魔法のちょっとした基礎知識
「ううううう〜、頭痛い・・・」
枕に顔をうずめながら護は頭痛に悩まされ唸っていた。それもそのはず、あれだけの量の酒を飲んだのは正直生まれて初めての事。案の定二日酔いで倒れているのだ。もちろん昨日の記憶なぞ残っていようはずも無い。そんな状態で最悪の朝を迎えている護に鞭打つかの如く、仕事の話が舞い降りてきた。実はエンシフェルムの王様方が用事があり今回の復興式には参加していない。そこで何故か代表として劉が来ていたのだ。昨日参加者面々の前でまた問題を起こしていた輩を退治したのを見ていた劉が早速朝から護の部屋にやってきてヤーウェの話を持ってくる。
「護、入るぞ」
劉はノックもせず、部屋の中に入って来る早々、部屋で倒れ唸っている護を見て呆れた。
「阿呆か、おまえ。何だこの数の酒のビンは・・・」
「あぁ・・・劉か・・・。なんでここに居るんだよ?」
「今回の復興式の代表としてきたんだよ。王様方が来れないからな。今じゃ俺も上役やらせてもらっているからさ。一応面目は保てるだろうって事。それとヤーウェ対策を兼ねている所がある」
「あ・・・そう・・・」
「案の定、問題が起こったな。お前の手紙で復興式には各国の代表が集まるからそれを狙って絶対にヤーウェの連中が行動を起こすと書いてあったが、ああいうやり方をしてくるという事は奴らも手段を選ばなくなってきたという事かな?というより、まずだ。お前の方こそ何でここに居るんだよ?」
「えぇ・・・知らないよ・・・親父に無理やり連れてこられたんだ」
「親父さんって言うとロイス国王様か?」
「そう・・・」
「はーん。お前本当に王子だったんだな。全然そんな感じしないけど」
笑いながら劉はこの超大国の王子だなぞと微塵にも感じさせずうんうん唸っている護の横に座った。まあ、こんな飲んだくれ二日酔いで倒れて唸っている王子なぞ世界広と言えどもそう簡単には居ないだろう。
「で、何しに来たんだよ?」
「ん?だからよ。今後ヤーウェ対策でどうしようかとさ。お前の言われたとおり魔導士対策としてこちらも名のある魔導士を筆頭に魔導士部隊を結成したが、今回直にヤーウェの連中の力を見せ付けられると、まだ対策としては生温い気がしてさ」
「ヤーウェの力っつってもあの連中は、まだ雑魚レベルだぞ?レバスの方がよっぽど強かった」
「あれで雑魚レベルと言われるとこちらとしては非情に困るんだが。あちらが雑魚と言うよりお前のレベルが上がったんじゃないか?」
「そうかもね・・・ううう・・・頭痛いよぅ」
「時に護。お前なんでそんなに酒飲むほど荒れてたんだよ。何か悩み事でもおありですか?王子様」
半分おちょくりながら劉は尋ねてくる。護はこういうおちょくりは好きでないが、今はとても構っていられる状態ではない。劉も護がおちょくられるのが嫌いなのは知っている。用は皮肉を言う事でたしなめているのだ。
「・・・ちょっとね〜、自分の事と霞の事でお兄さん悩み中なの」
護もなんとかおちょくりに対抗しようと試みたがうまい具合に頭が働かず、素直に返事を返した。
「なんだよその悩みって?言ってみろよ」
「言うほどの事じゃない」
「そうかぁ?そういえば霞姫は元気が無いように見受けられたがな」
「あ〜、やっぱり劉もそう思う?」
「ああ、式典でもにこやかにはしてられたが、あれは完全に作り笑いだな。時折溜め息をついてることがしばしあったし、今日の朝も代表者各方々に挨拶してられたが、昨日よりも元気が無いように思われた」
「・・・そう」
護は昨日冷たくしたのが悪かったのかと思い、さらに頭を悩ませる。それに呼応して頭痛も酷くなった。
「うぅ・・・頭痛いよぅ」
「ははは、さっきからそればっかりだな。それでだ。話は戻すが、敵はこちらが思っていた以上に強大なようだ。こちらもなんとかヤーウェについて調べてみたが、魔導士育成学校としか分からず、そこに所属している連中の素性は分かったが皆唯の魔道士見習いみたいなもので裏の裏まではさっぱりつかめない。こうやって直に相手をしてみて初めてその実力が分かる」
「そちらで作った魔導士部隊はどうなんだよ?」
「まあ、そこそこの連中は揃えたが、現状じゃ壁にもならん。昨日の連中を相手できるのは筆頭のアッシュルというものぐらいか?」
「アッシュル?」
「そうだ。なかなかの魔法の使い手でな。傭兵をしていたそうなんだが、たまたま募集記事を見て部隊に所属したのだ。性格も至って穏やかだし、慈悲深いところが有って仲間連中からも好かれている」
「属性は?」
「水だったと思うが」
「うーん」
ふとアッシュルと聞いたとき護の中で何か危険を知らせるアラームが鳴った気がしたが、とてもそのアラームの出所を見つけるほど頭は回復していない。突き刺さるような殴られるような良く分からない頭痛にひたすら悩まされている。とりあえず、闇系統や無、空間系統の術者でないのなら問題ないだろうと思い忘れることにした。確か輝の話では、ヤーウェの実力者のほとんどの術者が闇属性を用いていると聞いていたからだ。
「そこでだ。今後についてなんだが、とりあえずそのアッシュルを筆頭として闇に対抗する光の術者を選抜するなり育てていくなり力を入れようと思うのだが。それでいいだろ?」
