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風の名のもとに
作:三神ざき



謎の戦い


 はぁ、はぁ、はぁ、次の日の朝、護は走っていた。朝に弱い護は例の如く寝坊をしてしまったのである。一度はきちんと起きたのだがもう五分と軽く寝たつもりが一時間近く寝てしまったのである。時刻は六時五十分。城まで行くのにおそらく走って20分以上はかかるであろう。だるい身体を無理矢理起こし半分寝ぼけながら急いで支度した。朝食はとらずにそのまま一直線に城に向かう。一応ゲンがお弁当を持たせてくれた。走りながらでも身体はだるい。今すぐベットに倒れ込みたいのを我慢して城を目指した。しかしこのままでは間に合わない。仕方なく、呪文を詠唱する。
 
「シルフィードダンス」

 護は呟いた。次の瞬間、護は風を纏い周りの景色が目にも留まらぬ勢いで後ろに流れていく。風の力を使った高速移動の呪文である。城に着いたのは七時十分ちょっと前。既に門の前には、劉と他にもう一人。昨日劉と組手をやっていた人が立っていた。
 
「遅いぞ!」

 劉が厳しい顔で行って来る。
 
「す、すみません」

 息を切らして護は謝った。
 
「まあ良い。こいつはシンと言う。今回の任務に行くのは、おまえとシンと私の3人だ。こいつはまだまだ荒削りだが、良いセンスをしている。足手まといにはならんだろう」

 劉はもう一人の人を紹介してくれた。そこにシンと紹介された人が口を挟む。
 
 「隊長!まさか、こんな子供に任務をさせるのでありますか?!自分がまだまだ未熟者なのは分かっておりますが、こんなメンバーで、しかも少数で大丈夫なのでありますか?」

 シンは少し不安そうである。
 
「なんだ?昨日の私との組手見てなかったのか?大丈夫だ。この子は護と言うが、実力は私が保障するよ」
 
「シンさん。昨日逢いましたね。今日はよろしくお願いします」

 護があくびしながら挨拶をする。まだ、眠い。 
 
「あ、ああ、よろしく。」

 まだシンは不安そうであった。まあ無理もない。グリフォン相手に3人で、しかも一人は子供ときたら命を預ける戦いなのに誰でも不安になるだろう。
 
「それじゃあ、出発する。馬車に乗ってくれ。道中詳しく説明をする」

 劉がそう言うと全員馬車に乗り込んだ。すぐ馬車は動き出す。馬車の揺れが気持ち良い。護は少しうとうとしていた。隣では劉が任務について説明している。
 
「今回の任務は至って簡単だ。グリフォンの住み着いた場所に行き退治して帰ってくる。ただそれだけだ。山頂に向かうまでの道中で途中馬車の入れない場所があるから、そこからは歩いて山頂まで目指す。ここら一帯は、おそらく他のモンスターもいないから目標まではすんなりいけると思う」

 シンは真剣に聞いていたが、護は既に夢の中にいた。
 
「目標発見までは固まって動く。絶対にお互い離れるな。相手はグリフォンだ。おそろしく頭の良い奴で狡猾。ばらばらになったら各個撃破されかねない。気を引き締めるように。って、おい!護!聞いているのか?!」

 その声で目が覚める。
 
「は、は〜い。大丈夫です・・・」

 瞼が重い。
 
「あの〜、隊長」

 シンが尋ねる。
 
「何だ?」
 
「本当にこの子、使い物になるんですか?私には普通の少年に見えるのですが」

 護は耐えきれずまた眠りについた。
 
「いざ、戦いになれば分かるさ。今は体力を温存しているのだろう。大丈夫だ・・・たぶん」

 劉もさすがに護の緊張感のなさを見て少し不安になったようだ。まるで昨日のやりとりが夢であったかのようにさえ思える。昨日の護の実力を見て、今回少数で任務に当たることにしたのだ。もう少し新米でも良いから連れてくるべきだったかな?と劉の頭にそんな考えがよぎった。邪念を振り払うかのように首を振り、劉は戦いに向けて集中することにした。しばらく静かな時間が続く。そのうち馬車が止まった。
 
