、要は寝坊しておるだけじゃ。もともと寝坊癖があるようじゃが、それに拍車が掛かって目を覚まさないだけの事。その内目を覚ます」

「そのうちって何時?」

「うーん、後三十分程ではないか?どちらにせよそんなに長くは無い」

「そう、良かったぁ」 

 それを聞いて霞は心底安心した。ザンドマンは用件が済んだのなら約束通り胸を触らせろと言ってきたが、楓のビンタの前に名残惜しそうに消えていった。

「いやーごめんごめん。本当眠くてさぁ」

 それから程なくして目を覚ました護は皆に謝っていた。皆は揃って宿を出る。

「本当に心配したんだからね!」

「ごめんって。町がそんな事になってるなんて知らなくてさ。僕もうかつだったよ」

 ザンドマンの話を聞いた護は頭を掻きつつ笑っていた。余りの緊張感の無さにちょっと霞はムッとしていたが、自分も気づかなかったのでお互い様かと思いあえてそれ以上怒らない事にする。それから、宿を出たパーティは町で次の町までの食料等を買うとまた旅に出る事にしたのだった。

「思った以上にふんだくられたなぁ・・・」

 街道を歩きつつ寂しくなった財布を見て護は今後どうしようかと悩んでいた。泊まった宿がトリーシャの町でもぼったくりの店として有名だった事をすっかり忘れていたため、かなりの額がふんだくられたのだ。それにあわせて旅の必需品の食材や保存食等を買ってみたら、手持ちのお金がほとんど無くなってしまった。元々トリーシャの町は旅人や冒険者で成り立っている町なので相場が安いはずなのだが、最近この近辺にもモンスターが現れ危険度が増したため旅人が減ったとか言う理由により市場の相場が上がったのだ。

「このまま行くと、プランに着く前にお金無くなりそう」

「あれ護?財布なんか見てどうしたの?」

「え、いや、お金無いなって思って。霞お金持ってる?」

「え、ううん。旅に出る時、護が全部準備するからとか言ってくれたから、私お金も持ってこなかったけど。というより、国の復興で忙しかったから私の自由になるお金は無いの。王女として私のお金は全部国の復興に当ててたから」

「だよね。楓、楓は持ってるよね?」

「え、私無いですよ?」

 楓はきょとんとして返してくる。

「なんで?だって、旅に行くことにしたのって楓でしょう?」

「いや〜、ラゼルに行く分のお金は持ってたんですけど、後の事は護さんか劉さんが何とかしてくれるかなぁとか思って」

「おい・・・」

「えへ!ビバ、他力本願!」

 呆れる護に対し、楓は頭に拳を当て舌を出すと軽くおどけて見せた。

「ったく困ったなぁ。どっかでお金稼がないとプランに行くための交通費も出ないよ。次の町辺りでなんかお金になりそうな仕事見つけないと駄目だね。はぁ〜」

 溜め息をつきつつ何とかしないとなぁなんて思考を巡らせながらお金の計算をし始める。霞も楓も特に危機感を抱いていないようで、朝から食事を取っていなかったのでお腹空いた等と言って買ったばかりの保存食を食べ始めていた。












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