「うーん」
護は何とか少し考えた。正直劉の意見には反対だ。確かに闇に対抗するには光の属性を操れる術者が必要である。しかし、光は攻撃的な術ではない。主に白魔法に属し補助系列や回復系列に突飛出ている。また一般にある属性の反対の属性が弱点とされているが、例えば火は水に弱い、土は水に強いなどであるが、それは術者のレベルにより異なり覆る場合もあるし、特に光と闇の関係はもっと複雑になる。光と闇は一見正反対のように思われるが、一心同体なのである。光が存在するからこそ闇が生まれ、闇があるからこそ光の恵みが活かされる。また光が強すぎればそれはより完全なる暗闇と同意義になる。一番の問題を指すなら、光によって闇が生み出されると言う点だろう。中途半端な術者の光魔法は、反発して闇を増幅させる増幅装置になりえるのだ。人とは光に慣れるとそれが消えた時の暗闇に普段以上に恐怖を感じる。自然界における太陽の浮き沈みはまだ良いが、魔法なり炎なりで強制的に光を生み出していると余計に暗闇を恐れさせるのだ。つまり、光を操る術者はかなりのレベルの高さが必要とされそれを持続させねばならず、素人魔道士がおいそれと使える術ではない。この世界で純粋な回復魔法系が極端に少ないと言うのはそのせいでもある。詰まる所、闇に対抗するにはやはり闇の属性の方が好ましい。だから輝も闇系統を極めろと護に忠告したのだ。劉は魔導士ではないのでその辺の理屈が分かっていない。
「あー、光属性の術者を集めるのも悪くないけど、他の属性の術者も集めて置いた方がいい。余り光属性に偏っちゃ駄目だ」
「何故だ?」
劉の当たり前的な質問に護は困った。今考えた事を説明する余力は無い。しゃべると言う事は実はもっとも体力を消耗することである。面倒くさいのでとにかく深く聞くなと言う事にしておこうと護は思った。
「・・・今度説明する。とにかくこういうのはバランスが大事だからと言う事。後、光属性を操れる術者は少ないから集めようとしても無駄だと思う」
「ふーん。まぁ、魔法に関しては俺は素人だからな。お前の指示に従おう。じゃあ、なるべく全属性をカバーできるように集めてみるよ。そうなるとまた増員しないと駄目だな」
「頑張ってくれ」
「おまえ、人事のように言うなよ。曲がりなりにもうちの特殊情報部に所属しているんだろうが。お前の力にも期待してるんだぞ?あ、そういえば、お前王子だったよな。となると、もう東大陸には戻ってこないのか?」
「いや〜、まだわかんない」
「とりあえず、今はまだ中途半端な状態だ。できれば、形になるまでお前の力を貸して欲しいんだが」
「その辺は臨機応変で・・・」
「頼むぜ。ったく。ほらお前も何時までも唸ってないで、レイン様や霞姫に挨拶して来いよ。他の方々は既に挨拶を済ましてあるぞ」
「挨拶って、昨日したじゃん」
「おまえな〜。こういうのは形式っつうのがあってな。曲がりなりにも招かれているなら、この国に居る以上ちゃんと毎日挨拶しなきゃ失礼なんだぞ。朝からパーティだって開かれてるし。オフェリアの王子足る者がそんなんでどうするよ」
「そういう面倒な事は親父に任せてるから良いの」
「とにかく、お前もさっさと起きろ」
劉に無理やり起こされてふらふらな状態のまま護は外に出て行った。劉はしっかりしろよと言って何処かに去っていく。広間に行くと劉の言ったとおり朝からパーティは開かれ盛大に盛り上がっていて街の方も賑やかなようだ。しかしその賑やかさも今の護には苦痛でしかない。あげくメイドの持ってきた酒の匂いで気持ち悪くなる。護は丁重に断り、ジュースの方を貰うと各国の代表者らしき連中に囲まれている霞の方に向かった。
「おはようございます。霞姫」
「あ、護。おはよう」
「なにやら、ここら辺一体華びやかですね」
霞の周りに居た連中は有名どころから辺鄙な国まで年頃の王子達だった。これまた揃いも揃って美形が集まっている。
「私の様な酒の匂いをぷんぷんさせている小物が居ては、せっかくの楽しい会話を壊してしまいそうです。それでは私は失礼を」
「あ・・・」
丁寧に頭を下げると霞の止めようとしたのに気づくことなく護はその場を後にした。どうやら父もレイン王達と一緒にいろいろな連中に囲まれているらしく、護は近寄らない事にして例によって例の如く外に出て風を浴びる。少々冷たい風が頭痛を少し癒してくれて気持ちがいい。その風を浴びながら護は受け取ったジュースを飲み干した。
「ああ言うの見てると、王子王女って大変なんだな。俺、後継ぐの止めてこのまま風来坊してようかな」
至る所で、挨拶やら付き合いやらしている代表者、後継者を見ているとふとそんな事を考えてしまう。きっとあの連中の中には大国に媚売って自分を気に入られようと躍起になったり、妬んだりする腹黒い輩も居る事だろう。本音で語り合っている人たちなど、この中でどれだけ居る事か。建前の社会。そんな社会につくづく貴族家業というのが嫌にもなる。
「ま、俺は俺のスタイルで生きていこうっと」
そんな事をポツリと呟き、ベランダから見える街並みを眺めていた。
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