「護、起きろ。着いたぞ」

 揺り動かされて護は目を覚ます。
 
「うーん、もう着いたんですか〜。もう少し寝ていたかったなぁ」
 
「馬鹿言ってないで行くぞ!」

 3人は馬車を降り目的地に向かう。
 
「それにしても変ですね。グリフォンといえば、もっと標高の高い山に生息をするって聞いていたんですけど。こんな街道付近のちょっとした山に住み着くなんて」

 シンが不思議そうに尋ねる。
 
「確かに。その辺は私も気にはしていたんだ。何か引き寄せる要因となったものでもあったのだろうか?」

 劉もいぶかしげに答える。

「ふあ〜、まあなんにせよ、困ったところに住み着いたのは事実なんですから。理由はどうあれとりあえず、サクっと退治しちゃえば良いじゃないですか。理由は専門家とかに任せれば良いんですよ」

 護はのんびり言う。
 
「サクっとって・・・」

 シンは、呆れ顔で言っていた。街道からはずれた、二人が並んで歩ける程度のちょっと細めの道。勾配の少し急なその道を前を劉、シン。その後ろを護という陣形で歩いていく。
 
「情報によるとこの辺に出没するらしいのだが」

 歩き始めて10分ほどしたとき、劉が言った。辺りを見渡す。すると近くに木を挟んで少し広くなっている場所があった。どうやらそこがグリフォンの巣らしい。今は影も形も見あたらない。
 
「気を抜くなよ。何時襲われるかわからないからな」

 劉が言う。一人をのぞき緊張が走る。
 
「少し、この辺りを詮索してみよう」
 
「そうですね」

 3人は辺りを注意しながら行動した。そのときである。 
 
「クエェーー!!!」

 甲高い声が周りを包み込む。
 
「あっちだ!」

 3人は声のする方に向かっていった。すると、頭上を通り過ぎる大きな影が見えた。
 
「伏せて!」

 護が叫ぶ。その声で全員が反射的に伏せる。次の瞬間、シンの頭ぎりぎりのところをグリフォンの鋭い爪が通り過ぎていった。そしてすぐ、姿が見えなくなる。シンの鼓動が速くなる。
 
「で、出ましたよ。隊長・・・」

 明らかに声が震えていた。 
 
「そうだな」

 劉は至って冷静である。
 
「明らかにこちらを伺ってますね。鋭い視線みたいなのが感じられますよ。」

 こちらも冷静な護が言った。
 
「ど、何処に居るんでしょう?」
 
「木の陰になって分かりませんが、あの右方向に見える巨大な木の周りを旋回しています。またこちらに向かってくるようですよ」
 
「ほう、良く分かるな」
 
「風の流れで大体の位置が分かるんですよ。で、どうします?」
 
「このまま伏せていてもらちがあかない。位置が分かった以上、こちらから行くぞ。奴の弱点は確か背中だ。私が前方から突っ込むから、護は後ろから魔法で援護。シンは右から曲がり込んで奴の後ろをついてくれ」
 
「りょ、了解!」 

「は〜い」

 そう言うと向かってくるグリフォンめがけて劉が走り込み、同時にシンは言われた方向へ走り護は呪文の詠唱を開始する。劉の剣とグリフォンの鋭い爪が激しくぶつかり合う。一瞬遅れて護が魔法を発動した。
 
「ウィンドアロー!」

 風の矢は一直線にグリフォンめがけて飛び首もとに直撃する。その衝撃でバランスを崩したグリフォンに、すかさず劉が切り込んだ。
 
「でやー!」

 ガキーン!

 堅いグリフォンの身体に、うっすらと傷が入る。

「くっ!さすがに堅いな・・・」

 劉がぼやいた。そこへ、魔法発動後走り込んできた護がジャンプして頭から斬り下ろす。
 
 ザシュッ!

 グリフォンの右目から血が流れる。 
 
「クェー!!!」

 さすがにこの攻撃は効いたようである。グリフォンは大きく吼えると、ばたついてこちらをにらみ返してくる。そしてまた上昇しようと羽ばたこうとする。
 
「シン!今だ!!!」

 劉が叫ぶ。しかしシンは震えて動かない。
 
「シンっ!!!」

 その怒鳴り声でようやく吹っ切れたのか、シンがグリフォンの背中めがけて斬りかかる。しかし、一瞬遅く剣は空を裂きグリフォンは空へ飛び立っていった。シンがその場にへたり込む。
 
「おい!何をやってるんだ!!!」

 劉の罵声が飛ぶ。
 
「す、すみません・・・」

 シンは心底申し訳なさそうだった。三人は木の下に入り込む。グリフォンはしばらく頭上をグルグル旋回している。どうやら傷つけられたことが相当頭に来たらしい。明らかに自分たちを逃がすつもりはなさそうだ。おそらく、頭の中ではどう料理してやろうか考えてるに違いない。
 
「チャンスだったんですけどね〜。やっこさんも、相当頭に来てるみたいなんで、次は早々うまく引っかかってはくれませんよ。どうしましょうね」

 護が少し意地悪そうに言った。シンさんをからかって、内心楽しんでいたりする。
 
「奴は空が飛べるからな。ヒットアンドアウェイで来られたらこちらが体力を削られるぞ。かなり速いからな、奴の動きは。空にいる以上こちらからは手が出せないし」

 劉が言った。
 
「そうですね。僕の魔法もあまり通じてないみたいですしね〜。」

 笑いながら護は言う。しかし実際はそうは思っていない。何故なら、さっき使った魔法は初歩の初歩レベルの魔法だったからだ。それでも護ほどのレベルならバランスを崩させるほど十分に効果を出していた。事実、もし護が本気で魔法を使ったらグリフォンといえども一撃だろう。護はそこまでしなくてもおそらく別の魔法で十分だと考えていたが、劉たちがどう出るのかおもしろそうだったので黙っていることにした。
 
「速さでは勝てないし、あの堅い鱗を切り裂くことも出来ない。やはり一人が囮になって隙を見て後ろを突くしかないか」

 そこで劉はシンを見た。
 
「もうあんなミスはできない。ここはやはり、シンに囮役をやってもらうか?いや、シンのレベルでは奴と正面からまともにやりあうのは無理か」

 独り言のように呟く。シンの方を見ると、可哀想にすっかり落ち込んでしまっているようだった。
 
「護、おまえ囮役やってくれるか?」

 劉が、尋ねてくる。
 
「良いですよ。任せてください」

 そう言うと目立つように奴の巣の方に歩いていった。さも無防備を装っている。グリフォンも、小さな獲物が出てきたのを見て目標を決めたようである。少し旋回すると、後ろから猛スピードで突っ込んでくる。このスピードでくちばしに刺されたらひとたまりもないだろう。
 
「我を守りしは、風神の盾」

 護がそう言うと、風の防御壁が護の周りを包んだ。グリフォンのくちばしはすんでの所ではじかれ、勢いあまって後ろに吹っ飛ぶ。次の瞬間、劉が背中めがけて突っ込んできた。
 
「グサッ!!」

 見事グリフォンの背中に剣が突き刺さる。その剣を抜くとグリフォンは雄叫びをあげ倒れた。
 
「やりましたね!」

 シンが駆け寄ってきた。
 
「はぁ、はぁ。そうだな。しかし、結構あっけなかったな。護は大丈夫か?」
 
「僕は、平気ですよ。」  

 そう言ってグリフォンの方を見る。するとどうだろう。グリフォンの身体がうっすらと消えていき、消滅してしまった。いや、よく見るとそこに木造の小さな鳥の形をした人形が落ちていた。
 
「どうなっているんだ?」

 劉とシンはいぶかしげな顔をする。護は近付いてその人形を手に取ってみた。
 
「ああ、これはあれですね。魔導師なんかが使う呪術のひとつで、人形を寄り代にモンスターなんかを作るんです。本物よりも多少性能は劣りますけど。式神なんかにも使われますね」

 護が説明する。
 
「どうやら、何処かの誰かが作ったんでしょう。この街に何か恨みや妬みを持って邪魔をするためか、単なる趣味か知りませんけど。まあ、前者の可能性が高そうですね」
 
「なるほどね、道理であっけなかったわけだ。生息しないはずのところにいきなり出現したのも納得がいく。しかし、一体誰が・・・?」
 
「なんにせよ、あまりこの街を良い風に思ってない輩がいるということです。その辺、洗ってみた方が良いと思いますよ。もしそうなら、今後もこういう事が起こるかもしれませんから。グリフォンが倒されたということはかけた術者にはもう伝わってると思いますし」
 
「やっかいごとが、また一つ増えたな」

 劉が、渋い顔をする。
 
「とりあえず、そのことも早急に報告するためにも、サクッと帰るとしませんか?僕、お腹がすきましたよ」
 
「そうだな。ここで考えていてもしょうがない。すぐ戻って陛下に報告し、至急対策を立てねば」

 護の提案に二人は賛同しすぐ帰ることにした。帰り道、ゲンの持たしてくれたサンドイッチを食べながら遅い朝食をとっていた。












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